結びなおされた、きずな
町はずれの一角を占める質屋。
そこはもはや、質屋とは呼べぬ威容を備えておりました。
高い塀、深い堀、天を衝く尖塔。
吊り橋の向こうにはぶ厚い門と、いかつい番兵がかまえます。
ちょっと横手に回れば、警備なんかされていない『お客様入り口』があるのですが、救世の勇者たるもの、そこから攻め込むような、無粋なことは致しません。
堂々と、真正面から名乗りを上げて、魔王の城に攻め込みます。
なみいる強力な魔物たちを、ばった、ばったとなぎたおし、勇者と賢者は魔王の部屋にやってきました!
しかしそこで目にしたのは、驚きと悲しみに満ちた光景です。
うつろな目で魔王の座についていたのはなんと、かつての仲間。
旅の間、いつも勇者たちを助けてくれた、優しいおひとよしの商人だったのです!!
「うそだろう、なぜおまえが、こんなところに!
我らが友よ、わたしはお前と戦いたくなどない!」
「あなたはこんなところにいていいひとではないわ。
優しい商人さん、さあ、ともに帰りましょう!」
勇者と賢者はさけびます。
けれど、商人は聞きません。
「なにが、友だ。なにが、優しさだ。
お前たちがおれに、なにをしてくれた?
いつもいつも、おれはお前たちに利用されてばかり。
やっと旅が終わったと思ったら、ドラゴンを使って商売の邪魔をしてきた!!
もう、おれにはこれしかないんだ。
魔王の力を手に入れて、お前たちを排除する。
そしておれの理想のショッピングモールをこの町に作り上げるのだ!!」
「そんな、そんなつもりはないんだよ!!
僕たちはいつも、きみをだいじな友と思っていた!!
それは、神かけて本当だとも。信じてくれ、わが友よ!!」
「だまれ、うそつきめ! おまえのことばなど、ききたくもない!!」
ともに旅をした日々をおもいだし、切なくなった勇者が叫びます。
けれど、商人は聞く耳を持ちません。
でっぷりと太った手を差し向けて、闇の波動を放ってきます。
闇の波動は情けようしゃなく、勇者と賢者を痛めつけます。
「だめなのか……商人……
おまえは心まで、魔王になってしまったのか……?」
けれど、賢者ははっと気が付きます。
「この波動……泣いている……
勇者。商人のこころは、まだ生きています!
ただ、悪しき魔王の残留思念にとらわれ、惑わされているだけなのです!
あなた、あの子を呼んでください。
目覚めをもたらす<時の竜>を、あなたの声で呼び出すのです!
そして、あの子の力でもって、商人の目を覚まさせましょう!」
「わかった!
竜よ、<時の竜>よ!
古き血の盟約を持ちて、我は呼ぶ!
はるかな時空の深淵を超え、きたれ、我がもとへ!!」
勇者は全力を振り絞り、<時の竜>を呼びます。
竜はいずこからともなく現れて、目覚めの咆哮を放ちます。
玉座の間が、伏魔殿が、質屋の店舗までが揺れました。
商人が正気に返るとそこには、すっかりと年老いてしまった、けれどなつかしくやさしい、仲間たちの顔がありました。
* * * * *
それから勇者は、賢者とともに町を出ました。
その肩には、小さくかわいい姿に戻った『時計ちゃん』がのっています。
商人は三人に、おみやげのアンドーナッツを差し出します。
「どうかお元気で。
たまには遊びに来てくださいね、おいしいスイーツをそろえてお迎えしますよ」
「ありがとう。商人も元気でな!」
「理想のショッピングモール、きっと作ってくださいね。
わたしたちに手伝えることがあったら、いつでも駆け付けますわ」
「キュー!」
絆を取り戻した三人と一匹は、笑顔で手を振りあって別れます。
かれらの頭上には、青い青いおおぞらが、どこまでも広がっておりました。
<賢者からのおくりもの> 完
by O.ヘミングウェイ
まさかまさかのブクマを頂戴してしまいました。ありがとうございます……!
次回でラスト、今夜投稿予定です!
しょーもないですが、ふふふと笑っていただけば幸いです♪