66話 観光立国?
右腕が完全にお亡くなりになられてしまった。
「親分、ごめんなさいなんだぞ。ちょっとやりすぎたんだぞ」
これでちょっとかぁ。少しはやれるようになったかと思ったがらロカさん達との力量差はまだまだあるってことだな。
ま、それでも被害の方は腕一本ですんでるし、全く進歩してないわけでもないか。
っと、考え事してる場合じゃないな。ロカさんが凹んでる。
「そんなに落ち込まないで下さい。腕も既に元に戻りましたし」
素晴らしい薬をありがとう、チプリアーノさん!
「ほらほら。ね、問題ないでしょ? だからそんな顔しないで下さい」
「おやぶん」
もう一押しかな?
「それにしても街の中を歩いているのが、人魚族の女性しか見当たらないのですが、なぜですか?」
「ああ、それは人魚族の男女の体の構造の違いのせいだぞ」
おし、乗ってきた乗ってきた。
「構造の違いですか」
「人魚族の女は尾びれが二股に分かれていてボク達みたいに歩けるけど、男たちは尾びれが分かれていないんだぞ」
ああ、やっぱり二股にわかれてるのは女性のみだったのか。
「だからあんな風に陸地で移動するのは結構難しいみたいなんだぞ」
確かに、ラモーンさんが陸に打ち上げられた魚みたいな動きをしながら道を進んでる。
地形効果は無効化されても、そもそもの骨格とか体型からくる部分は解決されないのか。
「だからこの街の道は基本的に水路を中心にしてるし、陸にある建物にも全部水路用の出入り口が付いてるんだぞ」
住人の9割が人魚族だしな、当然と言えば当然か。
「もちろん外のお客さんが来た時ように移動用の小舟も用意してあるし、普通の歩道も併設してあるから問題ないんだぞ」
その辺までしっかり考えられてるのね。
うーむ、我が領地の生産職の方々はすばらしいな。
「次はこっちだぞ!」
って、そこは水路じゃあぼぼぼぼ。
……?
あれ? 苦しくない。
「親分、息を止めなくても大丈夫だぞ」
ああそうか、地形効果無効か。
「見てくれ親分、これがこの街の水中大通りだぞ」
「おお。上からではわかりませんでしたが、結構人が行き来しているのですね」
「まだまだこれは途中段階で、これからどんどん整備していく予定なんだぞ」
整備?
既に十分大通りとしての機能は果たしてるよな?
「みなさん普通に行き来しているようですが」
「甘い、甘いぞ我が主よ」
紅さん?
「我が主よ、この大通りは港や主のお屋敷から続くこの街の顔となる通りだ」
この領地のメインストリートみたいなもんかね。
「その顔となる大通りが、このように殺風景で良いわけがないだろう!」
なんか紅さんがえらく気合いがはいってるんだが。
まあ、住んでる人達が楽しく行き来できるってのは重要な気もするが、そこまで気合いを入れる必要があるのかね?
「よいか、我が主よ。この通りを通るのは住民だけではないぞ。今後、外部から来るであろう者達も皆使うのだ」
「ですが水中でも日常と変わらずいられるのは、この領地の住民だけですよ」
「ふむ。了見が狭いぞ、我が主よ。考えてみよ水中の中にある見事な大通りだ、噂を聞くものがあれば一度は見てみたいと思うであろう?」
なるほど、観光客か。
「初めて人魚達の祖国を見たときに感動しなかったか、我が主よ」
「しましたね」
「人魚達の祖国は殺風景であったか?」
「いえ、綺麗なお城がそびえていました」
「であろう? 折角我らにも相手に訴えかける素材があるのだから、それをさらに強化しないのは悪手だとは思わんか?」
「おっしゃる通りですね」
「幸いにして、我らには鳳仙が作った魔道具もある」
確かに。あれがあれば水中での呼吸は問題ない。
「これだけ条件が揃っているのだ、やらない手はなかろう?」
「その通り……ですね、わかりました。引き続きよろしくお願いします」
「ああ、それとな我が主よ。妾は全力でこの街を人々が何度でも見たいと思うような街にするつもりだ」
観光都市ってことか。
「それは素晴らしい事だと思います」
「うむ、だから我が主よ。外から人がここを訪ねてこられるよう、尽力してくれよ」
「わかりまし……!?」
いやいやいや、ちょっと待とうか。この領地に観光客とかほぼ不可能じゃないか?
普通に歩いてるだけで即、死に戻りできる場所だぞ、普通の人達がここまでたどり着くイメージが全くわかないんだが。
「うむうむ。やはりこういったものは、観てもらう相手がいてこそだからな」
紅さん、見るのも魅せるのも好きな人だったか。
く、それにしてもなんという素敵な笑顔。いや、だが、下手に希望を持たせては。
「くくくく。妾の全力を見せつけてやろうではないか。楽しみに待っていてくれ我が主よ!」
何でそんな生き生きした笑顔をくれるんですか!
駄目だ、俺のノーの選択肢が消えていく……。
「外からの訪問者の件、よろしく頼むぞ我が主よ」
「が、頑張ります……」




