44話 練気
いやー、殺られた、殺られた。
あの速さにあの火力、やっぱりソフィアさんは強いわ。
しかし、鳳仙さんにお願いしてた武器の方は結構うまくいったな。急拵えだったが、ソフィアさんを驚かせるくらいはできたみたいだからな。
やっぱ足元にボールがある方がしっくりくる。それに膝の方も全く問題なかったしな。
それはいいとし、最後の波みたいのはなんだったんだ?
死に戻りした今も、まだ体の中を動いてる感じがするし。一体なんなんだこれ。
「おやぶん!」
お、みんな戻ってきたか。っとおおう、空飛ぶ大海! って、あれ?ロカさんのダイブってこんな軽かったか?
「親分! すごかった、すごかったんだぞ!」
「ソフィア相手にあれだけ戦えるとは。見事だったよ、我が主」
「ワタシの作った道具も役に立ったみたいで、嬉しいかぎりだわ」
「あの白千狼相手にあの大立回り。大将、あたしはあんたを心底気に入ったよ!」
「主殿。なかなかの武人っぷり、楽しませてもらったぞい」
おお。なんやかんやでボコボコにされてたけど、なかなか好評価だぞ。これは結構嬉しいな、頑張ってみた甲斐があった。
まあ、それはそれとして……。
「わふぅ」
「ふぅ」
ソフィアさんとセリスさんは一体どうしたんだ?
「御屋形様、拙者今までにない気持ちでごさるぅ」
うん、時と場合によっては色っぽい話なんだけどな。ソフィアさんのそれは俺と殴りあった感想だよね? どうしてそんな恍惚としてるのかな?
「市長、綺麗な散りっぷりでした」
その、艶っぽい表情の理由にドン引きだよ!
「うふふ、二人ともご主人さまの、意外な一面にまいっちゃってるのよ」
意外な一面? そんなものあったか? いつも通りの住民による市長の死に戻り劇だけだろ?
……。
ちょっと考えると嫌すぎるいつも通りだな。
「ま、しばらくすればもとに戻るでしょうから、そっとしてあげてちょうだいな」
何か問題があるわけでも無さそうだし、言われた通りにしておけばいいか。
「わかりました」
さてそれはそれとして、ちょうどいいや、この体の違和感の事を鳳仙さんに聞いてみようか。
「鳳仙さん」
「なにかしら?」
「先程のソフィアさんとの一戦から、体に違和感を覚えるのですが」
「違和感?」
「はい、体の中で、波のようなものが動き続けている感じがするんです」
別に嫌な感じではないんだが、なんとも変な感じなんだよな。
「うーん、もしかすると……でも、そんな直ぐに?」
お、なんかアテがありそうな感じだな。
「ご主人さま、ちょっと手を出してもらっていいかしら?」
「これでよろしでしょうか?」
「ちょっ失礼するわね」
手を握った? って、なんか流れ込んできたぁ。これはソフィアさんの時と同じやつか?
「ご主人さま、なにか感じるかしら」
「はい、なにか波のようなものが流れ込んでくるような」
「うーん、もしかしたら、さっきソフィアちゃんに強制的に習得させられたのかしら」
?
「ご主人さま、以前にソフィアちゃんから教わった【内硬壁】の話は覚えているかしら?」
内硬壁? えーと、あれか、なんか光るやつだよな。
「たしか、防御を越えてくる攻撃を防ぐ為ものでしたよね」
「そうそう。ご主人さまが感じている違和感の正体は【内硬壁】なんかの元になってる、練気というものよ」
あれだな、スキルとか必殺技に使うエネルギーみたいなものっぽいな。
あれ? でもたしか……。
「身につけるのにそれなりに、時間がかかると言っていませんでしたか?」
「普通はね。でもご主人さまみたいな環境だと、直ぐに身に付くのかも知れないわね」
俺みたいな環境?
「練気を含んだ攻撃を、雨霰のように浴び続けて生きているってところよ」
なるほど。普通は死んだらそれで終わりだもんな。
「ま、それが本当の原因かわからないけどね」
うーむ、あの数多の死に戻りも、無駄死にじゃなかったということか。
レイドバトルで光ってた他のプレイヤーも、こんな風に習得したのかね?
死にまくりが習得条件てのもアレだよな。もしかしたら職業別で習得条件が違うのかもしれないな。
まあ、いいや。細かい事を気にしててもしょうがないしな。それより、この練気ってやつだ。
「それでこの練気というのは一体?」
「簡単に言うと自由自在に使える便利な力ね。言葉で説明するより、見てもらった方が早そうね。ご主人さま、外に出ましょうか」
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「まずは基礎中の基礎。こうやって身に纏って」
おお、鳳仙さんが光ってる。
「守りに応用すれば【内硬壁】、攻めに応用すれば【破乗矛】」
なるほど攻守一体の鎧みたいなもんか。
「こうやって職人の道具まで覆って、精度や強度をあげたり」
おお、鳳仙さんの持つ裁縫針が光ってる!
「他にもこんなふうに丸い形に凝縮して、ふん!!」
!?
地面がふっとんだ!
「というふうに色々なことに使えるのよ」
なるほど。発生させた力を自分に使えば能力のブースト、外にぶつければそのまま武器にもなるのか。あれだな某有名漫画のアレみたいなもんだな。
となると他にも用途はありそうだが、その辺は自分で模索するか。
「ちなみに、この練気は失くなることはあるんですか?」
「そうね。体の中にあるものを放出しきれば失くなるわ」
「では失くなった場合はどのように補充を?」
「一定時間休憩することで回復するわ」
使いきっても一定のクールタイムで回復するってことか。
「こんなところかしらね。練気は汎用性が高いから色々と試して見るといいわ、もしかしたらご主人さま独自の使い方が見つかるかも」
独自に構成できるスキルみたいな感じかな? なかなか面白そうだ。
「ありがとうごさいます。早速、試してみます」
それじゃ色々やってみますか!




