31話 首輪
『ⅩⅣ狼?』
「御屋形様の周囲から、知らない女の気配がするでござる」
ひいいいいい。もしかして通話先からの声って、外にも漏れるのか?
「御屋形様、拙者には何も聞こえないのでござるが、どなたかとお話しされているのですか?」
よし、どうやら音はもれてないみたいだ。もしかすると完全に個人にしか聞こえない仕組みなのかもしれない。
それならな何とか乗り切れる!乗り切って見せる!
「えーと、ですね、以前にレイドバトルで知り合った方です」
「ふむ、はるか遠方での戦とお聞きしましたが、そのように離れた方と話をすることができるとは便利な力でござるな」
「私も初めて使う機能ですが、確かに便利ですね」
『ⅩⅣ狼? どうかしたの? 大丈夫?』
全然、大丈夫じゃありませんよ。何一つやましいことがないのに、壮絶なプレッシャーにされされております。
「その先から知らない女の気配を感じるでござるが」
「あははは、そんなことありませんよ」
『ⅩⅣ狼?』
くそ、何一つ悪いことしていないのに。ええい、グダグダ考えたところでどうにもならん! ここは力業で乗り切る!
「今日はご連絡ありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします」
『ちょっとⅩⅣ狼、どうしたの?』
どうもこうも命の危険が危ないんですよ! 凄まじい殺気で俺の胃に穴が空きそうなんです! なので申し訳ありませんが、この電話切らせていただきます!
「それでは申し訳ありませんが、失礼いたします」
ごめんなさい、春香さん。でもたとえゲームといえど、このプレッシャーには耐えられないんです。
しかも今はここにいませんが、あと2人プレッシャーの元になる方々いるんです。×3とか本当に無理なんです!
「いつかこのお詫びはさせていただきますので、今日のところは本当に申し訳ありません」
『ちょ、ⅩⅣ』
ふう、何とか乗り切ったぞ!
「それで、どなたとお話しされていたのでござるか?」
くそおおお、すぐさま次の試練か! 働け俺の脳細胞! ベストな回答は……これだ!
「マルタという私の古くからの友人ですよ」
なんかごめんなさい!春香さん、丸田!
「そうでござったか。てっきり、拙者達の知らない女と御屋形様が楽しくお話しされているのかと。たとえばこの間の道具をくれた方とか」
ひいいいいいいい。鋭い!
「そ、そんなことないですよ」
「でござるか。どうやら拙者の思いすごしのようでござるな」
何とか別の話に持っていかないと。なにか、何かないか?
「しかし、遠くの方と話ができるのは便利でござるな」
よっしゃあーー、ソフィアさんの方から話を逸らしてくれた。少しだけど。
後は何とか電話相手についての話題から話を遠ざけるだけだ!
「そうですね、この機能があれば色々と役に立ちそうですね」
「話してる相手の声も、外に聞こえないようでござるし。他の人間の耳を気にせず話ができるのも素晴らしいでござる」
!?
あせるな俺。他意はない、ないはず、ないよね?
「そうですね。戦闘中の細かな連絡等も、話し手が気を付ければ相手を気にせず話せそうですしね」
「そうですね。相手がどなたかも本人にしかわかりませんし、とても有効な連絡手段ですね」
く、セリスさんまで。前門の破壊神、後門の鬼とか門が壊れるのが時間の問題じゃないか!不味い、どうやって逃げる?
考えろ考えろ、あああああ、駄目だ。なにも出てこない!しかも時間が長引けば開いてるはずの左右の門まで塞がれる。
「御屋形様」
「はひ、なんでしょうか?」
「何をそんなに緊張されているのでござるか?」
落ち着け、落ち着け俺。
思い出せ!いままでどれだけのプレッシャーと闘ってきたのか。数万の悪意とも敵意とも闘って来たじゃないか!
そうだ、思い出せ、過去のプレッシャーとの闘いを!
「いえ、そんなことはありませんよ」
「ところで御屋形様、この機能は拙者達には使えないのでござるか?」
「へ?」
お、話が逸れてくれた?
「市長。この連絡手段は私達も使えると、とても便利だと思うのですが」
よし、なんだかわからんが、通話の相手関連から話が逸れていく。よくやった、よく耐えた俺!誰一人称えてくれない舞台だが、最大級の賛辞を俺が贈ろう!
「それは確かにそうかもしれませんね。ですがどうなんでしょうね?」
なんせ携帯を使ってる連絡手段みたいだしな。
「機能に必要な機材を考えると、難しいかもしれせんね」
まさかゲーム内のキャラクターに、携帯を契約させるわけにもいかないだろうし。
「市長、宝玉を確認されてみては?」
「宝玉ですか? 確かに色々なことができますが、流石にこれは難しいと思いますよ」
「とにかく確認してほしいでござる」
「わかりました」
流石にねえ、携帯がらみは無理でしょ。
宝玉のメニューを開いてっと……あるのかよ、通信機能の拡張。しかも今すぐ選択できるし。
「どうやら、可能なようですね」
「ええ」
「では拙者達にも、使用させてほしいでござる」
プレッシャーがほとんど無くなってきた。というかちょっと機嫌がよくなってる?
これは完全に逃げ切れそうだ。有難うございます携帯電話、有難うございます宝玉。もうこの話で突っ走るしかない!
「わかりました」
通信機能の拡張を選択っと。使用権限は個人単位で自由に付与できるのか。まあ、選ぶほど人がいるわけでもないしな、全員に許可っと。
!?
なんだ?今俺の首元でガチャンて音が。
《領地の住人との通話機能を解放しました。メニューを確認ください》
……気のせいか?
それよりも機能の確認だ。メニューを開いて、本当だクルム一覧の下に住人一覧が増えてる。これってみんなもメニューから行けるのかな?
《住人側からの利用に関しては、通話相手を思い浮かべながら、どちらかの手を耳にあて、コールと唱えることで通話が可能となります》
うーん、なんかみんなの方が簡単そうな感じだな。
「お二人とも、どちらかの手を耳に当てて、通話したい住人を思い浮かべてください」
「思い浮かべたでござる」
「私も思い浮かべました」
「後はコールと唱えてください」
「「コール」」
『ソフィア様から呼び出しがあります』
あれ?晴香さんの時とは微妙にちがうな。まあ、誰から連絡かすぐにわかるのは便利でいいか。
セリスさんからの呼び出しがないけど、セリスさんは他の人を呼び出してるのかね?まあいいや、取りあえずソフィアさんからの呼び出しにでないとな。
メニューを開いて住人一覧からソフィアさんを選択っと。
『「御屋形様」』
すぐそばで電話されてるのとおんなじ感じだな。微妙に声が二重に聞こえる。
「どうですか? ソフィアさん」
『「これで何時でも御屋形様の声が聞けるでござる」』
ん? この沸き上がる言い様のない不安な気持ちはなんだ?
「確かに、これで市長がどこにいても大丈夫ですね」
なんだ?俺は何を間違えた?
このなにかやってはいけないことをやってしまったような、踏み込んではいけない場所に踏み込んだような、何かの罠にかかったようなすっきりしない感じは。
「これからもさらによろしくお願いいたしますね、市長」




