3話 さあ、まずは魔獣の核を手にいれましょう
草木の見えない、明らかに固そうな土の原野。そしてこれまた固そうな岩、岩、岩。
まあ、それはいい。開拓すると考えたら全然よくはないが、今はいい。
それよりもだ。
「あのセリスさん」
「なんでしょうか?」
「物凄く強そうな魔獣ばかりがうろついているのですが、あれは見た目だけなのでしょうか?」
なんか竜っぽいのとか。
でかい熊っぽいのとか。
ごつい巨人ぽいのとか。
「どうでしょう? 見た目通りの強さはあるかと」
「初めての戦闘相手をあの中から選べと?」
無理。
これは無理だろ、明らかにおかしい。どう見ても上級者向けの魔獣にしか見えない。
こういうのじゃなくて、初心者向けのスライムみたいな可愛らしい相手が嬉しいんですが。
「そうですね」
「そうですか」
ありえないだろ?何処かに難易度選択でもあったのか?
ハードモード通り越して、なんか変な漢字とかがつきそうなレベルなんだが。
「ちなみに死んだ場合は」
「この宝玉の前に戻されます」
「何かペナルティは?」
「一定時間の能力低下のみです。ただし罪人の場合はその限りではありません」
罪人か。一応禁止事項というか、犯罪となる項目があるのかね?
まあ、それよりもだ。
あんなのどうすりゃいいんだ?
「さあ、まずは魔獣の核を手にいれましょう」
……。
いざとなれば何か助っ人が来るのかもしれないし、まずは戦ってみるか。いざとなれば領地に逃げ込めばいいんだしな。
逃げることを考えると、動きが遅そうな相手にしよう。うーん、よし、あの石の巨人だ。
さて、相手は決めたが武器がない。
拳?拳かぁ。
まあいい、やってみるか!
くらえ、ギャクティカ☆マ○ナム!
「痛ぁぁぁぁ、硬いぃぃぃいい!」
そして。
「足はぇぇえええ!」
無理、これは無理。逃げ切れません。
「おぶぅぅうう!」
……。
ここは?
宝玉の前か。どうやら俺は殺られたようだな。
「おかえりなさいませ、市長」
「ただいまもどりました」
「さあ、魔獣の核を手にいれましょう」
「え、能力低下もありますし、少し休憩を」
「さあ、魔獣の核を手にいれましょう!」
……。
「あの「さあ、魔獣の核を手にいれましょう!!」」
行くしかないのか?というかセリスさん、スパルタだな。
「あの、「さあ、魔獣の核を手にいれましょう!!!」」
行くしかないか。
セリスさんがここまで言い張るんだ。多分今の俺に倒せる魔獣がいるはずだ!
「おかえりなさいませ、市長」
無理、無理、無理。
どの魔獣にも全く歯が立たない。それどころか、まともにダメージが入った様子もないんだが。
「さあ、魔獣の核を手にいれましょう」
セリスさん鬼だな。というか同じ事しか言わないのは仕様なのか?
まあいい。全然良くはないが今はいい。
うーん、何かないか?情報が足りなさすぎる。
そうか!初心者の心得だ!
セリスさんが出てきたせいで、すっかり忘れていた。
お、新しい項目が増えてる。
《アイテム欄を開いてアイテムを確認してください》
これだ!
このアイテムってやつに活路があるはずだ!
まずはメニューを開いて。アイテム、アイテムっと、これか。
これもまた大きく開くんだな。他人から見られ放題だろ。
この仕様もなんとかならないのか?
まあ、いまはそれよりもだ。何か使えそうなアイテムは……。
【ガロンディア神のスプーン】
は?これだけ?
いや、もしかしたら凄いアイテムなのかも。
《アイテムの詳細を確認してください》
やっぱり。
わざわざ確認させるくらいだし、この現状を打破できる何かがありそうだ。
いやあってくれ!たのむ!
リストのアイテムをえらんで。これか、詳細確認!
《ガロンディア神の祝福を受けたスプーン》
は?
これだけ?
「ぶふ。さあ、魔獣の核を手にいれましょう」
!?
いま、笑ったよな?
「セリスさん?」
「さあ、魔獣の核を手にいれましょう」
「いや、いま笑いましたよね?」
「さあ、魔獣の核を手にいれましょう」
うーん。気のせいなのか?
まあ、いいや。初心者の心得はどうなった?
《アイテムを使ってください》
スプーンをか。これでなにするんだ?
兎に角色々やってみるしかないか。
砂を掬って。
「くらえ!」
意味なし!
「おごぉ」
「おかえりなさいませ、市長」
石をのせて。
「くらえ!」
意味なし!
「うげぇ」
「おかえりなさいませ、市長」
こうなったら直接殴るか!
「くらえ!」
意味なし!
「こぶっ!」
「おかえりなさいませ、市長」
はあ。
どうにもならないな。
「おぶっ」
なんだこれ?
もふもふしてる白い壁?
うん、まあ、そんな可愛いものがここにあるわけないよな。
ということは……いやいや、大きすぎるだろ。ちょっとした丘くらいあるぞ。
うお!?
耳が、耳が!なんつうデカイ声なんだよ。これが咆哮ってやつか?
しかも体に力が入らないんだが。
顔デカ!
口デカ!
牙デカ!
こんなもんスプーン一つでどうにかできるわけないだろ!
やってられるか!
『起動コード、確認しました』
スプーンがしゃべった!?
『対象にむけ神の一撃を発動します』
は?あのデカイ魔獣が消えた……。
『神の一撃発動。魔力消失のため、消滅します』
スプーンも消えた。
……。
あきらめてスプーンを投げる。匙を投げるってか?
訳わかんねーよ、ガロンディア神!