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探偵少女とパン屋騒動 ~後日談~  腹が減っては推理は出来ぬ!

作者: 海埜 ケイ


 店を出て、しばらくは同じ道を一緒に歩いていた。たまたま行く方向が同じだからと最もらしいことを言って機会を伺っていた。

 大通りを外れ、人気のない道に着いたとき、少年は足を止めた。

「何で、俺が犯人じゃないって分かったんですか? 店にいた人全員が疑っていたのに……」

 ずっと疑問に思っていたことを尋ねると、事件を解決した探偵少女は店の人からお礼に貰ったホットドッグをモグモグ、ゴクンと飲み込み、振り返った。

「だって、君が犯人なわけがないよ。君は強盗殺人犯なんかじゃなくって、小銭泥棒なんだからね」

 当たり前のように言い切る彼女に、少年は頭を木づちで叩かれた気がした。

「え……、何を言ってるんですか? 冗談にしてはタチが悪いですよ」

「冗談じゃないよ。君はあの店だけじゃなく他の店でも同等のことをしていたでしょ? レジに並ぶお客さんから”わざとお金を落とさせて”拾ってあげる、当たりの良い笑みができる君だからこそできる手口だよね」

 無言になる少年に、少女は二ッと白い歯を見せて笑った。

「盗んだ金額は、このホットドッグすら買えない極僅かなもの。だから、盗まれた方も気付かない、文字通り迷宮入りになる案件だ 」

 頬に赤いソースが付けたままドヤ顔する探偵少女に、少年は何か言い返そうと口を開閉させて、止めた。

 彼女には何を言っても意味がない。

 真実が視えている探偵少女の瞳を見てそう思ってしまった。

「何故、分かったんですか?」

「う~ん、そんふぁどふぁんふぁんふぁよって、……ゴクン。そんなの簡単だよって言いたいけどさ、前に君は私のお姉ちゃんの店で同じことをしていたからね。あの時は確証がなかったけど、今回はたまたまパン屋でおやつを買おうとしたら君の姿を見掛けたから、本当に犯行するかずっと見張っていたんだよ。因みにお姉ちゃんのお店は街角の洋菓子屋さんだよ」

 種明かしをする探偵少女に、笑ってしまいそうになる。

 どうやら自分は思った以上に迂闊だったらしい。

(街角の洋菓子屋、2週間前のことだな)

 あの時から、自分は疑われていたというのなら、疑問がもう一つできる。

 「じゃあ、何で警察に言わなかったんですか? あのまま俺も警察に突き出せばよかったのに」


”人の幸せを奪う人間を私は許さない!”


 そう言って、犯人に立ち向かう探偵少女の背中が瞼の裏にこびりついて離れない。

 彼女は正義を全うする人間。

 ならば、犯罪を犯した自分は断罪されるべき人間だ。

 まっすぐと探偵少女を見つめると、彼女はクッと笑い声を立てた。

「面白いことを聞くね。……君は、犯人にナイフを突き立てられた私を助けてくれた恩人じゃん。借りは作らず即返すのが私流なんだ」

 探偵少女は清々しさを覚えるほどきっぱりと言い切った。

 確かに、少年は逆上した犯人が隠し持っていたサバイバルナイフを探偵少女目掛けて突き立てようと突進したときに、近くにあったテーブルクロスを引っ張り、テーブルに乗っていたパンや食器を犯人に叩きつけて怯ませたが、それだけだ。

 一瞬の隙ができた犯人を、探偵少女は丸テーブルの足を掴み大きく振り上げて、何度も、何度も、それこそ犯人が昏倒するまで殴り続けていた。

 庇ったわけでも、犯人を倒したわけでもないというのにーー

(滅茶苦茶だ、……けど)

 彼女は”自分”を持っている 。

 盗みを働いて、臆病な自尊心を満たしている自分とは大違いだ。

 少年はズボンに入っている100円の盤面をなぞった。

 ここ1ヶ月内で1番の高額であり、探偵少女から盗んだ100円だ。

 彼女はこれがあったからパンを買えず嘆いていたけど、今は人から感謝されパンを貰って笑っている。

 少年はフッと笑みを零し、探偵少女の横に並んだ。

「名前、聞いてもいいですか?」

「お、ナンパかい?」

 茶化す風に聞く探偵少女に、少年は意地悪な笑みを返した。

「はい、俺は貴女を気に入りました。だから、貴女に付いていきたいんです」

「ストーカー発言! 悪いけど、私以上に可愛い子はたくさんいるから、そっちにしておいて。なんなら私の同級生を紹介するよ?」

「いえいえ、俺は貴女の側にいたいんです。恋人が欲しい訳じゃありません」

 探偵少女は「なんだ、それ?」と言わんばかりに露骨に嫌な顔をする。

 理解されなくていい。

 だって、これは自分の罪の贖罪だからーー。


「付いていきますよ、探偵さん」



END

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