お餅を吸い出せ -終-
僕と二匹が佇んでいると、家の中からドタドタと走り回る音が聞こえてきた。
玄関がガチャリと空いて、僕の家族達が順番に出てきた。
「おい、孫よ。婆さんのチョップが喉に思い切り当たった拍子に餅が口から飛び出したわい」 お爺ちゃんが言う。
「私も爺さんのドロップキックを背中にもらった拍子に飛び出てしもうた」お婆ちゃんが言う。
「なんだか分からんが、ケツが爆発した拍子に出たみたいだな。」兄貴が言う。
「大笑いしてたら、出た」 姉貴が言う。
「兄ちゃんの拳骨を食らったら出た」 双子が言う。
「皆には言いにくいが、お母さんとまごまごしてる内に勢い余って出たみたいだ。両方とも」 父親が言う。
「私もお父さんが激しすぎて、出ちゃったわ」 母親が言う。
「わんわん」 ペロが吠える。
「にゃー」 チーが鳴く。
(み、みんな...よかった。餅が取れたんだ。)
僕は安堵に胸を一杯にした。
しかし、すぐに皆が僕を見つめる視線がおかしいことに気が付いた。
皆が僕を責めるような目で見ている。
「あれ...?皆さんなんで僕を睨んでるの...?」
姉貴がやれやれといった様子で、頭をポリポリと掻いた。
「そりゃあ...お前が誰も助けなかったからじゃない?」
「拳骨された...」
「お年玉をもっとくれと恐喝されたわい」
「夫婦の仲に水を差されたわ...」
「...俺は気持ちよかったぞ...ケツ...」
「わんわん」
「にゃー」
皆僕に恨みを持っているようだ。...一部を除いて。
(僕は一生懸命に皆を助けようと頑張ったのに...)
(こんなのひどいや...)
僕はなんだか悲しくなると同時に。怒りがみなぎってきた。
(そもそも皆が勝手に餅を喉に詰まらせるのが悪いんじゃないか!)
(僕が責められるのは絶対におかしい!)
僕も家族達を睨み返す。
まさに一触即発の雰囲気。この緊迫した状況に終止符を打ったのは意外にも僕だった。
"グーーー"
僕のお腹が大きな音を響かせた。
(そう言えば皆がお餅を喉に詰まらせた事件のせいで、一口も昼ごはんを食べてないんだった。)
僕が恥ずかしそうに俯いていると、母親がパンパンと手を打った。
「はいはい、皆そこまでにしましょう。皆お昼ご飯の途中で、お腹空いてるでしょう?もう喧嘩は辞めて、ご飯の続きにしましょう。」
緊張した状況はすっかりうやむやになった。
「あー腹減ったな。ほら、お前も早く家の中に入りな」
最後に姉貴が優しく僕に告げて、玄関が閉まった。
僕はちょっと立ちすくんだ後、僕の足元で寝転んでるペロを連れ立って、家の中に入った。
リビングでは割れた食器が散乱している中、家族がわいわいと食事をしている。
僕も静かに席につくと、食事を始めた。
(皆さすがに餅には手をつけてないな...)
(この餅ってそんなに喉に詰まるのかしら?)
僕は好奇心がうずうずと湧き上がった。
(いや、どう見ても普通の餅だろ。これを詰まらせるなんて、皆大きい塊で食べただけだろ。)
僕は餅を小さくちぎると、口の中に放りこんだ。
(ほら、全然大丈...)
よく噛んで飲み込んだはずなのに、餅はしっかりと喉に詰まった。
僕のそんな異常に家族が気づいた。
そして、皆微笑んでいる。
「安心せい孫よ。出し方は心得とるわい。」
爺さんがドロップキックの準備を始めていた。
お餅を吸い出せ -終-