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第1話 カトレアの可憐な花たちのお茶会

「お姉様ごきげんよう♪」

「はい。ごきげんよう♪ 貴方たちもお気をつけてお帰りなさいね(にっこり)」

 放課後の廊下を歩いていた私は名も知らぬ下級生の女子生徒に挨拶をされてしまい、つい反射的に作り笑顔をしながら挨拶を返してしまった。そしてそのまま下級生には一切目もくれず、日差しが眩しいほど差しこむ窓に不満を抱きながら、廊下を歩いて行く。


『きゃーっ! 憧れの朱莉(あかり)お姉様にお返事をいただいてしまったわぁ~♪ もう私……いつ死んでも悔いはわぁ~♪』

『さすがは生徒会長(・・・・)の朱莉様よねぇ~♪ 何気ない挨拶からも気品を感じてしまうわね~♪』

「ふぅ~っ」

 背後で聞こえる先程の下級生の声が少しずつ遠ざかってゆき、私は周りに誰もいないことを確かめると気を緩めるようにため息を吐いてしまう。

挿絵(By みてみん)


 正直私には生徒会長なんて目立つ役柄はガラではない。だが、この見た目から1年の入学時に『生徒会長』の任を受けてしまい、そのままズルズルと3年のこの花が咲き始めた5月まで引き受けてしまっていたのだ。

「……お兄様は元気かしら」

(お兄様にまた髪を、いいえ頭を撫でて褒めていただきたいわ。もう3年近くもまともにお会いしていないわね)

 ふと立ち止まり、鏡に映る自分を眺めながら自らの長い髪を撫で、その寂しさからポツリと独り言を呟いてしまう。


 ここ『聖カトレア学園』またの名を『カトレアの楽園』とも呼ばれるお嬢様学校。ここに通う生徒のほとんどが家から将来を決められている花々たちである。この学園がある場所は人里離れた山の丘にあるため、世の中から隔離されていると言っても過言ではない。生徒たちは学園の敷地内にある寮に住み、学園とを行き来するだけが唯一の世界であった。またそれが花を穢れなき育てることが出来るこの学園のウリ(・・)なのであるという。故に家から通うことは禁止されており、また生徒達の外出などの行為も一切禁止されている。


(ほんとこの学園の『花を育てる』とは言い得て妙な言葉よね。まさにここはお嬢様()を育てる場所に違いないわ。まるで監獄だもの……)

 学園の周りには一切の建物はなく、あるのは生い茂る木々と学園の(その)にある管理飼育された花があるだけだった。


「あっ、そういえば今日はお茶会に誘われていたんだったわ。急がないと遅刻してしまうわね」

 私はお友達に誘われていたのを思い出し、急ぎお茶会が開かれるという庭園へと向かうことにした。



「あの……遅れてしまったかしら?」

 花々が綺麗に手入れされ咲く庭園に着くと、既にもうみんな席に着いて私を待っていた。

「いいえ、朱莉さん。まだ遅刻ではありませんわね。どうぞ」

 私が不安げに胸元の制服を掴みながらそんなことを聞くと、副会長である『倉敷雅(くらしきみやび)』は微笑みながら椅子を引きエスコートしてくれる。


「ありがとう雅さん。でもほんとに遅刻でなくて?」

「ふふっ朱莉さんは本当に心配性なのですね。確かに最後でしたが、みな生徒会長であるあなたのお仕事を理解しているのですよ。ね?」

 そう言って雅は周りにいる女の子に賛同するように問いかけをする。


「ええ。生徒会長がお忙しいのは知ってますから」

「そうですわ。お忙しいのにこうして時間をいただいてしまってるんですもの。ワタクシ達の方が謝らなくてはいけませんのよ」

 みな怒るどころか、逆に朱莉に感謝の言葉を述べていた。


「皆さん……ありがとう」

「さぁさぁ。そんなことよりも早くお茶会をしましょうよ。今日は紅茶だけでなく『料理研究会』から焼き菓子の差し入れまであるのよ。だから期待しててね♪」

 雅はそうゆうとテーブルの上に置いてある紅茶専用のティーカップにお湯を注ぎ、時間を計るための砂時計をひっくり返し、花を並べたり、焼き菓子を載せたお皿を取りやすいよう並べてゆく。

 

 みんな『わあぁぁぁっ♪』っとお淑やかながらも歓声をあげてしまう。やはりみな年頃の女の子。お菓子と紅茶がこの学園で唯一の楽しみであり、安らぎの時間でもあった。

挿絵(By みてみん)

「はい。朱莉さんもどうぞ♪ 焼き菓子も人数分あるから遠慮しないでね」

「ええ。ありがとういただくわ。……あらいつものとは違い、これは香りが強めなのね」

 私は雅さんが入れてくれた紅茶に口をつける。いつもはミルクを入れてくれるのが、今日の紅茶は何故だかストレート。彼女は紅茶の嗜みがあるため、時折こうして暇を見つけてはお茶会を開くと私を誘ってくれるの。


「ええ。今日は甘い焼き菓子があるから茶葉を変えてみたのよ。いつもの甘い味の『アッサムティー』ではなく、香りと味が強い『ダージリン』にしてみたのだけど……苦かったかしら?」

「いいえ。こうして……んっ……焼き菓子を食べてから紅茶を飲むといつもより香りが広がる感じがするもの。苦さもお菓子の甘さを引き立てるのにちょうどよいわ」

 私はイチゴが乗せられたタルトのような焼き菓子を一口齧ると、一口雅さんに入れてもらった紅茶を含み味わう。


「ふふっ。あの『カトレアの花』とまで呼ばれる朱莉さんにそう言ってもらえて光栄だわね」

「私なんてそんな……」

 私は少し照れながらお茶を口にする。


「そういえば朱莉さん。こんな噂話聞きましたか?」

「えっ? 噂話……ですか?」

 隣にいる名も知らない女の子に脈絡の無い話を振られてしまい、私は驚きながら話を聞くことにした。


「ええ。何でもこの学園には『学園七不思議』というものがあって、それを確かめた女子生徒が理由を告げずに次々と学園を去ってしまう……そんな噂話で学園中持ちきりなんですって! ねぇ私達でその事件の真相を暴いてみませんこと?」



第2話へつづく

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