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異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)  作者: 笹川 慶介
列国首都奪還・不死鳥の謀略
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23話

 





 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 赤いペガサスの魔族を倒し、ラインハルトの引き上げを終えた私は、束縛魔法で捕らえた魔族を引っ張りだして、石像に変えられてしまった人たちを並べた前に正座させた。

 鎖で拘束された魔族は、自由に動けない。

 しかしその再生力は凄まじく、私の切り落とした翼の箇所はすでに血が止まっており、耳の器官も修復されていた。


「癒しと恵みの神セヌロス、大地と創生の神クロノス、我が信仰、我が願い、大いなる慈悲をもって、どうか聞き届けられんことを…この手に癒しの光を…ライトヒーリング」


 ガヴリールが治癒の聖術を使用して、私の背中の傷を癒してくれる。

 すうっと、幻のように痛みが引いていき、傷が治った。


「…こんなものか」


「ありがとうございます」


「礼には及ばん」


 ガヴリールも私の取っ捕まえた魔族との戦闘で傷を負い疲労している中、私を優先して治してくれた。

 御礼を言うと、ガヴリールは素っ気なく答える。

 淡白な反応だけど、私は嬉しかった。


 とりあえず、赤いペガサスの魔族に魔眼を解除してもらう必要がある。

 そのためにこうして生きたまま捕らえたわけだけど、魔族の耳を壊して束縛魔法を仕掛ける程度では解除できなかった。

 私は傷を治してもらった後、グスタフと言い合いをしている魔族のところに近づく。


「誰が、貴様ら人族などに屈するものですか!」


「ならば殺すしかないですよ?」


「出来るものならやってみなさい!」


「…考え直してはもらえませんか? 我々も無用な殺生は避けたいのです」


 …グスタフは捕虜相手に腰が低い。

 でも、デーニッツが上から押し付けるようにあれこれ言うよりは、この方が私として平和的でいい。

 こちらも1人犠牲者が出てしまっているけど、だからと言ってこの魔族を殺したところでその人が蘇るわけではない。

 憎しみに憎しみをぶつけても悲しい連鎖を繰り返すだけだ。

 私は、できることなら平和的に解決したかった。


「魔眼を解除してもらえませんか?」


 私が声をかけると、魔族はその端正な顔に醜悪な笑みを浮かべた。


「勇者ですか…ふん、醜い容姿の貴女は哀れですね」


「醜いと言われたのは久しぶりかな」


 持ち上げられるような容姿でもないし、言われたことがなくてもこのくらいの罵倒ならばブスとか言われることもあるから別に余裕で受け流せる。

 しかし、グスタフは心なしか怯えたように見えて、後ずさった。

 …何で?


「…ふ、ふん。自覚があるのはよろしくてよ」


 魔族は私が挑発を受け流したことが予想外だったのか、戸惑いを見せる。

 しかし、また醜悪そうな悪役の浮かべる笑みを浮かべて言った。


「だいたい、下品な乳ですわね。無駄に背も高いし。さながら、例えるならば鬼か牛ですわ。下品な貴女によく映えるではないですか」


 …地雷のワードを。


 その瞬間、私の中で何かが切れた。

 刀を抜いて、魔族の残る翼をつかむ。


「…ひい!」


 周囲の兵士たちがグスタフとともに一斉に距離をとる。

 しかし、私にそんなことは気にならない。


「ちょ、ちょっと…何をしているのです?」


 魔族も私の行動に気づいた。

 困惑している様子だけど、私の目には入らない。


「とりあえず、羽は全部抜いて布団の材料にしましょう。毛皮は敷物にでも加工しようかな?」


「…い、いや…何を、何を言っているのですか?」


 魔族の声に怯えが含まれる。

 それは私の耳に入らない。


「眼球はくり抜いて漬けておこう。いいお酒になるかもしれないし」


「痛い! ちょっと、羽を抜かないでくださ–––––いっ!?」


 魔族が抗議をしているが、私の耳には入らない。

 人族の人たちが離れるが、私の目には入らない。

 ぶちぶちと、羽毛を1つずつ抜いていく。


「頭は骨を標本にして、脳は冷凍しようかな。確か冷凍した臓器って甘味になるとかいう話を聞いたことがある気がするし」


「や、やめてください! お願いします! 解除しま–––––いっ!?」


 魔族がなぜか泣いているようだ。

 でも、私の耳には入らない。

 死んでも屈しないというし、無視してもいいよね?


「胃袋も案外カバンとかに加工できるも。爪は剥いでネイルの練習台にしようかな」


「嫌ァァァァァ! お願いします! やめてください! 解除、解除しますから!」


 魔族が石化の魔法を解いた。

 でも、私の目には入らない。


「勇者様! って、あれ? 私は何を…」


「君の容姿に一目惚れした。一晩どうかな? って、おや?」


 羽をむしりとっていく。

 綺麗に抜いていけば、それなりの数になるだろう。

 石化から解放されたデーニッツたちが戸惑っているけど、私の目には入らない。


「血管はつないでいけば地球を何周もする長さになるんだよね? 全部切り取って繋げてみようかな」


「誰か! お願いします、なんでもしますから! 誰か助けてェェェ!」


 魔族の羽毛が3割ほどむしられたところで、私は慌てた人族の方々に止められた。

 すごい恥ずかしいものを見られた。ラインハルトにさえ怯えられて、私はしばらく凹んでしまった。

 年増扱いされるのも、うざがられるのも、そこまで私は気にしない。悪口を言われたとしても、面と向かって、そして地雷ワードを言われなければ大丈夫。

 でも、怖がられるというのは、さすがに来るものがある。

 私は自分のことを怒りっぽいとは思っていないから、怒ったとしてもそこまで怖がられることはないと思うのだけど、周りにしてみれば誰よりも恐ろしいとの事。

 年増扱いされることこそあれ、まだ若輩。人生経験の乏しいひよっこなので、怖いと怯えられながら見られるのは結構くるものがあった。



 捕虜である赤いペガサスの魔族、名前をマイアという彼女から、アウシュビッツ群島列国のスプルーアンス総統を騙したことや、アウシュビッツ群島列国で暗躍したのが彼女であること、総統府の現状、計画などについて、多くの情報を引き出した。

 こう言うと口が軽いように聞こえるが、マイアは殺すと脅されても人族相手では決して屈することなく頑なに情報を漏らすことを拒んでいた。むしろ口が固い方だったと思う。

 ペラペラと情報を喋ったのは、決まって私が尋問を担当した時だった。

 特に脅したわけでもないのに、むしろデーニッツよりも優しい口調で質問していたのに、マイアは私の顔を見るたびに震え上がって、声をむしろ大きくして私の質問に深く裏の部分まで事細かに話してくれた。

 心なしか、私が脅迫しているように見えてしまう。

 勇者と戦って、私の戦い方にどんな隠し玉があるのか恐れているからだろうか。

 …どちらかというと、勇者というよりも私個人に向けられている気がする。気のせいだと思いたいけど、なぜか否定できない。


 私の心に傷ができたものの、その甲斐あってマイアからは多くの情報が得られた。

 今、私はそれらの情報をアイゼンハワーとガヴリール、ハルゼー、そしてグスタフとともに整理しつつ、彼らの話も交えて真偽を見極めながら、相談し合っているところだった。


 主に私の尋問で得られた情報を書き出して並べている。

 まず、アウシュビッツ群島列国の現状について。

 ハルゼーを幽閉することを強行決定したアウシュビッツ群島列国の主軸のうち、魔族による洗脳かそれに類する魔法がかけられているのは、アウシュビッツ群島列国の首脳陣の中でも上位階級のものに数名のみであり、末端までは洗脳されておらず、スプルーアンスの陣営の殆どはスプルーアンスの言を真に受けているだけの存在だという。

 彼らの場合は誤解を解くだけで済むので、洗脳魔法をかけられた人たちを優先的に確保して、ガヴリールに解除してもらう方向にした。

 洗脳魔法をかけたのはマイアとのことだが、現在は別の魔族が主導しているという。

 そのため、マイアには洗脳魔法を解くことができない。

 マイアは束縛魔法を解除してくれたら何とかすると言っているが、私たちにしてみれば彼女は拘束しておく必要があった。当然、マイアの提案は跳ね除けられている。


 ここで洗脳魔法を受けているものについて。

 アウシュビッツ群島列国の総統スプルーアンス。本土艦隊総司令官キング。国政議会議長マハン。今の総統府のある本島にいる洗脳魔法を受けているのは、この3名だという。

 アウシュビッツ群島列国の総統であるスプルーアンスはもちろんの事、本当における防衛戦力の全軍の最高司令官である軍事力に中心人物キング、そしてアウシュビッツ群島列国の国会である議会の議長。ハルゼーほどの人気を誇る提督でも幽閉されてしまったのは、この3人が洗脳にかかっていることが大きいという。

 確かに、行政・軍事・立法のトップを抑えられては、国を乗っ取られたも同然と言えるだろう。

 総統府とアウシュビッツ群島列国を取り戻すには、この3人の洗脳魔法の解除が必要不可欠となる。

 ガヴリールに確認したところ、時間はかかるが解除は可能だとの事。

 洗脳魔法の解除のために、総統府の奪還作戦の際にはこの3人を確保して安全な場所まで連れて行く必要がある。

 そこで洗脳魔法を解除して、アウシュビッツ群島列国の解放に協力してもらうこととなっている。


 総統府の立つ本島の現状だが、ガヴリールの配下である偵察に出ていた天族の斥候の報告によれば、スプルーアンスはカルペア島の奇襲とハルゼー救出の報告を聞いてから、キングに命令して本土防衛艦隊の主力を本島に集めているという。

 しかし、まだ集まりきっていなかったとの事。それならば、隙も多いだろう。

 向こうの方にはマイアとは別の魔族の将軍が転移魔法で入っており、神聖ヒアント帝国の騎士団とともに魔族軍もかなりの数が集結しているという。

 ツヴァイク島に集結している艦隊と合流しても、数の不利は否めないとの事だった。


 その魔族の将軍について心当たりがマイアにないか尋ねたところ、エルナトかケラエノではないかという情報を得られた。


 エルナトという魔族はワルキューレという魔族の亜種であり、西方国境騒動にも参加していたという魔族の将帥であるという。見たことあるかなと思ったが、外見の特徴を聞いて私はすぐに思い当たった。

 黒い甲冑に、色白の肌。若く幼さも面影を残す少女と女性の間くらいの顔立ちに、縦長の橙色の瞳が特徴で、雷撃の魔法を得意とする。

 富山を殺そうとし、海藤に瀕死の怪我を負わせたというあの魔族で間違えない。そう、確信した。


 ケラエノは、エラスモサウルスという魔族の亜種であり、長い首が特徴の海棲の魔族だという。こちらも人族の姿になれるというが、私としてはそれ以上にエラスモサウルスという名前が気になった。

 …どうにも、召喚される前の世界と、人名といい、種名といい、共通することが多い気がする。

 今回のエラスモサウルスに関しては、そのまんまだなと感じた。


 そして、アウシュビッツ群島列国の乗っ取りに関する計画。

 この計画を主導しているのはデネブという神聖ヒアント帝国にいる魔族皇国元帥の一角であるという魔族らしい。実行に際して指揮をとるのがエルナトで、従事しているのはマイアの他にケラエノ、そしてアルキオネという名の魔族もいるという。

 しかしマイアの話によると、現在アルキオネは確実に神聖ヒアント帝国の方にいるという。この先の総統府に待ち受けるのは、エルナトかケラエノ、あるいは両方ということだろう。


 アウシュビッツ群島列国の乗っ取り計画だが、マイアによればアウシュビッツ群島列国の総統の洗脳と国の乗っ取りはあくまで前座であり、その先に計画の本命があるという。

 それは、スプルーアンスを使って神聖ヒアント帝国とアウシュビッツ群島列国を扇動し、神聖ヒアント帝国の情報網を用いて人族国家にネスティアント帝国・サブール王朝・ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦の3国が勇者を使用して他のすべての国を滅ぼそうとしているという偽の情報を伝えて、落ち着きつつある人族国家間に大規模な戦争を誘発させて、疲弊した人族大陸を征服しようというものだった。


 私も、ネスティアント帝国も、アウシュビッツ群島列国も、そして神国も。それぞれの立場の者たちで共通していた、強いが脳筋という魔族のイメージとは明らかにそぐわない、大規模かつ計画的な侵略作戦だった。

 人族国家の戦国時代は、初期の疲弊した人族国家が国家国民のための資源を隣国に求めたことで勃発したのが発端だ。しかし、今では国家間の本格的な戦争は殆どなく、大半は小競り合いどまりとなっている。

 戦国時代初期の人族同士の戦争が激しかった時代は、魔族皇国も神国も人族大陸に侵攻する余力などなかったから人族の戦争は介入なく行えた。

 でも、今戦争が起きて仕舞えば、魔族に征服されてしまうか、神国との大戦に巻き込まれてかつての人族大陸の荒廃する泥沼の戦争の二の舞になるしかない。


「魔族が、これほどの戦略を立ててくるとは…」


 アイゼンハワーがマイアから得た情報を見て、言葉を漏らす。

 グスタフたちも驚いている。

 その中で、私は鍵になるであろう2つの国家に注目していた。


「…やっぱり、総統府は奪還しよう」


 私の言葉に、マイアから得た魔族の計画に関して脳筋の認識を改めている者たちの視線が集まる。


 この計画は、人族国家の戦争を誘発させる神聖ヒアント帝国とその情報網、そして鎖国状態にある神聖ヒアント帝国と各人族国家とのパイプ役になるだろうアウシュビッツ群島列国の存在が必要である。

 どちらか一方の国家を解放できれば、魔族の計画を暴き出して破綻させることができる。

 人族国家間の戦争がなければこの計画は成功しないからだ。

 だから、私は総統府の奪還を目指そうと考えた。


「アウシュビッツ群島列国を取り戻せれば、魔族の計画を暴き出して破綻させることができるはず。総統府の奪還は、やるべきだと私は思う」


「確かに。今は魔族のこの計画を阻止することが肝要ですな」


 最初に賛同の声をあげたのは、グスタフである。

 それを皮切りに、続々と賛同の声が上がった。


「魔族の計画を阻止することもそうだが、元からこの国は取り戻すつもりだったさ。スプルーアンスの奴を止めるのは俺の義務だしな」


「我々は所詮傭兵。雇い主が決めた敵を倒すために戦うのみです」


「異世界の勇者には借りがある。我らも手を貸す」


 反論の声はなかった。

 方針はそれで決定した。


「…行きましょう。総統府を取り戻します」


 まずはツヴァイク島にいるハルゼーを慕い総統に逆らってまで集まった艦隊に接触を図る必要がある。

 その役割は、ハルゼーが名乗りを上げた。


「話を通すなら俺以上に信用されるのはいねえからな。任せろ!」


 次に奪還に向けた作戦を立てる必要がある。

 カルペア島と同じように、伊号四〇二を用いた奇襲作戦を利用する。

 内容は、ハルゼーの率いる艦隊が陽動として総統府の艦隊と魔族軍をおびき出し、手薄になったところ頃に私たちが伊号四〇二に使って奇襲を仕掛けるというものだ。

 そしてケラエノを倒し、スプルーアンスとマハンを確保。脱出して、洗脳を解き、陽動の戦いを洗脳魔法を解いたスプルーアンスに収めてもらい、最後の1人であるキングを捕えるというものである。

 うまくいくかどうかはわからないけど、戦力的に劣るこちらが真正面から戦って総統府を取り戻せるとは思えない以上、奇襲に頼ることにした。



 ハルゼーがツヴァイク島の艦隊と合流するために晴嵐で飛び立った後、私は気になることがあり、ガヴリールに声をかけた。


「ちょっと、いいですか?」


 ガヴリールは無言で振り返る。

 先を促しているようなので、私は聞きたかったことを尋ねる。


「さっきの作戦会議の時、1つ引っかかることを言ってましたよね?」


「引っかかること、とは?」


 私が引っかかりを覚えたこと。

 それはガヴリールの言葉にある。

 ガヴリールがなぜ私たちに協力的なのか。

 相手が魔族であるという打算的なこと以外に、何か私的な理由があるのではと感じていた。

 そして、先の会議の際にガヴリールは言った。


『異世界の勇者には借りがある』


 私には貸しがあれど借りはないだろう。それに、本人がいる場で『異世界の勇者』などという回りくどい表現は使わない。ストレートに『貴女には』とかでいいはずである。

 でも、ガヴリールは『異世界の勇者には借りがある』と言った。

 どうして人族を見下している種族である天族が協力的だったのか?

 私の知らないところで、私たちがここまで動きやすく、ことをうまく運べるように、ガヴリールに協力してくれるようなことをした存在がいるのでは?と私は思った。

 それが異世界の勇者であるとするならば、その情報を知っておきたい。

 もしかしたら、他の国に召喚された勇者がここまで来ているのかもしれない。

 そう思うと、再会したいと、私からもお礼を言いたいと、強く思う。


「貴方に貸しを作った異世界の勇者について、教えてもらえませんか?」


 そんな思いを込めた私の言葉に、ガヴリールは私から目線を少し外して虚空を眺めると、こう言った。


「…仮面の勇者。私があのとき寄生魔法を受けて苦痛の中に落ちて死ぬことがなかったのは、ひとえに彼のおかげだ。名前も聞けずじまい、顔も見れずじまい、礼の一言も言わせて貰えずに彼は去っていった。私にわかるのは、それだけだ」


「仮面の、勇者…?」


 ガヴリールの答えに、私の中に明らかに合致しそうな人物が浮かぶ。

 終始能面で素顔を隠し、それを剥がれるのを極端に嫌がり、飄々とした態度でいつもふざけており、それでいながら何でもこなせて、変態だけどその実優しくて、私にとっても恩人である、賞賛を受けるのを良しとしないとても変わった同級生。


「…いや、まさかね」


 私はすぐにその可能性を捨てた。

 彼は今、ソラメク王国で北郷と一緒にいるはずである。

 きっと、正体を隠すために仮面を使っていた同級生の誰かだろう。

 こういう正体を隠して活躍するヒーローに憧れそうなので言えば、厨二病の物部とかがいるけど。


「案外、佐野君とかだったりして」


 不良のレッテルを貼られているけど、その心根はとても優しい同級生のことをふと思い浮かべて、私はかすかに微笑んだ。


「…ッ!?」


「? どうかしましたか?」


 突然、目の前のガヴリールが私から目線を外して顔を背けた。

 心なしかその顔が若干赤い。


「い、いえ、なんでもありません!」


 やけに口調が強く、そしてなぜか敬語になったガヴリールは、そそくさとその場を去った。

 口元を手で押さえながら、顔を赤くして。


「……………」


 取り残された私はあげた片手を虚空に残して、その理由を考える。


「…何か、顔についていた?」


 もしかして、笑いをこらえていたのかな?

 だとしたら、途端に恥ずかしくなってきた。

普段怒らない人が激怒して、そして静かな口調で怒りを表していると、正直それは怒鳴られるよりもはるかに恐ろしいと感じることもあります。


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