表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)  作者: 笹川 慶介
列国首都奪還・不死鳥の謀略
74/115

11話

 






≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 アウシュビッツ群島列国領海にある島、ツヴァイク島。

 その変哲のない無人島の岸に、伊号四〇二が浮上した。

 そこにはすでにデーニッツが雇った傭兵海軍、元アウシュビッツ群島列国アトランタ防衛艦隊司令官のアイゼンハワー率いる艦隊が到着していた。

 私はラインハルトをパルミノ島に残し、ガヴリールの探索用聖術の力を借りて、晴嵐でアイゼンハワーの艦隊の位置を特定し、ツヴァイク島までやってきて接触を果たしたのである。

 ガヴリールはハルゼー提督の救出作戦に参加してくれる事となった。

 事情を聞いたアイゼンハワーは、私への協力に同意。彼自身も今のアウシュビッツ群島列国の現状を打開する機会を模索しており、海軍内に支持者も多いというハルゼー提督の救出作戦に同意してくれた。

 アイゼンハワーは種族にとらわれない気風の持ち主で、ガヴリールが味方だと知った際には特にものを言う事もなく、受け入れてくれた。

 誰かは知らないけど、ここに来ていた勇者がすでに和解の土台を作ってくれていたのである。

 ガヴリールは戦闘に関してはそこまで強くないというが、それでも上位階級の天族ということはあり、ラインハルトよりも腕が立つ頼りになる味方だった。

 そして、伊号四〇二に戻った私は、デーニッツにガヴリールを紹介して、伊号四〇二をツヴァイク島まで連れてきたというわけである。


 こうして合流を果たした私たちは、ガヴリールの情報提供を受けて、ハルゼー提督救出に向けた作戦を立てる事となった。

 この作戦の目的は、あくまでもハルゼー提督の救出にある。アウシュビッツ群島列国海軍に強い影響力を持つ彼を確保できれば、占領された総統府の奪還に向けた戦略を揃えることが可能となる。

 アウシュビッツ群島列国を見捨てる事ができない私にとっては、そしてアウシュビッツ群島列国との同盟を締結するためには、総統府の奪還は必要不可欠なことだった。


 救出作戦に関しては、隠密行動に特化した編成と、それでいながらも戦力を有する事ができるものが必要になる。

 それを考えると、巨大な艦体に加えてこの世界の先行戦艦をゆうに上回る私たちのいた世界の潜水艦のなかでさえ屈指の武装を持ち、さらには機動力において航空戦艦を圧倒的に上回る上に偵察用ではなく攻撃機である晴嵐を3機も搭載しているこの伊号四〇二は、この作戦にぴったりな潜水艦であった。

 そこで、見つからないようにハルゼー提督のとらわれているカルペア島に接近するためにも、余計な戦略を連れて行くことはできないので、伊号四〇二のみによる救出作戦を決行する事となった。

 とはいえ、伊号四〇二は潜水艦の中では相当な巨体である。カルペア島に伊号四〇二が入れるのは島北部のホルワド湾のみであり、他は浅くて伊号四〇二が隠れて接近できないとの事だった。

 なのでホルワド湾から接近して、島に奇襲をかける。伊号四〇二がホルワド湾の敵艦隊を引きつけている隙に、晴嵐で監獄に攻撃を仕掛け、ハルゼー提督を救出して撤退するという内容だ。

 編成だが、伊号四〇二に関しては艦長のグスタフとデーニッツが指揮をとり、晴嵐2機を使用したの救出部隊は私とラインハルト、そしてガヴリールということになった。

 だが、そこに反論をしてきたのがアイゼンハワーである。


「この潜水艦のみでの作戦決行はわかるが、ホルワド湾に駐留する艦隊は艦艇24隻で構成される大部隊だ。『伊号四〇二』だけで持ち堪えられるのか?」


「それについては、大丈夫です」


 私は、村上から聞いたこの潜水艦に備え付けられている魔導防壁展開装置の事を伝える。

 本当に、村上の召喚する艦はすごいと思う。

 魔導防壁は、湯垣の防護魔法と同じである。要するに、この艦に対して防護魔法を展開できるということ。

 これならば敵艦隊の攻勢も単艦で凌ぎ切れる。

 そして、魚雷は錬成魔法により魔力さえあれば何発でも精製可能。他にも多数史実の潜特型には無い魔法を利用した武装もある。

 人族の艦艇はもちろん、魔族の増援があろうとも十分に戦える存在だった。


「そういうことなら、信頼しよう」


 熊みたいな強面の外見をしたアイゼンハワーは、伊号四〇二の性能を聞くと信頼することにしたようである。






≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 六甲騎士団『コロラド』団長のルメイには、視覚・聴覚・嗅覚といった情報を術者に転送する魔法を仕込んでいる。

 団長だけでは無い。洗脳魔法を施された全員に仕込んである魔法である。

 そして、それはノースカロライナ団長のセシリアを除く4人の洗脳した団長全てに仕込んでいる魔法であり、エルナトを通じてその情報はマイアにも届けられていた。

 ルメイを通じて得られた能面の勇者、湯垣を見てマイアは同じくアルデバラン麾下である将帥の1人、アルキオネらとともに対策を練っていた。


 人族の騎士程度では相手にならず、座天使ガヴリールですら彼の軍団共々たやすく戦闘不能に追い込む力。

 死者どころか後遺症の残る負傷者を出していない戦いぶりに、マイアも、エルナトも、アルキオネも脅威を感じている。

 異世界の勇者には高位世界の恩恵である勇者補正だけではなく、女神の加護として『職種』というものが与えられる。職種についてこの世界では勇者を召喚した人族に多くの情報が残るが、魔族や天族にはほとんど情報がない。

 魔族としても神聖ヒアント帝国の集めてきた多大な情報からようやく魔族も職種に関する情報を得られたくらいである。

 回復に特化している能面の勇者の湯垣。この勇者の場合、回復に特化していると思われる職種の為、ほとんど相手に危害を加える手段は無い。

 だが、それを強化魔法と無限に再生できる治癒魔法のみで魔族さえ圧倒して見せるのは、多くの場合に怪しげな格闘術を使用するからである。

 エルナトの親友であるシュラタンも、この『発勁』と湯垣が称していた技により決定打を受けて戦闘不能に追い込まれた。

 打撃にしては明らかに受けた際の威力が違いすぎるというが、言葉だけでは表現しがたい。受けた魔族は口を揃えてそう言っている。

 残念ながらルメイ程度ではそれを見せることもできなかった。

 マイアは新たな戦術を立て直すことにしていた。


 エルナトの攻撃で湯垣には寄生魔法を受けさせることができた。これにより、あの勇者は常時大量の魔力消費を要求される。

 いくら勇者補正を受けようとも、奴らは魔力が圧倒的に多いことから無限に見えてしまうだけで、無限というわけでは無い。

 消耗戦を避ける為に、湯垣は短期間の決着を臨む為にリリクシーラへの行程を急ぐと思われる。

 海の上もお構いなく徒歩で移動する上に、その速さも尋常では無いので、見失ってしまっているが、陸地を移動するならば北部から上陸するはず。

 そこで、アルキオネの方がセシリアと接触させた神聖ヒアント帝国の現体制に対する反乱軍の協力を仰ぎ、人手を確保。フォーマルハウトの軍団も借り受けることでかき集めた魔族の兵も大量に動員して人海戦術で海岸を固め、上陸してきた湯垣に神聖ヒアント帝国軍を当てることで足を遅らせるという手はずとなっている。

 この際、先を急ぐ湯垣が神聖ヒアント帝国の人族に攻撃を加えて死者を出すようなことがあれば、それを利用して大々的に湯垣を倒すべき異世界の侵食者、悪として取り上げる算段である。

 ご丁寧に1人も殺さなければ行程は遅れて自らの寿命を削り、先を急いで1人でも殺せば世界の敵として排斥の対象とされる。

 あの勇者はどちらにせよ追い込まれ、リリクシーラへたどり着くことなく斃れるという作戦だった。

 反乱軍総大将であるロンメルは人族の中では桁違いに強い。足止めならば役に立つだろう。

 所詮彼らは駒でしか無い。


「完璧じゃ無いですか、アルキオネ。ふふ、期待していますわ…」


『任せておくがいいさ。アルデバラン様の手を煩わせる必要も無い』


 自信に溢れるアルキオネの返答に、マイアは満足げに頷く。

 アルキオネならば大丈夫だろう。洗脳した人族の肉の盾を用いれば、いくらあの謎多き勇者でも隙ができるはずである。

 マイアもまた、連戦連敗の勇者を討ち取る好機に高揚を感じていた。


 –––––だが、そんなマイアのもとに1つの報告が入る。


「何、ですか…それは…?」


 報告に上がった魔族の兵は、再度その報告を口にする。

 それは、見たことも無い形状をした人族の巨大な潜航戦艦がハルゼーを幽閉している監獄のあるカルペア島のホルワド湾に攻撃を仕掛けてきたというものだった。


「何てこと…すぐに対応しなければ」


 通信を切ったマイアは、すぐに行動に移る。

 魔族の姿である空駆ける天馬、赤いペガサスの亜種の姿となってスプルーアンスのいる総統府へと向かった。

マイアはおうし座に属する恒星の1つであり、プレアデス姉妹の1人であるマイアの名が由来です。

同じおうし座に属する恒星、アルキオネ、ケラエノも同様にプレアデス姉妹の名前が由来です。この七姉妹に由来しているアルデバランの将たちの中は良好という設定としております。

伝承のプレアデス姉妹の物語については、次話の後書きにて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ