表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)  作者: 笹川 慶介
列国首都奪還・不死鳥の謀略
67/115

4話

 何とか連合海軍の皆さんの洗脳に近い状態異常とでもいうべき付与されていた魔法を解除して、それからなおも敵対されてしまったので、話を聞いてもらうために全員を叩き伏せてようやくひと段落つきました。

 ヨホホホホ。すでに日が暮れて時間も経過しています。おそらく、夕刻から始めたこの話を聞いてもらうために始めたよくわからない戦闘は、日が変わるまで続いてしまったと思われます。

 結果、話を聞いてもらう前に全員を気絶させてしまいました。…これでは対話どころではありませんね。

 盛大にやらかしてしまった感は否めませんが、洗脳を解除してもなお自分を敵と認識して血相変えた顔で襲いかかってくる方ばかりなのです。話を聞いてくれそうな方はおらず、気づけば全員の意識を刈り取っていたというわけです。

 人族相手ならば勇者補正のおかげで殺さず怪我させずに無力化すること程度ならばどうにでもなりますが、この惨状を見てみると過剰防衛もいいところですね。というよりも、完全に自分が悪役扱いされても文句の言えない状況だと思います。

 …ツヴァイク島に向かうとしましょう。

 現実逃避するな、と? …させてくれませんかね〜? だめですか、そうですよね…。

 しかし起きたからといって、彼らの様子を見る限り自分に対して身内を殺されたみたいな鬼気迫る感情を向けて襲いかかってきたので、起きたとしてもまともに話を聞いてくれる可能性は低いと思われます。おそらく、神聖ヒアント帝国では、自分たち勇者のことを声高に悪魔みたいな存在としてアピールしているのでしょう。

 そういえば、自分、召喚初日早々に彼らの情報源とも言える密偵を多数殺してしまっています。それを考えると、魔族の支配抜きでもかなりの恨みを買っていたとしてもおかしくはありませんね。


 しかし、不可解な点が多くあります。

 正常な判断能力を奪い自我がある状態で洗脳してしまう、彼らにかけられていたこの魔法ですが、それに関しては魔族がかけたと考えて妥当だと思います。

 しかし、そうなるとその魔法がかけられていなかった混じっているアウシュビッツ群島列国の傭兵海軍。彼らの存在が気がかりです。いくら報酬次第で動く傭兵とはいえ、ここはアウシュビッツ群島列国の領海です。彼らは神聖ヒアント帝国ではなくアウシュビッツ群島列国の人族ですから、他国同士の戦に雇われたり、アウシュビッツ群島列国に雇われたりするのはいざ知らず、アウシュビッツ群島列国に入る他国の海軍に雇われて文句1つなく領海を進むでしょうか?

 神聖ヒアント帝国の皆さんは正規軍なのですから護衛という可能性はないでしょう。内容を自分の討伐に設定するにしても、アウシュビッツ群島列国に喧嘩を売りに行くわけではないという保証はどこにもありません。

 神聖ヒアント帝国は魔族に占領されたと思われるころから、人族の他の国家とはほぼ絶縁状態にあると聞きます。さすがに傭兵といえど、故郷の念が多少あれば神聖ヒアント帝国に雇われてアウシュビッツ群島列国の海域に入るとは考えにくいです。

 つまり、アウシュビッツ群島列国の傭兵の皆さんの動機ですね。法外な報酬を提示した場合は乗るかもしれませんが、見たところアウシュビッツ群島列国の傭兵の軍艦は20隻を超えます。破格の報酬ということで集めるにはかなり重たい兵力と言えるでしょう。そのくらいならば自国の海軍の増援を持ってくる方が安上がりだと思います。

 どうにもアウシュビッツ群島列国の傭兵海軍の存在と動機が見えません。彼らも神聖ヒアント帝国の兵士同様に、洗脳されているわけでもないのに親の仇を見るような目を戦闘中に自分に対して向けていましたので、かなり深い理由があるのだと思います。


 もう1つ、神聖ヒアント帝国海軍の存在です。

 自分がツヴァイク島を目指しているルートについては、魔族から情報を得れば容易に待ち伏せが可能でしょう。魔族の尖兵として出てきたのであれば納得できます。

 しかし、今回の相手はアルデバラン様のはずです。カストル氏のもたらした一騎討ちの申し込みでは、神聖ヒアント帝国の解放を条件としていました。つまり、神聖ヒアント帝国の扱いについて魔族皇国から任せられている立場にあると仮定していいでしょう。魔族の元帥の1人でしたし、その権限があったとしてもおかしくはないでしょう。

 しかし、魔族がこの襲撃の糸を引いているとすれば分からない点が浮かびます。

 アルデバラン様とは一度拳を交えた間柄ですが、その性格は把握しているつもりです。一騎討ちを好み、脳筋といいますか、バトルジャンキーといいますか、とにかく闘争が大好きであり、おうし座の一等星の名前にふさわしいと感じるほどの猪突猛進な性格だったと思います。

 そして、同時に搦め手を嫌い、卑怯な手段を好まないように自分は感じました。

 ツヴァイク島に迎えを寄越すという通達をすでにしている中、騙し討ち、待ち伏せのような今回の襲撃を計画するような方とは思えないのです。

 アルデバラン様が勝負に関して勇者は油断ならないと手段を選ばずに来たという可能性を肯定すればそれで片がつくのですが、どうにもアルデバラン様と戦った勝手に感じたその魔族柄を考えれば、感情面では納得できないものがあるのです。


 もう1つの可能性として考えていることが、神聖ヒアント帝国の独断専行の襲撃ということです。

 彼らの洗脳状態を見る限り、自我はある程度残しています。つまり自己判断は可能な状態ということですね。

 思考が暴走気味になっている状態といえばわかりやすいかもしれません。

 魔族が神聖ヒアント帝国内において自分たち勇者を悪として仕立て上げ、神聖ヒアント帝国を扇動している可能性は高いでしょう。

 それに過敏に反応してしまった神聖ヒアント帝国の方が、魔族と離れ勝手に行動した結果、自分を攻撃したという可能性です。アウシュビッツ群島列国に入るので魔族の兵を連れて行くわけにはいかないということも考えられますが、今回は魔族のいない人族だけで構成されていた軍勢でした。魔族の承諾を得ずに独断専行したとすれば、魔族の兵が1人もいなかったことも頷けます。


 他に可能性があるとすれば、魔族主導の襲撃ではあるものの、アルデバラン様とは別口の魔族の襲撃の可能性でしょうか。

 神聖ヒアント帝国のある南方大陸。以前に陸奥でソラメク王国に向かっていたのですが逸れることとなった際に、アルデバラン様とは別口で襲来した魔族の姿がありました。

 そう、あの超巨大アノマロカリスの魔族さんです。

 あれはおそらくアルデバラン様とは違う勢力の魔族さんでしょう。

 超巨大アノマロカリスの魔族さんはあの戦闘の後に東の海、つまり魔族皇国のある2つの大陸の方に向かいました。あの超巨大アノマロカリスの魔族さんが神聖ヒアント帝国に戻っているかどうかはわかりませんが、彼の国にアルデバラン様以外の魔族の元帥、それに属する勢力がいたとしてもおかしくはありません。

 それがアルデバラン様とは違う思惑を巡らして自分を排除しようと考えていたとしてもおかしくはないでしょう。もしかしたら、アウシュビッツ群島列国の方に魔族の勢力が潜んでいる可能性もあります。それが動いたと仮定すれば、傭兵海軍を集めるのも容易いかもしれませんね。


 …自分も人族に協力を求めるべきでしょうか?

 神聖ヒアント帝国の現状を知るといえば、超巨大アノマロカリスの魔族さんを撃退する戦で共闘した艦隊司令殿がいますが。名前、聞いてないんですよね。


 神聖ヒアント帝国の解放に関しては、アルデバラン様の一騎討ちの申し込みがあった自分だけの問題でしょう。あの方に因縁がある勇者は自分だけです。アウシュビッツ群島列国の皆さんを自分の都合に巻き込むわけにはいきません。それは他の勇者も同じです。自分1人の都合ですからね、アルデバラン様との因縁は。

 それに、自分たち勇者は人族を救うためにこの世界に召喚されました。他の勇者がギブアンドテイクを選ぶようなことがあるとしても、自分は人族を救うことこそあれ、人族に助けを求めるわけにはいきません。立場的にというやつです。ヨホホホホ。

 そういうわけで、艦隊司令殿に接触するわけにはいかないでしょう。どのような思惑があるにせよ、このままツヴァイク島を目指すことにします。


 まずは気絶させてしまった彼らをどこかに受け入れてもらえないか探すべきでしょうか。

 …ちなみに、自分は今、船の中で見つけた別の服を拝借しています。何しろ濡れた服に夜風は響きますからね。ヨホホホホ。


 島を探すべきか、それともそっと去るべきか。

 どうするべきか考えている時でした。

 なにやら空に気配を感じて、見上げます。

 すると、無数の翼を生やした天使みたいな外見をした人たちがツヴァイク島の方から飛んできていました。

 ティアレナ氏の気配に酷似しています。待ち構えなく天族ですね。

 まいりましたね、400を超える軍勢です。

 軍勢と判断した理由は、装備ですね。

 鎧、剣、盾、槍、杖…どう見ても武装している軍勢です。


「…ヨホホホホ」


 どうして天族の軍勢がいるのでしょうか?

 どうして天族の軍勢がツヴァイク島からやってきているのでしょうか?

 どうしてアルデバラン様の迎えが来る予定の島に天族がいたのでしょうか?


 その軍勢の姿を見た時、あまりの予想外の展開に疑問で脳内がクルクルパーになりました。

 ヨホホホホ。いよいよ自分の貧相な思考回路ではなにが起きているのか理解できなくなってきました。

 まさかと思いますが、これも含めて罠というやつなのでしょうか?

 だとしたら、アルデバラン様って脳筋のように見えて相当な策士ということになるでしょう。

 それとも、別の思惑が何者かの手で動いているのでしょうか?

 疑問が尽きず、混乱する自分は軍艦の上で腕を組み状況の整理を進めます。


 しかしある意味混沌とかした現状に、頭がパンクしそうです。

 そんな自分に対して、騒ぎを聞いて駆けつけたといった感じでこちらにやってきた天族の軍勢は、艦隊の中で立っているのが自分1人であることに気づくと、自分の被る烏天狗の能面を見るなり慌てるように自分を取り囲みました。

 さらなる急展開に、自分はさらに混乱します。

 あ、あれれ? 天族の間でも有名になったりしているんですかね? 自分。

 そんな、ある意味能天気なことを考えていた自分ですが、天族の皆さんは待った無しでした。


「や、やつだ!」


「これを1人で…脅威だな」


「総員、攻撃せよ! 異界の侵食者を打ち倒し、彼らを解放するぞ!」


 何やら自分を示して敵意を剥き出しにした天族の皆さんが、容赦なしに攻撃を仕掛けてきたのです。

 弓矢を構え、矢を放ちます。

 杖を構え、聖術を放ちます。

 それに、人族の犠牲は全く考慮されていません。


「おっと、させませんよ。ヨホホホホ」


 自分ば若干慌てつつも、突然の天族の皆さんの攻撃に対応するために、防護魔法を展開して艦隊を守ります。

 展開した防護魔法に、次々に攻撃が突き刺さりました。

 衝撃がビリビリと伝わってきますね。

 天族の皆さんが自分を攻撃してきた理由はわかりませんが、自分を敵と認識して攻撃してきているのは確実ですね。

 自分は防護魔法を二重、三重に重ねて行き、最終的に九重に防護魔法を展開して、人族の艦隊を守ります。

 みなさん気絶してますので。さすがにここで死なれるわけにもいきません。


 それに、天族の皆さんの目を見る限り敵と認識している、つまり目標は自分のようです。その攻撃に巻き込まれてはとばっちり以外の何物でもないでしょう。

 天族の皆さんの理由が、というかいろいろとこの状況に理解が追いついていませんが、まずは艦隊の皆さんの安全を確保したいので一旦天族の皆さんを突き返すか離れるかしたいところですね。

 状況に疑問が無数に上がりますが、戦闘に集中します。


「…虚空と魔導の神バデロン、見識と深海の神トリリオン。災禍を飲み込み、命を育む偉大な海原の力を貸し与えたまえ…轟け渦潮よ!メイルシュトロム!」


「–––––!?」


 そんな中、ひときわ大きな聖術の発動を感じた直後、海底から大きな振動が伝わってきました。

 ヨホホホホ。どうやら防護魔法の展開する上ではなく、艦隊の無防備な海の底の方から攻撃を仕掛けてくる方がいたようです。

 すぐさま防護魔法を艦隊の下の方に展開して、守りを固めます。

 間一髪で間に合い、防護魔法を展開できました。

 そこに、海底から生まれた巨大な海流が空に上がるように巨大な渦潮を巻き上げてきました。

 さながら、海水を巻き込んだ竜巻ですな。

 巨大な衝撃が海水を伝わり、会場の水面を大きく揺らします。


 おお〜。聖術でもここまで大きなことができるのですな。

 さすがは天族というところでしょう。

 おそらくも何も、上位階級の天族がいますね。

 空を見上げると、その天族は一目でわかりました。

 アイリスの加護と言われる脳天に輝く輪っかを被っている天族がいましたので。


 その方と目があった瞬間、その天族の形相が怒りに震えて般若みたいなのになりました。


「貴様か…我が愛するティアレナを連れ去った侵略者はぁ!」


 その天族はそう叫ぶなり、周囲の天族を風圧で吹き飛ばしながら、怒りの形相で自分めがけて突進してきました。

 ヨホホホホ。どうやらまた知らぬ間に恨みを買っていたようですね。

 …いえ、わかってます。あの方、ティアレナ氏の恋人か何かでしょう。

 自分、ティアレナ氏を拉致した本人ですからね。

 恨まれるのも道理です。


 一撃で自分の防護魔法に風穴を開けて突っ込んできた天族の方に対して、自分は赤い呪怨改め、迷槍ドジョウ先生を構えて、それを迎撃します。

 ヨホホホホ。受けて立ちますとも、その勝負。

 まあ、勝ってもティアレナ氏を今すぐお返しすることはできませんけどね。ヨホホホホ。

 下衆が!と? ヨホホホホ。そのようなわかりきったことを改めて言われましても、新鮮味というものがありませんね。自分が下衆など、周知の事実です。ヨホホホホ。

迷槍ドジョウ先生。

…いえ、『迷』槍ドジョウ先生については、誤字というわけではありませんので、ご了承ください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ