3話
防護魔法に艦砲射撃が突き刺さり、その衝撃が伝わってきます。
飽和攻撃というヤツでしょうか。当たる当たらないは二の次、数を撃てば当たるだろう作戦で行くぞ!的な間断ない砲撃が加えられています。
一応爆破攻撃ばかりですが、洗脳していた天族のティアレナ氏との戦闘の際に艦隊司令殿が見せてくれましたが、人族の艦には貫通術式なる貫通力に秀でた攻撃手段があるはずです。
それでは防護魔法はおそらく貫かれるでしょう。多少戦局を見据えることのできる目を持つ将ならば、そのことに確実に気づくはずです。
それが撃たれる前に手を打たなければならないでしょう。
というわけで、死んでも良いように蘇生魔法を仕込み、強化魔法で力を底上げして、防護魔法で展開した足場を蹴り一気に艦隊の方に向かって飛び出しました。
これで距離を詰められれば良いのですが…。
そう考えていましたが、そうは問屋が卸さないというヤツです。都合よく物事が進むはずもないというのが現実ですし、大抵自分のようなそういう目に遭うだけの事をやらかしてきた輩に報いとしてやってくるのです。
運命の神様は人の善行と悪行を見ているものです。
要するに何が起きたかと言いますと…。
転移魔法による機雷攻撃が来たんですよ、海中に直接。ヨホホホホ。
こちらを完全に失念してしまっていました。そういえば、ガト◯ンティスみたいな射程無視した転移魔法による機雷攻撃がありましたね。
そしてその破壊力といえば、高い水柱を軽々と上げるほどのものです。少なくとも、対人兵器としてはオーバーキルもオーバーキルな兵器ですね。
防護魔法を容易く砕かれて、一度殺されました。
ヨホホホホ。保険として蘇生魔法仕込んでおいて正解でしたが、それよりも服がもう残ってないです。こっちの方が深刻ですね。
回復魔法を行使しつつ、防護魔法を展開して機雷攻撃を防ぎます。
水柱が多数上がりますが、艦隊の攻撃の手は緩んでくれません。
それどころか、貫通術式まで投入してきました。
海中でも使えるんですね、あの攻撃。
防護魔法は紙防御も同然で、簡単に貫通されました。ヨホホホホ。自分の防護魔法は自身だけでなく仲間も守る障壁だというのに、女神様に授かりしこの力を自分はろくに使いこなせていません。こんな紙防御では、『治癒師』の職種を授けてくださった女神様に面目が立ちません。
次々に貫かれる中、その砲撃を躱し続けます。
まだ、改良の余地があるということですか…。
防護魔法の形を変え、三角錐状に展開し、それを棘のマントのように広げて、頂点と艦隊の貫通術式の砲撃を直撃させるように防護魔法を展開していきます。
点と点。ぶつかり合った2つの攻防は、より鋭利な点として展開した防護魔法が制したことにより、貫通術式の攻撃はその光線を分散させて往なされていきます。
しかし、ここで問題が発生しました。
防護魔法が勝利したのは良いのですが、それにより分散した光線は背後の自分に細くなって襲いかかってきました。
「ッ!?」
次々貫かれて穴だらけにされます。
我ながら、これは何してんだよと言いたくなる事態ですね。
ヨホホホホ。予想外です。
治癒魔法で回復させていきますが、間に合いません。
烏天狗の面もこのままでは持ちそうにないです。
…よくよく考えてみたら、全裸で能面かぶって海の中を槍を手に泳いでいる男って、もはやホラーじゃないですか。我ながら中途半端なアンデットよりも怖い外見をしている自信があります。ヨホホホホ。
いえいえ、ふざけている場合ではありません。自分、海中戦はできることにはできますけど、所詮陸棲生物の範疇を出ませんから。海の中にいつまでもいることはできないのであります。ヨホホホホ。
穴だらけにされたり、機雷で粉砕されながらも、蘇生魔法と治癒魔法を駆使して何とか艦隊との距離を詰めることができました。
必死でやっている身としては気にしていられないですが、向こうの艦隊の皆さんからしてみたら二流のホラー映画を超える怖い外見となってしまっている自分が砕かれても貫かれても即座に再生して接近してくるなど、かなりの恐怖を感じる絵面だと思います。
謝罪の必要性がありますかね?
…ありますよね〜。
ともかく、接近して仕舞えばこちらのものです。
機雷攻撃も止んだので、偶然にも接近した軍艦の船縁に近づいていた方がいましたので、ドジョウ先生を槍から腕に形状変化させてその方を海に引き摺り下ろしました。
さすがに、服くらいは着たいですから。ヨホホホホ。
…スミマセン、少々お借りします。
そして海中に引きずり込んだことで暴れる方から服を拝借し、裸に剥いたその人を抱えて軍艦の甲板上に飛び乗りました。
「撃ち殺せ!」
直後に、仲間がいるにも関わらず、取り囲んだ兵隊達から銃撃の嵐という名の歓迎を受けました。
ヨホホホホ。何のつもりか知りませんけど、防護魔法を展開します。
問答無用もここまでくれば、いよいよ不審に思えますね。
それ、千里眼・治療を発動しますっとな。ヨホホホホ。
原因は、彼らの中に洗脳魔法の一種が施されていました。
これは、思考回路に作用して対象の正常な判断能力を奪う魔法のようですね。自我は残すものの騙されやすくなってしまうタイプの洗脳魔法です。通常の完全な支配の洗脳魔法に比べ、巧妙でわかりにくいやつですな。
これならば、仲間がいたとしても構わず撃ってくるのもうなずけます。海に引きずり落としたのは自分ですけど。ヨホホホホ。
海に引きずり込んだ挙句裸に剥くなど外道の所業だろ、と? やっぱり、風邪ひきますかね?
ちなみに外道であることは否定するつもりなどありません。むしろ肯定します。ヨホホホホ。
我ながらクソが前に付く外道ぶりだという自覚はありますが、そこはそれというやつで。今は緊急事態につき、勘弁してください。ヨホホホホ。
原因がわかったのであれば、治療するのみです。
というわけで、回復魔法を範囲的に展開します。
対象はこの艦隊全部ですね。自分を取り囲む兵隊にはもれなく洗脳がかかっていますから、下手したら1人残らずかかっているという可能性も否定できませんので。
「殺せ! ころ、せ…え? うわっ!?」
洗脳が解除された兵士たちは、大きく戸惑いました。
自分を敵と見なしているのは変わりませんが、人質に近い形で裸に剥いた方を持っているのです。銃撃を止めてしまうのは致し方のないことでしょう。
「ま、待て! 撃ち方やめ!」
艦砲射撃なども放たれる寸前でした。
さすがに味方艦に方を向けている判断は異常だと自覚したのでしょう。
頃合いですので、声をかけてみます。
「ヨホホホホ。落ち着きましたか?」
「ッ!」
すると、また銃を一斉に向けられました。
ヨホホホホ。確かに、人質を取っている相手にはそうしますよね。
取り敢えず、人質のつもりはないが人質としてしまった裸の方を降ろして、両手をあげました。
この状況でお互いに刺激しあうのは、あまり宜しくないと感じています。
「その方を早く解放しろ!」
「ヨホホホホ。どうぞ」
向こうの皆さんから要求がありましたので、裸にしてしまった方の身柄を引き渡します。
命に別条はないものの気絶しているので、甲板に置いてそこから数歩距離を取るという感じでの引き渡しですが。向こうが警戒しているので、モノみたいな扱いをしているのはつっこまないでください。服を拝借した上にこの仕打ちはさすがにひどいとは思いますけど。ヨホホホホ。
彼らが裸の方を確保しました。
これで話し合いとなれるでしょうか?
そう思った矢先、こうなりました。
「…撃ち殺せ!」
即座に防護魔法を展開しました。
…力ずくで、話し合いと行かなければならないようですね。洗脳解除されてもこれでは、ね。
というわけで、そこから数分間、甲板上で格闘戦を展開する羽目になりました。ヨホホホホ。
かなり短くなっています。
六甲騎士団『コロラド』団長ルメイ
…海中に引きずり込まれてストリップされ、気絶。
六甲騎士団団長の退場を載せていきます。




