23話
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想定外の再会と、そしていきなり抱きつかれた事態に、北郷は大いに混乱していた。
江山がなぜ此処にいるのか、何が彼女の身にあったのか、そしてどうして北郷に抱きついて泣いているのか。
疑問が尽きないが、それ以前の問題として、想い人であるリズでさえも抱きつかれては思考が沸騰する北郷の場合、江山に突然抱きつかれようものなら大混乱してしまう。
要するに異性に慣れていない堅物の北郷の可愛らしい反応ということだ。
「北郷様…この状況は何ですか?」
「流石ですね」
リズに幼少期より苦楽をともにして帝国のために尽くしてきたアルブレヒトは江山に抱きつかれてしどろもどろとなっている北郷に普段の温厚な彼からは想像できないような黒い何かを発しており、対照的にエレオノーラを預かったティルビッツは面白がっている節も見受けられる微笑みを浮かべながら北郷の様子を見ていた。
さながら、面白がっている湯垣と怒った鬼崎を相手にしているような錯覚に陥り、北郷は反射的に自己弁護をした。
「ま、まて、アルブレヒト! 落ち着いてくれ! 俺は何もしてない。俺は何も–––––」
「抱きつかれているようですが?」
「ティルビーッツ!?」
しかし、ティルビッツが敵に回っていた。
北郷は確信する。
確実に、湯垣と同じ匂いがすると。
目が全く笑っていないアルブレヒトが、口元に笑みを浮かべながら、肩に手を置く。
ギリギリと、力がこもっていく。
勇者補正の恩恵を受ける北郷にアルブレヒトが危害を加えることは本来かなわないものだが、今回のアルブレヒトの握力はいつもと次元が違った。
「あ、アルブレヒト…手を、離してくれないか?」
「北郷様? ご説明ください」
「待て待て待て! 貴様キャラが崩壊しているぞ!」
「私のことなどどうでもいいのですよ」
「説明する! 説明するから手を! 手を放してくれぇ!」
その中で、1人だけしんみりしている江山には、一切の会話が耳に入ってきていなかった。
「佳久…本当に、会いたかった…」
「江山! すまん、事情があるのはわかる! わかるが、まずはアルブレヒトを落ち着かせることに協力してほしい! 頼む!」
「佳久…」
「仲が随分よろしいようで?(殺気込)」
「江山ぁ!?」
2人の温度差はかなりのものであったが、何はともあれ江山と北郷はこうして再会を果たした。
江山とともにいたのは、同じくクラスメイトの1人である六人部、そして東方大陸に存在する北の大国ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦の社会党総裁ウリヤノフであった。
感動の再会ののち、ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦に召喚された江山たちがどうして此処にいるのかについての説明を受ける。
体調も戻り起きたエレオノーラも交えて、近場の飲食店に入った北郷たちは、そこで江山たちが此処にきた経緯について聞いた。
加賀見や東田といったクラスメイトたちとともに、ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦に召喚された12人のクラスメイトたち。
だが、加賀見に暴行を受けていたクラスメイトの1人である浅利が、加賀見とともにいじめに加担した者たちを次々に殺害し、さらには無関係であったクラスメイトの香椎さえも殺して、首都ザンドベルクにて襲いかかるにいたったこと。
首都ザンドベルクの激戦の末に、中井と加賀見が殺されて、浅利の隷属魔法によりジカートヒリッツ社会主義共和国連邦が完全に乗っ取られてしまったこと。
加賀見が浅利と戦っていた間に、首都ザンドベルクを訪れていた謎の魔族であるポルックスとカストルによって助けられ、ジカートヒリッツ社会主義共和国連邦からの脱出に成功し、ネスティアント帝国の勇者たちを頼るためにソラメク王国に逃げてきたこと。
魔族であるポルックスたちが見つからないように、残る面々は街のはずれにいるという。
「…そうか」
一通り話を聞いた北郷は、複雑な想いを抱きながら呟いた。
北郷は加賀見がどういう人間であるか、ある程度は知っていた。
優等生としての仮面と、裏に秘めた暴力魔の素顔。
中井が暴行を受けていたのを見つけたことがあり、それを止めにかかって殴り合いに発展したこともある。
加賀見が中井に対してそれ以降暴力を振るっていないことが中井自身の口からも聞かれ、2人の関係も改善されたことで、解決したと北郷も勝手に思い込んでいた。
だが、実際には加賀見の暴力の生贄は挿げ替わっていただけであり、その対象となった浅利が暴走してクラスメイトを6名も殺害するという事態になってしまっていた。
気づいていれば…!
北郷の中には、この複雑な事情が重なった結果、この事件が起きてしまったこと。そしてその原因の一翼を担っていたことに悔しさを感じた。
〔加賀見たちの本性を俺は知っていたはずだ! クソ…気付けていれば…!〕
北郷自身は、加賀見というよりもその親友であった井上の人柄を疑っていた節はある。
だが、結局事件が起きるまで北郷は何もできなかった。
北郷が中井を助けなくとも、中井が犯人としてこの事件を起こしていただろう。
自分のやったことは何1つ解決になっていなかったと、そんな己に腹が立ち、歯ぎしりをする。
「すまない、佳久…」
「いや、貴様が謝るようなことじゃない」
北郷自身、今回の事件においては誰が悪いとかいう話ではないことをわかっている。
事件を引き起こした浅利も、復讐の対象として殺された加賀見たちも、舞台を整えてしまったジカートヒリッツ社会主義共和国連邦の人たちも、誰に責任があるかなどという議論で収まることではない。
とても複雑に絡みついた不幸の積み重ねが招いた事件。
分かっているのは、雪城の身に何かが起きてしまう前に、一刻も早く浅利を止めなければならないということである。
残念ながら、六人部によれば雪城に対して念話が送れないという。
雪城の職種は守りに特化した『装甲兵』という職種であり、この職種の恩恵には敵味方から問わず、治癒魔法や癒しの聖術といった一部の例外を除くあらゆる干渉を拒絶するという特性があるため、念話を受けることができないというのである。
そのため、雪城の生死さえも確認できていない。
だが、浅利が雪城の命を取る可能性は低いという。
香椎が殺されたのは千田が好意を寄せる相手だったからであり、雪城の場合は浅利の復讐に対してはほぼ無関係だから、殺される理由がないとのこと。
とはいえ、暴走する復讐者が何をするかなど分からない以上、一刻も早く雪城を救う必要があった。
江山たちの目的は、浅利を止めてジカートヒリッツ社会主義共和国連邦を取り戻すことにある。
そのために力を貸して欲しいと、北郷たちを頼ってきたのだった。
北郷の目的はあくまでも子爵領からの呼び声の正体を探るというものだが、これに関しては別に後回しにしてもそれほど問題のあることではない。
雪城の命のかかっている江山たちの案件に比べれば、優先順位は火を見るよりも明らかだった。
「当然、俺も手を貸す。放っておけるはずがない」
「佳久…」
「カクカク…」
「勇者様…」
3人が感動した表情で北郷を見上げる。
此処まで来た甲斐があったことに感動しているのだろう。
とはいえ、事情があるにしても北郷はネスティアント帝国の勇者の立場であり、この件に関する許可をリズに取る必要がある。
アルブレヒトとティルビッツの方も納得してくれたようで、すぐにアルブレヒトはリズのもとに向かうこととした。
今回の件に関しては、北郷の勝手で此処まで来たのを、また北郷の勝手で旅の予定を変更するのである。
さすがにこれ以上は巻き込めないのでネスティアント帝国の許可のみをもらい単独で、もしくは湯垣と2人で動こうと考えていた北郷だったが、ティルビッツとエレオノーラはその意向を聞いても首を横に振った。
「勇者様。此処まで聞かせてそれはないでしょう。私は近衛の騎士であるとともに、守護を生業とする騎士の誇りを持つ1人の軍人です。泣いて助けを求めてきた女性の願いを目を背けることなどできません。私も手伝わせてください」
「勇者殿。当然私も参加しよう。私の部下に何を言われたのかはわからないが、今日の時点でやることはあらかた片付いていたので、少ない暇ができているのだ。膝を借りた恩返しとして、私のことも使って欲しい」
「…ありがたい。力を借ります」
ティルビッツとエレオノーラも参戦の意を示してくれた。
心強い味方を得ることもできた。
その様子を見ていた六人部が、ニヤニヤとしながら言う。
「カクカクって、やっぱり人望と美女を惹きつける才能があるっすよね〜。うちもリンリンと同じように、いつか惚れそうな気がするっす」
「なぁ!?」
「ブフッ!?」
六人部の何気なく…はないだろう一言に、2人の堅物は大いに顔を赤くして反応を示した。
…だが、仲間を助けるために、仲間を止めるために動こうとした彼ら勇者に、異世界より来る世界の敵対者の魔の手が迫っていた。
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ユェクピモは、勇者の位置を掴み取ると、彼らの集まる飯屋まで来てから、その油断しきった勇者たちを滑稽げに笑い、魔法を発動させる。
「ヒヒヒ…複数の勇者ならば贄としては上等だ。まずは、迷宮に招待して差し上げよう」
ユェクピモの姿は、誰にも見えていない。
迷宮でもない場所にて彼を認識できるのは、この世界の者ではなく、異なる世界から来る者のみである。
ユェクピモは生命に危害を加えることができない。彼が出来るのは世界を侵食することのみであり、その本質は世界の敵というよりも世界たるクロノス神の敵という表現が当てはまる。
だが、クロノス神の世界に召喚された勇者は、異界の女神の祝福を受けているはずである。
世界を侵食してユェクピモの迷宮としなければ、この世界で勇者の身体を傷つけることはできない。
ユェクピモは世界を侵食するまでは何者にも干渉できない無力な存在であり、侵食して作った迷宮内において初めて生命に危害を加えられるようになる存在なのである。
そのためには、世界を侵食して、迷宮を形成する必要がある。
ユェクピモは、勇者を贄とするべく、彼らを閉じ込める迷宮を作り、そして勇者の座る席に対して転移魔法を行使した。
「来い、勇者たち。災厄顕現の贄としてくれよう」
勇者が3人。余計が4人。1人が先ほど抜けたから、余計な人族は3人となる。
目的は勇者のみである。迷宮には多数の化物を放っているため、そいつらに余計は始末させるとしよう。
「ヒヒヒ…転移魔法!」
ユェクピモは、勇者たちと己を迷宮へと引きずり込んだ。
昨夜は空が綺麗で星がよく見えました。
オリオン座が特にくっきりと見えましたね。
冬の季節が近づいています。
オリオン座といえば、冬の大三角形を形成する一等星の1つ、ベテルギウスがある星座ですね。アノマロカリスの発言でお気づきかとは思いますが、魔族の元帥格には一等星の名前を利用しています。




