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異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)  作者: 笹川 慶介
南部海岸地帯・魔導の森
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15話

 なるほど、あれが天族ですか。

 初めて見る姿は、神に仕えるに相応しい天界の住人、という印象ですね。

 神様の御使の割には魅了を使うとか、不意討ちで仕留めようとか、随分と姑息な手が使われているようですが。

 その天族の方は、見方によってと言いますか? 自分が見た印象では、随分とふてぶてしいといいますか。特に悪びれる様子もなく、むしろ人族風情がみたいな態度を勇者として呼ばれている自分含めて強面揃いの海の男集団であるアウシュビッツ群島列国の艦隊に向けて小馬鹿にするような笑みを浮かべています。

 ヨホホホホ。正直、その笑みはせっかくの美女を台無しにしていますよ。


「言語を解せるということは少なくとも権天使…いや、おそらく中位階級はある。となると力天使か?」


 艦隊司令の言葉が耳に入ります。

 中位階級に『力天使』、その下の階級が『権天使』ということはキリスト教における天使階級と同一視したほうがいいのでしょうか?

 権天使の下となると、大天使か天使しかないですからね。権天使込みのこの3階を、下位三位階級の天使とカテゴライズしていたはずですから。

 そのうえが中位三階級に当たる能天使、力天使、主天使となるはずです。

 自分の想像する通りに天使の階級が定められているとすれば、力天使は中位階級にあたりますね。

 天族は人族を見下していると聞きましたが、やはりというべきか天族の方には侮蔑の視線が見えています。確実に自分含め人族全体を見下しているでしょう。


 とはいえ、自分は御手杵もないのでかなり無力な存在となっています。防護魔法で防ぐことくらいならばできますが、攻撃手段は格闘術のみなので、あの空を自在に飛べる天族の方にはそもそも攻撃が届く気がしません。ヨホホホホ。

 海の次は空とは…アルデバラン様といい地に足をつけて生きる人間としては羨ましいです。


 艦隊司令が歯軋りを鳴らします。

 おそらく、操られていたということに気づいたのでしょう。

 あの美女のハニトラだったら、引っかかっても仕方ないと思いますけど、悔しいものは悔しいのでしょうな。立場あるからこそ、余計に悔しいのでしょう。


「ふざけやがって、天族が…! 対空戦闘!」


「「「「「サー、イェッサー!」」」」」


 艦隊司令の命令により、旗艦が攻撃態勢に入ります。

 あの天族にひと泡吹かせようというつもりなのでしょう。

 慌ただしく動き回る乗組員たちの手により、砲塔が動かされ天族に向けられます。


 一方の天族はそれを悠々と見ています。

 女神様やリーゼロッテ皇女殿下の説明を受けた際にも聞きましたが、明らかに人族のことを舐めきっている様子ですね。

 航空戦艦や潜行戦艦隊の方は乗組員の様子を見たところ完全にまだ天族の支配下にありますし、海上に浮かぶ艦艇もまだ艦長格の魅了は解かれていません。

 今の自分には攻撃手段もありませんし、先にそちらの方を解放していこうかと思いましたが、砲火が鳴り響く前に天族の方が動き出しました。


「相変わらず無力で野蛮な下等生物ですこと」


 天族が人差し指を旗艦に向けます。


「戦いと勝利の女神ラミアス、偉大なる創生の神クロノス、我が信心、我が信仰によりて奉らん…この手に敵を払い我らに勝利の光を照らし賜らんことを…」


 何かとんでもないものが飛来する…そんな予感がしました。

 しかし砲塔を動かすよりも、指先を向けて詠唱する方がはるかに早いです。

 あれは魔力を消費しない、いわゆる聖術というものなのでしょう。

 即座に防護魔法を壁というよりも傘状に展開して旗艦を守護します。

 ヨホホホホ。発動速度ならば魔法に勝るものはありません。なんとか間に合いました。


「滅せよ陽光! ソーラーバースト!」


 ダッセー名前だな…いえ、失礼しました。

 まあ、呪文といいますか詠唱はともかくとして、問題はそれにより発動する聖術です。

 天族の向けていた人差し指に赤く燃える小さな太陽のような球体が出現し、そこから巨大な光線が発射されてしました。


「なっ!?」


 艦隊司令が驚き、攻撃態勢を進めていた人族の兵隊たちも思わず目をつむります。

 しかし、光線はあと一歩のところで自分の展開した防護魔法によって軌道をそらされて、海の方に直撃しました。

 そこには直後に巨大な水柱がたちました。

 爆風が艦隊を大きく揺らします。


「うわああァァァァァ!?」


「ヒイィイイィィィィィ!?」


 群島列国の軍は混乱の中に陥ります。

 確かに高層ビル並の水柱が上がる爆発と爆風なのです。混乱するのも無理はないでしょう。

 艦隊が揺れる中、それでも艦隊司令は船縁につかまり立ち性を保ちつつ、天族を見据えます。


「なっ!? は、外れた!?」


 一方で天族は、防がれたことがよほど想定外だったのか、あちらもあちらで混乱しているようですね。

 自分は艦隊司令の方を振り向いて頷きます。

 そして、艦隊司令もまた頷きました。


「対空放火!」


 艦隊司令の号令で、慌ただしく混乱の中にあった艦内は、瞬く間に引き締まりました。

 巨大な爆発に誘いていたのからの一転するその様は、混乱していたのが演技だったと思えるほどです。

 すぐに砲塔の角度を修正して、旗艦は混乱している天族に向けて砲撃を開始しました。


「誘導術式で行くぞ! 雷撃属性、対空戦闘! 艦橋前方主砲、撃ち方始め!」


 艦隊司令の号令と同時に自分は防護魔法の展開を解除します。

 旗艦の主砲が砲火を鳴らし、砲弾が天族めがけて撃ち出されました。


「ッ! 博愛と正義の–––––キャァッ!?」


 天族が焦るように詠唱をしますが、そんな詠唱が間に合うわけもないでしょう。

 その前に砲弾から解放された雷撃魔法が炸裂し、砲弾を躱そうとした天族の体を貫きました。

 目標に砲弾で接近し、逃げる敵に対して砲弾から炸裂する魔法が角度を変えて放たれて直撃するというわけですな。なるほど、ゆえに誘導術式、追尾可能の攻撃というわけですか。

 自分たちの世界でも砲弾に追撃機能を仕込むことはできていなかったと記憶しています。砲弾は砲弾で放たれれば軌道の修正ができませんから。ヨホホホホ。


 しかし、多数の雷撃魔法を受けた天族自体は衝撃に吹き飛ばされたものの、本体は無傷です。

 空中で体勢を立て直した天族の近くには、頭に浮かべていたはずの光の輪っかが守るように浮遊していました。


「アイリスの加護だと!? クソッ、中位階級どころか、あれは上位階級の天族か!?」


 艦隊司令が悪態ついています。

 どうやら、くだんの天族は上位階級のようです。あの輪っかが関係していそうですね。

 対して天族の方は、せっかくの美人が台無しになる怒った表情を浮かべていました。


「この、害獣風情が…よくも私に無様な声を上げさせて!」


 いや、それは慢心した貴女自身がそもそもの原因なのでは?

 そう突っ込みたくなりましたが、ここは何も言わずに行くべきでしょう。ヨホホホホ。

 さて、天族はなんらかの転移系の手段を行使したらしく、その手に趣味の悪いデザインと色彩をした金色の錫杖を出現させ、それをこちらに向けてきました。

 一方で旗艦の方も砲撃態勢に入ります。


「アイリスの加護ならばこちらにも対応策があるんだよ! 砲撃術式変更、貫通術式用意! 属性は質量で行くぞ!」


 再び旗艦の砲撃準備も行われます。

 何かしらの手があるようですね。

 ならば自分は自分の勤めを果たすとしましょう。なんといっても時間稼ぎの能力は、この治癒師の職種のおかげで戦闘よりもはるかに優れているという自負がありますから。


「艦隊司令、自分は空に行って時間を稼いできましょう」


「勇者殿? …かたじけない。お任せします」


 艦隊司令の自分に対する態度は、その強面からのイメージからは外れたものとなっています。

 ヨホホホホ。信頼されているならば、勤めを果たすが勇者の義務ですな。

 というわけで、空に防護魔法で足場を形成しながら、自分は杖を掲げる天族へ向けて飛び出して行きました。


 自分の接近に気がついた天族は、詠唱を中断してこちらに意識を向けてきました。


「ゴミ屑風情のくせに、我らの許可なく天に駆け上がるな!」


 なんかもう、本当に台無しですね。

 この天族がどれほどの階位にいるのか、天族の力量がいかほどのものかは知りませんが、ここまで慢心が見える相手ならば空中戦闘でもそれなりに渡り合えるかもしれません。

 ここは冷静に相手の攻撃を見極めつつ、挑発して意識を向けるとしましょう。


「ヨホホホホ。ご機嫌麗しゅう、天族の–––––」


「大いなる我らが創造主、偉大なる創世の神クロノス、我が信仰によりて願い奉る、この手に邪悪を振りほどく聖なる刃を賜らんことを…召喚術式、フラガラック!」


 自分の言葉を遮り、天族の方はその手にいきなり聖剣みたいなものを召喚して、杖と一緒に殴りかかってきました。

 なかなかすごい二刀流ですな。ヨホホホホ。

 片方は刃物ではないので二刀流とは言い難いですかね?

 今はそんなことどうでもいいだろ、と? まあ、確かに今はそんなことどうでもいいですね。ヨホホホホ。


 さて、空中で襲いかかってくるという全く異次元の戦闘となりましたが、初撃は突っ込んでくるだけでしたので軌道がわかりやすかったため、軽くその場を飛び降りて回避します。

 そして再び足場を形成し、飛び回る天族の進行方向に防護魔法による壁を展開します。


「卑しき人族の魔法が、私に効くはずがありませんわ!」


 しかし天族は見えない壁である防護魔法などたやすく看破し、しかもその上で力技で強行突破してきました。

 まあ、あの速度では回避もできないような場所に展開させましたから、突っ込むしかなかったのでしょうが、展開した防護魔法をガラスのように軽々と体当たりで砕かれると少し落ち込むものがあります。ヨホホホホ。

 あの程度の強度では足止めにすらならないようですね。


 そのまま旋回し、再度天族の方は剣の切っ先を向けて突撃してきます。

 格闘専門…いや、もはやミサイルですな、あれは。

 そんな感想を抱きつつ、防護魔法を壁のように展開して進路を塞ごうと試みますがことごとく強行突破されます。

 足場を広げて次の突撃は横に躱して回避します。


「ヨホホホホ。また空振りですね〜。自分の魔法が足止めにすらならないのは事実ですが、さりとて当たらなければそちらの攻撃も無意味でしょう。ヨホホホホ」


 あの速さで動き回っていれば聞こえているかどうか怪しいところですが、天族の方は間違えなく自分の挑発に反応してきました。

 よほど頭に血が上りやすいと見受けられます。ヨホホホホ。からかいがい、挑発のしがいがあるというものですな。ヨホホホホ。

 趣味の悪いやつめ、と? ヨホホホホ。それはもう何を今更という議題ですな〜。自分の趣味が良好だったことなど一度もないという自負がありますよ。ヨホホホホ。


「人族風情がぁ!」


 激怒してます、激怒してますね〜。

 自分は時間稼ぎが目的ですので、どんどんこちらに天族の方の意識を向ければ良いのです。

 そういう面で言えば、あの天族の方は実に御し易いと言えるでしょう。

 何しろカクさん並みに挑発に乗ってくるのですから。地獄耳の持ち主のようですし。


「空と太陽の神アポリア、偉大なる天空の玉座を守りし御身の意思に沿うことを願い奉らん。大いなる威光を持って我が信仰に応え給え…日輪よ、空に仇なす敵対者を葬り去らんことを! ディザレクションフレア!」


 飛行しながらブチ切れた天族の方は、聖術を行使して無数の光る輪っかを自分の周囲を囲むように展開し、その輪より白く輝く光線を放ってきました。

 咄嗟に防護魔法を展開します。

 しかし、さながら日輪のごとき輝きを放つ光線全てを防ぐことはできず、突破を許した光が自分の体を焼き払いにかかります。


 とはいえ、急所は外れています。

 足一本無くしたことに加えて体に無数の黒焦げの穴が作られましたが、即座に治癒魔法で再生します。


「所詮勇者といえど人族であることに–––––」


「ヒョッヒョッヒョッ。その程度ではまだまだ自分を焼き尽くすには足りませんね〜。これでもゾンビ戦法を駆使する治癒し故に、この程度で滅ぼされては勇者としての面目が立ちません」


「なあっ!?」


 セリフを遮ってくれた先ほどのお返しに自分も堂々戻ってきました。それにより天族の方のセリフを遮り、慢心して遺体確認せずに勝利したと自慢するフラグを見事に回収させます。ヨホホホホ。いや〜、やはりこれは何度やっても面白いですな。

 天族の方もリアクションはなかなかのものです。ヨホホホホ。


 驚き目を見開いており、すでに美人の顔が台無しとなっている天族の方に、手のひらを上に向ける西洋風の手招きをします。


「ヨホホホホ。自分はこれでも戦闘能力皆無の最弱勇者ですよ。自分ごときに苦戦していては、天族の方の面目はガタ落ちというものですな〜。ヨホホホホ」


「ッ!」


 再度挑発したところ、一転して天族の方の顔が般若みたいな形相に変わりました。

 やはり挑発にはすぐに乗っかってくる方ですな。相当短気なのでしょう。

 まあ、その方がやりやすいですけど。ヨホホホホ。


「この…智天使たる私に対してよくも低俗な畜生風情が…絶対に許しませんわ!」


 剣の切っ先を向けて、こちらに突撃してきました。

 ヨホホホホ。またも一直線攻撃ですか。

 それならば回避は容易です。勇者補正により得られた自分の動体視力をなめないでいただきたいものです。

 すれ違いざまに自分の顔めがけて振るわれた剣筋を紙一重で回避して、同時にちゃっかり錫杖の方をスリしました。

 勢い余ってかなり遠くまで飛んで行った天族の方は、回避されたことにキレて、そして自分の手にいつの間にか無くなっている錫杖とカラになっている自身の手を見て、さらにブチ切れました。


「この…手グセの悪さだけは一級品のゴキブリがぁ!」


「ヨホホホホ。怒りましたね〜」


 とっくに怒ってますよね。

 そうですね〜。とっくに怒らせてますよね。


 錫杖を手元でくるくる回すと、案外扱いやすいです。

 色彩は金一色ですが、重くなく、邪魔な装飾もなく、長さも結構振り回しやすいですね。

 ヨホホホホ。この杖気に入りましたので、自分がもらってもいいですかね?

 …ダメですよね。ダメですよね〜。ヨホホホホ。


 天族の方は怒った形相で、再び自分めがけて突撃してきます。

 馬鹿の一つ覚え…いえ失礼。ここは猪突猛進と称するべきでしょうな。

 毎回毎回、真正面から馬鹿正直に突撃してくるだけでフェイントも何もない面白い突撃戦法です。どうせ頭に血が登ってそれしかできなくなっているだけなのかもしれませんが、それならば能面かぶりながら反撃もせずに小馬鹿にしたり、人のものくすねたりする程度の安い挑発で勝手に頭に血を昇らせる向こうがダメだと思います。

 そこまでされれば誰でも切れる、と? …ヨホホホホ。では、自分が挑発しすぎたということなのでしょうか。流石にやりすぎた感はあるかもしれません。

 しかし、自分は所詮時間稼ぎなので。挑発して何歩というものでしょう。ヨホホホホ。

 天族の方が流石にかわいそう、と? ヨホホホホ。確かにそうですが、挑発に直ぐに乗るのがとても面白いので、自分は同情はしますけど挑発をやめるつもりはありませんよ。

 というわけで、すれ違う寸前に足場を落として剣を回避します。


「この!」


 天族の方が怒ってますが、自分の役目は一通り終了しました。

 下では未だに操られていた艦長を取り押さえ指揮権を取り戻したアウシュビッツ群島列国の艦艇が砲を天族の方に向けています。

 天族の方は艦隊の方が目に入らないのか、自分めがけて再び突撃を仕掛けようとしています。

 しかし、それを無視するなと言わんばかりに、群島列国の艦隊の砲火が一斉に放たれました。


「撃ち方始め!」


 艦隊司令の号令のもと、艦の主砲から次々に光線が打ち出されます。

 光線と言っても、かなりの砲撃音と衝撃から、ひょっとしたら質量を伴う光線兵器なのかもしれません。それはそれで自分たちの世界にはありえない超兵器ですが。

 ヨホホホホ。この異世界の軍事技術力は自分たちの知る世界を凌駕しているのかもしれませんな。陸奥も霞む未知の砲撃が次々に天族へと飛来していきます。


「ふん、ゴミどもが! さっきと大差ない貴様らの攻撃が私に届くとでも思いまして!?」


 一方で天族の方は普通にフラグを立てて、アイリスの加護と言われているらしい光の輪っかを展開します。

 しかし、それを数多の光線はまさかの力技で撃ち抜いていきました。


「さっきと同じわけがねえだろうが、バカ!」


 艦隊司令がそんなことを叫んだみたいですが、天族の方の耳には到底届かなかったでしょう。

 何しろ頼みの綱と思う防具がたやすく貫かれたのですから。自分の展開した防護魔法を強行突破した先の天族の方の猪突猛進の突撃のように、まるでガラスを撃ち抜くかのようにたやすく砕いてしまったのです。


「キャァァァァァ!?」


 次々に光線に穿たれて、天族の方は悲鳴をあげました。

 翼も見事に穴ぼこです。

 衣装も破れまくっています。

 天族自身は、あまり効いてはいないようですが、露わになった肌は多くに火傷ができています。


「やったか?」


 そして艦隊司令もフラグメイカーでした。

 それは…言っては倒したはずの敵も復活させてしまう禁忌のワードなのですが。それをおそらくは知らなかったのでしょう。

 ヨホホホホ。まあ、実際のところ天族の方も落ちるまではいってませんし。衣装もきわどいところはすべて隠して残っていますし。ラッキースケベも何もありませんでしたし。

 海藤氏あたりだったら、ここでポロリイベントが起きそうですな。ヨホホホホ。

 自分ですか? 自分は変態ですから、イベントの神様は決して微笑んではくれませんよ。ヨホホホホ。


 無事だった天族の方は、怒り浸透といった顔です。

 そしてそれを見上げるアウシュビッツ群島列国の皆さんは、驚き全開といった表情です。

 そして自分は、空吹の面がすでにふざけた表情を取っています。


「バカな…貫通術式は確かに撃ち抜いたはず…!?」


 艦隊司令…なんでそうやってフラグを立てまくるのですか? それも死亡フラグですよ?

 天族の方が片手をあげます。

 とうとう投入してきますか。多分天族のプライドだなんだで使うのを拒んでいたと思われる手ですね。

 自分は即座に艦隊を守るように防護魔法をドームの屋根のような形で展開して、艦隊の上方と海中の下側に当たる箇所を覆います。


「撃ちなさい!」


 天族の方が手を下ろすと同時に、航空戦艦と潜行戦艦が一斉に艦隊に向けて砲撃を開始しました。

 次々に防護魔法に直撃する攻撃の雨に、艦隊は混乱の渦に陥ります。


「うわあああ!?」


「俺たちは味方だろうが!」


「何してんだよ!?」


「ヒイイイイ!?」


 混乱を鎮める手段もありますが、防護魔法の展開と天族の方の動向に注意を払う方に集中した方がいいと判断して、自分は艦隊の方は見ません。

 第一、まだ安全ですからね。ヨホホホホ。


「ヨホホホホ。通しませんよ〜」


「この、ゴキブリが…!」


 天族の方が何を言ったのかは聞こえませんでしたが、口の動きがわかりやすすぎてたやすく理解できました。

 ヨホホホホ。確かに、今回はゴキブリ戦法とも呼べる方策で戦ってますからね。

 今回はというか、いつもですけど。ヨホホホホ。


 このままではエネルギー…ではなくこの世界では魔力でしたね。航空戦艦と潜航戦艦の魔力が尽きるまで砲撃が続けさせられそうですので、自分の方も妨害行動に移ることとします。

 手始めに、催涙ガスを天族の方の目の鼻の先に製造します。


「何をするかと思えば–––––んあ゛!?」


 天族の方は予想通り避けることもせずに見事にくらい、怒った形相以上の美人の顔が台無しになる表情に変わりました。

 ヨホホホホ。本当に面白いリアクションをしてくれますな〜、この天族の方は。ヨホホホホ。面白いので飽きません。

 鬼畜の所業、ですか? ヨホホホホ。面白ければなんでもいいんですよ、ヨホホホホ。


「ふえ〜! な、なんなのこれは!?」


 涙が止まらずに戸惑いまくる天族の方に影響されてか、海中からの攻撃がパタリと止みました。

 もしかしたら魅了状態が解除されたのかもしれません。

 なるほど、攻略の糸口が見つかったかもしれません。

 要するに、天族の方を弄り倒せば解けるということですな。その可能性が高いと思います。

 ならばむやみに航空戦艦に乗り込むよりも話が早い上に、天族の方の面白いリアクションを合法的に引き出せるので面白いです。

 結局利己帰結じゃねえか!と? そんなのは当然ではないですか。自分は面白いことがあればそれに遠慮なく飛び込む変態ですよ。ヨホホホホ。


「ヨホホホホ。ならばこうしましょう」


 続けて天族の方の顔に温泉の腐った卵臭こと、硫黄臭を放ちます。

 治癒師の製薬魔法はかなり幅が広く、科学者という職種があるとすればそれに引けを取らないほどに様々な効能を持つ化合物質を生成することができるのです。

 効能を追求した魔法の薬ももちろんありますよ。


 さて、臭い煙幕を食らった天族の方はといえば、顔が面白いことになってました。


「オエッ!? くっさ!」


 ヨホホホホ。そのリアクションは本当にいいですな〜。

 次行きましょう。

 お次はアルコールです。

 消毒液よりも度数の高い伝説のお酒、スピリタスを用意しました。

 それを歪んでいる天族の方の口に流し込みます。


「ゴボボボボ!?」


 おっと、この顔もなかなかに面白いですな。

 すでに航空戦艦の艦隊の方もおとなしくなっていますが、面白いので酒まで行っちゃいましょう。


「ホロホロ…ヒック! ウィ〜」


 顔を真っ赤にした天族の方は、そのまま真っ逆さまに海へと落ちていきました。

 さすがに酔っ払いを海に放置するほど自分も外道ではありません。

 回収して、アウシュビッツ群島列国の皆さんに回収してもらうとしましょうか。

スピリタスは、ポーランドを原産地とするウォッカであり、蒸留酒の一種です。

世界最高の度数を持つ酒として知られており、蒸留酒として限界まで高めたそのアルコール度数は約95%に上るといいます。消毒薬よりもアルコール度数が高い酒って、恐ろしいですね…。もちろん、蒸発しまくる可燃物質であるこのお酒は、タバコを嗜みながら一緒に飲もうものなら火事となりますので、火気厳禁です。下手な火薬よりも取り扱いに注意が必要です…ってこれ本当にお酒なんですか!?

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