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異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)  作者: 笹川 慶介
異世界召喚・西方国境騒動
19/115

19話

 

「僕とアキちゃんが知り合ったのは、物心も付いていない頃だった。だから、正直馴れ初めの記憶はないんだよ。そんなことを気にするような関係でもないしね」


 海藤氏の冒頭は、馴れ初めからでした。

 2人は物心つく前からの付き合いということなのでしょうか。確かに、それでは恋人云々の前にすでに家族のような認識ができていたとしてもおかしくはありません。


「海藤氏は確か、中央区の出身でしたよね?」


「アキちゃんも、ね。僕の母さんとアキちゃんの母親がいわゆる親友って関係だからね。誕生日も偶然か、同じなんだ」


「なるほど」


 確かに、そういう偶然があれば、しかも親友同士というならば、互いの子供を仲良くさせたがるのはわかります。

 変態が親心を理解しようとするな、と? ヨホホホホ。確かに、自分のような狂人には理解されたくないですよね。自分のことですから、わかりますよ。自分も嫌ですから。ヨホホホホ。

 まあ、幼子が可愛く感じるのは分かります。自分も従姉妹がいますので。結構前のことですけど、2人が幼かった頃は可愛かったですね。

 …ロリコンというわけではありませんよ、決して。第一、同い年ですから、自分も似たような年齢でした。


 ちなみに、今の従姉妹は…って、能面奇術師の過去なんて聞いても面白くないでしょう。それよりも海藤氏とケイさんの話題ですって。こっちの方が断然面白いですから。ヨホホホホ。

 しかし、海藤氏はすかさずこちらにも話をふってきます。コミュニケーションとしては上手いですけど、自分としてはあまりほじくり返してほしいほど楽しい記憶でもないのですが。


「湯垣君には、そういう人、いなかった?」


「3つ上と、同い年の双子の従姉妹がいましたね〜。自分の話なんていいではありませんか。今は海藤氏とケイさんの過去話を聞かせて下さいよ」


「僕は湯垣君の話も聞いてみたいな。君はあまり自分のことを話したがらないからさ」


 海藤氏、意外としつこく聞こうとしてきました。

 ヨホホホホ。まあ、双子に関しては隠すような事柄ではないので。

 聞かれなかったし、同中もいなかったこともあり、自分は確かに過去を話す機会はありませんでした。

 これはいい機会かもしれません。

 やはりといいますか、毎回の手のひら返しをして、自分は海藤氏の話の後に聞いてもらうことにしました。


「では、海藤氏の話をお先にして下さい。自分はその後に話しましょう」


「わかった。結構、楽しみかもしれないや」


 海藤氏が話を再開しました。


 まず、小学生の頃の話から。

 海藤氏とケイさんは、小学生の頃は今と性格がかなり違ったと言います。

 驚きなのが、ケイさんが泣き虫だったということですね。


「信じられないかもしれないけど、アキちゃんは小学生の頃は泣き虫だったんだ。叔父貴–––––アキちゃんのお父さんなんだけど、警察官で…アキちゃんはその指導を受けていたんだ」


「人は年とともに変わるもの、ましてや思春期ですし、想像がつかないとしても致し方ないかもしれません。しかし、なるほど」


 ケイさんは武道も嗜んでいますし、喧嘩慣れもしています。

 なるほど、あの強さの基本は警察官の父親譲りということですか。

 泣き虫なのは、ひょっとして親からの厳しい指導が原因なのでしょうか。ケイさん自身も今は激しい反抗期でもありますし、ありえるかもしれません。

 …だとしたら、その親御さん不器用ですね。

 娘を思うあまり厳しく仕込んできた武術を喧嘩に使われるとか。それで意地になって親子で冷戦状態なんて言ったら、目も当てられません。


 あと、意外なのが海藤氏の口から『叔父貴』という単語が出てきたことですね。

 海藤氏も子供の頃と変わっている可能性があります。海藤氏が武道を警察官から教わるというのは、今の海藤氏からは想像しがたいですから。


「叔父貴もアキちゃんのことを思ってこそ教えてきた武道だけど、アキちゃんの才能は凄くてね。つい、厳しく指導してきたんだ。僕もよく付き合わされたけど、叔父貴ははたから見ても娘との付き合いが不器用な人だからさ。うん、周りと比べてもアキちゃんには特に厳しく接してきていたんだ。それが、アキちゃんには辛かったと思う。昔泣き虫だったのは、父親に対する恐怖心があったのかもしれない。僕はアキちゃんじゃないからわからないけどね」


「子供にはわかりにくいこともありますからね。子心、親心は複雑ですから。親の心子知らずとはよく言ったものです。不器用なら、なおのことでしょう」


「それで、ね…。アキちゃんはやがて、叔父貴に口も利かなくなったんだ。叔父貴はすごく忙しいから、会える短い時間をアキちゃんの才能を伸ばすために厳しい指導をする時間につぎ込んで…うん。僕は2人の溝が深くなることに何もできなかったんだ」


「…家族にしか立ち入れない問題というのは、見ていて辛くなるものもあるでしょう」


 家族間の問題には、口を出したくてもできないことが多いですからね。

 親子間の問題なんか特にそれが大きいでしょう。当人たちにしてみれば、何も知らない他者が踏み入ってきては激しい拒絶反応を起こすのは仕方がないことですから。


「それでも親子だし、アキちゃんの父の弟、つまり叔父だね。年の近いことからこの人が親とほとんど会えないアキちゃんの面倒を見てくれたから。僕はほとんど役に立てなかったけど、アキちゃんは泣き虫で引っ込み思案だったから、僕とは仲良くしてくれたよ」


 それは、親に疎まれていると勘違いしたケイさんが心のよりどころにしたからでしょうよ。

 気遣いできるのに、何でですかなぁ〜。海藤氏はこういうことに関しては途端に暗い方向に勘違いする性質があるようです。

 自身はあくまで1人になりがちなケイさんの遊び相手になる事が多かっただけで、ケイさんの方が選んでくれているわけではないと言いたいのでしょう。

 いやいや、ケイさんが聞いたら怒りますよ、その自己評価。

 しかし、海藤氏はその頃の話を嬉しそうに話します。


「僕はアキちゃんの支えになれたら、それで嬉しかったから。本当はもっとアキちゃんたちの家族を仲良くさせたかったけど、僕がいても何もできなかったから。アキちゃんも叔父貴も溝が深いまま時間を重ねたおかげで、いつしか相手が何を考えているのかわからなくなっていたし」


「そこまでくると、当人同士での解決は困難でしょうね」


 拗れたまま来た親子というのは複雑でしょう。

 確かに、ケイさんがグレるのもわかります。それに対して警察官として怒る父親、頭ごなしの関係に耐えきれずより強く反抗する娘、そして親子ゲンカとなったと…。この可能性が高いでしょうね。あくまでも自分の推測にすぎませんが。


 親を恐れ、それでも小学生のころのケイさんは必死でついていったと言います。海藤氏はそれを自身にはわからないが確かにある家族の絆と言い張りますけど、自分には海藤氏に心配をかけたくないというのと格好悪い姿をこれ以上見せたくないというケイさんの抵抗だと思います。

 まあ、部外者の自分にはわかりませんね。ゴメンナサイ。ヨホホホホ。


「アキちゃんは道に迷いがちなのは知ってるよね? アキちゃんの叔父さん、世界で活躍するテコンドーの選手なんだけど、その人も方向音痴だったから。多分、それが移っていたんだと思う。引っ張り回しては迷子にしてしまって…はは。楽しかったな、あの頃は」


 海藤氏も小学生の頃は今と違い、逆に積極性にあふれた人格だったというから驚きです。

 それで引っ込み思案だったケイさんを連れ回しては迷子にしたことが多くあったと言い、その関係性は今とは真逆と言えるような間柄だったとか。

 よほど輝いている思い出なのでしょう。その顔は、海藤氏が滅多に見せない嬉しげな表情でした。

 気持ちは、何となくわかります。純粋だった頃の思い出は色褪せませんから。

 …いや、人によっては黒歴史になるかもしれませんけど。


 お前が共感するな、と? ヨホホホホ。してしまうんですよ。自分も従姉妹の双子には本当に振り回されてきましたから。

 似合わないのは自覚してますからご安心ください。


 海藤氏の話は小学生から中学生時代に移ります。

 このころの自分は、事情があり地元から遠く離れていました。その際に、中学生の誘拐事件があっという話を聞いたことがあるのですが、ケイさんの父親はそういった凶悪事件を取り扱う部署だったと聞きます。


「でも、アキちゃんはまだどこかで叔父貴のことを信じていたんだと思う」


「そうですか?」


 なんか違うような気もしますが。

 まあ、自分は完全な部外者です。ここは海藤氏の方が正しいと考えましょう。


 ここで、海藤氏の顔が落ち込みました。

 そして、自分が知らなかったとある事件に関する話題に移ります。


「アキちゃん、今は叔父貴のことを恨んでいると言ってもいいくらいになってる」


「…何か、あったのですか?」


「…アキちゃん、誘拐されたことがあるんだ。2年前に」


「…冬に発生したという中学生誘拐事件、ですね。まさか、ケイさんがその被害者なのですか?」


 海藤氏が頷きました。

 つまり、肯定したということでしょう。ケイさんは話題に突然出てきたその事件の被害者で間違えないようです。


 先ほど思い浮かべた誘拐事件は、まさかの身近な方が被害にあった事件として関わってきました。


「犯人は叔父貴の逮捕したことのある傷害致死事件の前科がある男。その男が中心となって、アキちゃん1人を寄ってたかって…ッ」


 その時を思い出しているのか、海藤氏が普段のネガティヴからは想像もつかないような歯ぎしりの音を鳴らしました。

 これは、話させてはいけない話題でしょうか?


 そう思う自分を尻目に、海藤氏は話し続けます。


「アキちゃんは、何とか助かったんだけど…叔父貴は捜査に参加させてもらえなかった。アキちゃんはそのことを今でも叔父貴が娘の命を無視するような、自分のことを武道の才覚に溢れていることにしか価値がない道具としてしかみなしていないって、思っている」


「それは…なるほど」


 確かに、警察は捜査に私情を持ち込ませないことを鉄則としますから。被害者が警察官の身内だとわかれば、当然捜査から外されるでしょう。

 確か、あの事件は誘拐犯のアジトに対して強行突入を敢行したそうだと聞いています。一歩間違えればケイさんの命はなかったはずでしょう。

 人質の命を無視した力ずくのやり方に、ケイさんが疑心暗鬼になるのも仕方がないですね。それだけの溝が、あの親子には生まれつつあったのですから。

 ケイさんの家庭は崩壊しており、親との仲は修復できないところまできていると聞きます。


 これに対して娘に責められることに贖罪の意識を感じているような事態になっているとしたら、ケイさんの父親にはさすがに怒りが湧いてきますけどね。

 自己満足に、ろくに向き合ってこなかった娘を使うなと。

 これはあくまで自分の持論ですから。推測もそうですし。

 そう思ったところに、海藤氏が話し続けました。

 その内容が、耳が痛くなる事でしたけど。


「叔父貴は、荒んでいくアキちゃんを一切咎めなくなった。どれだけ罵倒されても、無視をされても、それが娘がさらわれる中、警察官なのに何もできなかった自分に対する罰だと思って…。親にとって、それは何にも勝る苦痛だと思う。見ていられなかったよ」


「…えぇ〜」


 えぇ〜しか言えませんよ。

 そこまで的中しますか!?

 ケイさんのお父さん、不器用というよりもそこまでくると父親としては最低ですね!

 自分には関係ないですけど、一言物申すべきではという感情が沸き上がりました。

 あと、平然と受け入れている海藤氏も海藤氏でしょ!


「海藤氏、本気で言ってます?」


「うん。2人が可哀想で…」


「……………」


 何でしょうか。

 初めて海藤氏の事を叱りつけたくなった気がします。

 いや、本気で叱ったりはしませんよ。ガラじゃないですから。

 呆れるという感情を押しつぶしつつ、海藤氏に続きを促します。


「海藤氏は、何を?」


 事件を通して生まれた親子間の修復不能な溝に何かを施そうとしたのか、それとも無用な首を入れることはしなかったのか。

 そういった事を尋ねたつもりなのですが、何をトチ狂ったのか海藤氏は誘拐事件の事に話を戻してきました。


「その…山奥のアジトだったから。警官隊の強行突入に紛れて犯人の目が離れたすきに、忍び込んでこっそりアキちゃんを連れ出したくらい、かな。ヒーローみたいにカッコよく助けられたらよかったけどね」


「ブフゥ!?」


 吹きました。

 海藤氏、とんでもない無茶をやらかす人でした。

 わかってましたけど。そういう時に限ってなぜかクレイジーな行動に出る人であることは知ってましたけど。というか、警察は何してんですか!? 事件現場に一般人を、それも中学生を近づけたなどとんでもない不祥事だと思います。

 いやいやいや、そして海藤氏、あなたは一体何を考えているんですか!?


 同時に、何となく2人の関係が今に落ち着きつつある事を感じました。

 ケイさんが本格的に海藤氏に惚れたのは、その誘拐事件のあれこれですよね?

 親も頼れない中、身を呈して助けに来てくれた幼馴染…。陥落しないほうがおかしいですな、この事態には。

 吊り橋効果というやつでしょうか?


「…アキちゃんがそれ以来、こんなになった僕みたいなのに周囲の目も無視して無理にでも付き合ってくれているのは、この時に恩を感じてくれたからかもしれない。僕は何もしてないのにね」


 そして、斜め3段上を吹っ飛んで盛大な勘違いをしている海藤氏。

 ヨホホホホ…。あれですね、この人たち重篤患者です。

 ケイさんはともかく、海藤氏はいい加減自己評価を改めて周りにも目を向けたほうがいいでしょう。


「僕とアキちゃんの凹凸な間柄は、こういった経緯があってこそ成り立っているかな。僕はあのとき本当に怖かったけど、それでもアキちゃんを助けたかったから」


「ヨホホホホ。海藤氏〜」


「何?」


「…本当にすごい人ですよ、君は」


 いろんな意味でね!

 海藤氏は自分の言葉を全く理解できなかったらしく、激しく否定しました。


「な、無い無い無い! 僕がすごい!? それはさすがに無いよ! 僕はそこまでうぬぼれじゃ無いって」


「少しは自惚れましょうよ。むしろ自惚れるべきだと思いますよ」


「だいたい、僕なんか湯垣君とは比べるも無いよ! 湯垣君の方がずっとすごいよ!」


 嫌味にしか聞こえませんね。海藤氏の口調には嘘が無いのですが。


 しかしながら、想定よりもはるかにすごい話を聞きました。

 …自分、このあとに話すのですか?

 自分もそれなりに吹っ飛んだ内容ですけど、さすがにここまではいきませんよ。

 完敗した気分に落ち込む自分に、都合よく戻ってきた二人組の姿が目に入りました。


「…ケイさんとカクさんですね。戻ってきたようです」


「湯垣君の話は?」


「それはまた今度という事で。申しわけありません。ヨホホホホ」


 残念がる海藤氏を尻目に、2人に向けて手を振ります。

 直後、ハンマーと拳銃が同時に飛んできました。

生成の面は、怨霊、般若に至る手前の状態とのことです。

般若は嫉妬などにより怨霊に変じた女性を表すそうですが、『智慧・知恵』という面もあるそうです。

…怨霊だろうと、亡人を崇めるのは独特の宗教観かもしれません。

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