17話
短いです。
昼食の席で皇女様やアリアンさん、アルブレヒトさんも含めて依頼についての話題をあげたところ、我々6人は全員参加を表明、皇女様からも是非!と言われたこともあり、なら早いほうがいいですねと早速その日のうちに西方国境を目指すことになりました。
移動手段はどうするかということになったのですが、それに関してはケイさんがとんでもないものを召喚しました。
「どんな悪路でもこれなら大丈夫だろ。全員乗れるしな」
–––––96式装輪装甲車。
まさかの装甲車を取り出してきました。
確かに悪路に強いですけど…ケイさんの魔法が一番のチートではないでしょうか。カクさん完全に劣ってますよね?
運転できるのかという疑問も、運転せずともケイさんによる直接操作が可能だというのですぐに解決できました。
「…な、なんですか、これは?」
唖然とした表情で驚きに目を剥くアルブレヒトさんがケイさんに尋ねます。
「職種?で、勝手に使えるようになった魔法で召喚した装甲車だよ。オレのは『将軍』っつてたしな」
「「「しょ、将軍!?」」」
皇女様、アリアンさん、アルブレヒトさんが同時に驚きの声をあげました。
どうも、この世界において職種を授かる者はとても希少といいます。
女神様が授けてくださったものですし、チートですし。確かにそれは分かります。
異世界よりの勇者なので全員に職種が付いているという、その点についてはそこまで驚くことではないのですが、中でも『将軍』というのは破格の職種らしいのです。
何しろ、召喚できるのが『軍事力』。それも異世界よりの勇者ならば、こちらの世界だけでなく元の世界の軍事力も召喚、使役することが可能とのこと。
本当にチートでしたね、将軍。
「知らん。将軍なんて柄じゃねえし」
ケイさん自身は、特に気にしなかった様子です。
出発までに、カクさんとケイさんによりパーティーメンバー全員に武器も行き渡りました。
当然、ロマンとかで武装を決めるわけにもいかず、それぞれの職種にあった使いこなせる武器を携えます。
自分ですか? まあ、使えるし問題ないでしょう〜よ。ヨホホホホ。
装備も整ったところで、帝国西方国境へと出発しました。
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ソラメク王国とネスティアント帝国の国境近くに領地を持つ、ソラメク王国子爵領。
峻険な岩山と平野に囲まれた鉱物資源に恵まれている大地なのだが、そこは今や人族の領域ではなくなっていた。
子爵屋敷の最上階より、1人の魔族が外に目を向けている。
「ククク…内乱などしているから、貴様らは腑抜けるのだ」
禍々しく額からのびる双角と、背中から生えたコウモリのような羽毛が一切生えていない皮がむき出しとなっている黒いツバサ。
何より体表を走る幾何学的な文様とその身に宿る膨大な魔力が、彼が魔族の1人であることを示している。
そして、その彼が見下ろす屋外の平野には、これでもかと言うほどに人族と彼らが生み出してきた兵器が残骸となって一帯を覆い尽くしていた。
魔族に乗っ取られた子爵領を取り返す。
そのためにこの地に集まったソラメク王国軍の討伐隊500名は、たった数体の魔族に一方的に蹂躙されてしまっていた。
空はその屍の山を示すように、黒く覆われている。
「ククク…矮小な害虫どもが」
例に漏れず、この魔族–––––サラトガもまた、多くの魔族同様に人族のことは害虫以下としてしかみなしていない。
かつて、天族と連合を組み戦った人族は、わずか150年の大戦期の間に2度にわたり絶滅の危機を迎えながらも、ついには魔族大陸へ侵攻しいっとき皇国を滅ぼすまでにのし上がってきた。
されど、魔族はこの敗北を人族ではなく天族が助力したためであると認識している。
魔力も持たない矮小な種族。家畜か道具でしかない分際で国を立ち上げた生意気な種族。
魔法さえまともに扱えないあの種族が、魔族と正面からの戦争で勝てるはずがない。
大戦期の歴史の真実がどうであれ、魔族の認識は実際に人族の軍勢と戦ったもの以外には、決して覆らないと言ってもいい傲慢な固定観念がある。
人族は天族にも魔族にも大きく劣る種族。
家畜であり、奴隷であり、搾取されるべき種族。
魔族にとっても、天族にとっても、人族という種族は同じ肩を並べる種族として見ることも許されないほどに劣っている存在という認識で染まっていた。
サラトガは自らの肩を見て顔をしかめる。
「矮小な虫ケラどもが!」
その肩には、擦り傷が付いていた。
対魔族兵器『グイニーチャリオン』。
歩兵用装備で、見た目は旧世代の歩兵銃と大差ないが、雷撃魔法のエネルギーを応用した雷撃光線銃となっており、魔力をまとい身体を強化する魔族の肉体を貫通、または内部より電撃による熱攻撃を放つことで魔族の肉体を貫く兵器である。
これにより魔族に傷を容易につけることが可能となっている。
だが、サラトガはその魔法を技術が凌駕したことを示す銃を踏みつぶした。
「下らん。所詮は単なる偶然。人族の作る矮小な火砲ごときが私の魔法を撃ち抜けるはずがない。斯様な玩具に傷をつけられるとは…おのれ!」
魔法を駆使する魔族に人族は絶対に勝てない。
たとえ現実に見せつけられたとしても、魔族には信じるものがほとんどいない。
サラトガは屋敷の屋内の方に目を向けた。
「クハハハハ! 人族ごときでは決して届かぬ手よ。新たなる皇主陛下の戦略眼には、我らも度肝を抜かれる。ククク…人族よ、この戦争で今度こそ地上を魔族が埋め尽くしてやろう!」
その目の先にあるのは、1つの魔方陣であった。
サラトガの任務は、人族大陸に拠点を設け、転移魔法陣を設営すること。
これにより、魔族大陸の戦力を直接人族大陸に送り込むことが可能となる。
魔族が人族に海戦で敗れたのはあくまで偶然であり、変わらず魔法に逆らうことは決してできないという幻想にとりつかれながらも、魔族の側もまた天族の介入前に人族を制圧するべく新たな、そして画期的な戦略を組み立てていた。
「クハハハハ!転移魔法を用い直接魔族の戦力を人族どもの大陸に送り込む。おみそれいたします、陛下…」
それから、サラトガはその転移魔法の前にて十字台に括り付けている1人の人族の少女兵士に目を向けた。
その体は傷だらけ。食事こそ与えられているものの、この半年間ずっとここにくくりつけられていることにより、やせ細っている。
死にかけでありながらも、それでも彼女の目にはまだ光が灯っていた。
「…フン、往生際の悪い娘だ。人族にしては面白いほどの美形ではあるが、噛み付いてくる様はまさに卑しき畜生どもと変わらないな。これだから人族というものどもは」
「サラトガァ!」
「クハハハハ! 喚け喚け。どれほど喚こうが貴様に助けなどこない。ククク…なに、もう半年も経てばこの大陸に人族の存在などなくなるだろう。貴様の両親が故郷を捨ててまで頼った帝国も焼け野原となろう。ククク…人族でありながら美貌を有する女は慰み者としての生き方を与えればそれで良い」
「貴様! 帝国が、貴様ら魔族などに屈しはしない!」
「クハハハハ! 喚くのは勝手だが、彼の国の皇女の首を晒せば、貴様の目も少しは変わるだろう」
サラトガが魔法陣を発動させる。
強烈な光が辺りを包み、それが晴れると…
「…うそ」
そこには何千何万という桁違いの数の魔族が子爵領を覆い尽くしていた。
「クハハハハ! 貴様の国の未来も、潰えたな」
「…ッ」
「クハハハハ!」
高笑いするサラトガに対し、アンネローゼは歯嚙みをするしかなかった。
サラトガの言う通りである。
奴らは傲慢で、人族を見下している。
先ほども人族の作る武器の真価を見抜けなかった。
だが、それでも…。
まだ、人族の技術力では魔族の魔法を超えられないと。
生成は、怨霊と化す手前の段階とのことです。
生成が怨霊と化した姿が、般若だといいます。
般若…。