11話
予告を捻じ曲げて申し訳ありませんが、明日は投稿する暇が無くなりそうなので、今日のうちにもう1話を投稿させて頂きます。
申し訳ありません。
一応、カクさんにはもう2つの国も勇者召喚を執り行ったことを伝えます。
ジカートリヒッツ社会主義共和国連邦は、ネスティアント帝国同様に魔族大陸に最も近い国家であり、その備えとして異世界より勇者を呼び寄せたのでしょう。サブール王朝は、魔族というよりも天族との戦争を視野に入れているということも。
「このネスティアント同様に6人グループが2つ召喚されているはずです。計36人で、あのとき教室にいた生徒が対象となってますね」
「あ、ああ…」
カクさんが欠伸をしました。
そういえば、確かにスマホが示すように、今の時刻は通常であれば寝ていてもおかしくない時刻です。
眠くなるのも仕方の無いことでしょう。
「続きは明日にして、今日は休んだ方が良いのでは?」
「ああ、できればそうさせて欲しい。すまん、先に寝る」
自分の提案に頷いたカクさんは、ソファから立ち上がり、ベッドに横になって、そのまま眠ってしまいました。
食事も風呂もそっちのけですが、仕方ないでしょう。カクさんもかなり疲れてしまったのでしょう。帝国の方が迎えに来るとは言ってましたが、今晩は休ませてもらいましょう。
さて…。
自分はおもむろに、そしてカクさんを起こさないよう音を殺して立ち上がり、窓の方へと向かいます。
閉じられているカーテンを微かに開いて、夜の都に目を凝らし、先ほどから随分と多数向けられている視線の元を探っていきます。
…庭に6人。城壁に3人。街の建物に46人がばらけて配置され、各所よりこちらを見ています。
おや? 数人が見つかっていることに気づいたようですね。カーテンと壁を用いて視覚から様子を伺っていたつもりなのですが、気づかれるとは。
いや、魔法がありましたね。部屋の内部を透視することもできる、ということなのでしょう。
あの慌てぶりは、なんか鬱陶しいこと企んでいそうですね〜。
いくらか逃げようとしている人たちがいます。
ヨホホホホ。逃げるおつもりで? 少しは楽しみましょうよ。
こちらも魔法により身体能力を高めてから、カクさんにはばれないように槍を片手に部屋から飛び出して、城の庭へと降り立ちました。
ヨホホホホ。これでは安心して面を変えることもできませんからね。
とりあえず、帝国を名乗らないのであれば、1人残らず片付けていくことにします。
ヨホホホホ。密偵狩り、スタートです。
自分が部屋から飛び降りたことで、そこに来て全員が見つかっていることに気がついたようです。
が、時すでに遅しというやつですね。
こちらは皆様の場所をとっくに把握していますので、逃がすつもりはありません。
「ヨホホホホ。そんな簡単に逃げないでくださいよ〜」
とっくに見つけた場所には防護魔法で箱を作り閉じ込めています。
空気穴は作ってませんけど、皆さん魔法の異世界に生きる方々なのですから大丈夫ですよね? まあ、窒息死したらしたで、残念賞ということでお願いします。ヨホホホホ。
…何人か逃げるためにすぐに動いたことで防護魔法の壁に体を切り落とされたりしてしまった人もいるみたいですけど。
まあ、死体は逃げませんし。生きている人は全員閉じ込めたので大丈夫ですよね。
非人道的? 味方もいたかもしれないのに?
…逃げようとするのは疚しい所業をなそうとする背徳感の裏返し。つまり敵でしょう。敵さん殺して何が悪いのですか? どうせ殺すのですから、人道も非人道もへったくれも無いですよ。
ヨホホホホ。自分もさすがに無差別というわけでは無いですよ。
そのために今から聞いて回るのです。
貴方はネスティアント帝国の方ですか? ってね。
とりあえず、近場の庭にいる人たちから聞いて回るとしましょう。
1人目は、箱にとらわれ大パニックとなっていました。
ドンドン叩いて叫んでいるようですが、あいにく音も遮断済みです。密偵さんが隠れる場所が見つかりにくいところばかりなので、助かりましたよ。帝国の方に見つかるわけにはいきませんから。
自分が近づいてくるのを見た密偵?さんは、懐から短刀を取り出して、警戒を露わにしました。
そんな仮称『密偵』さんに、自分は尋ねます。
『ネスティアント帝国の方ですか?』
そう書いた板を見せます。
何しろ音通しませんから。筆談で頷くか否定してくれればそれで結構です。
しかし、密偵さんはその板を見て、突然手に持っていた短刀を自身の腹に突き刺しました。
あ〜らら、何にしているんですか。答えてくださいよ、こっちの質問に。
自殺しようとしたその密偵さんに、回復魔法を発動させます。
…しかし、効果無し。毒でも塗ってあったのか、即死のようでした。
死んでしまったら仕方ありません。ならば、いい機会ですし試すとしましょう。
というわけで、蘇生魔法をかけてみました。
するとどうでしょう。
密偵さんが大きく咳き込み、蘇りました。
さすがですね、蘇生魔法。
さてと。ではもう一度尋ねるとしましょう。
プレートを生き返ったことに困惑している密偵さんに見せます。
トントンと板を人差し指で叩き、読んでください、答えてくださいという意思を伝えます。
しかし、密偵さんは混乱しているようでまともに話になりません。
「仕方ないですね」
これはハズレのようなので、殺しても問題ないでしょう。
せっかくですし、あちらの世界に大半をおいてきましたし、新しいのを作るとしましょうか。
自分は密偵さんを殺すことにして、防護魔法の一部を開いて手を伸ばしました。
すかさず、職業病に近いような反応で、密偵さんが自分の手の甲に短刀を切りつけてきます。
しかし、残念です。支援魔法と強化魔法で、自分の皮膚はタングステンより強固になってますからね。毒が塗ってあっても、刃が届かなければ意味は無いというものです。
密偵さんに残念賞!
というわけで、困惑している密偵さんの顔に手を伸ばします。
顔を鷲掴みにして…
ここの描写は自主規制させていただきましょう。
ちょっとね、あんまり気分のいいもので無いものですから。
ヨホホホホ。ふざけた変態仮面奇術師でしか無い自分にシリアスは似合いませんて。クラスの皆さん、全員がおっしゃいますよ。
何はともあれ、まず1人。
せっかくなので、完成したばかりの生成の面に付け替えてみました。
ヨホホホホ。これはなかなか…夜に会ったら警察に職質されるレベルですな!
昼でも同じだ!と。ヨホホホホ。確かにそうですね〜。ヨホホホホ。
現場の後には、首が無い死体が1つ転がっています。
ゴキブリの潰した後始末に近いですね。自分は苦手なので、巡回の方にでも処理していただきましょう。他人任せで申し訳ありません。
ヨホホホホ。次行きますか。
次の方は、首と左腕が切り落とされて箱に体を詰めていました。
ヨホホホホ。慌てすぎたのでしょう。
何かあったらすぐに逃げるもいいですけど、安全確認は怠らないようにしましょう。
この密偵さんに言える言葉はそのくらいです。ヨホホホホ。
防護魔法だけ解除して、先に進みます。
結局、庭の方々は全員空振りでした。
多分、ネスティアント帝国の方はいないのかもしれません。
城には警備の兵士が巡回していますけど、アサシンみたいなのを使って監視という趣味は無いのかもしれませんね。あの皇女様らしいです。
まあ、まだ城壁の上の方もいますし。街にはかなりの数がいますから、訪ねて回りましょう。
まずは城壁の上に捕らえている3人に聞いて回りましょう。…この3人は確実にハズレな気もしますけど。
城壁の1人目は、首が落ちていました。
逃げようとして、防護魔法にギロチンされたようですね。
また、慌てん坊さんですか。転生魔法は仲間以外には可能な限り使いたくないので、基本的に無視します。蘇生魔法だと、この負傷ではどうやら効果がないようでして。
切腹だったり、毒だったりならば効くのですが、ギロチンや身体真っ二つとかだと蘇生魔法が効かないようです。欠損もまとめて治すものの、失った血までは回復できないようですし、それだけでも結構命を弄んでいる様子があるので、色々と制約があるのでしょう。
無かったらおっかないですって。
2人目は、子供でした。
しかも毒を飲んですでに息を引き取っています。
酷い異世界ですね。子供に自殺させるような教育施すとか。
見た目、まだ10歳くらいですよ。
早速、蘇生魔法を使用してみましょう。
「…あれ?」
発動したはずなのですが、ゴポッと血の塊を吐いただけですぐにまた死んでしまいました。
どうやら、蘇生魔法の制限に何かが引っかかったが、欠損を治すだけでは間に合わないくらいの何かを受けた様子です。
まあ、生き返れたとしても尋問していたので。さすがに子供相手にそれは気が引けますし。
ヨホホホホ。まあ、死体となっては仕方ないですね。
放っておいて次に行くとしましょう。
供養してやらないのか、ですか?
何故です? 骸は所詮、肉塊。ただの腐敗していくゴミであり、もう人でもなんでもないでしょう。そんなものに何かをしてやる意味、ありますか?
ゴミ処分ですか。それは帝国の方に任せますので。ヨホホホホ。
3人目は生きてはいましたけど、帝国の方ではなかったので自主規制することにしまして、般若面にしておきました。
ヨホホホホ。これは面の量産の好機ですかね?
さすがに、翁面だけで異世界生活乗り切っていたらつまらないというものでしょう。
今は生成の面ですし。ヨホホホホ。翁面もそうですが、この面の怪しさといいますか不審者指数は非常に高くなっていますよ。ヨホホホホ。
何しろ、先ほどの密偵さんにも面を見ただけで驚かれましたし。
いや〜、あの反応はやはり面白いですよね。ヨホホホホ。
街に繰り出しました。
都というだけあり、ずいぶんな賑わいですね。
ヨホホホホ。しかも夜というだけあり、人目もはばからずに未成年お断りの店舗も盛大に客引きをやっている様子です。
その中で、槍を背負い能面を被っている自分は、やはりといいますか非常に人の目を引き人に避けられています。
ヨホホホホ。いつもの事ですね。
客引きにも避けられていますからね。むしろ急いでいるのでこんな変態にまで声をかけてこられるよりは有難いですけど。
街に繰り出して最初に向かったのは、都から少し外れた暗い地区です。
いえ、要するに居住区が並んでいる場所であり、みなさん寝静まっている状態というだけで、治安が悪いというわけではないのです。
この辺りには、かなりの数の密偵さんがいらっしゃいます。
だいたい3〜4人程度で固まっていたので、拠点の類だと思われます。
赤旗国家も同日に勇者召喚執り行ったと思われますし、周辺諸国が偵察を強化していたといった感じなのでしょうか?
とりあえず、アジトを1つずつしらみつぶしに調べて行くとしましょうか。
最初に訪れたのは、宿屋でした。
一般の宿泊客に混じって、という事ですかね。
主人には待ち合わせですと適当にごまかしておいて、対象の部屋へと向かいます。
扉をノックします。
ごめん下さ〜い。…当然ですが、返事なんかありません。
ヨホホホホ。お邪魔しましょうか。
「……ぁ」
中にいたのは、酸欠で頭が朦朧としているようすの密偵さん達でした。
ヨホホホホ。やはり、この世界の人族も呼吸しているのでしょう。
それはそうと、早速質問をしてみます。
板を示してみましたが、反応がありません。
「ヨホホホホ。ここはダメですね」
防護魔法を解きます。
解放された密偵達は、水から上がったときのように大きく空気を吸い咳き込みました。
「ガハッ! はぁはぁ…」
「プハッ! うっ…」
「はあ、はあ…な、なにが…?」
「ヨホホホホ。お目覚めですか?」
自分がそう言った直後、彼らは一斉に武器を構えてきます。
そして問答無用で襲いかかってきました。
「ヨホホホホ。無駄ですね〜」
しかし、自分の体には傷1つ付けられませんよ。
虚しい抵抗をしますが、できないとわかるとすぐに距離をとって武器を構え直しました。
ヨホホホホ。自殺しないだけましというやつですかね?
ちなみに、この部屋には防護魔法をかけているため出られません。
「くそっ!」
窓から脱出を果たそうとしますが、滑稽なこけ方をしてくれました。
ヨホホホホ。これは受けます、笑えます。
「ヨホホホホ。なかなか面白いお方達ですね」
「こいつ…!」
さて、質問タイムと参りましょうか。
城に戻ってきました。
ヨホホホホ。結局、全員他国の密偵でしたね。
調べたものの、みなさん本当に口が固いので、誰1人氏素性を明かそうとはしませんでした。
ヨホホホホ。残念ですが、相手はプロです。素人の自分の尋問程度で根をあげる方がいるはずもなかったのでしょう。
異世界の人族には同情こそしますけど、あまり心地よい時間とは言えませんでしたね。
代わりと言ってはなんですが、面が新たに十個近く作成できました。
ヨホホホホ。やはり自分は能面被ってこそというやつですね。ヨホホホホ。
…さて、部屋に戻って休むとしましょうか。
日本三大名槍は、『御手杵』、『日本号』、『蜻蛉切』。これは有名ですね。
このうち、御手杵の現物は第二次世界大戦において焼失しているそうです。




