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異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)  作者: 笹川 慶介
連邦王国戦争・孤独な復讐者
106/115

11話

 グノウ守備隊の本部に向かう途中でした。

 セルゲイ氏らとともに道路を魔導車両で疾走する中、いきなりヨブトリカ軍の航空戦艦ではなく、神国軍と思われる複数の天族から聖術が自分たちの乗る魔道車両めがけて放たれてきました。


「なっ!?」


 味方からの攻撃。それも流れ弾などではなく、明らかに自分たちを殺すべき敵として認識しての殺気のこもった攻撃に、連邦軍は理解が追いつけず驚くしかできません。

 すかさず、自分の方で防護魔法を展開します。


 雪城さんにとっても想定外だったらしく、誰一人として対応ができていませんでした。あと一歩遅れていれば、この部隊に深刻な被害が出ていたことでしょう。

 突然の攻撃に、混乱した連邦軍の走行が停止します。

 しかし、本来味方であるはずの神国軍は容赦することもなく、再度聖術による攻撃を仕掛けてきました。


「たぬきがモコモコ、『反転魔法』!」


 次々に足が止まる連邦軍に、神国軍からの攻撃が降り注ぎます。

 しかし、自分の隣で雪城さんがそれに反抗して反転魔法を展開しました。

 すると、突き刺さった聖術は、方向を正反対に変え、矛先を神国軍に向けます。

 反転魔法というのですか。えげつないですね、この魔法は…。放った攻撃を鏡のように相手にそっくりそのまま突き返すという理屈なのでしょうが…雪城さんの職種って、何でしょうか? 少なくとも、自分の使いこなせていない治癒師よりは強いはずです。

 そして、えげつない反転魔法をこれぞ雪城さんと言えば良いのでしょうか、一風変わった独特の文言で展開する雪城さんはなお、えげつないですね。ヨホホホホ。

 お前はえげつないというより存在そのものが許し難い、と? ヨホホホホ。もっともな意見、ありがとうございます。それほどご理解いただけるとは、まさに感無量と言えましょう。ヨホホホホ。


「ば、ばかな–––––グアァッ!?」


 雪城さんの展開した反転魔法に、今度は神国軍が大混乱に陥りました。

 まあ、爆撃していたらその爆弾が突然自分たちめがけて上がってくるという現状を目の当たりにしたような気分でしょう。混乱しないほうがおかしいですね。

 雪城さんは混乱する神国軍に、さらなる魔法を使用します。


「遠からん者は音に()()ンなガーン!」


「詠唱おかしいでしょ!?」


 リュドミラさんのツッコミは、雪城さんの展開した新たな魔法が生み出す大音量に飲み込まれて掻き消えました。

 どういう発想から来たのかわかりませんが、雪城さんの展開した魔法は天族たちの頭に空から大量のタライを落として攻撃するというものでした。

 なるほど、それでガーンですか。

 しかし、地味に痛いらしく餌食にされた神国軍が揃って悶絶しながら落下します。

 それに対して、雪城さんは容赦などなく、さらなる追撃を仕掛けます。


「ついてる奴らは見ないでドッカン!」


 落下してくる天族たちに、防護魔法を利用した突き上げ攻撃を仕掛けました。

 自分が立てる円筒の足場として利用する防護魔法と似たようなものでしょうか。

 顔面強打や腹部強打、これはまだいいです。

 酷いのは、股間強打の方ですね。あれは、確かに…ついている奴らは見てはいけない光景だと思います。

 阿鼻叫喚を聞かないために、防護魔法で防音を施します。ヨホホホホ。


「今のうちに向かう! 急げ!」


 やり方はえげつないですが、連邦軍も味方を攻撃する所業に走る神国軍に同情などしない様子です。

 雪城さんが道を開けてくれた隙をつき、急いでグノウの司令部の方に走り出しました。

 神国軍がなぜ人族を無差別に攻撃しているのかは不明です。もしかしたら単に人族など敵味方の別なく踏み潰してしまえとか考えているのかもしれません。

 しかし、さすがにそれを見過ごすことはできないでしょう。

 ヨブトリカ王国のいわゆる蛮行というものを未遂ですが自分は見ましたし、連邦の皆さんからはひどいものだという話を聞いています。

 しかし、それでもさすがに一応は味方であるはずの国の、しかも非武装民を攻撃するような真似はないでしょう。

 …無い、ですよね? すみません、自分の貧相な想像力では、今の神国軍の蛮行以上の蛮行というものが想像できません。

 煽り魔の分際で良識的な見解をとるな、と? ヨホホホホ。確かに、煽り魔が他人のなすことに正論による文句をつけるのは侮辱というものでしょうな。ヨホホホホ。

 天性の煽り魔である自分が言うのです。間違えありませんとも。ヨホホホホ。

 自慢げに言うな、と? ヨホホホホ。恥ずべきことを誇ってこそ、性格矯正不可能な存在そのものが迷惑の塊である煽り魔こと、自分というものです。

 今は架空の人物、ルイス・マウントバッテンですが。


 もうすぐグノウの司令部の建物に到着します。

 その道のりですが、神国軍にヨブトリカ軍にと襲撃を受けながらも、雪城さんの無双モードの活躍により、我々は何もすることがなく容易に進むことができました。


「覆え、結界魔法!」


 空襲攻撃が降り注ぎますが、完全に雪城さんが防いで見せます。

 しかも、雪城さんの出す結界魔法は一方通行の結界ですね。

 つまり、こちらからの攻撃が一方的に空から攻撃してくるヨブトリカの航空戦艦や神国軍に向けて放つことができるというわけです。

 この一方通行の防護魔法って、ある意味チートですよね。ヨホホホホ。さすが雪城さんですね。

 自分も負けていられません。ヨブトリカの地上を歩く兵士たちからの狙撃を防護魔法を用いて阻止しつつ、目につくけが人に対して回復魔法をかけます。

 急いでいるので、他の連邦軍に助けてもらうことを期待するとしましょう。


「悪意を阻まん、輝く障壁!」


「術式構築、貫通術式!」


 天族の中でも力天使以上の地位にある天族にしか扱えないという、クロノス神の加護と言われておりますアイリスの盾をも貫く人族の魔導兵器ですね。

 ちょうど、自分たちの感覚では徹甲弾が当たるでしょうか。

 貫通力を突き詰めて研究した術式により構築された銃弾です。

 しかし、天族のアイリスの盾を貫こうとも、勇者補正から来る自分の防護魔法は簡単には貫けませんとも。

 自分に攻撃手段はありませんが、妨害手段はあります。


「ば、ばかな–––––」


「守護する障壁が敵意を隔絶せん!」


 貫通術式が防がれたことに驚いている隙に、ヨブトリカの狙撃兵を防護魔法による見えない壁の牢獄に閉じ込めてしまいます。

 空気穴はめんどくさいので開けていません。

 クソ野郎だなお前!と? ヨホホホホ。今更というやつですな。自分は天性の煽り魔、クソ野郎と言われるのは当たり前です。


「もうすぐ司令部だ!」


 セルゲイ氏の声が響きます。

 しかし、司令部というその建物の前に、多数の神国軍が集って司令部の守備隊らしき連邦軍と戦闘となっていました。


「血祭りだ!」


「決して、屈することなかれ。赤旗を掲げた時より、我らに支配は非!」


 バリケードなどを駆使して、物陰からの銃撃を繰り返す連邦軍に対し、神国軍は数に任せた波状攻撃を仕掛けています。

 神国の将はアイリスの盾を展開しているので、おそらく力天使以上の階位にあるのでしょう。

 数においては神国軍が圧倒していますが、連邦軍の鉄壁の連携とヨブトリカ軍の攻撃などにより神国軍は攻め切れていない感じですね。

 しかし、一体何がどうしてこう、神国と連邦が争うことになったのでしょうか。

 原因はわかりませんが、明らかに余裕のない連邦軍が仕掛けるとは思えません。

 よほど深い事情があったのか、そうでなければ神国軍から攻撃を仕掛けたのでしょう。


「話は後だ! 救援するぞ!」


 セルゲイ氏は、迷いなく味方であるはずの天族に対する攻撃を命令しました。

 人族と天族の確執は大きいのでしょう。末端の兵士に至るまで、味方であるはずの天族を攻撃することに異を唱える兵士はいませんでした。

 まあ、それはそれでどうかと思うのですが…。


 戦場において周囲が緊張に包まれる中、自分が1人でそんなのんきなことを考えていた時です。

 天族の軍勢が連邦の増援を感知して、こちらに対しても攻撃の手を向けてきました。

 それに対し、連邦軍と雪城さんも反撃を開始します。

 雪城さんが防護魔法を展開し、連邦軍が銃撃を仕掛けます。

 神国軍は構わず聖術を放ちますが、全てを雪城さんが防ぎます。


「頭がツルツル、反転魔法!」


 なんといいますか、凄まじいといいますか、おかしな詠唱ですね。

 それが雪城さんらしいと言えば確かにそうなりますが。

 ヨホホホホ。自分が出しゃばるまでもなく、連邦軍の重激と雪城さんの反転魔法で向きを正反対に変えた聖術の餌食となり、もはや兵士の無駄遣いとしか思えないように次々と被害を増やしていきます。

 ただし、味方が殺されてもまるでそれを味方と認識していないように、天族たちは攻撃を続けてきます。そこに連携などなく、どうやら競争社会の様相が垣間見えますね。

 相手が連邦軍やヨブトリカ軍といった数でも能力でもはるかに劣る人族の軍勢だからどうにかできているのですが、同格の敵相手にそれは愚行以外の何物でもないと自分は思います。ヨホホホホ。


「下等な畜生風情が!」


 天族の将が、自分たちに向けて聖術を構築していきます。

 雪城さんもそれを感じ取り、迎え撃とうとします。

 連邦軍の足は止まらず、銃を向けるヨブトリカ軍も強行突破し、天族の兵士を弾き飛ばして一直線に支部に向かいます。

 その軌道に立ちふさがるのは、聖術を行使しようとする天族の将。おそらく、アイリスの盾を持つ力天使以上の階位の天族でしょう。

 本来味方同士であるはずの2つが激突する、まさにその瞬間でした。


「–––––!?」


 その存在は、唐突に現れ、一息に自分に接近してきました。

 その気配は初対面ですが、自分はその強大な気配をどういう立ち位置にある存在かというのを即座に判断できました。

 魔族の、元帥…!?

 な、なぜこのようなところにいるのでしょうか?

 連邦についたのは神国ならば、ヨブトリカに魔族が付いていたとしてもおかしくはないでしょう。

 しかし、連邦が神国軍を繰り出してきたというのに激戦区と聞いているプラフタの戦場に他の魔族の気配が一切ないのです。

 元帥が単騎で動く…それはアルデバラン様がいましたけど、戦争の介入にしては元帥単騎でというのはおかしいと思うのですが。

 なんて考えている暇もなかったです。

 連邦軍が司令部に突撃する直前に、いきなり横合いから現れたその魔族の元帥の攻撃を食らってしまい、魔導車両は横転してしまいました。

 車両が横に転がる寸前に、自分だけが魔族元帥の手により窓からはじき出され、雪城さんたちを乗せた車両が横転します。

 自分はといえば、吹っ飛ばされてその先にいたヨブトリカ軍の一団を巻き添えにしてしまい、建物に派手に突っ込みました。

 巻き込まれた不幸なヨブトリカ軍の皆さんは全員ミンチにされ、自分も身体中の骨や内臓などに激しい損傷を抱えました。


「…よ、ヨホホ…ホ…」


 ち、治癒魔法を行使します。

 すんなりと怪我が消えるのは、わずかな時間しか必要としません。

 何しろ治癒魔法は、その即効力に定評があるのですから。

 ドジョウ先生を構えると同時、魔族元帥から再度何かが飛んできました。

 先ほど自分たちを襲撃した攻撃でしょう。

 防護魔法を築いてそれを真正面から防ごうと試みます。

 結果、失敗しました。


「ドェ!?」


 はらわたぶち抜かれました。

 ヨホホホホ。読みが甘かったと言われますね。治癒魔法で即座に塞げますが、魔族の元帥が手を抜いて向かい合って良い存在ではないことを忘れてしまっていたようです。

 デネブさんに関しては、ガヴタタリが力ずくで支配して引き出していた炎ですから対応が簡単でしたけど、デネブさんに操られた炎だったとしたらあんなうまくはいかなかったでしょう。

 フォーマルハウト氏に関しても、最初はアウシュビッツ群島列国の海軍と共闘して撃退、二度目の神聖ヒアント帝国の戦闘では一方的に攻撃受けていたら撤退してくれたというだけですし。アルデバラン様に至っては、2回とも完全に敗北しましたし。

 …魔族の元帥から、自分はまだ一本もとれてませんね。よくよく考えてみたら。

 そんな相手の攻撃を真正面からどすこいと受け止めようと考えるとか、先ほどの自分の発想がばからしくなります。

 なんでうだうだしている間に再度、魔族の元帥から攻撃が飛んできました。

 ヨホホホホ。では、3段重ねならばどうでしょうか?

 防護魔法を三重に展開して、真正面から再度迎え撃ちます。


 ドン! パリン! ズバン!

 グサ!


「ぐえ」


 はい、残念。またも簡単に突破を許して攻撃を食らってしまいました。ヨホホホホ。

 学習能力ないのかお前?と? ヨホホホホ。煽り魔ならば学習能力はもちろんありますとも。用途がどうすれば煽り立てるのに効果的かということに関する学習能力が備わっております。なお、この学習能力は戦闘には一切役に立ちません。

 真面目にやれグノウの命運がかかっているんだぞ!と? …そ、それを言われては反論のしようがありません。ごめんなさい、真面目にやります。


「ヨホホホホ。手荒なご挨拶、痛み入ります。さて、ここから–––––ガヒッ!?」


 真面目モードに入ろうと、ペラペラやかましくいろいろ語ろうかと思っていたのですが、再度攻撃してきた魔族元帥にまたも体に風穴を開けられました。

 全然真面目にやってないよな!?と? も、もうすぐ真面目になります。具体的には永遠にこない明日からですね。ヨホホホホ。

 ………。せ、せめて何かおっしゃってくださいませんか? スルーはさすがに自分も傷つきます。放置プレイも一興ですが。ヨホホホホ。

 もうお前喋るな、と? ヨホホホホ。煽り魔に喋るなというのは、無茶な要求ですね〜。自分は煽ります。そう、そこに煽れば煽るほど面白い方がいる限り。逆ギレされて仕返しを食らうなど茶飯事、煽りを楽しむことに比べれば些事というものです。ヨホホホホ。


 治癒魔法で開けられた穴を埋めます。

 ついでに蘇生魔法も仕込んでおくことにしましょう。

 再度、魔族元帥から攻撃が飛来してきます。

 魔力を乗せた砲弾のようなものを飛ばす攻撃のようですね。錬金魔法か、地殻魔法が怪しいですが、どちらにせよ質量の塊に魔力をまとわせ、それを高速で打ち出してきているようです。シンプルですが、ゆえにそこは魔族の元帥、威力と速度は桁違いのようですね。

 魔導車両が横転するだけで済んだのは雪城さんの防護魔法と、直撃したのが自分という点が大きいでしょう。現に、自分が躱すとそのまま後ろに迫っていた天族の一団を直撃し、見るも無残なひき肉に変えていますので。

 ヨホホホホ。すごくグロい絵面ですね。


 もう一発、こちらに飛んできました。

 一発ごとに込められる魔力の量が非常に多いですね。それをこうも繰り返し放つとは、さすがは魔族の元帥と言わざるおえません。

 将軍という可能性もありますが、自分には元帥だと思う確証が1つあります。

 気配の質です。シュラタン氏やエルナト氏などの将軍と、アルデバラン様やポルックス氏のような元帥とでは、決定的に気配の濃さといいますか、纏う強者の気の風格というのが違うのです。

 そして、遠いですが攻撃してきているこの魔族の方も、その気配がするのです。魔族の絶対強者という、元帥の気配が。ヨホホホホ。


 さて、飛来してきたもう一発に対し、自分は防護魔法を網目状に展開しました。

 というよりも、網をイメージして作った防護魔法ですね。柔軟性は高くしてあります。

 そして、防護魔法に魔族元帥からの攻撃が突き刺さります。

 その速度を無理やり押さえ込もうとせず、そのまま網の防護魔法を絡ませ、捕獲します。

 ヨホホホホ。女神様に授かりし治癒師の職種の防護魔法の進化は止まることを知りません。網の特性を理解し、自由な形に展開できるこの防護魔法に応用すれば、こんな芸当も可能となります。

 網に覆われた岩の塊は、軌道がそれました。

 自分はその瞬間を見逃しません。


「ッ!」


 防護魔法を掴み取り、網に捉えた魔族元帥からの攻撃である岩の塊を速度を殺さないように、逆に投げ返しました。

 ハンマー投げみたいですね。

 違うだろ!と? ヨホホホホ。どちらかというと、どちらかというと…なんでしょう?

 馬鹿野郎、と? ヨホホホホ。そこはど阿呆と称していただかなければ。自分の例えに使われては、馬さんと鹿さんが可哀想ではありませんか。ヨホホホホ。


 とはいえ、魔族元帥に投げ返したかったのですが、全くの別方向に飛んで行ってしまいました。危険な砲弾をあさっての方向に投げ飛ばしてしまいましたが、大丈夫でしょう。多分。

 …ヨホホホホ。た、大変申し訳ありませんでした!


「贄となれ、畜生!」


 騒ぎを聞きつけたのか、変態の匂いを嗅ぎつけたのか、煽り魔の存在に気がついたのか。どれかは分かりませんが、次の攻撃に備えよとした自分の周囲に神国軍が迫ってきました。

 ヨホホホホ。自分の存在が気に入らずに挑みに来たというのでしょう。

 良いでしょう。魔族の元帥が次の攻撃をする前に、彼らとの一戦を興とし、散々に煽ることといたします。

 幸い、今周囲に連邦軍はいませんし、久しぶりに湯垣 暮直として対峙することにしましょう。

 そう思った、時でした。

 魔族元帥の気配が、いきなり自分の背後に現れたのです。

 そして、咄嗟にしゃがんだ自分の頭上で、鋭利で大きな爪のある熊の手が薙ぎ払われ、自分に迫っていた天族を一撃で切り裂きました。

 突然現れたことには驚きがありますが、そのカラクリは心当たりがあります。

 転移魔法を扱える魔族の元帥、ということでしょう。最初のプラフタの戦場にその存在がなかったことも、これで説明がつきます。

 自分がその場から転がって間合いを取った間に、自分に攻撃を仕掛けようとしていた天族の兵士たちは、20人近くいたのが二度の何かを切り裂くような音が聞こえただけで、物言わぬ骸どころか原型を止めない血飛沫を吹く肉塊に姿を変えました。

 起き上がった時、多数の残骸が転がり血の泉となったそこに立っていたのは、右腕の肘から先がまるで羆のような立派な熊さんの手となり、左手には巨大な鉞を持ち、背中には雷神が背負っているような雷鼓らしきものをつけ、紫水晶を埋め込んだような光を持つ綺麗なアメジストの目をした、熊耳の女性が立っていました。

 …間違えなく、この方が魔族の元帥ですね。外見は熊のケモミミの可愛い方ですが、纏う気が明らかにそんなふざけた応対をしていい相手ではないことを物語っております。


「不気味な仮面に、卓越した治癒魔法…。君が、シュラタンを退けたという異界の勇者で間違えないようだね」


「…決めつけるは早計かと」


 ここはあえて否定をしてみますが、魔族の元帥にはすぐに見破られたようです。

 鉞を背中に担ぎ上げ、右腕も熊から人に近い形態に変えた魔族の元帥は、敵意というよりも興味があるような目を向けてきます。


「君からは、この世界にない匂いを感じるね。否定をしても、意味はないね」


「…異世界よりの侵食者。この可能性もあるのでは?」


「奴らはクロノス神に認められない存在だね。少なくとも、君のように加護が与えられることは決してないね」


 ここまで看破されては、隠していてもいられないでしょう。

 アルデバラン様には、湯垣という勇者は魔族内の認識では死んだものとしてもらいましたので、特に魔族元帥の方に知られたくないのですが。

 ここは、別人の勇者で押し通すべきでしょうか。

 あれだけポイポイ岩を投げつけてきたとは思えないほどに、魔族の元帥は落ち着きがあり、敵意を向けてきておりません。

 自分を観察している、のでしょうか?

 魔族の元帥ほどの方とドンパチというのはできれば避けたいので、交戦の意思がないというならば可能な限りこの場は穏便に済ませたいと思うのですが。

 自分を見ている魔族の元帥に、自分もこんな機会ならばとじっと観察し返してみます。

 ジィ〜〜〜〜。


「魔族、覚悟!」


 おっと、無粋な乱入者が来たようです。

 自分と魔族元帥の周囲を多数の天族の軍勢が囲んできました。

 魔族元帥の方もため息を思わずこぼしました。

 わかります、その気持ち。なんか、釈然としないというか、妨害などという趣味が悪い相手に憤りと呆れを感じる複雑な感情ですね。

 妨害マニアのゴキブリが言うな、と? ヨホホホホ。それは自分の得意とするゴキブリ戦法のことでしょうか。妨害マニアもまた、煽り魔の側面の1つというものですよ。ヨホホホホ。

 魔族元帥から目線を外し、囲んでいる天族の軍勢を見渡します。


「無粋な連中だね。彼らを片付けてから、君とは会話がしたいと思うね」


「…同感です。まずは彼らにご退場いただきましょう」


 刃を交えようとも、対話をしようとも、まずは無粋な邪魔者を排除してからというのには同意します。

 自分と魔族元帥は、それぞれ武器を構えて背中合わせになりました。

 なんか、敵味方がコロコロ変わる事態が続いています。それもこれも、いろいろとこじれて面倒臭い事態になっているように思えるこの混沌の様相を呈している戦争にあるのでは、と自分は考えます。

 黒幕でもいれば簡単なのですが、たぶんかなり多くの思惑がこの戦争には交錯しているでしょう。

 …図らずも、この都市の救援に来たら、この都市を攻撃していたはずのヨブトリカについていると思われる魔族の元帥と共闘し、同じく救援に来たはずの神国軍と戦うこととなりました。

4章も1日1話の更新を目指そうとしていましたが、もうストックが空となり、誤字の訂正などと合わせて執筆を行う結果、11話以降の更新が遅れます。

読者の皆様、大変申し訳ございません。

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