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賞金稼ぎが踊り子になった

7話目。他の人の作品の序盤に比べるとまだ内容薄いような気がする。

 夕暮れ時、噴水広場にて人々は静かに、だが騒がしく集まっていた。

 突然言い出された、『宴』の幕開け。開催者は今朝この町に来たばかりの冒険者っぽい人たち。

 幸い、あの襲撃には死傷者は存在しておらず、誰一人としてこの『宴』に異議を唱える者はいなかった。かといって、宴をするにしても気が気でない。

 というよりそもそもの話、『急』なのだ。何があるかたまったものじゃない。それがもし何かの策略であるのであれば警戒せざるを得ない。

 とりあえず、あるだけの資材を使って準備がなされた広場で人はただその場に留まっていた。宴にしてはこの場は大人しく、若干静かであった。


「よく来たなお前等!」


 突然、誰かの声がこの広場に響き渡る。何だ何だと人々はそちらの方角を見始める。赤色の派手なコートを羽織った男が堂々と道を歩き、その間に周囲を見渡す。

 やっぱ、街を傷つけられた心の傷は浅くないか。彼は笑顔を顔に貼り付けたまま、周囲の人々の様子を察していた。表面上の彼は気にしていないかのように声高らかに言った。


「宴って言えば騒ぐことが大事だ! だがそれには『華』が必要だ! そのためにも用意してやった!」


 アーテルは大きく身を翻し、その道の先、この場に現れ出た『華』を見た。


 まるで、水面を軽やかに歩くような、静かな動きで踊り子はこの場に姿を現す。地を踏むたびに、人々から驚きの声が上がるように感じる。非常に美しく感じる踊り子は周囲を見ず、ただゆっくりとこの場に姿を現した。正体はブランだ。だが、今や賞金稼ぎとしての面影はないと言っても過言ではなかった。もし知っていたとしても、気付く人なんていないであろう。

 そんな踊り子、ブランではあるが内心、不機嫌であった。こうして狩る立場である関係上、手のひらで踊らされてるような、操り人形にされているような、そんな感覚だ。

 今まで彼女は一人で生きてきた。ただ宛もなく彷徨い続け、賞金稼ぎになって、必死に狩り続けて。そんな傍から見れば『悪』とも取れる行動とは無縁ともいえる今の状況。

 噴水前まで歩いてきた彼女は一度振り返りこの場に集まった人たちを見渡す。やはりというか、視線はブランに集まっていた。やっぱり恥ずかしいのか、ブランは顔を赤らめていた。そんな表情を見てアーテルは笑いながらもブランに小さく声をかける。


「やっぱ似合ってるぞ」

「うっさい。殺すわよ」


 アーテルとブランは一言交じり合い、アーテルは軽くブランの肩を叩く。急な出来事と羞恥などが混ざり合い、身体が震えたブランは思わずアーテルを見る。一瞬両手にも握り拳が出来たがすぐに堪える。流石にこの場で変な騒ぎを起こすのはまずいと、思っていたからだ。

 アーテルは小さく、「挨拶」とだけ言い、人々の方へと視線を向ける。ブランは小さく息をつくと、同じように視線を人々の方へと向け、片手を胸に当てる。


「……皆様。お集まりいただき誠に光栄です。昼間の出来事は不幸でしたが、どうか今日は英気を養い、明日へと繋げていきましょう」


 アドリブとも言える、あまり感情のこもっていないブランの言葉にアーテルは耳を傾けながら、挨拶が終わったのを見てアーテルは大きく腕を上げる。


「よぉし……踊り子の挨拶も終わったところだ! この場を盛り上げろ、野郎共!!」


 大声でアーテルは合図をすると、途端に何処からか演奏が響く。人々の歓声が上がる。ブランはゆっくりと目をつぶると、その音を聞き始め、やがて自分の思うがままに動き、踊り始める。

 最初の頃は何処かぎこちなかったが、すぐに自分のものにしたかのように緩やかに、華麗に舞っていく。そんなブランを見て、アーテルは内心驚きながらも、感心したかのように笑い、一度この場を離れる。


「やったことねぇ、って言ったクセに結構ノリノリじゃねぇか」


 そんなことを呟きながら、離れたところから人々を見始め、さらに周囲を見渡す。

 こうして今は『囮』となっている今、動ける自分がどうにかしなくてはいけない。

 と、そう思った時だった。


「……今ブランは滅茶苦茶美人だから判別付きにくいんだよな?」


 ブランのほうを見る。曲も終盤辺りに差し掛かっているころだろう。彼女の動きも段々と様になっている。そんな美しい彼女を見て、誰しもが「賞金稼ぎ」とは思わないだろう。


「……失敗……いや、俺にとっては大成功だな」


 今はただ楽しむべきか。そう思いながら笑みを浮かべて笑った。


=====


 宴も段々と宴となっている。人々はそれぞれ食糧だのなんだのを持ち込みあい、料理人がそれを作る。一時的に雲がかかったような状態だったが、今や晴れ模様だ。これこそ宴。楽しみがあるもんよ。と、アーテルは酒の入ったカップを片手に、何処かの壁に寄り掛かって上機嫌な気分となっていた。


「……で、見つかったの?」


 その近くにはブラン。ブランは手には木箱を持っているだけで、特に食事には手を出していない様子だ。あくまで自分の目的を達成させようとするブランを見たのか、アーテルは呆れた声を出した。


「そりゃないぜ踊り子さんよぉ。宴なんだからもっと楽しまねぇと。人生損するぜぇ?」

「そんなふざけた言い方やめて。……とっくに人生損してるって、分かってるし」

「なんだそりゃ?」


 酒を飲みながらアーテルは尋ねる。しかしブランは息を軽くついただけでそれ以上は答えなかったが、同時にアーテルも聞かなかった。


「まぁそんな時化た面すんなや踊り子さん? 今は楽しむときだぜ?」

「その『踊り子さん』って言い方やめて」

「人前でお前さんの本名出してみろ。誰しもがびっくりする。そうなりゃ宴はパァだ。違うか?」

「別にどうでもいいけど」

「それにお前さんの服、俺の船室にあるしな」

「……」


 そういえばそうだ。脱いで部屋の片隅に置いといてある本来の服。確かにきっちり終わらせないと取り戻せないだろう。あれでも必要な防具だ。今の服のままは絶対嫌だ。ブランは取り返しがつかないような顔でため息をつく。

 と、ここまで考えてふと思った。『俺の船室』?


「……アンタ、変なことしてないでしょうね!?」

「してねぇよ!! 流石の俺様でも服を盗むなんてとんでもないだろうが!?」

「とんでもないことやってるでしょうが今! だってアンタはムグッ!?」


 海賊でしょうが! と言う前にアーテルに手で口を塞がれる。彼は一瞬だけ焦ったような顔したが、やがていつもの調子になったかのように口角を上げ、手を離す。


「おいおい。今は肩書言うのはお互いなしだぜ? 宴に持ち込むのは酒と食い物、それから美女だけだ。今は必要ないぜ? 踊り子さん?」

「……あーもう、分かったわよ。ただ……これが終わったら覚悟しなさいよ」

「まぁそれでいいか。帰りまではエスコートするが……それ以上は、な」


 一瞬だけ二人の間に凍えるような空気が差し込むが、やがてアーテルはそこから一歩踏み出してから周りを見てからもう一度酒をぐいっと飲む。そして彼はブランの方向へ振り返った。


「ところで踊り子さん。本当に何にも手を付けてない(・・・・・・・・・・)のか?」

「当たり前でしょ。こんな空気で食べても喉を通らないし」

「……なら、気をつけな」


 真剣な表情でブランの前に立つアーテル。どういうことなのか。疑問を持った顔でブランはアーテルを見つめる。


「もしかしたら食事に毒だのなんだのを持ち込まれたかもしれねぇ」

「……なんですって?」


 いきなり言われた事にブランは目を見開き、驚いた。アーテルは申し訳なさそうな顔になり、続ける。


「俺の失策だ。ついお前さんに見惚れちまって、相手を監視するのを忘れてたぜ」

「何よそれ。私が悪いって言うの?」

「いんや、寧ろお前さんはよくやったさ。悪いのは気の緩みすぎた俺だ」


 お手上げかのように持ってないほうの手を上げるアーテル。そんなアーテルを見て怒れず、寧ろ呆れたような表情を見せるブラン。そんな表情を見てアーテルは肩をすくめただけだった。


「ってわけでだ。もしなんか騒ぎが起こったらお前さんに任せるわ。俺は死んでるかもしれん」

「……それにも毒か何かが盛られてるってことね?」


 ブランはアーテルの持っているカップ、正確にはその中に入っている酒を指さす。アーテルはいつもの癖のように口角を上げた。


「ご明察。だからそん時は俺の仇はとってくれ。頼んだぜ、踊り子さん?」

「誰がとるか。そんなの他の奴に頼みなさいよ」

「へいへい。ほんと可愛げのない奴だぜ。ま、俺は最後の余生としてこの場を楽しんでくるわ」


 そう言ってアーテルはこの場を離れ、「終わるまで寝るんじゃねぇぞ!!」と大きく声を張り上げた。その声は他の招待客に言っているようだった。そんな彼の様子を見て、ブランは呆れていた。


「死ぬ間際まで楽しむって……ホントバカなのあいつ。……それに、ただじゃ死なない男でしょうが」


 そう言ってからブランも木箱を持って歩き出す。彼女にとって、よく分からないものが引っ張っているような感じがしていて、それを避けたいためだった。

 いや……もしかしたら、その引っ張っているものは……何か不思議な感じのするものなのだろうか。ブランは不思議な感覚に惑わされつつも、会場を歩き始めた。

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