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賞金稼ぎが面倒ごとに巻き込まれた

5話目。毎度の如く戦闘シーンが難しい。

「……」


 先ほどとは違う大通りは混乱に陥っていた。人はただその場から逃げるのみであった。

 その人混みを避けながら、ブランは前へと進んでいた。

 理由なんてない。ただ嫌な予感がしただけで、彼女は進んでいた。

 人ごみがなくなると、そこには荒れた光景と数名ほどの人物がいた。途端に、横から声をかけられる。


「なにやってんだそこの女! いいから……」

「心配にはおよばない。それに……あいつらには見覚えがあるから」


 殿を担っていたであろう男にブランは言い放った。というのも、昨日に出会った賞金首とその手下とほぼ同一な、野蛮な服を着ていたからだ。だが、見る限り表情は別物。まるでそれは恐れも何もない、いわば『無』の表情。つまり……。


「死人……いや、もしかして……」


 言葉を途切り、今目の前の光景をただ見ていた。

 だが、すぐに覚悟は決まった。懐からダガーを二つ取り出す。そしてまだ、近くにいた男に話しかける。


「アンタも逃げたほうがいい」

「けどよ……」

「丸腰のままの人間はただの足手まといだから」


 無理やり突き放すような冷たい瞳を男に向ける。何か言いたそうではあったが、男もその通りだと分かったらしく、何も言わずにその場を離れる。

 息を整える。寝ることなくの連戦ではあるものの、こういうのは慣れていた。しかし、死体との戦いはこれが始めてだった。

 全く、変な出来事ばかりだ。

 ブランはそれだけ思うと、腕を下げて体勢を整えた。


「フゥッ……!」


 身をかがめ、高速で敵陣へと突撃していく。敵はまだこちらに気付いていない。その隙を縫うように、ブランは身を翻しながら最初の一体目掛けて腕を交差し、まるで突き抜けるかのように十字を相手の身体に刻む。敵は吹き飛び倒れ、だがゆっくりと立ち上がろうとしていた。やはり、死人とだけあって痛みとかがないのかもしれない。いや、もしかしたら―――

 それに生じて、敵がいっせいに彼女のほうを振り向く。雄たけびがこの場に大きく響く。この世のものとは思えない音に、彼女は顔をしかめるが、すぐにもう一体へ、今度は左手に持っていたダガーを袖に収め、一番近くの敵に疾走する。

 その敵は左腕を振り払うものの、彼女はそれを軽く飛んで避け、左手で敵の頭をつかみ、それを軸として背後へと着地する。さらにそこに右腕を敵の首へ回し、腕をふるって引きちぎる。首から上を失った死体はやがてゆっくりと地面へと伏せていく。

 それも確認せず、彼女は持っている頭を他の敵に勢いよく投げつけて他の敵を怯ませる。怯ませた敵をターゲットとしてすぐに懐まで飛び込み、今度は直接、首元目掛けて両断する。手ごたえあり。即座に同じように仕上げる。斬った際に妙な感覚が腕に伝わるものの、彼女はそれを気にも留めない。

 だが敵も黙ってはいない、二体が彼女目掛けて、その身を砕こうと突撃する。すぐに気付いたブランはそこから近い壁へと走り、そのまま壁を二、三度蹴って駆け上がり、宙へと舞う。

 即座に、音。しかしそれは壁を砕くような謎の音だった。驚いたブランはそのまま下を見る。たしかに先ほど使った壁に、大きな穴が空いていた。


「嘘―――」


 華麗に着地し、だが反撃もせずに一度身を引く。だが確証はついた。ブランは驚いた表情で一言だけ呟く。


死霊魔道士(ネクロマンサー)……!?」


 聞いたことはあるが、見たことはなかった。だが聞いた限りでは大したことはないと思っていたが……いざこうして交えただけでも相当危険な存在であった。

 そして気付く。三体を斬り付けたダガーの刃が大きく欠けていたことを。どうやらその死体は異常なまでに強化されているらしい。

 だとしたらキリがない。先ほどかなりの本数を使い、残っている短剣は残り少ない。

 そもそも……何故こうまでして倒そうとしているのか。自分には関係のないことなのに、何故無理やり突っかかってきているのか。

 自分に嫌気がかざしていた。まるで昔の自分を思い返しているような―――


「オ……オオオオオオォォォォ!!!」

「……!?」


 異常に響く咆哮。その咆哮に驚くがすぐに動こうとするが、敵がそれよりも早く突撃してきて彼女の腹に一撃。耐え切れずに大きく酸素が吐き出されるが、逆に右腕をふるって敵の胸元にダガーを突き刺し蹴り飛ばして距離を離す。咳き込む中、敵がまだ近づいてくる。

 まるで死者の行進のようなソレは嫌でも彼女の背に冷や汗が走った。だがすぐに払い、残り少ない武器のうち二本を取り出し、だが走った方向は狭い裏地。無限の兵士を相手にするより、その根源の魔道士を絶ったほうがいい。本当にいるのか怪しいが、とにかく相手にするよりもましだった。

 だが、敵が彼女を逃がさない。即座に一体がまるで獲物を狙う鷹のように彼女目掛けて空中からのしかかってくる。気付いた彼女は勢いを殺さずにすばやく身を翻しながらその場を離れるように飛ぶが、衝撃が殺せずに吹き飛び、壁に背から激突する。一瞬気が遠くなり、ダガーを一つ落としてしまう。

 そして突然、肉体が急激に成長するような音を聞くが、視界が追いつかず、彼女を捕らえ、少しずつ宙へとあげていく。締め上げられながらもブランはソレを見る。まるでそれは、ブランを捕らえたような巨木のような……死体の腕であった。

 その腕の先を見る。その姿にあまり確証は持てなかったが、あの賞金首と出会う前に殺したはずの、賞金首であった。

 その腕が、ゆっくりと、ブランを締め上げる。異常に太い腕は、何とか自由な左腕でも斬るのは時間がかかる。だが、彼女の全身が悲鳴をあげ、このままだといずれ全身が破壊されてしまう。


「あ……が……」


 まずい。思考が薄れ行くなかで、それでも必死に打開策を探していた。左手を必死にもがくように斬り付けるが、一向に手ごたえがなく、むしろはじかれているように感じていた。


「まだ……死ねない……」


 だが、意地を張ったところで何も変わらない。全身がさらに悲鳴を上げる。


 そのときだ。誰かが大きく吼える声を聞いた。

 直後。ブランの視界にある人物が移る。その人物が彼女を捕らえている敵へと身体ごとぶつかる。反動で敵はよろけ、その拍子に拘束が解かれた。地面によろけながらも着地し、一度自分の身体に触れて状態を確認する。何とか動けることを再確認したあと、息をつく。


「ったく、せっかく助けてやったのに礼もなしかよ」

「……アンタに助けてって、願った覚えはない」

「まぁいい。それぐらいツンケンしたほうが可愛げがあるさ」


 賞金首であるアーテルに助けられたことを不快に思いながら、ブランはふん、と息を短く吐いた。その間に、先ほどまで彼女を縛っていた腕は少しずつ縮み、だが身長ほどのある腕へと戻っていった。

 その異形の姿に、アーテルは心底気味悪そうな表情を浮かべる。


「うわぁ……さすがにそりゃないわ……」

「相手は死霊魔道士の作ったやつらよ。それに元々死んでるから改造も容易いんじゃないの?」

「死んでる……って、どういうことだそれは……っと!」


 アーテルの隙を突くように、他の敵が襲い掛かるがそれを彼は紙一重で避け、胴体を大きく蹴り上げる。ブランも残っていたダガーと、先ほどアーテル相手に使っていたソードブレイカーを取り出して応戦の構えを取る。


「そりゃ、私があいつを殺したから」

「となると、元凶はお前さんか。それの罪払いってところか?」

「……別に、そういうわけじゃない、わよ!」


 近づいてきた敵の腕を、ブランはソードブレイカーをねじ込ませてその敵の首を刈り取る。その出来事にアーテルは感心するように口笛を吹き、先ほど蹴り飛ばした敵が立ち上がりかけたのを横目で見て同じように、剣で首を刈る。


「……ただ、面倒ごとに巻き込まれただけ。それに、流石に黙って見過ごすわけにはいかないでしょうが」

「ご立派な志だ。ますます気に入った。俺の船専属の踊り子にしたくなってきた……なっと!」


 さらに近づいてくる敵をアーテルは素早く、剣で胸を一突きにし、そのまま斬りあげて両断する。彼は一息つくと、周囲の確認をする。どうやら、動けるのはブランと、大ボスともいえる敵ただ一体であった。


「……そいつは任せる。この中にそいつらを使った魔道士がいるはずだし」

「いいだろう。だがその代わり……」


 言うが早いか、ブランはそのまま狭い路地へ走り、その壁をうまく蹴って上がっていく。流石にその光景にアーテルは驚くものの、ますます愉快そうに笑う。

 その間に敵が腕を伸ばし、アーテルを捕らえようとするものの、彼はそれを軽く横へ避ける。それを見越してか敵が腕を振るい、アーテルへと一撃を加えようとする。だが彼はその腕をうまく利用し、片手でその腕をつかむとそれを軸にして、まるで乗り込むように飛んで避ける。腕と壁が衝突し、ガレキが落ちる。


「流石に調子に乗ってる暇ないか。長引くと、この街が荒れちまう、もんなぁ!!」


 威勢よくアーテルはそのまま敵へと突撃する。敵の腕がまた縮んだあと今度こそアーテル目掛けて腕を伸ばし、攻撃しようとする。

 だがアーテルはそれを、身体を翻しながら前へと飛び、その腕に乗るとさらにそのまま駆ける。


「覚えときな! 海賊の恐ろしさと身のこなし! それから―――!」


 敵の腕が大きく上がるが、ソレを利用してアーテルも大きく、前へと跳ぶ。

 獲物を捕らえた、鋭い目。


「宝を傷つけた、その怒りをな―――」


 その勢いのまま、アーテルは剣を携え、首へと振るい、一刀両断する。動けなくなった敵の死体はそのまま地へと崩れ去る。

 勢いを殺せずにアーテルは地面へと二、三度転がると、うまく脚で地面を捉え、停止をかけるように力をこめて勢いを和らげる。

 ふぅ、と、彼は息を整えて周囲の確認をする。やや荒れてしまったものの、敵は全て片付けたようだ。一安心したかのように彼は口角を上げると剣を鞘へと収めた。


=====


 ほどなくして、主戦場だった大通りにアーテルの船員が集まり、アーテルは指示をかけていた。

 そのとき、後ろに誰かが降り立つ音を聞き、アーテルは振り返る。


「……」

「おう、ブランじゃねーか。お目当ての奴は見つかったのか?」

「逃がした……いや、見つけられなかった、の間違いかしらね」


 アーテルの船員たちがざわめきを起こす。どうやら、「アーテルの首を獲りにきた賞金首の女がいる」というのが広まっていたらしい。だがアーテルは後ろ手で抑制して騒ぎを収める。


「となると、まだこの街にいるか、もう逃がしたかのどっちかだな」

「後者の可能性が高いわね。奴等は恐らくそういうの得意そうだし」

「いや、もしかしたらお前さんが殺した中に何らかの知り合いがいて、そいつが運悪く魔道士……ってこともありえなくはないんだぜ?」


 腰に手を当て、意外と真剣な表情でアーテルはそういう。ブランは腕を組んだが、やがて「可能性はある」とだけつぶやく。


「奴を狩ったときに、魔道士のような奴に攻撃を受けたからね。ま、あくまで可能性の一つだけど」

「……ならちょうどいい」


 ちょうどいい。その変な言葉に船員たちが顔を見合わせる。ブランも訳が分からなそうであったが、表情は変わらなかった。

 アーテルは言う。


「復興のためにはまずは景気を養う必要がある。俺たちゃ海賊。そういうのは得意中の得意。そうだろ、お前等?」

「「「もちろん!!」」」


 船員の威勢のいい声を聞き、アーテルも愉快そうに笑い出す。

 それが何故「ちょうどいい」のか、ブランにはまだ分からなかったが……だが一つだけ、なんとなくあてはあった。


「そのためにも『華』が必要だ。それも飛びっきりの。ってわけで……」


 ブランを一点に見据えるアーテル。ブランは今すぐこの場を離れようとしたが、それよりもなぜか早くアーテルがダッシュで近づいてきて腕をつかまれる。


「お前にはその『華』役をやってもらいたい。魔道士も正体も知られて幸運! だろ?」


 その意味の理解が分からなかった船員たちだったが、その数秒後に驚きの声が上がる。

 ブランはこれっぽちも知りたくなかったのだが……今の状態では逃げられそうにないので仕方なく承認した。

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