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賞金首が何故か賞金稼ぎに愚痴った

4話目。ラッキースケベめ……。

「バカ野郎!? 殺す気か!?」

「あ、あああああ当たり前よ! というか、数秒ぐらい前まで殺しにかかってたでしょうが!?」


 急激に跳ね起きていきなり刺しにかかったが、アーテルはギリギリで避けたものの、急だったためか尻餅をついており、ブランはと言うと右手にソードブレイカーを持ちながらわなわなと顔面を真っ赤にしてアーテルに突きつけていた。

 因みに、本来ソードブレイカーは「相手の刃を折るための防衛武器」に近く、刺す際の殺傷力は他に劣る。それに気付いていないほど、今の状況がとんでもなくおかしく感じているのだろう。


「てかまず落ち着け! 実力はもう分かってるだろ!? こ、このまま続けるなら、今度は命の保障はないからな!!?」

「何でアンタが動揺してんのよ! というかもう殺す! ここで死んで貰う!」

「だぁぁぁぁ!! 落ち着け!!」


 これが落ち着いていられるか!! という叫びと共にソードブレイカーを振り下ろすがアーテルは剣を水平にしてガードする。何故かアーテルが押されてるように見えるが、おそらくブランの怒りなどが混ざっているからであろう。


「分かった! 分かったから! 頼む、さっきの発言は忘れてもう帰っていいからな!」

「手ぶらで帰れるもんですか!? こうして目の前に賞金首がいるのに狩らず帰る賞金稼ぎがいるの!?」

「俺別に悪いことなんざ何一つしてないでしょうが! ただそこに宝があったから盗んできたり!」

「その時点で立派な海賊でしょうが!!」

「とにかく落ち着けってのー!!」


 アーテルは何とか弾き返そうとして剣を押し込むようにブランへと立ち上がりながら突撃するが、あまりにも急だったためかバランスを崩し、そのままブランへと覆いかぶさるように転んだ。


「ひゃふっ!?」

「ぬおっ!? ……や、やわらかい」


 しかも覆いかぶさったアーテルの頭はちょうど、ブランの胸部に触れていた。

 ちゃんと女性と分かるように、そして巨乳とまでは行かないがなかなか立派なモノを持っている。この1秒にも満たない出来事でアーテルはすごい速さで分析した。

 あえてこのまま過ごすのも悪くない、アーテルの頭はまるでお花畑のように、夢のように広がっていた―――


「……ぶっ潰す」


 その声を聞いた途端、ものすごい勢いでアーテルはその場を離れる。声の主はどう考えてもブランだが、その一言にはとんでもない殺意―――下手をすれば先ほどの戦いの際の彼女よりももっと大きいものであった。


「あ、あの……えーっと……ブランさん……でしたっけ?」


 仮にもアーテルは海賊の頭領なのだが、思わず敬語でブランの様子を伺う。しかしこの言葉は今のブランには通用しない。それは分かってはいたが……どうしても言わなくてはいけなかった。結果はご覧の通りだが―――


「アンタは跡形もなく斬り刻んでやる!!」

「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」


======


「ぜえ……はぁ……」


 二人はもの凄く息が上がっていた。一体どれほどまでの時間がかかったか定かではないが、太陽は少しだけ上がっているようだった。

 あれからブランの猛攻を必死で弾き返しつつ―――身体には若干の切り傷が数ヵ所あったため完全には防ぎきれなかったが―――必死に謝罪の言葉を述べるものの、それでもブランは止まらなかった。しょうがないのでそのまま押し返して距離を離し、そして今に至る。


「……正直、すまんかった」

「……ここまで侮辱されたのはアンタが初めてよ」

「……だが、あえて言う。お前俺の踊り子になってみないか?」

「本当にぶっ殺すぞ」


 まるで会話が繋がっていないような、そんな状態だが、アーテルはニヤリと笑う。


「強くて可憐な女を俺は探してたんだよ。さすがに賞金稼ぎとして今まで生きていたみたいだが、俺達の仲間になれば金も仲間も自由もある。どうだ、よっぽどこっちのほうが楽しいだろうよ」

「……ホント、聞いて呆れるんだけど。同時にいつでもアンタの首を狩れるのよ」


 アンタが油断してる限りは。とブランは付け加える。そりゃそうだな。とアーテルは呟きながらその場にドサリと座り込み、剣を鞘に収める。アーテルは続ける。


「まぁそんなことしたらお前は即座に他の船員に……まぁ殺されるこたぁねぇだろうが、お前女だから多分あんなことやこんなことされるぞ」

「その前に、そいつらの命を絶てる自信があるけどね」

「その自信はどこからでるのやら」


 不機嫌そうに聞こえるアーテルの言葉は心底愉快そうであった。何分、彼は強い奴は結構好きで、そして今目の前にいるのは中々の美女だ。そうやって一対多でも『勝てる』と言いのけるのであれば好きを通り越して惚れる、そう思っていた。


「気に入ったぜお前。無理矢理にでも俺の船の踊り子にしたくなった」

「……ちょっと待ちなさいよ。というか、何でそもそも『踊り子』を募集してるのよ」


 おそらく誰もが気になったことを、ブランは今更ながら聞いてみる。アーテルは胡坐をかきながら、さも当然のように言い放った。


「そりゃお前、俺の船には『華』がないからな」

「……は?」

「だから華だっての。宴を始めるときにゃ華が必要だろうが。その華なしに何が宴だよ全く……」


 後半はまるで愚痴のように不機嫌そうに言う。その言動に、思わずブランは今までの努力がむなしくなるように力が抜けたらしく、同じくその場に座り込んでしまう。


「ホント……アンタって本当に賞金首なの? 正直、偽者じゃないのって疑ってるんだけど」

「正真正銘、本物のアーテルさんだっての。つーかそもそも賞金首になった覚えはないんだが」

「そりゃ、宝盗んだりどっかの街制圧したり……そんなことしてたんでしょうが」

「……ちょっと待て、後半のそいつにゃ異議がある。別にどっかの街を制圧した覚えは……まぁ一応あるな」

「……こいつは」


 おい待てよ。とアーテルは何かを付け加えようとしていた。しかしブランは疑ってるかのように目を向けている。溜息をつくアーテル。本当に理由があってだな、と言うがやはりというかブランはそのまま疑いの目を向けていた。それでもアーテルは続ける。


「まぁ話ぐらいは聞いてくれ。実はだな……」

「船長、こんなとこで何やってるんだ?」


 ん? と、アーテルは声をかけられた方向へ目を向けた。どうやらやや大柄な船員の一人が荷物を持って帰ってきたところであった。


「ラジルじゃねーか。他の奴らは?」

「割とその辺出回ってる。で、あっちの女性は?」

「俺の船の踊り子候補」


 さらりとアーテルは言いのける。ふーん。とラジルはスルーしかけたがやがて大きく吹き出す。


「おい船長! とうとうそんなこと言い出したのかよ!?」

「当たり前だろうが! 華なくして何が宴だよコンチキショウ!!」

「あぁ……だからあんまり船の宴に参加したくなかったんだな。で、あの女性は一体?」

「俺の首を獲りに来た賞金稼ぎ」


 さも当然のように言いのけたアーテル。ラジルは今度はスルーせずにとんでもない驚きを見せる。


「いや、ちょ、おい船長!? アンタどんな神経してんだよ!? そんなヤツを置けるわけないだろうが!?」

「うるせぇ! 野望のためなら経緯は関係ねぇ! アイツは船の踊り子だ!」


 なんて小さい野望なんだよ! ラジルは驚きを隠せないまま、アーテルとの口喧嘩らしきモノを始める。そんな光景を見てただ一人、置いてけぼりのブランは溜息しかつけなかった。何と言うか、あまりにも自由、いや、気楽過ぎるからであろう。

 そんな周りを気にしていない状態の彼を今すぐに刺し殺せそうな気がするが、ああ見えてもアーテルはかなり腕が立つ。それだけは分かっていた。下手に殺しにかかれば逆にやられる。そして―――


「……ッッッッ!!?」


 なんて考えをしているんだ私は。無意識に両手を顔に当てて無理矢理平常心を保とうとする。

 そもそもこんな奴らが近くにいるのが悪いんだ。私は何にも悪くない。そう思いながらブランは立ち上がり、深呼吸をした後アーテルとラジルの横を通り過ぎていく。それに気付いたアーテルはブランに声をかける。


「おい、ブラン」

「……何よ」

「首、獲らねぇのか? ここに絶好の賞金首がいるってのに」

「……いろいろ疲れたのよ私は。アンタと出会う前からも一仕事終えたところだし」

「ふーん」


 じゃあね。とだけブランは告げて今度こそその場を離れようとするが、アーテルがまた声をかけた。


「踊り子、どうする?」

「こっちから願い下げ。ただ、もし次会うとするなら……今度こそアンタの首を獲る」

「……そっか」


 アーテルは残念そうに呟くがそれ以上何も言わず、ただ去り行くブランの背を眺めていただけであった。

 ラジルがアーテルの肩をポン、と叩く。


「フラれちまいましたね」

「慰めにもなんねぇよ」


 肩をすくめながらアーテルは口角を上げる。折角上玉が見つかったってのに取り逃がしてしまった。だがかなりの大物で、次こそは本当に殺されるかもな。とアーテルはそう思いながらぶら下げている剣の柄にそっと触れる。


 直後。


「……あン?」


 遠くかすかに、だが確実に聞こえた音。まるで何かが爆発したような音だ。

 何か事件が起きそうだな、いや、起きているか。アーテルは笑みを浮かべ、だが瞳は真剣そのもので音の方角を見ていた。

 すぐにアーテルはラジルに告げる。


「ラジル。テメェは他の船員と連携して街の人の避難にまわれ。折角こうして泊めて貰ってんだ、恩義には報いなくちゃな」

「イエッサー! 船長は?」

「もちろん、その元凶を止めにかかってやる。それに……」


 アーテルはいつの間にかその場にいなくなっている彼女を探すように道に目をむけ、ゆっくりと、だが大きく歩き始める。その風格は、海賊の頭領に恥じない。


「折角の華を見つけたんだ。他の誰かに盗られる前に俺が奪ってやるさ」




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