賞金首と賞金稼ぎが激突した。
三話目。戦闘描写が難しい……。
「………」
「……ふぅ、関心しねぇな。いきなり案内してやろうって奴の背を貫くこたぁねぇだろ」
彼女は状況を整理する。この大通りで、彼を突き殺そうとした。
だが……彼の反応速度は尋常ではなく、腕で彼女の手を払い軌道を逸らした。
素早く下がった彼女ではあるが、彼は攻撃態勢を取らず、払った姿勢のまま息を付く。
「ま、こんなとこじゃいろいろと面倒なことになるな……付いて来い。俺の首を獲るのはそこでだ」
「……」
「安心しな。さっきも言った通り船には仲間はいねぇし、卑怯な罠もない。もし仮にそいつらが来たところで俺は抑制させてお前とタイマンだ。俺が死んだらそのまま首やらやるよ」
そういって彼は逃げるかのように、だが彼女をしっかりと見ながらその場を離れる。
本当について来い、と言っているのか。嘘も言わずにただ覚悟しかない、まるで話で聞いた武人であるかのように、彼は堂々としていた。
その行動に感服しながらも、彼女もまたその背を追いかける。人々のざわめきを聞きながら。
その二人の背を見ながら、ある人物は獲物を見つけたかのように舌なめずりをした。
身長は2mほどのある大柄な、軽鎧をまとった男であった。
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「おう、来たな」
停泊所。彼の船の近くで、彼は彼女を待ち構えていた。手には綺麗な反りの、細長い片手剣らしき武器を携えながら。
そして、対面にいる彼女は両手にダガーを持ち。脇を広げながらも隙を見せない構えを取っていた。表情は真剣そのもの。どうやら本気で殺しにかかってると、彼は全身で感じた。
「まず一つ。いつから私が賞金稼ぎだと知った?」
「ぶっちゃけると、さっきダガーを突きつけられたときだな。あそこまではお前が賞金稼ぎだとは気付かなかった」
「……呆れるわね、アンタ」
「何せ、お前みたいなクールで可憐な賞金稼ぎなんて見たことないからな。そうじゃなかったら気付けてたんだがな」
ニカッと笑いながら、だが今までのように隙を見せない体勢で彼は率直に言う。それを彼女は息を短く切っただけで何も反応しなかった。
「……ま、無駄話はここまでだ……俺の首を取りに来たんだろ? 賞金稼ぎさんよ」
「えぇ。そうね」
二人の表情は真剣そのものだ。勝負なんて生ぬるいものでもない。
この世界の真理―――やるかやられるか、命がけの戦いであった。
「だったら来いよ。……アーテル・ウィントゥスの首、獲ってみろよ!」
「……ブラン・フードゥル、アンタを狩る!」
ブランが一直線にアーテルの元へと駆け出す。アーテルは小さく息を付き、剣の先端をブランに突き刺すような構えを取る。
即座に詰められた距離。ブランはそのまま右手を振るいながらアーテルの左腕を斬りにかかる。それを反応してアーテルは身を素早く引く。勢いのままブランは身体を捻らせ、その勢いで左手で斬る。それをアーテルは剣で受け止める。静かな港に飛び散る火花、それに生じて出来た音。アーテルははじき返しながらも息をもう一度短く吐く。下がったブランだが、即座にダガーを一つ、アーテルに一直線に投げつけ、さらに遅らせながらもう一本を投げつける。アーテルは一本目は剣で弾き、もう一本も剣を振るって弾く。ダガーが地面に散らばる音を立てる。
ブランは今、見た限りでは丸腰ではあるが、アーテルはそのまま警戒し、先ほどの構えを取る。首を獲れ、とは言ったが、こっちから傷つけるなんてごめんであった。だがブランは一度屈みこんだあと、即座に腕を広げ今度は船体へ向けて飛ぶ。その両手の煌きで、アーテルは即座に警戒をさらに強める。おそらく、屈み込んだ際に更にダガーを取り出したのだろう。あのコートの中に武器が仕込まれているとなるとなかなか予想は付かないが、それでも油断は出来ない相手であったのは確か。
ブランは重力を無視してるかのように船体を蹴り、その反動で一直線にアーテルへと突撃する。アーテルは素早く身体をそらしながらその場をバックステップで避ける。だがその隙を突くかのようにブランは着地した直後、一本のダガーをアーテルへと向けて飛ばす。突然ながらも、無理やり地面を蹴って身体を浮かせ、ダガーを避ける。着地の際によろめきながらも即座に防御の構えを取る。瞬間、ブランが突撃してきて全身を強張らせる。しかしブランは寸前で身を屈めて左手を軸に、足元へ向けて後ろ回し蹴りを食らわす。靴と靴が鈍い音をたて、アーテルは思わず顔をしかめるが耐え切り、よろけるのを防ぐ。
またブランは一度下がり、だがすぐに大胆に一直線に突撃。息つく暇もない猛攻だが、アーテルは左腰にぶら下げている鞘を取り、今度はアーテルからも突撃する。ダガーと鞘がぶつかり、だが元々の身体がその勢いの決着をつけ、ブランが吹き飛ぶ。二、三回、硬い地面を転がり呼吸を大きく整える。隙が出来ているものの、アーテルはただ息を吐いただけで、何もしてこなかった。
「……今殺さなかったこと、後悔するわよ」
「それもいい。美女に殺されるのなら悪くないが……あいにく、今叶えたいものがあるからそれは出来ないな」
「その願いは一生叶えられなくしてやる……!」
ブランは懐からまたダガーを一本取り出し、右手に持つ。だが形状が何か違う。刃自体は三角形だが―――
「まさか……ソードブレイカーか?」
アーテルの剣が細いからか、折りに行こうとしてるのだろう。刃が凹凸状になっており、相手の剣を制限するには非常に強い短刀の一種。だがそんな脅威の武器を見ながらもアーテルは「へっ」と笑っただけだった。
「だったら試してみるか……この『名刀』がどんぐらいの強度なのかを!」
一直線に、今度はアーテルから剣を両手で持ち、突撃する。ブランは両腕を交差させ、構えを取る。
ソードブレイカーと、名刀が衝突する。刃と刃による金属音を発生させ、だが折ることもなく、むしろ押し込んでいく。
だがブランはその状態のまま、左手を器用に動かしてアーテルの首元めがけて今度こそ刺しにかかる。
「やるな、だが―――」
グン、と、アーテルは剣ごと身体を捻らせ、大きく体勢を崩させる。突然の対応、そして力が完全に足まで届いていなかったことが仇となったのか、ブランの一撃ごと大きく体勢を崩される。
刃と刃が離れる、アーテルは若干後悔するかのような顔と共に剣を、無防備なブランの背に一撃浴びせる。
斬ってはいない。アーテルの持っている剣は片刃のみで、もう片刃には刃はない。ただ、コートに仕込まれていたであろう鉄の音と接触し、鈍い音を立てるが、勢いと衝撃がそのままブランに伝わり、地面へ衝突する。
「終わり、だな」
アーテルはブランの首元に刃を向ける。咳き込むだけのブランに、「悪いな」とだけ告げる。
ブランは実感した、だが、まだ動けるはず。一瞬の隙を狙って攻勢に出れば、殺せる。
だが、来ない。
「……?」
私は死んでいるのか? いや、まだ意識もある程度あり、ちゃんと相手が見える。
だが、いつまで経っても来ない。
「……」
アーテルはブランに刃を向けたまま、空いている方の腕でブランの肩を掴み、うつ伏せから仰向けにさせる。ブランは抵抗しなかった。相手の行動に不思議に思えて、そして何よりも―――
「……うん」
「……?」
何故だか、アーテルからは殺気を何一つ感じられなかった。あれだけ、殺そうと思っていたのにも関わらず、最初に出会ったかのように、まるで何かを探しているような感じであった。
と、アーテルの刃がブランの目の前から遠ざけ、身体のほうへと向け始める……が、その先端は何かを探っているかのようだった。
何かを悩むようなアーテルの表情。この状態だと、いつでも刺される可能性があるため、ブランは迂闊に動けなかった。
そして、何かを感じたかのようにアーテルはやや満足そうにうなずき、一言ポツリと漏らした
「素材は……いいな」
「……?」
ブランがこの言葉を理解したのは数秒後だった。