賞金稼ぎが何故か賞金首に勧誘された
二話目。長い時間はかかったものの、やっと二話目ですよ。
どうでもいいけど、サブタイトルが思いつかない……ぐぬぬ
夜が明け、水平線に朝日がさす。その朝日を浴びながら一隻の船が港町に辿り着こうとしていた。見るからに若干怪しいような気がするが、この港町は来るもの拒まず去る者追わずをモットーとしている、言わば中立的立場に当たる。
自由で活気な反面、横暴なども入り混じる、安全と危険が見事に混ざり合った港町、と言えるだろう。
船が港へ辿り着き、橋がかかり、一人の人物が姿を現す。船長である彼だ。曰く、「こういうのは一番偉い奴が直々に話をつけるべき」ということで、暫く船を泊めてもらえるかの交渉に出ることにしている。
少し背の低い男が、彼の姿を見るや速足で彼の元へやってきて、にこやかな笑顔で紙とペンを渡した。それを普通に受け取ると、彼はサインし始めた。その間に他愛ない世間話をいくつか交え、やがて男は離れていった。
その後姿を見て、彼は感服した。なんというか、肝が据わっていたからだろう。
「この港町は中立側っつったが……予想以上だな」
思わずつぶやく。最近を振り返ってみても、あれだけ態度を変えずにあんな接し方をするのはあまり見てはいない。
せっかくだ。ちょいといろんなところを見て回ろうか。彼はそう思いながら一度船へと戻り、船員たちの下へ。船員たちはほぼ全員、一見海賊とは思われないような服を着ている。
「こうして見守ってくれる奴もいるし、全員自由行動だ。だがあんまり派手なことやらかすんじゃねぇぜ?」
不敵な笑みを浮かべながら彼はそう告げる。その言葉に船員たちは大きく「サー! イエッサー!」と応える。その言葉に彼は大きくうなずき、やがて一度自室へと戻っていく。自分も着替えるため、そして、少し前に冒険で手に入れた綺麗な宝石を売るために。
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「……ふぅ」
賞金稼ぎである彼女は港町にたどり着いており、噴水広場のその噴水の縁に腰掛けていた。
本当なら宿屋でぐっすりと寝たいはずだったのだが、深夜に起こった出来事が焼きついており何故だか気が抜けなかった。こうして町にいる以上、その安全は保障されているはずなのはなんとなく分かってはいるが、長年ついてある自身の感覚がなかなか許されなかった。
「おーい、そこの嬢ちゃん」
声をかけられた。大柄の、どう見ても頭の悪そうな大柄な男数名に。視線はあえて逸らしながら次の言葉を待つ。
「俺たち、今譲ちゃんみたいなカワイイ女を募集してるんだよ。で、どうだ? 来てみないか?」
「悪いけど、興味ない」
明らかなまでに悪い誘いをさらりとスルーする彼女。しかしそれでも男たちは気にせず勧誘する。
「まぁそう言わずに。割とお金稼げるんだよ? しかも楽ーに」
「だからここは思い切ってどう?」
視線はそのまま、彼女は何も言わない。それでも男たちは口達者に彼女を勧誘し続ける。
ホント、面倒な奴等。言葉攻めの中やがて面倒になったかのように彼女は立ち上がり、目をつぶる。
「お、やっと決まったかい?」
「……そうね」
その一言と共に、彼女は一直線に男一人目掛けて腹部に拳を捻り込ます。いきなりの攻撃にその男は耐えられず、その場に倒れる。
「アンタたちをぶっ飛ばそうって考えが決まった」
「……ひっ!?」
ドスの効いた声で男たちを脅す。その声に男たちは驚き、すぐに我先にとその場から逃げ始める。その背を見て彼女は短めのため息を吐き、下でうずくまってる男を無理やり立ち上がらせる。
「おいアンタ」
「は、はい!?」
「二度とこんな勧誘、やるんじゃないってアイツらにも伝えておいて」
「は、はいぃぃぃ!!」
男はそのまま何処かへと逃走するようにその場を離れる。歯ごたえのなさそうに彼女はため息をついた。
「根性のない奴ら」
それだけ呟くと、また同じように縁に腰かける。これでも、数々の賞金首を狩った賞金稼ぎであるのだから恐れとか、そういうのはあまりない。
疲れたかのように一息つく。この先、とりあえず休息して、証拠を売り払らって、また稼ぎに行く。いつも通りの日々をただひたすらに生きようと、一度この場を離れようとして―――
そして、偶然にも獲物を見つけた。
「あれは……」
髭を少し生やしガサツに伸びた茶髪の40代ぐらいの、一見冒険者風の格好をした男が、何故かこちらに近づいていた。しかし表情は何かを聞こうとしているような顔だ。
警戒心のないやつ、と思いながらも彼女はあえて獲物を待つようにその場から動かず、また気付いていない振りをしながら相手の行動を窺った。
距離にして3mほど。自分の間合いであるが、相手も武器を持っている。警戒心をさらに強めながらも、待つ。
「なぁ、アンタ」
「何?」
「この辺りで、腕っ節の強い女を見なかったか?」
「……」
さっきの仲間か? 彼女は彼の表情を窺う。その顔には特に復讐とか、敵討ちとか、そういった表情は見受けられない。どうやら赤の他人のようだ。
「……で?」
「いや、ぜひともそいつに会ってみたいもんだなって。まぁお前も可愛いっちゃ可愛いけどな」
「なっ!?」
突然言われた言葉に動揺し、思わずひっくり返りそうになるが必死にこらえ、平常心を保つように息を整える。
何かの作戦なのか!? 彼女はただそれだけを思いながら、先ほどよりも強く警戒する。
「それで、そいつがどこに行ったか知らないか?」
「……それが、私だとしたら?」
「お? お前が正体ってことか。こりゃいいねぇ」
彼は大きく笑う。彼女は呆れたかのようにため息を吐くと急に立ち上がり、彼を一直線に見ていた。
こいつ、本当に私が賞金稼ぎだということに気付いていないのか? そんな想いが彼女の脳裏にあった。
まず賞金首はわざわざそんな顔がばれてるような状態で出歩かないし、ましてや部下も引き連れずに単独で歩くなんて異常である。彼女の見てきた賞金首はたいてい隠れてたり部下を引き連れたりしているのだが、今見ている男にはそういったモノはまったく見受けられない。
それどころか、自分が賞金首であることを自覚していないのか? いくらなんでも無用心すぎる彼に思わず気をかけてしまうほどに、今の彼は一言で表すのなら「アホ」である。
「……で、何の用事?」
「いや、まぁ用事ってほどでも……あるが、まず簡単な質問に答えてもらえないか?」
「……別にいいけど」
隙だらけの彼をこの世から去らせるのは今のところ簡単ではあるが……何をしてくるのか分からない。彼女は確実に狩り殺せる気を窺いながら、彼の言葉を待つ。
「質問1、今独りか?」
「見れば分かるでしょ」
「質問2、船酔いしやすいか?」
「……正直、船乗ったことないから分かんない」
「質問3、身体に自信はあるか?」
「ぶっ飛ばすぞ」
今すぐに殺してやろうかと思ったが思いっきりこらえる。彼は「すまんかった」と謝罪の言葉を述べながらさらに続ける。
「質問4、宝は好きか?」
「……別に」
「質問5、踊り子になってみないか?」
「……待て、今なんて言った?」
「え?」と、彼は何故だかとぼけた表情を出す。本気で今この場で殺そうかと思い、袖に隠してあるダガーを取り出しかけたがまだ抑える。
「いやだから、踊り子になってみないかって聞いただけなんだが」
「どっからどう考えてもそれが本題でしょ!?」
「………バレたか」
「アンタ本当にアホよね………」
心の声が思わず出てしまうほどに、今目の前にいる彼は警戒心がなさ過ぎる上にどう考えても本題でありそうな質問をさりげなく入れてバレている。呆れてため息しかつけなかった。
これが、高額の賞金首なのか? と疑ってしまうほどに。
「まぁとにかくだ。俺の船は船員募集中。出来れば腕っ節が強くて可憐な女性。ちょうどお前ぐらいを探していたんだよ」
「……とことん隠す気のない奴」
独り言のように彼女はボソリと呟くが、彼は気にも留めないようで、言葉を続けた。
「で、どうだ? 金は今この宝石を売っぱらって出た金を渡すが……」
「別にいいわよ。……それより、ちょうど行ってみたいところがある。付き合ってくれない?」
もちろん嘘だ。何処かへ行くというのは裏を返せば「殺すからなるべく人気のないところを探す」ということ。とにかく、首と証拠品―――おそらく船を泊めてあるはずなのでそこから何か奪えばいい―――を渡してしまえばいいだけ。先ほどの出来事が何処かへと忘却されたかのように、彼女はいつでも殺せるように、相手に悟られないように身構える。
「おういいぜ。だが、付き合った礼として、さっきの件考えてくれよ」
「えぇ」
それだけ言うと、彼女を先頭に彼は付いて行く。一度彼女は彼を確認する。彼は頭の後ろで手を組んで本当に無防備な状態であった。
いつでも刺せそうではあるが……どうする? 彼女は歩きながらも周囲を確認する。噴水広場から離れて大通り、人はまばらながらもそれなりにいる。しかしこちらを噂する様子は何一つない。どうやら中立側なだけあってこういった賞金首の顔を覚える人はいなそうではあった。
と、ふと彼の言葉を思い出し、立ち止まらずに彼に質問した。
「……そういえば、船を持っているし船員もいる……的なことを話していたわよね」
「あぁ。まぁな」
「今その人たちいるの?」
「いや、全員出払ってる。こういった中立側の町では基本的に全員自由行動で好き勝手させてんのが俺の船のルールさ」
「……それで船盗まれたらどうすんのよ」
「まぁここの港は管理人もいるしな。早々盗まれることはねぇだろうよ」
彼はまた豪快に笑う。その笑い声を受け流しながら、彼女は考えをまとめていた。
そして今更ながら後悔する。これだけ無防備な奴が近くにいるのに、何故殺せていなかったのかを。後悔はしたが……後戻りは出来ない。彼女は意を決して、彼の方を振り返る。
「じゃ、その船に案内してもらえない?」
「お、考えてくれたか? 大歓迎大歓迎。こっちだ。付いて来い!」
船長らしい掛け声と共に、彼が今度は彼女の前に早足で立ち、そして案内しようとした。
その一瞬の刹那。
彼女は右袖からダガーを取り出し、彼の背中に向けて一直線に突き出した―――