最近流行りの強奪系スキルを貰ったけど思ってたのと違う件
辺りを見渡せば闇、闇、闇。そして俺の周りには光、光、そして光。
視界の先の空間に歪みがあり、見知らぬ街並みが映しだされている。どうやらこの光の道もあそこで終点の様だ。あそこから、第二の人生が始まるのだろう。
俺は最近トラックに轢かれて死んで、異世界へ転生した。巷で話題沸騰中のトラ転ってやつだ。
最近はトラ転目当てでトラックに当たりに行く奴も多く、運送業界も中々大変らしい。世知辛い世の中だよ全く。
大体、トラックに轢かれれば本当に転生出来るのかも怪しいのによくやるものだ。言っておくが、俺は決してわざとではない。チャリ通JKのパンチラに気を取られている一瞬の隙を、トラックが見逃さなかったのだ。
そして俺は転生する時に、神様から貰える特典スキル、いわゆるチートとして、流行りの『他者からスキルを強奪出来る能力』を貰った。
神様からは『え~っ、マジでそのスキルにするの? マジで?』という感じの、哀れみの篭った目で見られたけど関係ない。頼み込んで、赤子からスタートだったのを死ぬ直前と同じ二十歳の体にして貰ったし完璧だ。
このスキルがあれば強くなるのも楽々簡単だし、神にも悪魔にもハーレム王にも思いのままなれるぜ、ヒャッハー!!
そう考えながら、俺は剣と魔法とモンスターのあふれるテンプレ異世界に降り立った。
「おー、ここが異世界か。マジで中世ヨーロッパだなこりゃ。いや見たこと無いけどな、中世ヨーロッパ」
思わず出た独り言に、少し周りから視線が集まる。
おっといかん、浮かれすぎだ。変に目立たない様にしないとな。というか独り言よりも、まず俺がここに急に現れた事に驚くものじゃないか?。テレポートとかは割と普通なんだろうか。それとも神様が何かしたのか。よく見れば俺の着てる服もこっちの世界の服に変わっているし。
思考を巡らせている内にすっかり注目も失われて居たようで、俺は散策と獲物の物色の為に街を歩き出した。
(まあ、とにもかくにも強奪スキルを使わなくちゃ始まらないよな)
貰えるスキルはひとつだったので、鑑定スキル等で誰がどのスキルを持っているかは一目では把握出来ない。鑑定スキルを強奪するまでは我慢だな。
早く強そうなスキルが欲しいが、いきなりレベルの高い相手から強奪できるかも分からないし、感づかれて敵対行動を取られても現時点ではどうしようもない。
まずはその辺の一般人から当たり障りのないスキルでも奪って練習するか。今居る場所は露天の並ぶ通りで人も多い。何かあっても人混みに紛れてしまえるだろう。そう思って適当に目に入ったおっさんに当たりをつけて、強奪スキルを起動した。
『初回起動設定を行います。マスター名『ゴウダツヨシ』を登録……登録完了。ナビゲーターに名前を付けて下さい』
「……はっ?」
突如頭に女の声が響いてきた。意味が分からない。ナビゲーター? 何それ。早くスキル使わせろよ。
『ナビゲーターに名前を付けて下さい』
うぜえ。でもスキルは処理途中で止まってしまってウンともスンとも言わない。どうやら名前を付けないとどうにもならないらしい。
『名前をつーけーてーくーだーさーいー!』
「うっせえ! 名前なんてどうでもいいだろ! じゃあナビ太郎だ! ハイ決定!」
『女の子なのでもっと可愛い名前を付けて下さい。ナビ子はダメです』
はぁぁあ? ふざけんなコイツ。いいから早くスキル使わせろやああああ!
『はーやーくーしーてーくーだーさーいー!!』
「うっさいうっさい! 分かったから静かにしろ! くそっ、じゃあナナコだ! これでいいだろ!」
『ナビゲーター名『ナナコ』登録いたしました。起動処理を終了いたします。しばらくお待ち下さい』
一体何なんだ!? 俺が貰ったのってスキル強奪能力だろ? 何で訳の分からん奴の名前を付けなきゃならんのだ。一体全体どうなってるんだ。
気づけば周囲がざわついている。その人々の視線の先にいるのは俺。考えてみればこの“声”は他の人間には聞こえていない様だし、俺は一人で騒ぎまくっている奇人に見えても仕方がない。何てこった、気づかれずスキル強奪するはずが、何もしていない内に大注目を集めてしまったぞ。
途方に暮れている俺を尻目に、事態の原因である“ソイツ”はこれでもかというくらい明るい声で話しかけてきた。
『はじめましてマスター! 強奪スキルナビゲーターのナナコです! ナナちゃんって呼んで下さいね!』
うん、落ち着け俺。まだ慌てるような場面じゃない。強奪スキルナビゲーターって言ったよなコレ。と言うことはだ、強奪スキルを使うにはこの自己主張の激しいナビゲーターとやらの相手をしないといけないと言う事か? マジで? 呪いじゃないかこれ?
『マスター? 聞こえてますか~?』
「うるさい、聞こえてるから静かにしろ」
先ほどの教訓を活かして、俺は心を落ち着けて努めて小声で話した。
『あははは、こっそり小声とかマスターかわい~』
くそっ、どつけるものならどつきたい。
『そんな小声で話さなくても、私に話しかける気持ちで強く念じればお話出来るんですよ!』
『それを早く言え!』
『あっ、聞こえました! さっすが私のマスター! 飲み込みが早いですね!』
褒められても全然嬉しくない。何にしても、強奪スキルを使うには場所を移すしか無いだろう。既にここではスキルを使える雰囲気でもないし気分でもない。
俺は足早に通りを抜けて、細い路地へと入った。
『よし、まず聞きたい事があるから答えろ』
『はーいマスター。何でも聞いて下さい!』
『強奪スキルナビゲーターという事だが、お前の役割は何だ』
『お前ではありません、ナナコです。ナナちゃんと呼んで下さい!』
くそっうぜえ! ナビゲーターならサックリとナビゲートせんかいこのクソナビがあ!
『……ナナコ、お前の役割は何だ?』
『ナビゲーターの役割は、強奪スキル発動の補助とメニュー画面の視覚表示、及びその案内になっております!』
……やはり強奪スキルはこいつを使わなければ発動出来ないようだ。なんという頭の痛いスキルだ。
しかし、考えてみればこれだけ危険極まりない理不尽なスキルなのだから、この程度のデメリットがあるのもやむを得ないのでは無いだろうか? うん、そう思おう。そう思わないとやっていられない。
『スキルを使う為の手順は?』
『はい、まずスキルを起動致しますと同時にナビゲーターの私も起動致します。そうしましたら次に、強奪スキルの対象を選択致します。対象が決定致しましたら、私が対象のステータス及びスキルリストを視覚情報としてお送り致しますので、そのスキルリストから強奪するスキルを選択して実行という手順になります』
『ふ~む』
……なるほど、要するに俺の知るアニメやラノベでは使用者一人でやっていた事を、こいつの補助を受けてやるといった感じだな。そこまで変な仕様でなくて良かった。
気を取り直して路地を暫く進み路地裏に出ると、まだ明るいというのに表通りとは違う陰鬱な空気を纏う一角へ出た。これがスラムってやつか?
「いてっ!」
などと考えて居ると、向こうから走ってきたらしいみすぼらしい姿の少年が俺とぶつかって転んだ。テンプレだとスリのパターンか? とりあえずこいつで試してみるか。
『強奪スキルの対象をコイツに決定だ』
『はーい。ステータス、及びスキルリストを表示しますね!』
【種族:人間】【名前:アレクセイ】【年齢:10】
【所持スキル:天眼Lv1】
おっ、いきなり当たりっぽいスキルがあるぞ。これどんなスキルだろう。詳細希望。
『天眼というスキルがどんなスキルか分かるか?』
『はい、天眼とは全てを見通す事の出来ると言われる魔眼系のレアスキルですね!』
やはり当たりの様だ。幸先が良いじゃないか。これも日頃の行いってやつかも知れないな。
『よし、天眼を奪うぞ』
『え?』
『え? じゃないよ。天眼を奪うぞ! はやくしろ!!』
『それを奪うなんてとんでもない!』
…………? …………!?
おいィイイイイイ!? 何だ? コイツ今何て言った?
『おい、冗談言ってる場合じゃないんだけど? 早くしないと怒るぞ』
『冗談じゃありません! こんな幼気な少年のなけなしのスキルを奪おうなんて、いくらマスターでも許しませんよ! このおにー! あくまー! ひとでなしー!』
マジでか、こいつマジで言ってるのか。え? スキル使用の補助的存在が、スキル使用者に逆らうってあり得ていいの? なにこれ?
『ふざけんなよ! スキル使用者の俺が決定したんだから、お前は従ってスキル発動させればいいんだよ!』
『ふーん。怒ったって怖くないですよーだ。べー! 大体私が処理を進めないとスキル発動できませんし!』
やばい。マジ頭痛くなってきたぞ。このクソナビは俺に逆らう。そしてコイツが先に進ませないとスキル使用が完了しない。……はは、詰んでる。
俺が頭を抱えていると、やっと起き上がった少年が頭を下げて謝ってきた。どうやら盗まれたものは無いようだし、テンプレスリイベントでは無かったらしい。
しかしこれは困った。スキルを使うには、まずこのクソナビを納得させなくてはならない。強奪スキル使用には厳正?なる審査を通す必要がある。と考えれば納得出来るかも知れない。が、納得したくはない。
などとぼんやり考えながら歩いていると、今度はいかにも初期イベントで因縁吹っかけて来そうなチンピラが歩いてきた。ヤバイ、離れて目を合わせないようにしよう。
『あー! 悪そうな人発見! マスターマスター! 獲物発見ですよー? 強奪! 強奪しましょう!』
おい、厳正な審査どこいった。
【種族:人間】【名前:ピランチ】【年齢:25】
【所持スキル:短剣Lv1、裁縫Lv1】
そして勝手にステータスとスキルリストが視界に現れた。いやいや、このクソナビの行動にも言いたい事はあるが、このチンピラ野郎も突っ込みどころ満載だな。
まず名前がピランチとかバカにしてんのか。チンピラになる為に生まれてきたような運命の名前だな。名前をバカにされまくってグレた結果なのかも知れんが。
それと短剣はともかく裁縫て。内職でもしてんのか? 趣味がぬいぐるみ作りとかだったらどうしよう。ヤバイ、見た目がアレなだけで実はいいやつかも知れない。
『現在短剣スキルが大変奪いやすくなっております!』
勝手にオススメしてくるんじゃねーよ。家電量販店とか服屋で、呼んでも居ないのに擦り寄ってくる販売員を思い出したわ。
『ご一緒に裁縫スキルはいかがですか?』
ポテトか!
『うーん。マスターの好みには合わなかった様ですね。全く役立たずなクズ野郎です』
『お前は見た目だけで人を判断するのを止めような』
『えーっ! 絶対悪人ですよあの顔は! 私の女の感を信じて下さい!』
『まずお前が女かどうかが疑わしい』
『そんなっ!?』
多難だ。前途多難過ぎて目眩がする。どうして俺はこんなスキルを選んでしまったのだ。
ふと脳裏を『え~っ、マジでそのスキルにするの?』という顔をしていた神様の姿がよぎる。ああ、神様、あの時の哀れみに満ちた顔はこういう事だったのですね。
だったら先に言っておいて欲しかったですコンチクショウ。
折角貰った強奪スキルだけど思っていたのと違いすぎる件について、神様を小一時間問い詰めたい。そう思いながら、よく晴れた昼下がりの街を歩くのであった。
《続、かない》