捌話 《格差》
『……合同授業? 』
翌日の1限目、エロースは授業を開始する前にそう言った。
「そうだよ〜! この後の2限目と3限目は〜、1年D組との実技の合同授業をやりま〜す! パチパチパチパチ〜! 」
教室でそう拍手しているのは、エロースただ一人だけだ。
それ以前にE組の生徒達はその発表に、只々呆然としている。
「先生、それだとD組の生徒との実力差を見せつけられるだけじゃないんですか? 」
「そうだよ先生! D組の奴ら、デカい顔して俺達を見下すに決まってる! 」
クラスの生徒から非難の声が飛ぶ。
悠斗は賛同しなかったが、それと同時に反対の声も出せなかった。
しかしそんな中、エロースを庇う者がいた。
「お前らそんなんで良いのかよ!? D組の奴ら見返すチャンスじゃねーか!
……最初っから諦めてたんじゃ、一生掛かったって上には上れないと俺は思うけどな 」
「イニシエール、あんた…… 」
そう立ち上がったのはイニシエールだった。熱い言葉でクラスを盛り立てようとする。
しかし、クラスの生徒全員が格好付け、決めポーズを取るイニシエールに向け声を揃えて言った。
『……だっさ!! 』
「ええっ!? 」
ショックを受けたイニシエールは、そのまま固まり、膝から崩れ落ちた……
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予定通り、2限目と3限目の実技の実技をD組と合同で行うことになった。
2クラスの人数では普段の実習室が狭いため、校舎の外の高原で授業を行うことにした。
「何でウチらがE組の落ちこぼれなんかと合同授業なんてしなくちゃいけないのよ。
……あーあ、かったるーい 」
授業前、エロースもD組の担任教師もいない状態で、やはりD組の生徒達はE組を見下している。
D組のリーダー格の様である、1人の女が頭の後ろで手を組み芝生に寝そべった。
「おい悠斗、あいつだよ。D組のリーダー、No.62のミランダ。
実力だけならB組レベルだって噂だぜ 」
悠斗の耳元でイニシエールが囁く。
そして、
「ただやる気が無いんだとよ。質も悪いらしい 」
と、付け加えた。
「おい、テメーらD組だからって調子乗ってんじゃねーぞ? 」
するとただ1人、そのミランダに立ち向かう者がいた。
教室でシェイドに蹴り飛ばされた、肥満黒人のハルメドである。ハルメドはまだ強気な性格を貫き通している。
D組の生徒達は、ミランダに立ち向かうハルメドの姿に嘲笑している。
「誰よあんた? ウチ、むさ苦しい男大っ嫌いなの。あっち行ってくれる? 」
「あん? 何でテメーの言う事なんて聞かなきゃならねーんだよ! 」
そう言って、ハルメドは突然ミランダに殴りかかった。
しかし突然、
「ぐ、ぐあぁぁぁぁ!! 」
殴りかかった拳を抑えてハルメドが倒れたのだ。
「あれがアイツの能力か。なるほど、確かにB組レベルってのは間違い無さそうだな 」
ミランダは確かにイニシエールの言った通り、レベルの高い能力を保持していた。
恐らく今のE組の生徒では、誰一人撃ち破ることは出来ないだろう。
「どう? 分かったかしら?
……これがウチの能力、そしてD組とE組の実力差よ 」
全身鋼鉄化したミランダがハルメドの顔面を蹴り飛ばす。ミシッと骨の鈍い音が聞こえた。
ミランダの足元は、鋼鉄化したことによって急増した体重で、地面が少し抉れている。
その能力値の差を誰もが感じたその時、漸くエロースとD組の中年太りの担任教師が到着した。
「D組の皆、集まっているな。
……ん? 君はどうしたのかね? 」
D組の担任教師は、足元で蹲っているハルメドの姿に気付いた。
「すみませーん先生ー! 何か私ー、突然その人に殴りかけられて、だから能力使ったら倒しちゃいましたー! 」
ミランダは手のひらを返す様に、今までとは違い、D組の担任教師に甘えた態度を示した。
胸中では嘲笑している。しかしそれが分かるのは生徒達だけだった。
「そうか。それなら仕方が無いな。
……ほら、いつまでもそこで寝ているな邪魔くさい。あっち行け 」
突然その教師は有ろう事か、ハルメドの腹を蹴り上げ、吹っ飛ばしたのだ。
これにはエロースも黙ってはいられなかった。
「モロス先生〜、いくら何でもやり過ぎてませんか〜? 」
エロースはいつもの笑顔を見せているが、その胸中は底知れない怒りに満ちている。悠斗はそれを瞬時に察し、少しエロースの本性を知った。
「まあまあ先生〜、授業始めましょー! 折角E組さんと一緒に授業出来るんですからー! 」
ミランダはD組担任、定業神モロスには良い顔して媚びを売っているのだ。つくづく性悪である。
授業が始まると、基礎の護身術までは大していつもと変わらなかった。能力者相手に本当に役に立つのか分からないが、授業である以上受けなければならない。
イニシエールはいつも護身術の練習の時ふざけていた。そして、毎度エロースの代わりに、ニーナがイニシエールの頭を叩くのだ。
「じゃあ次は、D組の生徒とE組の生徒全員で、こいつを倒してくれ 」
モロスが指を鳴らすと、突然悠斗達の目の前に、1匹の赤色と金色に輝く翼を持った、美しい姿形の巨鳥が現れた。その美しさは誰もが魅力される。
体長は5mにも及び、嘴や爪は鋭く伸びている。
嘴は鶏、額は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚である。
誰もが見たことの無い、幻とも思える姿形をしている。
本当にこんな巨大な鳥を相手に戦わなければならないのか?
「神選高校の授業では命を落とすこともある。それはお前達も勿論覚悟の上だろう?
今日の授業の課題は、この巨鳥の討伐だ。それが出来なければお前達が学校に残る必要は無い。
……エロース先生 」
「は〜い! それじゃあ皆〜、頑張ってね〜! 」
エロースは返事をすると、天に向かい投げキッスをした。
すると、薄白い膜が張られた。恐らく外に被害を出さない為の結界の様な物だろう。
いつの間にか結界の中にモロスとエロースの姿は無くなっていた……