表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

漆話 《微かな光》

 翌日の放課後、3学年の寮の間にある芝生の小さなグラウンドには、5人の2年生、ヴォルト、イニシエール、そして悠斗とニーナがいた。

 5人の2年生と向き合うヴォルト。悠斗達3人は、少し離れた場所からその様子を見守っていた。

 5人の2年生はヴォルトを睨み付けている。


 しかし一体、何故こうなったかというと……





 遡ること20分。


「おーヴォルトー! 俺がいなくて寂しかったんじゃねーかー? 」

「んなわけねえだろ、気持ち悪い 」


 イニシエールの要望で、1年A組のヴォルトに会いに行くことになった。

 A組の教室にはヴォルトともう1人の黒マントを着た怪しげな男がいるだけだった。


「あの人は? 」

「ああ、アイツは誰とも話さないんだ。それにここの連中、変わった奴ばかりで少し手を焼いている 」


 凄まじい能力を持つヴォルトだったが、話せば人間味のある普通の男である。

 暫くA組の話を聞きたいところだったが、突然、

「すみません! 離してください! 」

 という女の声が教室の外から聞こえた。どうやら廊下からだ。


 悠斗達は様子を見に行ってみると、1人の女が胸元に黄色のバッジを身に付けた2年生の男5人組に絡まれていた。

 その女は何処かで見覚えがある。

 考えている悠斗の脇を通り、ヴォルトはその女の下へ向かった。


「あ! 入学式の時、ヴォルトが助けた子だ! 」

「そーか! 何処かで見覚えがあるなーって思ってたら、あの時の子か! 」


 ヴォルトは1人でその2年生5人組の前に立ちはだかる。

 その女も、ヴォルトの背後に小さく隠れた。


「おいおい、先輩だか何だか知らねえが、俺の女に手を出す奴は殺すぞ? 」

『……は? 』


 悠斗とイニシエールは固まった。


 ……あの子が、ヴォルトの彼女?


 信じられないが、確かにその女はヴォルトをギュッと抱き締めている。


『う、嘘だろー!? あの子がヴォルトの女ー!? 』


 2人は声を揃えて言った。

「う、うるせえよ! 」

 と、ヴォルトは悠斗達を見て少し恥ずかしそうに怒った。


 その様子を見た2年生は、苛立つ様子を見せている。


「何カッコつけてんだよ? 」

「テメー1年だろ? 」

「先輩に殺すとか言ってんじゃねーぞ! 」


 2年生5人組は、ヴォルトの胸倉を掴み、

「決闘だ! 先輩の恐さってものを教えてやるよ! 」

 と、ヴォルトを校舎の外へと連れ出して行く。


「これは面白い展開になったぞ悠斗! 俺達も見に行ってみよーぜ! 」





 こうした結果、ヴォルトと2年生が決闘する羽目になったのである。



 幸いにも、放課後になって間も無い為、まだここを通る生徒もいない。周りに被害は出ないだろう。


 しかしこの時、神選高校の決闘の恐ろしさを悠斗はまだ知らなかった。

 いや、知らなかったのはヴォルトの恐ろしさである。


「おい1年坊、相手は誰が良い? 特別に選ばせてやるよ 」


 2年生5人組は、余裕を見せ、ヴォルトに決闘の相手を選ばせる。

 しかしヴォルトは、

「はぁ? んなもん5対1で十分だろ。まぁ、俺には物足りねえけどな 」

 と、2年生5人組を煽った。

 その屈辱を浴びせられた2年生5人組の怒りは終に頂点に達した。


「後で後悔すんなよクソガキー!! 」

「後悔すんのはてめえらだろ、クソ野郎 」


 ある男は大鎌を2本同時に振り回し、ある男は猪に化けてヴォルト目掛けて突進する。

 あらゆる特殊能力を発揮し、人間を超えた技でヴォルトに仕掛ける。

 あっという間に5人に囲まれるヴォルトだったが、それと同時に、ニヤリと一瞬笑った。


「あの人達、己の力量が分かっていない様ね。馬鹿な人達 」


 ニーナは呆れた様子で、状況を見物している。


 5人がヴォルトに飛び掛った、その瞬間、ヴォルトの身体全体から眩い雷が発せられた。

 男達は大量の雷に感電し、皮膚を少し焦がして気絶した。


 悠斗達は、2年生5人組を放って置き、ヴォルトに駆け寄った。


「何だかあっという間だったな。

 ……!! ま、マズい! イニシエール! お前ら俺から離れろ!! 」


 突然ヴォルトが慌て出した。何やら危険な予感がする。

 それはニーナと悠斗だけが感じていた。


「やべえ! ……かわせ!! 」


 すると、ヴォルトの意思とは裏腹に、ヴォルトの胸から雷が発せられた。

 それ程強い雷では無いが、触れれば致命傷は間違い無さそうだ。

 そして、その雷は真っ直ぐに悠斗の頭に向かって行く。


「逃げろ悠斗!! 」


 イニシエールの声が聞こえるが、雷の速さを至近距離で躱せる筈がない。

 身体を縮め、目を閉じる。


 身体が痺れ、痛む覚悟は一瞬の内にしたが、その感覚は長い間感じ無い。

 恐る恐る目を開ける悠斗。

 すると、悠斗の足元の地面が煙を出し、黒く焦げていた。

 雷は悠斗に届かず、悠斗の僅か手前の地面に落ちた様だ。


「危ねー! 助かったな悠斗! 」

「本当だよ! 僕、本気で当たるところだったもん! 」


 イニシエールと2人で喜ぶ悠斗だったが、突然ヴォルトに胸倉を掴まれる。

 ヴォルトは真剣な鋭い目で、悠斗に尋ねた。


「てめえ今、一体何しやがった!? 」


 強い気迫でそう言われるが、悠斗にはその質問の意味がさっぱり分からない。


「な、何って、僕は何もしていないよ! 」

「誤魔化してんじゃねえぞ!

 ……俺は能力を使い過ぎると時々、俺の意思とは無関係に雷が飛ぶことがある。まさにさっきの状態だ。ああなったら俺には雷は止められねえ。

 ……だが雷はてめえの頭に向かい、そしててめえの足元に落ちた。

 てめえが何かしたに違いねえだろ!? さあ、てめえの能力見せやがれ! 」


 ヴォルトは益々頭に血が上っている。

 どうして良いか分からない悠斗。その状況におどおどしていると、それを救ってくれたのが、ヴォルトの彼女だった。


「まあまあ良いじゃないヴォルト君! あなたも彼を傷付けてしまったらそれは不本意でしょう? 誰も傷付けていないなら、それで良いんじゃないかしら? 」

「……ま、まあな 」


 ヴォルトの頭に上った血は、彼女の宥めによって無事に下げられた。彼女にだけはヴォルトは逆らう様子は無い。

 悠斗はホッと安堵の溜め息を吐く。


「初めまして! ……いえ、入学式の前にもお会いしたから、二度目ましてですね!

 私は1年B組のシュ 春麗チュンリーです! 中国の広東カントン省から来ました!

 ……この度は、ヴォルト君が乱暴を働いてしまい、すみませんでした! 」


 春麗は悠斗に向け、頭を深々と下げた。

 その姿には、悠斗もイニシエールも感動した。


「ヴォルトー! お前、この子めちゃめちゃ健気じゃねーかよー! お前には勿体無いくらいの子だぜー! 」

「春麗さん、ありがとう! 僕は全然何とも無いから、頭を上げて! 」


 ヴォルトには似合わない程、春麗は心の優しい礼儀正しい子である。


「さて、コイツらどうする? 」

「2年生と決闘しても、序列に変わりは無いんだろ? なら放って置こうぜ。

 ……春麗、今日の晩飯どうしようか? 」

「うーんと、じゃあ麻婆豆腐作ってあげる! 本場中国人の作る麻婆豆腐は別格だよー? 」


 ヴォルトと春麗は、仲睦まじく1年生の寮へと行ってしまった。


「放って置いて良いのかな? 」


 さすがに心配になった悠斗はイニシエールとニーナに尋ねる。


「どうする? 保健室にでも連れて行くか? 」

 というイニシエールに対し、

「彼らが勝手に仕掛けたもの。放って置いて構わないわ 」

 ニーナはそう言い切った。


 食い違う2人の意見にどうしようか戸惑っていると、見兼ねたニーナは悠斗の制服の襟を掴み、1年生の寮へと強引に引きずって行った……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ