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74:外交の切り札

 ラベンハルド王国の謁見の間では糸が張り詰めたかのような緊張が起こっていた。先の戦争を行った相手国であるセルクリッド王国の使者を名乗る者が2名訪れていたからだ。

 それも若い男女で、重要な場で相応しい人材とも思えぬ者である。しかし、書類は正式な物であり、印鑑も本物であったことから正式な使者として謁見が許された。


 「この度は遥々我が国へ。本日はいか用でまいられたか?」


 「取引よぅ」


 少女が不躾に話す。


 「取引とな」


 「そう、かなりお得な取引よぅ」


 少女が話す度に緊張感が増す。王に対しての不躾もあるが、少女の同道とした態度もまた厚かましい程に圧がかかっている。

 少女の後ろに控える少年もまた不気味さを放っている。


 「これよ」


 少女は右腕を前に上げ、虚空から首と胴体が切り離された遺体を生み出した。


 「こ、これは!」


 「ハーメルンよ。探してたのでしょう?」


 「何故其方たちが?」


 「だから取引なんでしょうに。探して殺してあげといたんですから、料金をもらわないと。あと喧嘩吹っ掛けられた慰謝料とか。要は金よ」


 流石に今まで静かに聞いていた官僚たちもざわつき始める。一度戦争に勝ったくらいで、戦勝国のような立ち振る舞いであり、軍部の人間もざわめき声を上げる。


 「ふむ、いか程必要か」


 「1000億ってところかしら。分割で月10億を130年でいいわよぅ。安いもんでしょう?」


 金額を聞いて、財務局の役人が唸りを上げる。国の防衛費を度外視すれば何とか払える金額だからである。


 「現金がなければ代わりに物でもいいわよう。ワインが有名だったわよねぇ。金属類も素材が良ければそれでいいわよ」


(この金額ってどうなの?)


(国家予算でいえば傾く程ではないし、なめられる金額でもない。大概一回では決まらない故に、少し高めに吹っ掛けるのが常だ。)


 心の中で陸と陸の体の中に滞在する魔王デイル・ベリスターに話かける。


(駆け引きって難しいね)


(そうだな。国との約束は国益にそのまま跳ね返ってくるからな。まぁ、そんなまどろっこしい事しないで、潰されたくなかったらもってこいでいんだよ。はっはっは)


 まさか魔王が使者の付き人として付き添っているとはつゆ知らず、ラベンハルド王国の財務局の役人が頭の中で算盤を弾き、メモを国王に渡している。


 「うむ、だが、我が国もこやつの御蔭で国内がガタついている。恥ずかしい話だが、支払うためには国を持たせなければならぬ。そこで、軍備のところを助けてもらえないだろうか」


 「まぁ、都合の良いお話ねぇ。うちとしてはそちらさんが滅ぼうが何しようがどうでもいいのだけれど」


 「もっともだな。しかし、セルクリッド王国が人類の敵魔族と同盟を結んでいることは知らなかったのだ。これまでの歴史的背景を鑑みれば衝突したことはやもえない事情も理解できよう?」


 「蛮族の考えですわね。宣戦布告も無しに先制攻撃した上に、大群による進撃行為で知らなかったで済む話ではありませんわ。まぁ、どうしてもというのであれば、我が軍がそちらの許可なく動かせる権限をいただきたいものね」


 「むむ、安全保障上難しいのう」


 「ならば、軍事基地ダンジョンを拠点に設置させることね」


 「軍事基地ダンジョン??」


「そうよぅ。我が軍の軍事基地よう。そうすればあなたの国も少しは守れるわよう」


 「同盟か」

 

 「隣国なら仲良くしなきゃねぇ」


 「敗れた我らに是非もなし。細かい取り決めは後日にしないか」


 「そうねぇ。こんなところでよろしいですか魔王様?」


 「え? いいんじゃないかな」


 気の抜けた返しが緊迫感のある空間に違和感を差し込む。全員の視線は今まで使者として会話してた年若い少女から、その使用人のような少年に移される。その場にいた人間がある単語に引っ掛かるも、咄嗟の出来事に言葉がでない。


 「今、魔王と言ったか?」


 「そうよ。こちらにおわすは、セルクリッド王国相談役、陸魔王陛下よ」


 「申し遅れました。成り行きで魔王やってます。りくと申します」


 「舐められたものだ!」

 

 この日国王の護衛についていたのは昇竜疾風の騎士団団長エイル・ハンスであったが、先の大戦での雪辱もあり、体が反応する。ここで恨み晴らすべしと。


 「止せ!」

 

 誰かの静止の声が聞こえたが今更止められぬ。抜剣し、体に風を纏わせた瞬足を持っての一撃必殺の剣は、陸の首を跳ねるかと思われたが、金属音と共にエイルの剣は弾かれ、赤い閃光がエイルの肩口を貫いていた。


 「ぐぬぅ」

 

 テリスと陸はその場から動いておらず、陸の腰に携えた朱色に輝く太刀がエイルの太刀を迎撃し、さらに刀身が伸縮し、自我を持ったように敵意のあるエイルに向かって牙突した。


 「やはり小僧では舐められるな」


 陸の体から全方位に発射される魔力の波動は、その場にいた全員の体に押し当てられ、中には呼吸すらやっとの者まで現れた。


 「この不始末。どうつける気だ?」

 


 

 


 

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