71:暴徒鎮圧作戦
遅くなりました。
松明を持った男たちが屋敷を包囲する。松明ののかがり火に照らされたその顔は憎しみと決意で固められ、鉄仮面のように無表情である。
「それでは始めましょう。我々の正義を」
屋敷を囲んだ群衆は手に持った松明に紅色の火をつけて、屋敷の四方から焚きつける。屋敷は教会の修道女達の宿舎代わりになっている状況で、屋敷内には多くの教会関係者が住んでいる。
松明から放たれた紅の炎は、屋敷の周りを取り巻き、屋敷全体にとぐろを巻いた。
火災に気付いた関係者が慌てて屋敷を飛び出したが、短い刃物を棒の先端に括り付けた即席の槍で刺し殺された。
「全ての怨みをここにぶつけるのだ! 助かった命を蔑ろにした教会に」
「娘の仇だ!」
「親を返せ!」
「報いを受けろ!」
集められた反乱因子達は、周辺の町村に住む住民で、感染から逃れたものの、家族を失った者達である。彼らの生活していた場所はまさに地獄。働けない。金がない。食べ物がない。ないないない。そんな場所から、ハーメルンが食料の援助で動員をかけ、王国に来た者達は言葉を失った。王国の民は、感染症に怯えることなく普段通りの生活をしており、市場は賑やかで、食料も山積みとなって売りに出されている。
「我々は切り捨てられたのだ」
領民の中には国のために尽す心意気の強い者もいた。はたや侵略を受け、鞍替えした領民もいる。その誰もが王都に対しての共通認識が生まれてしまった。王都は我々にとって悪でしかない。見殺しにされた我らの怨敵であり、報いを受けさせるべき相手である。その相手として定めたのが医療を司る教会である。教会の力で王都が感染症を防いでいるのが確かであるならば、教会は力がありながら、周辺領土を見捨てた王と同罪である。王都への税共に、教会へのお布施をしてきたにも拘らず、この仕打ちである。金だけ払わされて、有事の時には助けに来ない。こんな無責任な組織は壊れた方が良いのだ。
「報いの炎だ!」
火柱は熱狂と怨嗟が渦を巻き屋敷を飲み込んだ。
☆☆☆
「全員起きろ!! 火事だ! 火事だ!」
「熱い……」
「いやぁぁぁ」
既に屋敷は反乱分子に囲まれており、火を付けられた。逃げる場所もなく、黒煙が迫りくる状況に冷静でいられる者は限りなく少ない。
「鼻と口を布で覆い、私についてきて」
声を上げたのはこの屋敷の中では神官の位が高いミーヤである。他の若手や神官も周囲の状況に動じながらも彼女の声に耳を傾け行動に移した。
「こちらは駄目です。完全に屋敷を囲まれています」
徐々に異変を感じ、集まりだしてきた教会関係者達は怯えながらもミーヤの指示に従い統率が取れていた。
「そうですか。それでは手分けして、人をこちらに集めてください」
「わ、わかりました」
(道様。お待ちしております)
☆☆☆
王宮では異変に気付いた騎士団が招集を掛け、部隊ごとに点検及び点呼が実施されている。道もそのうちの一人である。
(教会の方角で暴動の兆しと火災の発生か……)
教会の付近んには教会関係者の宿舎もあるので、気にならないと言われれば嘘になる。部隊行動でなければ直ぐにでも突っ込んで行きたいところではあるが、ここは気持ちを落ち着かせて指示を待つ。
「傾注! これより暴動発生により国民の生命財産を守るため、国家安全維持法に基づく暴動の鎮圧を開始する。各部隊は指示通り、敵暴徒を囲いながら殲滅していけ。敵は戦の素人だ。セオリーなど持たん! 現場の状況は、警備隊の警邏部隊が接敵したが、思いのほか人数が多いため引きながら遅延攻撃を行っている。我らはその釣られた連中を横からと、裏回りして後方からの殲滅攻撃だ。各自受傷事故防止に留意し、確実に潰していけ。それでは各部隊ごとに分かれ!」
「おう」との発声共に再び慌ただしく騎士達が動き出した。道の部隊は敵後方に回り込み、逃走する暴徒を捕縛していく任務である。暴動を起こしたメンバーであれば、国家安全維持法の処罰規定において、国家転覆の恐れに起因する場合、現場での斬首は認められているが、メンバーか、通りすがりの一般人か見分けがつかなければ誤認斬首となるため、そこは慎重に行きたいところではある。
道もそのあたりの法律は叩き込まれてはいるが、擬律判断をするとなると経験が高い者の方が速いし正確である。
「なんだ道、集団戦闘は初めてか?」
「あぁ、しかも不安や心配が多すぎて上手く動けるかどうか……」
道の顔色の悪さに心配した同僚が話しかける。
「道なら大丈夫だ。あれだけ訓練で動けてるんだ。お前より強いやつは団長クラスしかいないぞ。自
信を持てよ」
「あ、あぁ。そうだな。俺にできる事やるしかないな」
「そうさ。道の近接格闘は市街地ではぴったりだ。期待してるぜ」
「やれるだけやるよ。しかしミーヤが心配だ」
「そういや宿舎に住んでるんだったな」
「あぁ、必ず助ける」
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