7:魔剣
本日2回目です
ゴブリン軍の大群と魔王軍空挺部隊が撤収するなか、村が心配になりだした陸は、獣人族の村に足早に駆け寄ると村の多くの人たちが高台からこちらを見ているのに気が付いた。レックス親子も見え、フロウとリサが手を振っていたので振り返した。
高台に近づくと、若干引き気味ではあるが歓迎してもらえた。陸も、人間では無く魔族であり、危害を与えるつもりはない事を説明した。最初は驚かれたが、出鱈目な力を見せ付けられては納得するしかなかったし、命の恩人でもある陸に対し恩義も感じていた。
獣人は恩義を大切にする種族であり、例え魔族でもその理は覆ることは無かった。この日の夜は、祭りのような賑わいで多くの村人達が陸とフェブリをもてなしてくれた。
「よう、あの時は悪かったな……」
酒場で絡んできた獣人が謝りそっと寄ってきた。陸は彼に悪気が無かったことは承知していたため、そんなに気にはしていなかったが、筋を通すのもまた獣人の流儀なのだろう。彼が昼間狩ってきた獲物の肉を調理し持って来てくれた。香ばしい肉の香りと、程好い刺激の香辛料のかかった肉は酒のつまみには最適だろう。人間だったときは、酒を飲み始めたばかりで味なんて関係なく、ただ安く酔えて楽しければいいという考えだったが、陸に出された酒はとても飲みやすい果汁酒で、フルーツの香りが鼻を透き通るようにスーッと香る。外見が子供なのに酒とか良いのかと思ったが、フロウやリサも飲んでいた。お祭り事や、行事事の時は子供でも許されるらしい。
フェブルもガブガブとジュースのように飲んでいて、酔わないのか? と問うと、水神の加護があり、ステータス異常は受けないと説明があった。なかなか便利なスキルである。
祭り中にも多くの獣人から謝辞を並べられ、返答にも疲れてきたころに村長がやってきた。
「この度はこの村を救っていただき、ありがとうございます。何かお礼がしたいのですが……」
「ならば、この魔刀を抑える鞘が欲しいな」
「鞘ですか……村の鍛冶師に落ち合ってみましょう。その刀お預かりしてもよろしいですかな」
「ああ、いいぞ」
陸は魔刀爪紅を村長に預け、美味い御馳走を楽しんだ。
★ ★
翌朝、多くの村人に見送られ陸とフェブリは村を旅立った。レックスの家に昨晩は世話になり、フロウとリサは別れに寂しがっていたが、また遊びに来るよと約束を交わした。鞘の方も、魔力を抑える魔石を施した黒い鞘を村長が届けてくれた。鍛冶師の獣人が徹夜で作ってくれたものだ。感謝感激である。
その後、陸たちはさらに南下し、獣人達が逃げてきたという人間の住む街へ向かう事にした。道中森の中、獣や魔獣と遭遇するが、陸に出会い頭に真二つにされてしまう。切って行く内に陸はあることに気が付く。
「この刀、血を吸ってるな……」
「そのような魔剣はなかなか珍しゅうございますな」
幼い少女の顔立ちから発せられる年寄り臭い言葉使いにうんざり気味な陸だが、一つの個性として見るしかなさそうだ。フェブリの魔剣の話によれば、魔剣とは大まかに2種類あり、魔力を通すと何らかの力が発動するタイプと、もともと魔力を秘めていて、魔法が使えない者でも何らかの力が出るもの。後者の魔剣は、魔力切れなども殆どなく、魔剣自体が、空気中のマナ(魔力の元となる物質)を取り込むことが出来る。その他にもイレギュラーな魔剣は存在するが、なかなか目にすることはない。また、呪われた装備も存在するが、これに関しては魔剣とは別の話である。
「ぐルルルル……」
森の脇から、青白い光と共に全身の毛を逆立てている狼がいた。やれやれまたかと思っていた矢先、青白い閃光が陸を襲った。一瞬何が起こったかわからなかったが、狼による電撃攻撃だと推測し、フェブリに離れさせる。
「びっくりしたな。この身体が丈夫で良かった」
「魔王さま、奴はライガーの希少種でございます。なかなか目にかかることがございませぬ」
(あの程度ではわしの体には傷すらつかんわ)
一瞬で距離を詰める陸に対し、ライガーは先ほどの攻撃がまるで聞いていない事に腹を立て、さらに強力な電撃を備える。陸が、ライガーの身体に刃先が当たった瞬間青白い発光と共に、轟音。光の速さでカウンターを決めたライガーであったが、敵の顔には笑顔が写り初めて恐怖した。捕食する相手が、捕食者だったことに今気が付いたのだった。時すでに遅し。陸の爪紅は体内に突き刺さり、全身の血液を吸い取り始めた。
「全部吸っちまえ!」
陸が魔力を混めると吸引力が増し、あっという間にライガーは全身の血を吸われて絶命してしまった。陸は周りを見渡し、気配が無いことを確認してからライガーの剥ぎ取りし始めた。希少種と聞いて街で高く素材が売れると思ったのであろう。ライガーの肉はその場で焼いて食べる事になった。丁度お昼時であったため、二人の腹の虫が騒めき始めた。
直ぐに火をお越し、ライガーの肉に、村でちゃっかりもらった香辛料をかけ齧り付く。肉の脂と肉汁が口の中にジュワっと広がり、香辛料の香りと獣臭さが噛み締めるたびに鼻から抜ける。陸は獣臭さは割りと気にしない達で、寧ろ歓迎するタイプである。学生の頃、山梨に旅行に行ったときに熊の肉を食べてから、獣臭さにはまってしまっていた。
食事を終えた陸は立ち上がろうとしたとき、全身がブルっと振るえ、体調の変化を感じた。直ぐステータスを見て見ると、スキルに「放電」がプラスされていた。放電を意識し、両指を合わせようと近づけた瞬間、青白い糸のように連なる電気が流れていた。ビビビビ……という音と共に。
「なんか、スキル奪っちゃったみたい……」
「!!!!!」
陸は照れくさそうな、気まずそうな顔をして、フェブリを見つめていた。
肉くいてぇ