69:作戦の思惑
休暇が終わりましたので、投稿ペースは落ちますが、投稿は続けていきます。
「これより、病原菌をまき散らす魔族ことハーメルンをどうするか会議を始めます」
パチパチパチと乾いた拍手音が会議室に響き渡る。ここはセルクリッド王国に存在するダンジョン型魔王城の一室である。
「先ず、このままハーメルンを野放しにした場合どのような事が起こると想定できますか」
司会は陸が行い議題を振っていく。
「我が国にも感染者が増え続け、対応が間に合わなくなるだろうな」
セルクリッド王国国王のメルド国王が先端を開いた。ほぼ傀儡と化しているセルクリッド王国であるが、意見を取り入れたいとの願いから呼び出し、参加させている。
「フェブルが治療はできるけど、一人でってなると難しいか。」
「やはりここは殲滅。悟られる前に電撃戦を行いたい」
「作戦を立てるにも相手の戦力が分からないとな」
「あのデカネズミは何匹いるんだ? 俺らの前じゃ数にはならないが」
「もう、この辺にいないって可能性もあるんじゃない?」
各階層の魔人たちもそれぞれ話に入ってくるが、現段階では作戦を立案するには情報が少なすぎる。
「情報が足りないね。先ず、鼠と接敵したレーベの街周辺の威力偵察にベースケとセル子。各町や村での情報収集にフェブルと九尾、遊撃部隊にコカトリスとグリフォン、セルクリッド王国の潜入捜査に……」
「その役目は私がやるわよ」
死霊術式を得意とするテリスである。会議中虚ろな目で聞いていたテリスであったが、敵地潜入の話が出たとたんに目を輝かせ始めた。
「一番危険な仕事だけど大丈夫?」
「あらぁ、心配してくれるの? 潜入捜査は一番得意なのよぉ。情報収集は死霊を集めれば済むし、隠れるのは意外と得意なのよ」
「わかった。お願いするよ」
「任せといて」
「残りのメンツは予備選力として待機。各自行動に移れ」
『おう』
陸の合図で指示された魔人たちはテキパキ動き出し、自らの役割を果たすため動き出す。
★★★
「これって倉庫かな? 住居じゃないよね」
傷病者と思わしき男を追尾した結果、居住地と思われる場所に入っていった姿を見届けてから、建物の外周を観察して思った感想を思わず漏らす。入口は一つしかなく、窓もない。シャッターが1カ所あるだけである。
「事務所兼居住ってことなのかな? まぁ考えていてもしょうがないか。明日また見に来るとしよう」
道が帰ろうとしたところ異様な雰囲気に体が包まれる。ねっとりとした肌に吸い付くようなジメジメした空気感は、道の不快度指数を上昇させるのは簡単だった。
「これは何かある・・・・・・」
魔力の感知が高い者ならば嫌でも感じ取ってしまう強者の気配。道は騎士団の訓練の中で、探知系のスキルの伸び代が目覚ましく、相手の体内で練り始めた魔力感知し、どのような魔術が来るか看破することが出来る様になり、接近戦闘の模擬戦ではかなり恐れられた経緯がある。
「これは一度騎士団に戻って体制を組まないと駄目だ」
道の目には悍ましい魔力の渦がトグロを巻いている以外は平穏な日常の光景でしかない。既に夕刻、空には複数の蝙蝠が羽ばたいていた。
★★★
「こいつは一仕事だわ! うらぁあ! 炎帝! 燃えろぉ」
「全てを氷に・・・・・・永久凍土」
「うぉい! 俺の尻尾まで巻き込むんじゃねー!」
「あら、いたの」
「お前ワザトだろ! 溶かすぞ!!」
「あぁ、もう暑苦しいわね。陸様のご命令通り動きなさい」
「気に入らねぇー! もえろぉおお!!」
「ふん」
紆余曲折ありながら、辺り一体は人の住める環境とは程遠いものとなった。
陸の命を受け、レーベより少し離れた山岳地帯において、巣穴と思われる洞窟を出入り口から、火焔術式と氷結術式を用いて炙り出しを行ったセル子とベースケは、既に山岳地帯の8割程が氷山か溶岩がながれる活火山に変貌している。
「ネズミの気配も無くなってきたわね」
「ここまでやって生きてたら困っちまうぜ」
陸の考える威力偵察と、本人が考える威力偵察では多少の認識のズレはあったものの、ハーメルンが操る配下の一つは壊滅でき打撃を被ったのだった。
「この後はどうするんだ」
「私達の任務は威力偵察よ」
「終わっちまったじゃねーか。陸様にお伺いたてるのか?」
「馬鹿ね。そんな手間は取らせられないわ。行けるところまで行くのが私達の任務よ。陸様は私達にどこまでやれるか期待している筈だわ」
「なるほど。つまんねー任務かと思ったらおもしれーじゃねーか!」
「あなたの頭が弱いだけよ」
「今の高揚感なら何言われてもイラつかねー!」
「その調子で露払いは任せたわ」
「おい! 楽しようとするな!」
こうして、陸の思惑と離れて二人は敵地で爆走する。山脈地を横断しながら敵拠点と思われる場所を潰しまわる彼らを止める術は駒の少ないハーメルンには持ち合わせられなかった。
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