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60:天秤

毎度どうも!

 ダン・エイルはそもそも、騎士団に入る予定ではなかった。エイルの家は郊外に広大な敷地を所有しており、牧場を経営していた。馬を初め、羊や牛などを牧畜し、毛や乳製品。馬を調教し、軍馬として帝国に卸して生計を立てていた。エイル家の男は皆大柄で、腕っ節が強い。というのもエイル家の祖父が騎士であり、戦場での手柄のお陰で牧場を営むことが出来ている。ダンも父から剣術や馬術を習うことはあるものの、父や兄弟達と、この牧場を切り盛りしていくものだと幼い頃から信じていた。


 だが、偶然にも魔物狩りに出ていた騎士達を見たダン少年には強い憧れとしてこびり付いたのだった。その後、本人の魔法敵性もあり、騎士の親族とあって環境的にも人脈的にも恵まれたダンは、魔法騎士となり、その頭角を現すことになった。

 

 ダンが魔法騎士となり、戦場で名声を上げる度にエイルの農場は広がり、里帰りするたびに家族に仕事を増やすなと、とうとう嫌味まで出るほどまでになった。だが、ダンの家族は皆、ダンを一目置いており、常々無事を祈っている。






★ ★ ★ ★






 ダン・エイルは体を動かす事ができない。




 魔王に奇襲を仕掛け、高々に振り上げた戦斧を振り下ろすのみであったが、時間が止まったかのように動かない。


 魔王を庇うように少年が割って入ってきたが、巨大な戦斧の前では意味をなさない。纏めて叩くのみであったが、なぜか振り下ろす事ができない。


 仕舞には息苦しくなり、視界が遠のいていく感じがした。微かだが、部下たちの声が聞こえる。


 案ずることは無い。今仕留めてこの下らん戦も仕舞いだ。国に帰って酒でも飲もう……



 「団長おおおおおおおお!!!!」




 ダン・エイルの体は無数の刃により貫かれていた。騎乗していた輓馬もまた同じ。

 魔王の前に少年、そしてその前に、いつ現れたのかゴーレムが多数砦から湧き出ていた。


 「がふっ……うぅ」



 赤黒い吐血を溢しながら、ダンの瞳は瞼に閉じた。





★   ★   ★   ★





 陸は城壁を突破されそうになっている事に少し焦りを感じていたが、いざとなれば自分の力を使って切り抜けようと考えていた矢先、騎士隊は完全武装したメリアに向かって進撃していた。これには陸も慌てふためく。

 あちらは正確な敵を理解していなかったのか? はたまたこれも俺を誘う作戦か? など困惑がぐるぐると頭を回り始めたが、メリアを失っては折角の講和に傷が付く可能性がある。メリアも国の為に好きでもない男の下に政治的理由で嫁いできた被害者なのだから、このような戦場で失っていい人ではない。陸の考えでは理屈での行動であった。


 陸の親衛隊である鋼鉄のゴーレム軍(デモンズ)は主の危機と知るや否や鉄壁の体を盾に、鋼鉄の刃で敵を貫くのだった。ゴーレム軍(デモンズ)は、陸によって召還されしデーモンを、陸の土魔法で作られたタングステン並の強度を誇る金属ゴーレムを器として動いている。その器となったゴーレムは、陸の魔力によって魔法金属と化しており、各デーモンの特色を反映させることも可能となった。そして彼らの大きな利点は、性質が土であるならば移動可能というスキル(性質同化「土」)を所持している為、ダンジョン内や、陸が郊外へ移動時なども付いて回れるのである。


 陸も彼らの存在に直ぐに気付き、「そこまでしなくとも……」と苦言を漏らしたのだが、毅然とした彼らの態度に押され、渋々守護されることになった。


 ずるりとゆっくり引き抜かれた無数の鋼鉄の刃は次の標的を捉える。ダン・エイルの後続にいた騎士達の首を跳ね飛ばし、周囲の安全を確認した後、陸に対し跪き敬意を払った。陸も答えるように頷き返す。一連の動作のあと血相が大分変わったゴブリンの王が陸に近寄ってくる。


「王おおおおぉおおおお! ご無事で!! このような失態は我が慢心によるもの! 我が命によって償ないを!」


「待て! その程度で命を落とすな」


「おおお! 我が命、陸様の物でございます。いつでも使い潰して下さいませ!」


(そんなつもりじゃないんだけどな……忠誠心が高すぎるのもなぁ)


 陸が陸よりも巨体なゴブリンの王の立膝のでの文言に引いている内に、追撃の騎士団を蹴散らしたゴーレム軍(デモンズ)もまた立て膝を着く。


(敵に背を向けちゃっていいの!? こっちが焦るって)


「大丈夫だ。それより戦闘中だ。敵に集中せよ」


「御身のままに!」


 ゴーレム軍(デモンズ)はそのまますーっと城壁へ潜り、ゴブリンの王も振り返り檄を飛ばす。


「押し返せぇえええええ!!」


 魔法騎士団の前線は崩壊。残るは前線より分断された後方の支援部隊である。もはや支援する部隊も崩壊し、自らが引く事で手一杯になってしまっているが、隊列を崩さない魔法による防壁が牙城を崩せないでいる。


 敵の本丸は回復魔法を得意とする正教徒白鷗騎士団であり、数での勝負では遅れを取ってはいないが、魔力の事を考えれば長期の防衛線は不利である。


「ジリ貧だ」


 正教徒白鷗騎士団団長ジック・レイラは苦虫を潰したような顔をする。前衛の状況が分からない為、本陣を捨てる事が出来ないでいる。戦略的に冷徹になれば、前線が崩壊しているのであれば、本陣を守る必要が無い。


「伝令ぇぇぇえええええ」


 そこへ、ダン・エイル敵砦にて討ち死にの報告が入り即座に退却命令が下された。ジック・レイラは命の尊さを良く心得ている。少ない情報の中で、前衛の部隊の救出に向かうより、直ぐに撤退をしたほが犠牲は少ないと判断する。命を天秤にかける事は治癒魔術専門だからこそ、成し得る判断である。助からない命に治癒を掛けても魔力の無駄なのだから。


 だが、ゴブリン軍の追撃は執拗に行われ、昼も夜も奇襲を仕掛けられ、休むことを許されず山脈を越え、自国領土まで逃げ延びる事となった。


 この魔法騎士団の敗戦は、各街や都市に駐留しながら帰還せざるを得なかった為、占領した国々に伝播し、不穏な空気が流れることになる。


もう秋ですか~

次はもう少し速い更新になると思います笑

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