59:進撃の皇蹄
あっしのやる気スイッチどこかな……
ちょっとアメリカとバハマに行ってました~
カリブ海っていいですね~
海賊とかロマンだ・・・
打ち鳴らす進撃のドラムは、戦場の大気を揺るがし、見方をは勇気を、宿敵には恐怖を与える。ゴブリンの王の指揮の下、筒や法螺貝にて陣形を指示する形となっている。
「数はこちらが圧倒的。乱戦に持ち込め!」
どっと沸いたゴブリンの群は、瞬く間に場を埋め尽くし、数は万を軽く凌駕する。騎馬は攻めには強が、守りとなると長所が生かせない。
そもそも魔法騎士の面々は、常勝国のジレンマか、勝ち戦に慣れてしまっている為引く判断が遅れ、ゴブリンの波に飲み込まれる。
「滅炎槍龍騎士団はどうなった! これでは後方も前線もない」
苦虫を潰したような顔をしたまま迫り来るゴブリンを払いのける鳳晶氷水騎士団団長アクリ・メイヤは、自隊を纏め、他の騎士団と連携を取ろうにもゴブリンの波状攻撃で落ち着くことが出来ないでいる。
右後方へ陣取った鳳晶氷水騎士団は、敵の足が思いのほか速いことに焦りはしたものの、冷静に目の前のゴブリンへの対処に向けて指示を出す。
「前方へ氷壁術式展開! 建て直しの時間を稼ぐぞ!」
(どうせ武功に欲が出たのだろう。後続の事は何も考えぬあやつらしいが、付けを払わせられる方の身にもなってもらいたいものだ)
オオ! っと掛け声と共に青の魔法陣が綴られ、次々と氷柱が形成される。正に行く手を阻む氷の壁である。運悪く氷に閉じ込められてしまったゴブリン達は、眼光鋭いまま固まっている。
「今だ! 後退し、陣形を整える」
だがこのとき、アクリ・メイヤは敵ゴブリンの総数を憶測より遙かに見誤っている事に気付くはずもなかった。
同刻、左翼後方ではエイル・ハンス率いる昇竜疾風の騎士団がいた。本来飛竜に騎乗し、敵陣視察、航空支援などを行なう支援部隊だが、敵城に佇む飛竜の上位種ワイバーンに緑龍が睨みを効かす。相手の出方次第で有利不利が決まる航空戦闘では、なかなか身動きが取りづらいデメリットがある。更に厄介なのが黒光りした見たこともない黒龍だろう。禍々しい魔力は、遠目の、望遠魔法で確認しなければわからないほどの距離でも感じている。
「あれが動きだしたら、こちらも動くぞ」
普通の竜騎士であれば上昇に時間がかかる。その隙に接近を許し、奇襲を受ける事が竜騎士の主なデメリットだが、風魔法が使える騎士がいれば話は変わってくる。風魔法を駆使し、地上からでも直ぐに低空飛行の滑空が行える為である。普通のワイバーンでは風魔法が使えない為、低空に誘い出され、動きが遅くなったところ狙えばいい。だが、緑竜は違う。奴も炎竜のように属性魔法を自在に操り、低空でも高速戦闘が可能だ。運が良いことに奴らはこちらを注視しているだけで動きが見れない。
「どこもかしこもゴブリンだらけ……土煙で城壁が見えなくなってしまった。みんな無事だといいがな」
エイルは唸る飛竜をなだめながら溜息をついた。
戦場の中心。最前線にもなろう場所で、野太い雄たけびが上がる。団長ダン・エイル率いる鉄鋼重層輓馬騎士団は、滅炎龍騎士団を追いかけるように、横に広がりながら進撃している。横にずらっと並ばれ、鋼鉄の鎧を纏った軍馬の突進である。ゴブリン達は成すすべなく馬に潰され、或は騎士の持つ武器により命を落とした。驚くことに、巨大なホブゴブリンでさえ、跳ね飛ばされた後、その重量をもって轢き潰された。
これにはゴブリンの王も眉間にしわが寄った。魔法が使えるゴブリンメイジや弓を持ったゴブリンアーチャーの挟撃でも硬い守りに阻まれ進撃は衰えることはない。
「むむう……こう広がられては纏めて相手をする事も出来ぬ」
ホブゴブリンが引き倒されてからというもの、ゴブリン軍に怯みが見え、鉄鋼重層輓馬騎士団はその隙を突いて追い討ちをかける。
「我らの進軍を止める者無し! 進めぇええ!!」
ダン・エイルの檄により、更なる進撃に出る。見るからに劣勢の筈のゴブリン軍だが、ゴブリンの王は今だ静観を貫いている。
「巨獣騎兵部隊を出せ」
「はっ!」
パプーンっという笛の音と共に城門から現れたのは、マンモスや、長い牙の生えた虎、前歯が鋭い鼠の様な兎など、輓馬に乗る彼らを軽く見下ろせる程の巨獣が出現した。巨獣を手綱で操るのは魔物の調教スキルを身に着けたゴブリン達である。巨獣をテイムするまでには小動物から手なずけて、スキルのレベルを上げていくという長い道のりがあるのだが、幸か不幸かダンジョン内には巨獣が多く生息しており、迷い込んだゴブリンが追い掛け回されながらも手なずける術を手に入れていった。
「逆に押しつぶされる恐怖を与えてやれ」
王は薄ら笑い、相手の出方を見る。対照的に真顔を貫く団長のダン・エイルは勢いそのままに、巨獣の足元、僅かな隙間を掻い潜る。
団員の半数は、巨獣に潰され、或は牙や角に貫かれ絶命。あらゆる攻撃をも弾き返してきた彼らだったが、自分達の武器であった重量で圧倒されるとは思いもよらなかったであろう。そもそも彼らも巨獣討伐は経験あるが、ここまで大量に、且つ統制の取れた巨獣は脅威であった。
「ここまで我らが追い込まれるとはな。滅炎槍龍騎士団の連中も見当たらん。ヘイガス、ケビン、城壁突入の準備!」
「「は!」」
「俺が一矢報いる」
「団長、私も参ります」
「エイルか。今まで副団長として良く支えてくれた」
「愚痴なら帰ってからゆっくり聞きますよ」
「いくぞぉおおおお」
死期迫る覚悟で一団が飛び出す。それを向かい打つゴブリンの王。王の間合いに一団が飛び込む瞬間、王を避けるように地面が競り上がる。土魔法で作られた坂道は、城壁の上まで続いており、そのまま敵大将の首を狙う奇襲作戦のようだ。
「陸様! 貴様ら行かせんぞぉおおお」
危機迫るゴブリンの王は瞬時に跳躍し、騎士団を追う。巨大な大剣を振りかぶり、一団を捕らえる。
「ぬおおおおおお!」
ゴブリン王の懇親の一撃は、土台もろとも一団を打ち砕く物だった。が、それは叶わなかった。副団長エイルの決死の反撃に合い、ゴブリン王の剣筋が僅かにずれたのだ。当のエイルはというと、重厚な鎧ごとぶった切られた。
「おのれ! 陸様!!」
自らの失態により、王に危機が迫ろうとする中で、自分にはどうすることも出来ない悔しさを滲ませながら行方をただ見つめるしかなかった。
「かくごぉおおお!!」
団長ダン・エイルは目の前に迫る魔王を目下に、相打ち覚悟の特攻に出る。標的を確認してからと言うもの全体の動きがゆっくりとなり、一瞬がスローに感じる。狙うは魔王の首一つ。魔王はその場から動こうとしない。余裕なのか、罠があるのかわからない。こちらは全力をもって打ち滅ぼすのみ。そうダン・エイルが右腕に振り上げ、漆黒の鎧を纏った魔王に戦斧を振り下ろそうとした瞬間。血に染まったような刀を一振り。少年が立ちふさがる。




