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57:リバーシ

煽動された国民が押し寄せる


更新を待ってくださってる方、いつもお待たせしてます。

――(ダッシュ)が繋がらなくて困った……

 人々は疑惑と忠誠が渦をまいて混乱していた。

 襲われるはずの魔物から命を救われている事。魔法による攻撃を受けていること。結界が切れていること。全てが渦潮の如くかき混ぜられ、脳内で正常な考えが出来ず、皆フリーズしていた。


 炎竜の咆哮と、魔法の着弾による衝撃音が体を震わせる。氷の刃は触れた物を飲み込み、氷の華を咲かせ、炎は建物を一瞬で飲み込み、風の刃は火炎を煽り、渦を巻き、巨大な岩石は潰される物に慈悲を与えない。


「あぁ、おら達の家が……」


 悲愴な面持ちの民衆の呟きが聞こえ。そして上空では尚も降り注ぐ。

 現場、自分の目に写る物だけがそのまま情報として入ってくる。


「どうなっているんだ……」


「この国は本当に魔族に魂を売ってしまったのか……」


「噂は本当だったの!? ああぁ、神様……」


 

 ポツリ、またポツリと噂を強調させ、工作員がここぞとばかりに刷り込んでいく。思考が停止している今だからこそ、一方向へ煽動するのは至極容易い。それも噂という台車に乗せているのだから、あとは押し手が押すだけである。


「ラベンハルド王国は我々を魔物から救いに来て下さったんだ」


「そうだ! でなければわが国へ攻め入る理由が無い!!」


「国王を引き摺りだせぇええ!」


「国王出て来い!!」


 人々の国への信頼は失墜を辿り、全てが治まったときには王城に向かって声を上げ、兵士も抑えるが、雪崩れ込まれたら人数では敵わない。暴徒寸前の群集感染は広がりを強め、セルクリッド王国は内にも外にも敵という構図が出来上がってしまった。





★ ★ ★ ★





「――人って身勝手ね。そう思わない? 国王様」


「人とは弱い生き物だ」


 重い空気の中、犬の様な耳を頭の上につけた娘とメルド王は会話を交わす。九尾とコカトリスは王族の警護を陸より任されており、城に常駐している。


「あれだけ民の事も考えて、誠意を尽くしてきたのに裏切られてどう?」


「貴様! 国王様を愚弄する気か!!」


 堪らず家臣の一人が声を上げる。が、表情はとても追い詰められた暗い顔を引き摺っている。この部屋に居るもの全てに当てはまる想像。これからの末路。群集と化した民衆は既にセルクリッド軍より圧倒的に多く、城の入口に迫っているのだから焦るなと言う方が無茶である。将棋で例えるなら味方の歩の向きが全て逆になったようなものだ。城の囲いなど最早無意味。


「良い。分かっておる。そもそも国内に諜報員を野放しにしていた付けが回っただけだ。陸殿に落ち目は無い」


「それでどうする訳? このまま愛する国民に殺されるの?」


「ワシはこの愛した国民を殺せぬ。ワシが出て、場を沈めるしかない」


「国王様! それでは……」


「そうだ! ワシ一人の命。それで無駄な血が流れなければそれでいい」



 メルド国王の決意が十二分に乗った強い声に皆止める言葉も無く、保身と忠誠が入り乱れる。



「無駄な血が流れなければいいの?」



 ──ぽつり、九尾の一言に皆静まり返り、九尾の顔を強張ったり、緩んだりを繰り返してなんともいえない表情で一点に見つめている。



「だから誰も死ななければいいわけ?」



「……できるのか?」



「まぁ、見てなさい」



 一言言い残し、九尾は国民全員が見渡せるバルコニーを目指す。



 群集の声は地鳴りとなって王宮を揺らし、いつ反乱が起きてもおかしくない緊迫した状況の中、九尾は矢面に立った。美しい黄金色の髪を靡かせ、誰もが釘付けになるであろう風貌に地鳴りが止んだ。


『――控えよ』


 小言のように呟いた九尾の一言は、静かに、されど響いた。


『汝らの敵は誰か……汝らの打つべき敵は誰か?』


 九尾のルビーのような真紅の瞳が怪しく煌き、見る人の魅了が止まらない。


『汝らの王は誰か? 思い出せ!』


 何百万と集まった群衆が、催眠術にでもかけられたように虚ろな瞳でぼんやりしている。


「――メルド国王」


「メルド……」


 ぽつ、ぽつっと何人から呟きが漏れた瞬間。導火線に火が着いたが如く、群集はあっという間にメルド国王賛辞の声に包まれた。


『メルド国王ばんざーい  メルド国王バンザーイ!  メルド国王万歳!!』


 群集が声を上げる度に、国民達の顔に生気が戻り、反乱まで一触即発の状態が一点。国民総出の決起集会国のような状態へと変貌した。九尾の洗脳、幻術の類は恐ろしく強力であり、人数、範囲など、闇魔法の学術的範疇を遙かに凌駕するものだった。

 

 九尾が行なったのは、王が魔族を従え、国敵と戦っている事が正義なんだと一瞬で植えつけた事と、反乱因子の炙り出しだ。


「めるど? こく、おうばんざい??!?」


 広場の隅で口をかくかくとぎこちなく喋る人間がちらほら見受けられる。魔法騎士の影の組織である『月下の蝶』は、ある程度闇魔法に抵抗できるよう訓練はされているのだが、九尾の魔法とスキルがそれを上回った。彼女は相手が視認した瞬間から幻惑を仕掛けられる『視線を奪う幻術』と『瞬時洗脳』『違和感無き刷り込み』と、連続して繰り出される精神攻撃に瞬時に脳は奪われてしまう。


「ちがッ……私は、一体。あがあああああ――」


 抵抗する術があるが故の苦しみ。自我を保つ為、必死でレジストを試みるが、その姿は明らかに他と異なる。広場にて、国王賛辞に群集が酔いしれる中、頭を抱え、苦しそうにしているのだから。


 直ぐに兵士へ伝令が行き渡り、もがき苦しむ不審者を拘束して回った。



 「どうよ!」


 国民の声をバックに戻ってきた九尾は、茶目っ気たっぷりな笑顔でドヤを決めるのだった。


 



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