54:石壁
おけおめです。
更新のろくてすみません。
正月太りから食欲止まらずデブまっしぐら。
運動しよ。
ダルス・ニッケル率いる滅炎龍槍騎士団は、順調に山越えを行なっていた。伏兵があるとすればワインの栄える街レーベの山脈街道を進むのが、敵国セリクリッド王国への近道であったため、伏兵覚悟で強気の進撃行なっていたのだが、あまりに静かで拍子抜けしている所であった。
先遣隊の役目である、後続の部隊が安全に進軍出きる様にルートの確保の為、慎重に進んでいたのだが、交戦する気で近道をしている彼らの緊張感は不安定なものだ。気が抜けないのに気を抜いてしまう程の行路は、逆に難しいのかもしれない。
だが、丁度彼らが山脈の峰に到達した時に見えたセルクリッド王国の変貌に愕然とするしかなかった。
★ ★ ★ ★
遙か上空。人間が目視できない所で地上を視察しているワイバーンがいた。彼らの視力を活かし、騎士団の進行状況や隊列など調査して、随時陸に知らせていた。
「今、レーベの街を越えて山越えに入るようです」
「陸殿、本当に大丈夫なのですかな?」
陸はセルクリッド城の会議室にて、配下の連絡を待っていた。
その頃魔王城では大急ぎで部下の配置変えや、家具の移動など。土地柄移動の難しいゴブリン農場を基準に大きな引越しが行なわれていた。
「えっほえっほ」
「お~ミニス偉いではないか!」
「たんちゃんもごろついてないで手伝うんだよー」
「我の分は皆部下達が親切心でやってくれているのだ! はっはっはー」
「し、親切心!?」
ワイバーン達は特にタンニールと目を合わせるまでもなく、せっせと荷作りをしている。既に暗黙の了解と化した航空戦力のドンは、部下の働きを眺めている。
「ミニスの運んでいるものはなんだ?」
「これは料理道具だよ! アリアとマリーのお手伝いしてるんだよ! 偉いでしょ」
「ほぉ、あのゴブリンから料理を教わってるあの子達か」
「そうだよ! 今じゃ凄い料理上手くなってるんだから。たんちゃんのほっぺた落ちちゃうよ!」
「なに! ほっぺたが落ちるだと!! どのような仕掛けだ……火属性の魔法で口内から爆発させるのか?」
「そんなことしたら死んじゃうでしょ! 落っこちる程美味しいんだよ」
「はっはっは! そうであったか!! はっはっは!」
城の外庭でタンニールの高笑いが響いている頃、ダンジョン内ではアンデット系の配下であるエンティティが世話しなく霊体化と実体化を繰り返し、作業を行なっている。
「陸様は人使いが荒いわ」
「我ら人ではないがな!」
「「「「はっはっは」」」」
「しかし陸様も面白い事を考える」
「あぁ、戦も楽しみだが、こういうのも良いな」
「皆の衆、調子はどうじゃ」
「「「「は! 順調に御座います。ベルゼブブ様」」」」
「なんであんたが偉そうに仕切ってるのよぉ……」
「テリスよ、彼らが我に慕っているのだからしょうがないであろう」
「はぁ、貴方ってどこにいっても慕われるのねぇ」
ベルゼブブは霊体であるが、闘気や気合をフルに使い、霊体でありながら実体化する技を体得し、それを彼らエンテェテェに教授したところ、これは便利だ! とありがたがられ、一気に慕われてしまった。エンテェテェは各々能力は拮抗しており、陸からの指揮系統はバラバラになっていたが、ベルゼブブがアンデットのトップになることで、指揮系統が強化された。所謂アンデッド部長となったベルゼブブが、ビシバシ仕事を送っているのである。
そもそも霊体からなる魔物は、思念や怨念などが形となり、長い年月を経て魔力を得ることで力を得るのだが、ベルゼブブの場合は、生前からのポテンシャルもそのまま引き継いでいる為、他の霊体をも圧倒している。寧ろ、物理無効の霊体化を手に入れた事により生前よりも戦闘能力が大幅に上がっているのかもしれない。
「我はただ楽しんでいるだけよ」
「そうやって巻き込まれる人の事も、少しは考えて欲しいわ」
「はっはっは! だが、今回初めて他人の未来を見たくなった」
「確かに得体の知れない。本当に魔族なのか……どこか人間味を感じさせるわ」
「左様。興味を引かれる。それにここには面白い輩が多くて飽きぬ」
「こっちは気が狂いそうだわ。強力な霊体もそうだけど、ここまで魔人を抱えた魔王はそうそういないわ」
「それにこれから中央の強国と一戦交えようというのだから心躍る。久々の祭りだわな」
「始まったわ……あまり気は乗らないけど、全てはベルゼブブ様の為に」
テリスは一度瞳を閉じて、少し困った顔から呆顔に変わっていったのだった。
★ ★ ★ ★
魔法騎士団各方面の部隊は順調に進軍を進め、既に半分以上は峠を越えて陣地を形勢していた。左翼に陣取る鳳晶氷水騎士団の団長アクリ・メイヤは不思議がっていた疑問が、峠を越えて理解する事になる。
先方の滅炎槍龍騎士団は血の気が多いことはもちろん。武功への欲も強く、後方を待たずして切り込んでいく。だが今回その兆候は見られず、今や後方の部隊も揃うまでに至る。その理由としてはやはり前方。いつもとは違うイレギュラー。それも欲も血の気も多い連中の足を止めるまでの異常。
「これは異様だな……」
「先方の顔は真っ青だったろうな」
攻め込む場所であるセルクリッド王国は肉眼で確認できず、その城壁を更に巨大な城壁が巻く様に聳え立っていた。そしてそれを覆うようにセルクリッド秘蔵の魔術結界である。平面からの攻撃は石壁が、砲撃などの湾曲な攻撃は魔術結界が防ぐという状態である。尚、石壁の頂上には数多くのワイバーンや、数体のドラゴンの影が見える。これでは石壁を登る事や、魔法や使い魔、飛竜での上空からの進入は困難。翌々見ると、石壁に入口が複数あるが、透視魔術の使える騎士の情報では、中は狭い複雑な迷路となっており、袋小路での袋叩きは目に見えている。この最悪の防壁に流石の滅炎槍龍騎士団団長ダルス・ニッケルもお手上げの様で、貧乏揺すりが機嫌の悪さを感じさせる。切り込みによる奇襲は失敗。陣地を形勢し囲い込み、策を練り、襲撃のタイミングを図る。頭では分かっているが、武功の欲が強いダルス・ニッケルには待機時間はフラストレーションにしかならない。
「アクリ団長。ダルス団長の顔色が青や赤やと忙しそうですな」
「あぁ、奴の健康にも悪そうだが、場の雰囲気も大事にしてもらいたいものだな」
「石壁を魔法で崩してみては?」
「滅炎槍龍騎士団が確認済みだ。びくともしなかったそうだ」
「手が早いことで。となると上か、下かになりますが……」
「下は罠だろうな。石壁は魔法で作られたと思っても良い。変幻自在だろう。それを登るのは自殺行為。空を行くにもあの数のワイバーン共だ。下から援護しつつ上から攻めるのが一番マシだとは思うがな」
客観的な思考を思いつめていると、伝令が飛んできた。
「伝令! 至急団長は中央テントに集まられたし!」
「戦場での団長会議は何年ぶりだろうな」
ラベンハルド王国の長い戦いの歴史の中で、戦場での団長会議は数えるほど。そもそも全軍での戦争も珍しい為当然と言えば当然だが、彼らにとって会議とは、どこを攻め滅ぼすか、どこを奪うかなど攻略の話などでははい。故に、戦略的な会議は恐らく初めてのことであろう。アクリ・メイヤは重い足取りでテントに向かった。




