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50:炎槍

「囲まれているな……」


「いっそ焼き殺しますか?」


「人を殺した事実しか残らないわよ?」


(相わらずこすい手を使うのう)


 現在陸達は街に住む住民達に囲まれていた。手には農業用の鎌や片手斧、街の警備隊らしき服装の者は剣を抜いている。


 何故このような事態に陥ったのかというと、陸達が目指した街へ辿り着いたのだが、人気がなかったため、街の中央まで歩みを進めた結果、住民が次々と現れて陸達を包囲し始めたのだった。


「この人たち意識を乗っ取られているわね」


「顔が見るからにやばいな。フェブル、何か心当たりは?」


「これだけの人数を魔法で操ろうと思ったら、普通一人では叶いませぬ。それにハーメルンも人を操る能力があるとは聞いたこともございませぬ」


「なるほど。ハーメルンの部下の仕業か、新手の強者か……どちらにしろ状況が悪い。彼らには悪いが一度撤退しよう」


 ふらふらと左右に揺れながらもゆっくり囲み始めた住民達だが。目は焦点が合っておらず、頭は支えられずふらふら揺れて、口からは唾液がこぼれる。陸達は急いでその場から離れ、周囲の探索を行なうことにした。鼠の痕跡や、隠れられそうな岩場や森など。途中森の中の開けた場所があったので、昼食とした。


「完全に操られているね」


「それも血を吐きながらだぜ? 感染しているにも関わらず操るとかえぐ過ぎだろ」


「人間に冷徹と言われただけあるのう。あれでは治療したくても出来んわい」


「明らかに妨害してきているわね。此方の心境を逆撫でする嫌な策だわ」


 森を闊歩していた猪を即座に捌き、串焼きにして食らい付く。一度味を覚えてしまえば生きた猪も美味そうに見えてしまうものだった。


「みゃー」


「セル子、いつから可愛い声になったんだ?」


「ベースケの腹の音じゃなかったの?」


  二人が振り返ると黒い子猫が甘い声で鳴いていた。焼いた肉の臭いに誘われたのか、群と逸れたのか周りには誰もいる筈も無く、一匹ぽつんと座っている。


「みゃ!」


「おい!」


 ベースケと目が合った瞬間走り出し、しばらくして振り返る。付いて来いといわんばかりの素振りだった。


「ちょっと様子見てきますぜ」


「俺も気になるな」


「では揃って参りますかな」


 黒い子猫に連れられて森を進む陸達だったが、もしや罠ではないかという考えも頭に残る。油断せず、距離を置きながら進む陸たちを、逆に不安そうに振り返りながら道を案内する子猫は、速く来いと急かすように振り向く回数も増えていった。


「ここは……ネコ? 大きいね!」


「ケット・シーですな。一応魔族に分類しておりますが、性格は温厚で、危害を加える事はありませぬ。時より人の言葉を話したり、姿に化けるとも言われております」


 子猫に導かれるまま歩いた先には大小多くの黒猫が横たわっていた。チーターやライオン程の大きさから、生まれたての子猫程の小ささまで様々である。共通しているのは皆力なく横たわっている事だった。


「陸様、これって?」


「あぁ、どうやら感染しているみたいだね。魔族でも抗体を持っていなければ感染してしまうんだね」


「するとこの子猫は私達に助けを求めて来たのかしら?」


「ちっちゃい割には賢いじゃねーか」


「あんたと違ってね」


「相変わらずだの。蒔きと水を調達してくれるか?」


 それからというもの二度目の治療とあって手際良く進められた。水はセル子が氷から生み出し、ベースケは栄養食を作る。フェブルは治療を行い、陸は毛繕いをしながらダニを潰していく。魔族とあって、回復も早く、治療してから直ぐに動きだし、食料にがっつき始める者や、陸の毛繕いに病み付きになり、擦り寄ってくる者もいる。


「よしよし、元気になって良かったな~」


「うにゃぁ~」


 いつの間にか陸は毛繕い待ちの黒猫の集団に囲まれでしまっていた。猫といってもライオンクラスもいる為、座っていては押し倒されてしまう程だ。


 程なくして、群の中で体格の良いケット・シーが猪を狩ってきて、陸達の前に差し出してきた。お礼なのだろうが、先ほど猪を焼いて食べたばっかりな為、顔が引きつってしまう。だが、貰わなければ失礼だろうと、またもや猪の串焼きパーティーが始まったのだった。


「陸様!」


「あぁ、人間のようだね。此方に近付いてきているようだ」


「噂の魔法騎士という奴等ですかね?」


「それだったら不味いのう、奴らは魔族を毛嫌いしておる」


「取り合えず出方を見ようか」





★ ★ ★





「隊長! こんな森の中になにかあるんすか?」


「あるかどうか分からないから調査するんだろうが、馬鹿め!」


「マールク、テメーは街に帰って姉ちゃんの乳でも吸ってろや」


「「「「はっはっはっは」」」」


「んだとスペッド! テメーかーちゃんからもらったパンツ大事に使ってるくせによ!」


「「「「はっはっはっは」」」」


「てめぇー決闘だぁ!」


「望むところだぁ!!」


「よせよせ! いつに無く暑苦しいぞお前ら」


 彼らラベンハルド王国軍滅炎槍龍騎士団は遠征部隊であり、魔物、魔族討伐の任務が主で、今回流行り病と鼠との因果関係が掴めたことにより、調査の任務を与えられているのだった。戦闘部隊なだけあって気性が荒く、国民からの評判はあまり良いとは言えない。


「前方人影確認!」


「何? こんな森の中でか!? 全軍警戒しろ!!」


「誰だ! 出て来い!!」


 荒い誰何に反応して出てきたのは、幼い少年達と多くの魔族だった。





★ ★ ★




 カシャカシャっと金属がすれる音が鳴り響く中で、陸は誰何する本人を観察する。良くこんな森の中をフル装備で歩いて来れたものだと関心してしまう。


「ラベンハルド王国軍滅炎槍龍騎士団団長ダルス・ニッケルである。貴様らこの森で何をしている?」


 団長ダルス・ニッケルは威圧を飛ばし、不審者と思われる陸達を問責し始めた。


「俺達はセルクリッド王国の依頼で、流行り病の調査に来ている」


「何故魔族と一緒にいる?」


「この魔族達は病気に掛かっていた。調査のついでに治したが、問題でもあるのか?」


「魔族を治す? 魔族は敵だ。調査と偽り魔族を保護するか?」


「調査は偽りでないが、保護した事は事実だ。彼らは何の有害でもない」


 今の陸の返答で、騎士団の緊張はさらに高まる。ハベンハルド王国の歴史は魔族との戦いの歴史でもある。


「グルルルル……」


 騎士団のプレッシャーに耐えられなかったのか、喉を鳴らす。


「所詮は魔族。我らに牙を剥くとはどうなるか思い知らせてくれるぞ」


「落ち着け、彼らは今回の病とは関係ない。武器を下ろせば此方も落ち着く」


「何故襲われるかもしれない状況で武器を収めなければならんのだ? 貴様、油断した我らに襲わせる気ではなかろうな?」


「なんでそうなる。頼むから引いてくれ!」


「貴様らは重要参考人として国へ連れて帰る。大人しく付いて来てもらおう」


「この魔族達はどうする?」


「まだ、病原菌をもっているやもしれん。ここで焼き払う」


「それでは付いて行くことは出来ない。わざわざ保護したのに殺されてたまるか」


「ならば力ずくで連れて行くのみ!」


 その言葉を合図に、騎士団の構えられた長槍から炎が噴出した。


「陸様、少々面倒な展回になりましたな」


「あぁ、だけどむざむざ殺されるのは見たくないな。流石に今回はキレそうだ」


(勢いだけの小物だな。やってしまえ)


 そういうと魔剣爪紅(ツマクレナイ)を鞘から引き抜いた。

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