49:ワインの味
衣替え2日目ですね。
暗闇の中、赤い瞳が蠢く洞窟に彼はいた。害悪を呼ぶ王ハーメルンである。数多くの鼠を操り、ペスト菌をばら撒く害悪の王。かつて中央大陸西部の人口の半分を減らしたとされる。また、巨像鼠を小さな村や町へ送り込み、子供を攫っては刻み込んで弄ぶ卑劣さも持ち合わせている。
ハーメルンの被害を危機と感じたラベンハルド王国は、全魔法騎士へハーメルン抹殺の指令を出す。それからというもの中央大陸列強とされている魔法騎士であったが、ハーメルンの尻尾をなかなか掴めずにいた。というのも、ハーメルンの行方を捜索にあたり、各方面で流行り病による感染者が増加した為、対応に人材を裂くことを余儀なくされていた。鼠と流行り病の因果関係が分からず、ラベンハルド王国は後手に回されていたのだった。
だが、ハーメルンは追い詰められていた。鼠の使い魔による情報はリアルタイムで情報を得られる為、陸や道の存在は直ぐに察知できた。その存在感の高い両名により、ハーメルンは焦らされていた。感染への対策、鼠との因果関係が知られてしまえば自ずと答えが導き出されるのだ。
「やだね~人間って。てか魔物が人間の味方するってどうなの?」
「ご主人! そりゃありえねって話ですわ!!」
「だよねぇ……まぁ人間に味方する奴は皆殺しだ」
「さっすがご主人! 気前がいいです!」
「おいアル、人の前をチラチラ飛び回るんじゃねぇよ」
「あいあいご主人!」
「ったくここの洞窟もそろそろ店じまいだな」
「ご主人! 何も売ってはいませんけどね!!」
「うるせぇ蝙蝠やろう」
「ご主人! あっしは雌でやんす」
「うるせぇえ!」
暗闇の洞窟の中で響く二つの声は、次第に奥へと消えていった。今潜む洞窟は、昔は栄えたであろう巨大な鉱山後である。奥では幾つ物枝分かれており出口も複数ある。
「人間の醜さを知ればいいさ……」
僅かに呟かれたそれは、陸の進退に関わることなのか定かではない。
★ ★ ★
「レーベも大分活力を戻してきたな」
鼠共を撃退しながらというもの、フェブルが根気良く治癒魔法を行なっていったお陰で救える命は救われた。体力の少ない老人や、体中にウイルスがこびり付いてしまった患者は症状を軽くしてあげる事しか出来なかったが、町の人達からはとても感謝された。ブドウ農園にも来シーズンの収穫に備えて前向きな準備をする熱い男達がちらほら見受けられた。
「いやはや、ワシの治療魔術もまだまだ未熟ですな……」
「フェブルは頑張ったさ。それよりセル子、どうだった?」
「はい、陸様。何匹かの鼠の毛に魔氷の結晶をつけました」
「よし、お互いの探知スキルでアジトを探そう」
「承知しました」
陸はセル子の魔氷の結晶の魔力を探知する為、感覚のアンテナを最大限広げる。反応がある方に向かって飛んで行き、街から離れた巨大な岩場の洞窟にたどり着いた。洞窟は下へ続いており、薄暗い洞窟の中では鼠の微かな鳴き声が響いている。
「結構深いね……ベースケと俺で入口から火属性魔法ぶち込むか」
「待ってましたぜ! 吹っ飛ばしてやるぜ」
「岩場が崩れたら面倒だろう。その辺加減しろ」
「セル子、崩れそうになったら固めてくれ。俺も加減できるかわからない」
「承知しました陸様」
「この態度の変わりよう、気に食わねぇ……ボソ」
「何か言ったかしら?」
「いえいえ、よろしくお願いしまっう!」
「うぅ……素晴らしい魔力です」
「魔力の質も上がっておりますな」
「そう? 久々にゆっくりと魔力込める機会ができて良かったよ。最近は魔法と剣術を同時に出来るように練習はしてるんだけどね。皆相手だと、付け焼刃な魔法だと隙も作れないから困っちゃうよ」
陸は苦笑いを浮かべられたベースケは、いや、それ食らったら俺でも炭になりそうだわと心の中で呟き、冷や汗が垂れるのだった。
案の定巨大な岩場は陸と、ベースケの申し訳程度の火属性魔法で溶け崩れた。セル子は最初岩場を支えるように魔法を準備していたのだが、あまりの規格外の威力に、仲間全体の保護を最優先とした。というより、自分自身が危険に感じる程である。仲間を守るという口実で自身を守ろうと、頭の中で咄嗟に判断してしまった。
「ちょっと強すぎちゃったかな?」
未だ余裕を見せる陸に対し、フェブルは驚愕を通り越し、呆れてしまう程であった。
★ ★ ★
フェブルが陸の魔法に呆れ帰っている頃、とある洞窟では引越し作業が行なわれていた。といっても魔族と蝙蝠と鼠の大群だが、先日まで余裕をもって洞窟内でのんびりしていた彼らだったが、陸が消滅させた岩場の洞窟が思ったよりも近い場所だったので、血相変えて引越しが始まった。
「冗談じゃねぇ! あんなのが追ってるなんて聞いてねーぞ!!」
「ご主人! コソコソやってねーでいっちょ表立ってやっちゃいましょうよ!」
「裏でコソコソすんのが性分なんだよ。五分以下の勝負なんか俺には出来ないね」
「流石、卑劣非道のご主人は心根が腐ってますね!」
「だろう? 魔族ってのはやっぱこうでねーと。しかし俺様が、魔族代表で人間共を苦しめているというのにそれを魔族が妨害するってのは笑えねぇ冗談だな」
「ご主人! あちしもお手伝いしやす!」
「あぁ、敵の味方は敵だ。魔族だろうが容赦しねぇぞ」
薄暗い洞窟の中の暗躍は時に足元を見失いがちである。
「イテ! 小指ぶつけたぁああああ!」
「ご主人! 大きい声出すと反響してうるさいです!!」
★ ★ ★ ★
「これがレーベのワインか……フェブル、ワインの味分かるか?」
「しっかりとした味わいですな。味の濃い肉料理にはもってこいですな」
「そうなのか。俺には渋みしか感じられないよ」
「こちらにブドウとそれ以外のフルーツを合わせて作られた甘口のワインもあるようですぞ」
「おぉ、お土産に買って帰ろうか!」
「いやぁああ、こいつは美味いぜ!! っういーっぷ」
「はしたない」
「流石お調子者代表だな」
「いやいや皆様。皆様方のお陰でこの街も大分元気になりました。感謝しきれません。是非自慢のワインンを召し上がっていってください」
陸達はその夜、元気になった街の人たちからワインを振舞われ受けきれない程の感謝をされ、次の朝には惜しまれつつ別の街の調査へ向かった。
陸さん最近暴れてないので、そろそろ本気出させたいです。
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