48:ラベンハルド王国
2話続けて投稿です。
「どうだフェブル?」
「私の魔法でも一人当たりに治療する時間が掛かりすぎますな。回復魔法で魔物を倒している気分ですじゃ……」
「ウイルスが強すぎるのか?」
「はい、ウイルスなどの病気治療には抗生魔法などがあるのですが、効き目がありませんね」
陸達は巨像鼠を調べたその足で、街中の教会に入った。牧師や治療師達にはセルクリッド国からの調査団と説明し、患者の様態を調べていた。その際にレーベの治療師達は、フェブルの治療魔法に驚いていた。
「俺の目じゃ病名までは分からないけど、王様から聞いた情報とこの患者達の皮膚の黒シミから病名が分かったよ。これは黒死病だね」
「黒死病とな……噂には聞いたことがございます。体に黒シミが浮き出たが最後、血を吐いて死ぬというあれですな。ですが、それにしても感染力が強すぎまする!」
「多分、ハーメルンが関係しているんだと思うよ」
「なるほど。自らウイルスを強化させ、鼠を使い感染を拡大させているという訳ですな」
「正確には鼠を媒介に、ダニに刺されることで感染するんだよね……という訳で、元気な人は、町中の布団を外に出して、ベースケが熱風でダニを殺す。セル姉は屋根裏に冷気を送って鼠退治よろしく。フェブルは治療しながら、咳き混んでる人を隔離。こっちは肺ペストだから空気感染するよ」
「「了解」」」
★ ★ ★
中央大陸屈指の強国ラベンハルド。栄えある魔法騎士団を前面に、魔族を打ち滅ぼし領土を獲得してきたラベンハルドは、魔族からの恨みは大いに買ってはいるが、それでも多くのお釣りが帰ってくる程の戦力であった。その多大なる軍事力利用しようと、周辺の町や国は物資や軍事費を送り、同盟や協定を結んでいる。
だが、中央大陸最強と謳われたラベンハルドに危機が訪れたのだった。謎の感染症の拡大である。皮膚は黒く染まり、顔は形が変わるほど腫上がり、咳きは呼吸が出来なくなり、最後は血を吐いて死に至る。ある程度の感染症ならば、治癒魔法を得意とする修道院達で押さえ込めたのだが、今回は国だけでなく、他方へも感染が確認されパンデミックとなっていた。事を危うく思った騎士本部は、騎士教会のミーヤに白羽の矢が立ったのだった。
彼女は幼い頃から召還魔法を無意識に操り、大人達を驚かせていた。最初は小石や木の葉などが多かったが、歳を重ね、教会に入り、正しい知識を得たミーヤの召還術は中央大陸では右に出るものは居ないほどであった。
何故ラベンハルドの騎士がここまで魔術に強みがあるのかというと、教会でもそうだが、学校などで教えるカリキュラムの濃さであろう。他の国でも魔法の教育は行なわれているが、教育の差というものだろう。ラベンハルドの魔法の質は高い。
今回ミーヤの召還術により道が現れ、ラベンハルドは救われようとしてた。現在道の指示の下、下水の鼠の駆除や、布団干しの手伝いなど騎士が借り出されている。最初は騎士たちも不平不満を言いながらも作業を行なっていたが、感染者は劇的に減少したことに驚いた。
「ミーヤ、そして道殿。この度は良くぞ我が国を救ってくれた。国民もさぞ喜んでおるであろう。我娘も体調を回復しつつある。王室の治癒術士よりも優れた力を持つ者よ。大儀であった。」
「「ははぁー」」
現在現状が落ち着いたとあって、ミーヤと道は、ラベンハルド国王に謁見を許されていた。というか呼び出されていた。娘の命が助かったとあって、王様もご満悦のようであった。
「して道よ、この騒動の原因が鼠という事も突き止めた。これも大きな成果であろう」
「は、はい。鼠の駆除が行なわれればペスト菌も少なくなるでしょう」
「左様。そして、この騒動の根源もあい分かった。これより騎士を集め、殲滅作戦を行なう」
「根源とは!?(鼠駆除に騎士を総動員とは気前がいいというか、なんというか)」
「どうもこの鼠を操る魔族がおるようなんじゃ。こやつは鼠や子供を操る事ができるのじゃ。わが国に潜り込み、子供を誘拐しておったのでな、騎士たちで追い詰めたのだが、まだ生きておったとは……油断ならぬ奴よ」
(魔族!? なんだこの世界。ファンタジー過ぎる!!)
「どうじゃ、道も我騎士団に入ってみんか?」
「い、いえ。騎士団に入るには魔法以外にも剣術に長けていなければと伺いました。私は病気の知識と治癒魔法しかありません」
「そうか……」
ラベンハルド国王が言葉を濁すと同時に隣にいた騎士に一瞥し、一瞥された騎士は一瞬消えたと思わせる速度で道の懐に潜り込み、剣を突き刺した。
(こ、殺される! やばっ……っは!)
瞬間に道の脳内に体術、剣術あらゆる武術の経験が頭に流れ込んできた。その突きがくるであろう一瞬の時間で、今必要とされる長い年月を掛けて得られる経験が映像となって頭に入ってくる。
突き出された剣先を紙一重で交わし、肘を軽く添えて剣の横っ腹を膝で蹴り上げる。バキンッと鋭い金属音と共に剣が折れた。勢いそのままに、相手の甲冑の隙間に指を掛け、突き出された腕を掴み背負い投げる。勢い良く叩き付けられた騎士は、呻き声と共に肺の空気も外に出てしまい、一瞬呼吸困難に陥り蹲ってしまった。直ぐに王の顔を見ると満足そうに頷いていた。
(嵌められた……だけど、これで2回目だな。自分にこんな力があるなんて)
水上 道は、この異世界に召還された際に手に入れたスキルがある。一つは医療知識を元に生まれた治癒魔術や観察スキル。そしてもう一つがラーニングである。道は看護学校に入ってから、膨大な医療単語や知識を詰め込まれ、暗記が得意になっていた。そして道は、人の動きを真似する事が得意であった。実習でも、手本を一度見ただけでこなしてしまう程、ミラーニューロンの強い特性を持っていた。それらを強化され、組み合わされたのが「ラーニング」スキルであった。熟練の動きや動作など、目で見ただけで習得し、自分の物に出来るレアスキルであった。先ほど騎士への動きは、道が子供の頃良く見ていた中国のカンフー映画の映像が復元されて道の力となっていった。
「流石は救世主殿。試す真似をして申し訳ないと思ったのだが、それ程の体裁き、仕舞って置くにはおしいと思わぬか?」
「分かりました。力になりましょう」
「そうか! 誠吉祥なり!」
ハーメルンの笛吹き男はドイツ童話にありますが、実際にあった出来事らしいですね。今でもハーメルンで楽器の演奏は法律で禁止されているそうです。
ラーニングといえば、タイ映画の「チョコレートファイター」に出てくる女の子が人の動きを見ただけでカンフーをマスターしてしまうとい設定を頂きました。此方の映画には阿部寛さんも出ていて、昔のジャッキーのオマージュもいくつかあり、面白い作品です。




