45:講和交渉
お待たせです
(思ったより幼く見えるな)
豪華な来賓室に幼い少年と少女、それを取り巻く様に獣人の様な者達がメリア卿と共に入ってきた。メルド国王は入室してきた面々を見るや多少の驚きはあったが、顔には出さなかった。
「メルド国王様。ここに南の森の城の主である早乙女 陸様をお連れしました」
「うむ、メリア卿ご苦労であった。して陸殿。今回の騒動に援軍として駆けつけていただいた事に感謝いたす。今日はその事で話があるとか」
「えぇ、自分は魔王といわれてますけど、最近転生したばかりで元は人間なんですよね」
「なんと! 自我を保ったまま転生とは聞いたことがありませぬ」
「はい、それは私フェブルが補足しましょうぞ。陸様は私と、私の部下によって初代魔王様の体を媒体とし、転生の儀を行ないました。」
幼い可愛らしい少女が、魔王軍参謀の蛙オヤジ(騎士団通称)の名前を発したときは軍関係者にただならぬ空気が流れたが、詳しい魔法の解説が聞けると分かれば、魔法省大臣のデルメルは身を乗り出して質疑をぶつける。
「媒体か、成る程。だが初代王の魂はどうしたのだ? あれにはかなり強力な封印術式を施したのだが」
「えぇ、ですので今回の転生では、陸様の魂だけを初代様の体に入れ込み復活させようとしたのです。ですが、陸様の魂が肉体と離れずに肉体ごと召喚され、媒体となっていた初代様と合体されました。その際に初代様の魂は封印術式と共に陸様の体の一部となっております」
「待て、一つの肉体に二つの魂だと!」
(え! それは俺も初めて聞く真実!! だが此処で動揺するのは不味い。しれっと分かっていた事にしなければ怪しまれる……)
「左様。どうやら陸様の体内の核に初代様がいる事は事実。なれど、目の前の陸様とは人格は別物。その陸様は我らを救う契約をして下さったのです。ですが強靭な力を持った陸様でも、人と魔族が殺しあうのは好ましくないという経緯があります」
(いつになく熱弁を振るっているな……)
「つまり休戦条約を結び、交流を作ろうと?」
「国王様! 魔族と交流などとは!! 魔族に殺された家族も多くいるのです。ここは慎重になるべきです」
(あれは軍幹部か……)
「確かに戦争で兵士達も亡くなっている人もいるだろう。かという俺も魔法で吹き飛ばしてしまった。しかし、これ以上はお互い犠牲は出したくないというのが本音だ。」
「休戦と偽り奇襲する魂胆かもしれません!」
「そんなのは非力な人間の使う小細工だろうが!」
「なんだと!!」
「よせ、ベースケ」
「よさぬか」
当人同士ではなく、下の物達が勝手に熱く燃え上がっていく。
「そもそも彼らが魔族というのも甚だ疑問だ。なぜ人や獣人の格好をしている?」
「あぁ、そうかい。見せてやってもいいんだぞっ……ぐがぁあああああああ!」
ベースケの小柄な体が一気に燃え上がる。赤い紅色の溶岩ような皮膚、背中から肩甲骨が突き出す様に現れた翼、鋭い眼光と前に突き出した顎門。体から噴出す高熱の熱波は、衣服から焦げ臭い臭いが漂う程だ。
「ひひぃ! なんで炎竜が!!」
(説得力はあるんだけど、やりすぎなんだよな……)
赤く赫く炎竜の体は、囂々とけたたましく焔が湧き上がる。その姿を見るやセルクリッド国幹部達は恐々とした顔をしたまま固まってしまった。
陸はやれやれといった表情で、セルシウスにアイコンタクトを送った瞬間に炎竜の氷付けが完成した。炎竜も打ち破ろうとすれば直ぐさま出来るだろうが、状況を確認して場を見守る事にした。
「いやぁ、すいません。彼らが偽りの姿なのはこの様に周囲に影響が出てしまいますので、狭い部屋では適さないのです。ご了承下さい」
「う、うむ。いや、此方の態度も悪かった」
「では、取り敢えずは停戦という形で。追々講和を結びましょう」
「そうだな。我もそれは切に願う所であった」
(なんだか脅したみたいな状況になってしまったが、しゃあないか)
「ところで、陸殿。メリア卿と婚約すると聞いたが?」
「え?」
「は?」
陸と同時に声を漏らした人物がいた。陸軍幹部のアルドレット・ベリオット侯爵である。本日この交渉の場に同席していた。
「ん? ベリオット侯爵は聞いておらんかったか?」
「は、はい。何のことだかさっぱり」
「陸殿は救援の褒賞としてメリア卿を選んだそうだぞ?」
「え?」
「は?」
陸とベリオット侯爵は、お互いメリア卿と視線を交錯させながら頭の中では思考が停止していた。
「えぇ、お父様。これからの交渉においても、この国においても、私達の婚約は重要な事ですわ」
「な、なんだと……内の娘が魔族と結婚だと?」
この突然の公表に、寝耳に水なベリオット侯爵の顔は赤、青と色を変化させ、肩を震わせている。
「それはようございますな! 講和に向けて、素晴らしい材料になるでしょうな」
(フェブル何乗っかってるんだよ!)
(此処は非公式の場ですが、話が大きく成り過ぎてございます。ここであの娘の提案を断れば余計拗れますぞ。それに悪い話ではありませぬ。ここは一つ)
(うっ……已む無しか)
「そちらにおいでの方はメリア卿のお父様でしたか。ベリオット侯爵殿が宜しければ講和の印に……」
「ぐぬぬ……」
「ベリオット侯爵よ、相手は魔族と言えど元は人間だったという話ではないか。」
「そうよお父様! 陸様はとても優しい御方ですわ」
「くっ……メリアがそこまで言うのなら」
「はっはっは! めでたいな。縁談も決まった事だし。復興中とあって豪華なもてなしは出来ぬが、明日まで城でゆっくりして行っては如何かな?」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
「そうか! では城の者に案内させよう」
「感謝します」
その後、それぞれ部屋に案内された後、夕食にて懇談会が執り行われた。メルド王は陸に転生前の人の暮らしに興味を持ち、高い文明に驚いていたが、魔法が無いという話には、「不便じゃな」と呟いた。陸としては、一人でに動いてくれる家電や機械の方が便利だなと思うのだった。陸の部下たちも、魔法省や軍の関係者と魔法や魔族について話していた。
(なかなか面白いものが見れたな! なかなか傑作だったぞ)
(デイルさん、全然出てこなかったじゃないですか。勘弁してくださいよ)
(なに、フェブルがおったのだ。何も問題ない)
(確かに助かったけど、結婚も決まっちゃったよ)
(王とは結婚相手は多いに越したことはないぞ)
(理解はできるけど、理性的に考えてしまうよね)
(うぬの価値観は否定はせんよ)
「ん~何か忘れているような気がしてならないんだよな」
「思い出せないと言うことは、さほど重要ではないと言うことでしょう」
フェブルは好物の佃煮を山盛りにしてがっついている。
(そんなに食ったらしょっぱいだろうに)
★★★
その頃来賓室では、ベースケこと炎竜の氷付けがそのまま残されていた。本人は困惑していた。このまま出てもいいのか。氷を打ち破らなければ人の姿には戻れないし、破ればたちまち部屋が燃えてしまうだろう。結局朝清掃に入ったメイドの悲鳴が上がるまで、誰も気付く事は無かった。
各国の魔族人間のお姫様囲んでハーレムってのもアリなのか……?
それなんてエロゲ
恋愛描写は苦手です。ムズムズするような表現しか浮かびません(笑)




