35:未知の可能性
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アルドレット・ベリオット侯爵は王の命により魔王城の近くまで軍を進めていた。
先行しているエミリー達に期待していない訳ではないが、実の娘が魔王に攫われたとあっては不安を払拭出来ないでいた。
その事も含め王メルドはアルドレットに指揮をまかせるのだった。
アルドレットは普段より責任感が強く命令に忠実でありメルド国王が信頼を寄せる将校の一人でもあった。
そのためメルド国王はどんな結末であろうとも、本人が納得させる為に現場で指揮を取らせるのが良いと判断した。
だが、本人はこの決定には困惑した。
メルド国王は自分の精神状態が不安定と判断し、違う将校を選択すると考えていたからだ。
だがアルドレットが選ばれアルドレットは直ぐに理解した。
ここまで私に信頼を寄せている国王の期待を無下にする訳にはいかない。
国王から借りた兵の命も無駄にせずそのままお返ししなければと意気込むアルドレットだった。
「作戦決行までまもなくだが、エミリー殿はまだ見えぬか?」
「は! まだ報告にはあがっておりませぬ」
「そうか。出来る事なら彼女等が来るまで待っていたいものだが致し方ないな」
「アルドレット閣下、それではメリア卿は!?」
「致し方あるまい。エミリー達が我らの攻撃を陽動として計算するやもしれん。決められた事は徹底する」
「は! 承知しました」
アルドレットは覚悟を決めていた。
娘が帰ってこなくとも軍務を全うし、我セルクリッド国の平和を勝ち取る! それが私に与えられた使命であるのだから。
「伝令!! 魔王城より5騎こちらに向かってきます」
「慌てるな、確認出来るまで警戒を怠るな」
「伝令!!! エミリー殿率いる先遣隊が戻りました! メリア卿は無事です」
「「「「うおおおおおおおお!!」」」」
無事を聞いて先ほどまで不安そうだった兵士達から歓声があがった。
魔王城に少数で乗り込み生きて帰ってくるだけでも大変なのだが、捕われた人質も救出してしまう彼女らに感銘を受けた。
「お父様! ご心配をお掛けしました……」
エミリーの乗った馬に二人乗りで乗ってきたメイヤは下馬するなり父アルドレットの元に駆け寄った。
彼女も自分の行いが元でここまで軍が動いてしまった事に嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、何よりも父に迷惑をかけてしまった事に対し自責の念に駆られていた。
「メリアが無事で何よりだ。込み入った話家に帰ってゆっくり話すとしよう」
そんなメリアを見かねてか父の優しさを見せるアルドレットだった。
「はい、お父様」
「アルドレット閣下、お話したいことがございます」
「おぉ、エミリー殿。今回の件お手柄であった!」
「はっ! そのことなのですが、我々は9階までしか到達しておらずメリア卿は天井より落ちてきたのです」
「何? メリアは自力で脱出してきたのか?」
「いえお父様。魔王が迎えが来たから速く帰れと仰られ、直ぐに開放したのでございます」
「はっはっは! なんだ腰抜け魔王ではないか。勇者の実力に尻尾を巻いたのでは?」
「いいえ、アルドレット閣下。尻尾を巻いたのは我々の方でした」
「何? 詳しく話せ」
アルドレット侯爵は、勇者エミリーや娘メリアの話を神妙な顔つきで耳を傾けた。
10階に巨大なサラマンダーや炎竜がいたこと。
魔王が15歳くらいの人間の男だったこと。
小さい子供が城の庭で遊んでいたことなど、捕われてからの話を事細かに話すのだった。
「う~む、不思議だな。我らが封印に携わった時は子供ではなかった」
「アルドレット閣下。魔族が転生する事例はございますか?」
「聞いた事が無い。遙か昔の伝承では優秀な召喚術師が、勇者を転生させたという話は聞いたことはあるが、魔族の情報はなかなか入ってこないからな」
「もし、魔王が人間に転生したとなれば講和の道もあるのでは?」
「魔族と講和か……今まで聞いたこともないがな。しかしどうしたものか。ここまで兵を出して不確定な情報で兵を引き返すというのも問題がありそうだが……」
アルドレットは選択を迫られた。戦わないに越したことは無い。
娘のメリアも無事戻ってきたのである。
悪戯に攻め入って兵を死なせるというのも避けたいが、王の命により魔王討伐の指揮を任された以上ここはやはり……
「伝令!!! アルドレット閣下はどちらに!」
早馬に乗った兵士が一目散にアルドレット侯爵へ駆け寄ってくる。余程慌てているのだろうか、その兵士はアルドレット侯爵が立っているその場まで騎乗したまま近付き馬上で報告を始めた。
「報告します! セルクリッド国内にてアンデットと思われる魔物多数出現!!」
「何!? 魔王軍の陽動か?」
傍に居た幹部達にも動揺が走る。
兵を鉄壁の城まで誘き出し本陣を奇襲する作戦だったのならば、まんまとしてやられたものである。
「陽動かどうかは確認が取れず、現在城内では住民避難が進められていますが人手が足りず、兵士達も足止めが精一杯であります」
「分かった。直ぐに城へ引き返そう。全軍に伝えろ。全軍撤退! 本国の救援に向かう!!」
「「「「「「はっ!」」」」」
★★★
「はっはっは! この国の兵士もこの程度か? 屍になったわしにも勝てぬか」
兵士の死体に憑依したベルゼブブが槍を片手に勝鬨を上げていた。
周辺には逃げ惑う人々の姿はもう無い。
焼き払われた家屋と無残に転がるセルクリッド国の兵士の姿だった。
「ここら周辺は落としたか。ここを足がかりに中央へ攻め込むぞ!」
「「「「「ぶぅおおおおおおおおお」」」」」
ベルゼブブの背後には夥しい数の人や魔物のゾンビや屍が雄たけびを上げている。上空には翼人や飛竜の姿、基ゾンビが急降下しながら敵兵を奇襲する。城壁を守る兵士にとって、上も下も警戒しなければならないこの状況に右往左往としている。
「はっはっは! やはり戦争は勝ち戦に限るわ!! 城門を破壊する。行くぞ!!」
「「「「「あああぁあぁあああ!!!」」」」」
「ベルゼブブ様、状況が落ち着けば強敵も現れましょう」
「うむ、時にテリスよ。奥の手は取っておけよ! 手駒の出し所で戦況が変わるからな!!」
「はっ、心得ております」
「うむ。では参ろうか!」
颯爽と槍を一振り高らかに翳し、炎上する城下中で蠢く奴等は城を目指す。




