3:旅立ち
突如現れた黒く、巨大な飛竜に飛竜騎士団分隊長ニッケルは進言する
「レイル! あれは飛竜じゃない、ドラゴンだ!! 言葉をしゃべり、魔法も使う!!」
「馬鹿な! ドラゴンなんて伝説上の生物! 俄か信じられん」
「文献道理なら間違いない。奴は憤激の王といった。ドラゴンは、7つの負の感情の化身とも言われている!」
「任務は偵察! そんな伝説じみた報告ができるわけないじゃない! 笑われ者にされた挙句左遷よ!! エルダ隊突撃準備!」
ニッケルの静止を振り切り、突撃号令を掛ける。放っておいてもいずれ戦うかもしれないのだから、いつぶつかっても同じと楽観的なエルダとは裏腹に、ニッケルは慎重過ぎていた。仲間の特攻に動けず、観察の体制に入るしかない状態を、小隊長のレイルは横目に、エルダを援護させるよう兵を展開させ、ニッケルに後方へ下がらせた。最悪上官2名失った場合、ニッケルの分隊に伝令役を押し付けようとした判断だった。
★ ★
「主よ、何なりとご命令を」
黒龍タンニールは陸に対し、首を垂れ、忠誠を誓うのであった。陸は、快楽殺人者ではないし、好き好んで人を殺そうとは思わない。最初は、急時であったし、加減もわからずの状況であったため大惨事となってしまったが、何事も穏便に済ませたいと思っている。故に、陸はタンニールへ降り掛かる敵に対し、無殺の命をだした。
「ほっほー。こいつはたまげた。わしでも初めてみるわい。良い物を見た」
(こんな大きな奴ちゃんと言うこと聞くかな?)
「契約は完了しておる。全て従うであろう」
(そう言うもんなのか? 契約ってちょっと怖いな)
「左様。無闇に契約に干渉してはならんぞ。言葉尻でも取られれば厄介だからな。まぁ、うぬの魔力なら、どんな契約も破り捨てられるだろうがな!はっはっは」
魔王の高笑いが陸の頭の中で響いているなか、タンニールは主人の命を受けるため、シャンと立っている。
「タンニール、地面に叩き落とすだけでいい。後はこちらでやる」
「なるほど」
顎鬚を撫でながらタンニールは静かに飛びだった。向かうは真っ先に切り込んできたエルダである。エルダ分隊はエルダを先頭に三角形のような陣形であり、両サイドは魔法で援護射撃を行うペルセルド竜騎士団の基本陣形であるが、精鋭が行えば理に適った攻撃になる。が、伝説と謳われたタンニールは、飛んでくる竜騎士団を蠅でも払うかのようにあしらった。
先ず、初撃の魔法を闇魔法で吸収し、エルダの太刀を爪で弾く。続く兵達は、タンニールに触れる前に地面に落とされた。仲間を落とされたエルダは激昂し、タンニールを睨んだ瞬間に力なく地面に落ちていった。
「言ったであろう、憤激の王だとキレた相手の意識を刈り取るなど造作無いわ。それと儂は重力を操る魔法が得意でな・・・」
レイルはタンニールの言葉を聞いて、危機感や絶望感よりも、一種諦めのような、清々しさを感じていた。今まで会ったことのない絶対的強者であり、抗う事さえも叶うことがない。今までの人生が走馬灯のように駆け巡り、上からの強烈な重圧に意識を刈り取られ、地面へと落とされていった。
結局、撤退しようとしたニッケルの分隊も重力魔法で落とされた。だが、地面に叩きつけられたはずの竜騎士団は、意識は失っているものの、全員生きていた。というのも陸が、土魔法で地面に空気の層を何重にも重ね、広範囲をクッションのようにし、落ちてきた竜騎士団を死なせないようにしていた。
「人間はともかく、飛竜はどうしよっか・・・もらっちゃうか! 適当に魔力流して、テイムしてみよう。いい航空戦力になるし。攻めてきた代償ということにするか」
陸は騎士団を集め、土魔法で巨大な檻を作り、中に放り込んだ。タンニールに国に返すよう指示をだすのだった。念のため、人に襲われても攻撃しないように念を押した。
★★★
ベルセルド国軍は騒然としていた。監視していた兵が、黒い巨大な飛竜がこちらに向かっていると伝令が入り、急いで臨戦態勢に入った。国民を避難させ、竜騎士団を展開と支持を送る中、第二報が入る。先ほど偵察の為出撃させた小隊が、全員檻に入れられたまま運ばれてきたというものだった。竜騎士団長ローグは司令室から飛び出し、砦に向かった。 砦に駆け上がると、強大な黒い飛竜が目に飛び込んできた。足元には、偵察に出した同志達が力なく檻の中で横たわっていた。
「主の命により、こやつ等を返しに来た。飛竜は襲撃の賠償とする。との言伝だ。」
呆然と立ち尽くしていたローグははっと驚いた。言葉を喋る飛竜など見たこともな為であるが、襲いに来たのではないと思うと、一瞬ほっとした安心感が沸いた。だが同時に自分の手に負えない事案だと考えていた。
「兵を返して頂けるならばありがたい。こちら側が仕掛けたのだ。飛竜で許されるのであれば差し上げまする。さて、そなたの主は、我が国に対し、敵意は無いと申すか?」
「左様。我が主は攻められれば全て打ち滅ぼす構えではあるが、悪戯に国に攻め入る事はしないと申しておられる。」
「承知した。今後、そちらに関わることのないよう最善をつくす」
「よかろう。では然らばだ。」
タンニールは大きな翼を羽ばたかせ、魔王城へと帰還した。ローグは胸を下ろし、国王へ伝令をだし、兵達の救出に向かうのだった。
★ ★
(33匹か~・・・多いな~どれか一匹だけ凄い強化して、後は適当でいっかな)
陸の前には先ほど無理やり従えた飛竜達が頭を垂れている。気持ち怯えているように見えるのだが、陸は気にする素振りを見せない。
「仮にも竜の付く魔物が形無しだな」
(こうなると可愛いもんだね! あ! あいつが一番体がでかいな! あいつにするか)
陸が物色を止めて、一匹近寄らせ、いつもの如くドバドバ魔力を注ぎ込んだ。最初は痙攣したかのように激しく身体を震わせていた飛竜だが、徐々に落ち着きを取り戻し、体が光輝き始めた。くすんだ灰色だった鱗は、緑色の光沢が生まれ、顔立ちも鋭く、全体的に重量感のある身体に生まれ変わった。
「主様、我が体、生まれ変わらせて頂き、うれしい限りでございます!」
「うぬ、飛竜がワイバーンに変わりよった。主よ、下位のドラゴン種とは言え、種別変化など安々出来るものではないぞ。恐れ入る。」
(いきなり喋ったからびっくりしたわ。種族を変えちゃったのか・・・ポニーをサラブレットにいちゃった感じか?)
「そうか、名前はそうだな・・・ハロルドにしよう」
「名前を頂けるなど! ありがたき幸せにございます」
「よし、飛竜全体の指揮はハロルドにまかせ、ハロルドはタンニールに従うように。」
「はは!」
★ ★
それからしばらく経ち、セルクリッド国からもブルセルド国からも兵は来なかった。暇を持て余した陸は、レオルド達の訓練に付き合ったり、ダンジョンの罠の構築などで時間を潰していた。
ダンジョンの最上階はどでかい農園にして、牧畜や農業など自給自足できる環境を整えていた。ダンジョンの天井は、スキルによって高さや太陽、時間など調整できるため、植物を育てることも可能にした。ダンジョンには植物系の魔族も存在するため、夜・昼といった環境設定も大事になってくる。最近では川や湖などの製作にも着手している。それにしても陸の魔力は無限大であり、取り掛かれば直ぐに作業は終わってしまう為、仕事を見つけては暇になり、と繰り返しているうちにネタ切れとなった。
(ハロルドは気張ってるな・・・)
バルコニーに出た陸が目にするのは、ハロルド率いる飛竜達が、連帯を組、飛行訓練を行っていた。元々軍出身の飛竜なので、順応してはいるが、一瞬でも遅れを取る個体には、ハロルドから喝が入る。かなりスパルタだ。
(俺がいなくてもやっていけそうだな・・・)
「フェブルいるか?」
「は! こちらにございます」
「全員を呼んでくれるか」
「承知いたしました。」
急遽集められた魔王軍は10分もしないうちに集められた。王座の間は広く、体育館の三倍はあるだろうか、魔族は基本体が大きい個体が多いためかもしれないが、それにしても飛竜はかさばっている。次からはハロルドだけでいいか。
「この城も兵も強化できたし、ダンジョンも完成した。俺はしばらく人間の国を見て回ろうと思う」
集められた魔族達には動揺は見られない。多少驚きはしただろうが、魔王とはそういう者だ思っていたからだ。基本的に自由で、放浪する魔王もいる程である。それよりも、自分達を強化してくれた事に感謝もあり、不満はない。
「俺が戻るまで、タンニールを代理とし、困ったことがあれば相談するように。それとフェブルは旅の世話をしてもらう為、同伴してもらう」
その言葉にフェブルはビクッとし、他の魔族からは羨ましそうに見つめられていた。フェブルは博識で、この世界や、国の事情にも詳しいため、この世界の常識に疎い陸には欠かせない人物となっていた。
「それではよろしく頼む」
翌日、タンニールには何かあったら連絡をと伝え、フェブルと陸は南へ旅立つのだった。タンニールには魔力を感知するスキルがあるため、直ぐに飛んで来る事が可能なのだ。
陸は念の為の保険を残し、旅立った。
神話などモデルに少し使ってます。
キャラ設定って難しいですね・・・