19:バエル英雄記2
炎龍の身体は赤くマグマのように沸々と燃え盛っていた。
人間の臭いを嗅ぎ取ったのか、急速にバエルのいる村に突っ込んできている。
バエルは飛んでくる炎龍を前に不適に笑う。
彼にとって絶望的な状況だが、やりがいがあった。
若い冒険者の未来を守る事。
柄でもない自分に背負わされてしまった事に笑ってしまった。
「いいぜ、出来るかぎりやってやるか」
「GAOOOOOOOOO]
炎龍の咆哮はけたたましく響き渡り、全てを震わせた。
家屋の3倍はあろうか、その巨体がバエルに迫っていた。
「何故、俺が今までパーティー組まないでいると思う?」
「GABAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOO]
バエルの問いかけに全く無視して、炎龍の鉤爪がバエルに突き刺さる。
筈だったが、残像を残し、炎龍の足元に接近していた。
「俺の技は、周りを巻き込んじまうから、嫌われちまうんだよ!!」
炎龍に電撃走る。蒼紫の光と、パパパパンッ!!という断続的に聞こえる破裂音が、その技の壮絶さを物語っていた。
炎龍は目を大きく開けたまま動けず、顎を諤々震わせている。
それもその筈、大電流、大電圧を断続的に受けてきていられる生物など、なかなかいない。
元々魔術師でもない彼は、偶然にも雷に撃たれたのがきっかけで、魔力で電気を操れるようになった。
彼は、この事に神から授かった力だ!と喜んだが、パーティーが組めず、神を恨むのだった。
「うおおおおぉぉぉぉおおああああああああ!!」
「GAAAUUUUAAAAAAA」
炎龍の動きは止まった。
だが、仕留めた訳ではなく、硬直しているだけだ。バエルの「蒼電流槍」は炎龍に絡みつくも、瞳がギョロっとバエルを凝視する。
(なんて奴だ・・・まあこんあこったろうと思ったよ。まあぁいい足止めになるわ!!)
後何人かAランクの冒険者がいたら、今のうちに攻撃できるのにと思うバエルだったが、わざわざ電撃に突っ込むやつもいないかと思う。
そもそも足止めなのに、足止めしてる最中敵に近づけなければ意味がないのである。
おまけに前衛全てを巻き込む広範囲に広がる雷撃こそ今までバエルが避けられてきた理由だった。
「我が命にて蒼き雷鳴にて応えよ----蒼電流槍」
バエルの両腕には稲妻が握られていた。バエルは稲妻の槍を、感電し続けている炎龍に向けて投擲した。
青白い槍が、バエルの手から離れた瞬間、凄まじい轟音と閃光が走り、二本の槍が脳天に突き刺さる。
バエルは、放出、具現化等、稲妻を操る事が出来る。
友人から、「槍のように鋭く、突きが早いな」と言われてからイメージが余計に沸き立ったのだ。
「DUOOO・・・・・」
炎龍の度重なる高圧電流を受け、失神寸前なのか、瞳が上を向き白目が目立つようになった。
「そのまま倒れろや!!」
だが、倒れたのはバエルだった。
無情にも、バエルの魔力はとっくに切れていた。
バエルもそれは承知していた。
故に全力で足止めし、あわよくば相打ち狙いだったのだが、肝心の炎龍は白目が、完全に得物を捕らえる瞳に回復し、倒れているバエルを背中から、鋭利な鉤爪で突き刺した。
その後、村民や、冒険者は無事助かっていた。
炎龍はその後、荒い息をしながら、ぎこちない身体を動かし、遠い住処へ帰っていった。
だが、バエルにとって、無事かどうかなど、知る由もない。
村にはバエルの慰霊碑が建てられ、花が手向けられた。
レイルやセリナは避難場所からしばらく経った頃、様子を見に行くといい、村に偵察に訪れてときには、バエルは倒れており、周りには血で溢れていた。
遺体はそのままだった。
炎龍は好敵手と認めた相手を殺した後、捕食せず、そのままにする特異性があり、好敵手がいた地域には捕食行為を行わないという習性があった。
バエルは死して炎龍から村を守った英雄と称えられ、その村では祭りとして、毎年炎龍祭が行われるようになった。
レイルやセリナも毎年村の祭りに通うようになり、バエルの霊を称えるのであった。
★★★
霊体は、死ぬ際に思いが強ければ形となる。
だがバエルの死ぬ間際、彼はとても清清しい気持ちだった。
村人の避難も終わり、冒険者も大半が避難しているし、なんの悔いも残っていなかった。
だがバエルはデーモンという身体に形に変わり霊界を彷徨っていた。
バエルは、「まあ、いっか」など軽い気持ちで霊体ライフを送ろうと、第二の人生を送ろうと考えた。
霊体となっても、生前の能力は変わらず電撃を操る事が出来た。
変わった所は、姿と魔力量が格段に上がったことだ。
この身体なら、炎龍にも勝てただろうなと思うが、今ではどうでもいいという気持ちだ。
「おい、お前新入りだろう?」
「おぉ、あなたは先輩かな?私はバエルといいます」
「バエルか、お前名前覚えてるんだな!だが、この世界は実力社会。力が物を言うんだ!だからお前は俺に従うか、嫌なら戦え」
霊界における初心者狩りである。
バエルに声をかけたデーモンは、右も左も分からないところに有無を言わさず襲いかかる外道である。
むしろ霊界では外道が常識。
弱いは罪なのだ。
「そうか、それが此処のやり方なら仕方ねぇ」
バエルは生前と同じ感覚で、蒼電流槍を発動させた。
だが、それは惨事となった。
生前と比べ、魔力も桁外れに上がっていた彼の蒼電流槍は黒い稲妻となり現れ、空間を震わせた。
彼自身未だ実感がわかないが、相手側から見ると、圧倒的プレッシャーの中、未だ余裕を見せている相手がにこやかな表情で迫ってくる。
恐怖でしかない。
初心者狩のペルシーは思った。
死ぬかもしれないと。
身体を動かそうにも指の感覚がなく、喋ろうにも上手く舌が回らす、顎が振るえ初め、呆然と立つしかなかった。
迫り来る黒い雷は、ペルシーも見たことのないものであるが、感じ取れる魔力から、絶対に受けてはならない物だと脳の中では警報が鳴り響いている。
それでもなお動けなかった。
次第に意識が薄くなり、ペルシーはバエルのプレッシャーだけで落ちた。




