17:デーモンの召喚
20話まであげていきます!
わらわらと巨大な門より湧く魔物達は、水を得た魚の如く人間達に襲い掛かった。数は多いけれども、高ランクの冒険者が殆どの為、遅れを取ることはないが、体力は有限である。
「くそ、きりがねぇ」
「後ろっす、アニキ!」
「あぁくそ! 思ったより乱戦だな」
当たり始めは、先頭車両のグループで押さえられていたが、次第と撃ち漏らしが増え、馬車の列が囲まれるように乱戦となった。
馬車の後方にて、未だ余裕の表情を見せながら、襲いかかる魔物の群れを倒しながら闊歩する二人がいた。
若い少年少女の彼らは、整った顔立ちであり、誰しもが場違いと思わせる姿だった。少女に近づこうとする魔物は即座に氷の刃に貫かれ、少年に関しては、抜刀せず、鞘のまま殴り殺していた。
「っち、相変わらずの二人だな。思ってた以上の化物だ」
「アニキ、あの女無詠唱ですよ!」
「あぁ、まったく無詠唱なんざ魔族や妖精の専売特許だと思ってたが、人間にもできるのか」
「チロル、ギャスター、暇があったらこっちに手を回してくれ!」
「ノービス、あまり人を頼るんじゃねーよ。こっちも手いっぱいだ。」
エルフ族のノービスの得意としている能力として、気配探知と弓であるが、この乱戦ではまるで役に立てなかった。脇に刺した短刀で、接近を許した敵を葬りながら、スペースの開いた場にて弓を放つ。
だが、味方も敵も入り乱れてる中、弓を使う機会はなかなか訪れない。
「陸様、どうやら人間共が苦戦しておられまするな」
「そうだなフェブル。ここまで乱戦だと範囲の大きい魔法も使えないしな・・・」
(滾るな! 戦場というものは! なぁ!?)
(えぇ? 地獄ですよ魔王様!)
(なぁに! 時期に滾るようになるわ! ワシがついておる! 左からくるぞ)
(初戦が乱戦だなんて……)
(何を言う。乱戦こそ手柄を上げる好機でわないか! 紛れて大将首を狙うぞ。)
(了解だよ魔王様)
「こちらも召喚魔法で手駒を増やしてはどうでしょう」
「人間にも召喚魔法が使えるものがいるのか?」
「はい、少なからず」
「よし、ならばやってみるか。フェブル、少し頼むぞ」
「はい、御緩りと」
陸は考えた。
敵はわざわざ扉を召喚し、魔物を呼び寄せている。原理は分からないが、一つの場所に、魔物をあらかじめ集めておいた可能性が高い。
ならばこの魔物達は有限だということ。
陸は地面に魔力を注ぎこむ。
(露払いにはもってこいの連中じゃな)
傍から見たら魔力の無駄使いだと思われるかもしれないこの作業は、次第に結果を表してきた。
地面が何百もの隆起を見せ、人型に姿を変えていき、その地面の土も陸の魔力と土魔法により強化され、3m~6mの鋼鉄の土人形が生まれた。
そして、土人形の身体は土質から黒色の金属製へと変わり、陸の魔力と混じり合わさり、飴色の合金に生まれ変わった。
(ほぉ、こんなにも短時間で大量に魔製合金を生成するか。かの錬金術師カノールインが見たら腰をぬかすな!)
そして、間もおかず、悪魔系魔族を召喚し、魔製合金のゴーレムに核として入れ込んだ。
召喚された魔族も、一瞬の事だったが、状況を瞬時に理解した。
彼らはデーモンと呼ばれる魔族である。
悪魔族の魔物達は、基本的に存在する世界が違い、霊界に住んでいるが、召喚魔法により、こちらに引き寄せられることもあるが、大抵の術者が殺されてしまう。
理由は、彼らは弱者を嫌うからである。
とある二カ国間で、戦争が行われた際、追い込まれた国の召喚術士が、苦し紛れに禁断のデーモンの召喚を行っい、彼は敵国を滅ぼして欲しいと願った。
そのときのデーモンは快く了承し、敵国をその力で滅ぼして見せた。
術者は歓喜した。
自分は自国を救うことが出来たと思ったからである。
だが、デーモンはそのものに告げる。「礼として、この国の者の魂を頂く」と。こうして二カ国ともデーモンにより滅ぼされたのだった。
悪魔族には階級があり、その階級により強さが反映される。騎士、准男爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵の6階級である。
彼らは力あるものを好み、従う性質があるため、侯爵の階級のデーモンには従者が多い。
従者が多くなればなるほど、侯爵の階級は変化し、皇帝へと変わる。
今回召喚されたデーモンは40体。階級もまばらで、騎士から侯爵までいる。
そこまでデーモンの数が多いわけではないので、偏るのは仕方の無いことだが、騎士階級のデーモンでさえ、国を滅ぼすのは容易い強さなのである。
侯爵ともなれば大陸を滅ぼしかねない。
魔王より性質の悪い者達なのだ。
この世界が滅びようと、自分達の世界ではないのだからどうでもいいという考えである。
もともと霊体の彼らは、現実世界にいられる時間が限られているのだが、魔製合金のゴーレムの核に無理やり押し込められてしまった彼らは、術者を殺すか、自力で這い出る他無かったが、40体ものデーモンを召喚しうる者の異常性を感じるとともに、陸の魔力に底知れぬ力に、歓喜が舞い上がった。
彼らは力あるものに恋焦がれるのである。
「主様、我らこれより主様に御使いになられます」
40体ものゴーレム達が、陸に向け跪き、忠誠を誓うのだった。
それからというもの、デーモン達は、思い思いに身体の形を変化させ、魔物達を蹂躙していった。
あるものは腕を剣にし、脳天から真二つに。
あるものは戦斧に変えなぎ払う。
あるものは鉄球のメイスにて、頭を潰すもの。
大鎌で貫く者など戦い方は様々だった。
「な、なんだありゃ……」
「アニキ、今のうちに安全な場所へ」
飴色のゴーレム達は、自分達に与えられた身体を確認しながら敵軍に突っ込んだ。
魔物たちも武器は持っているが、だが魔製合金の前では、いくら綺麗に磨がれた刃でも鈍らと変わらなくなってしまう。
また、鈍器のような武器でも、強く弾かれて、腕が痺れる程。身体には傷一つ付かない。
「なんだか良く分からないけど好機よ! ポーラ、今のうちに傷病者の手当てを、ロレッタとメルは周囲警戒して」
後方支援に回っていた彼女達「野良猫のワルツ」は敵に囲まれた瞬間に、後衛、前衛関係なくなってしまった為、救助者支援が上手くできなかった。
だが、後ろの敵が一掃された事に、これを幸いと見たメリッサ達は多くの冒険者を救う事になった。
「思ったより数が少なかったな……魔力はフルでまわしたんだけど」
「陸さま、いくら魔力がありましても、物質、個体には制限がございます故」
「なるほど……ゴーレムの素材、デーモンとか言ったか?いない物、無いものは作れないか」
「ですが、デーモンの召喚は禁術とされておりましたので、少しひやとしましたぞ……」
「どうして禁術なんだ?」
「デーモンの個体より、力が及ばなければ、契約されても制御できず、国が滅びてしまいまする。それも40体。これはデーモン40体束になっても陸様にはかなわないと判断したのでありましょう」
「――お、おう」
(やたらめったら召喚できねーじゃねーか……そういやタンニールも最初は反抗的だったような……怖い怖い)
(なに、ワシとウヌならどんな者が来ようが対したものでわないわ)
陸の頭の中に魔王の高笑いは高らかに響いた。




