14:王都襲撃
3話まとめてあげます~
轟音と共に空気が震えだす。
灼熱の紅の火球が結界に衝突した瞬間に生み出された衝撃波は結界を貫通し、人々の胸を打つような衝撃を与えた。
無論火球は結界を突破されてはいないが、地下まで響く衝撃波に人々は不安に駆られ、恐怖した。
「っち、かてーぞあれ」
「多重結界ですな……かなり広範囲ですね」
「……帰る?」
「ざけんなベルフェ! ありったけくれてやらぁあああ」
イーリアス周辺に紅蓮の炎がメラメラと吹き上がり、無数の火球が生みだされた。先ほどよりも威力は衰えるが手数で押し切ろうという考えだ。
30、60と球数は増え、イーリアスは遂に弾き飛ばした。
弾きながらも浮かんでいる球数は減るどころか増えている。次第に弾く球数も増え、ミサイル弾をガトリングのように連射している。
「ウラウラウラぁぁああああ!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……狂気の沙汰」
「ああなるとガス欠まで止まらないのであります」
「……それまで見学」
イーリアスの放たれる紅の弾丸ミサイルは、複数様々な多重結界によってどうにか受け持っていた。途切れることの無い攻撃魔法に、国中の結界魔術師は汗をダラダラと掻きながら保守を行っている。
慌しく動き回り、結界の補強や、異常がないかの点検を随時おこなっている。
結界のスペック的には、まだ余裕はあるものの油断は出来ない。一つのミスが命取りとなっている現状で安心は出来ない。
そう考えると魔王とは、魔術師一大隊を相手になんら問題無く戦えてしまう恐ろしい力を持っている事を示している。
イーリアスの放つ一発一発が上級魔法のレベルであり、人間ではとても乱発出来るものではない。
「デルメル殿! 結界は大丈夫なのであるか?」
「うむ、今日一日は持つだろう……だがそれ以降は兵士の身が持ちませぬ」
今まさに結界保守に奔走魔術師達を会議室の小窓から覗くセルクリッド国の幹部達は、その危機的状況を理解し始めたが、もはや援軍が来てくれる事を祈るばかりだった。
★ ★ ★
「おいフェブル、あの洞窟蝙蝠しかいなかったじゃないかー」
「申し訳ございませぬ……」
傍から見たら幼い兄妹が痴話喧嘩しているようにしか見えないのだが、魔王と部下である。
妹役は元爺さんである。
幼い容姿で違和感出しまくりの言葉使いに最早突っ込む事を諦めていた。
洞窟の中ではこれといったものは無く、薄暗く、ただ蝙蝠の巣が出来ているだけだった。
蝙蝠の唾液には様々な細菌を持っており、稀に狂犬病を発祥するケースもあるため、噛まれると危険な生物だ。
そもそも陸には病気耐性があるため大したことはないのだが。
「ギルドに人だかりが……」
「何事ですかな?」
二人の野次馬魂は炸裂し人の集まる方へと足が動いた。
ギルドの前では多くの冒険者が集まり、緊急要請の張り紙を注視していた。
冒険者の中には顔を青くする者や、天を仰ぐ者などネガティブな反応が殆どだ。
書かれていた内容が内容なだけに……
緊急要請
現在セルクリッド国は、魔王と交戦中。至急支援求む。
それだけ……?
余りにも短い依頼文書だった。
依頼内容や、時間、褒賞などが書かれていない為、陸は戸惑いを隠せないが、こういった緊急時の場合、細かい事は余り書かれない。
何でもやるから、何が何でも助けろという悲痛な叫びなのだ。
顔色が悪くなっていた人たちは、セルクリッドに親族や知り合いがいるのだろう。
こういった場合、ギルドで志願を受け付け、ギルド長が指揮を取る。前回のタクシャナ戦では、殆どの冒険者が手柄を上げられなかった為、今回はと意気込みの強い者もいるようだが、魔王の実力がいまだにピンときていない者もいる。
実際魔王と遣り合うなど滅多に無いことなので、現実離れの想像でしかない。
「おい」
陸は背後から肩を叩かれた。慌てて振り向くと、いつぞやの凸凹コンビが背後に立っていた。
悪名高いギャスターだ。
「お前らも志願するのか?」
「……考え中です」
「おい、ギャスター。こんな子供にも手を出すのか?」
横から颯爽と割り込んできたのは、エルフ族のノービスだ。彼はこの街で数少ないAランクの冒険者である。
「ちげぇよ、こいつらがタクシャナをやったんだ。」
「なに!?こんなに幼い者達がか?……むっ、君が持っているのは魔剣か妖刀だな」
「はい、良く分かりましたね」
「その鞘から魔力が僅かだが溢れているよ」
「分かるんですね!魔力を吸収する材質で鞘を作って貰ったのですが、最近になって溢れてきちゃいまして……」
「なんだと! 見せてくれ!! ……霊樹の木で出来ている。それで漏れ出すとは……」
「なんだノービス、一人で納得してんなよ」
「失礼した。霊樹の木は確かに魔力を吸収すんだ。だが、この鞘は吸収しすぎて材質が変わり始めている。それに霊樹の木が吸収しきれない程とは見たことが無い……」
「材質が変わると良くないのですか?」
「霊樹の木が魔力を吸い続けると、霊樹石に変わる。鉄よりも硬く、元は木なので軽い。霊樹石になってしまえば、魔力が漏れ出すことはなくなるだろう」
「おい坊主、その魔剣何処で手に入れた」
「ホブゴブリンが持っていましたよ。あと名前は陸と言います。こっちはフェブルです」
「なに! 魔剣を持った魔物を倒したのか!! Aランクの冒険者でも梃子摺るというのに……おっと申し送れた。エルフ族のノービスと言う。一応Aランクだ」
「なれなれしいのは御免だね。ってかこの街で俺を知らないのは珍しいぜ」
「こいつはギャスター、いつも連れでいる小さいのはチロルだ。」
「てめぇ! 勝手に紹介してんじゃねーぞ」
「いいじゃねーか、それより陸、この要請受けるのか?」
「今見たばかりなので考え中ですね」
「陸の力があれば、王国の力になれる! 俺達と一緒に行かないか? ギャスターも来るだろ? この子達の力を一番知っているのは君だと思うが?」
(こいつ……確かにこの餓鬼と一緒にいれば美味しい手柄に有り付く事は出来るかもしれねーが、物乞いみてーに素直に貰っちまうのもプライドが許さねぇ、スラムから今まで自分で生きてきた)
「僕も先輩達に色々教えて貰いたい事もありますし、冒険者は力だけでは成り立ちませんよね?」
「だそうだが?」
「わーたよ。ただ、足引っ張るんじゃねーぞ。今チロル引っ張ってくる。」
「では、馬車乗り場で落ち合いましょう」
「わかりました、よろしくお願いします」




