11:赤い月と暗躍
暖かい陽気になってきましたね~
よろしくお願いします
北の森に、タクシャナ出現との報告を受けたウィークタウンのギルドでは直ぐ様緊急要請が発令された。緊急要請は、参加するだけで給金がでるし、対象の魔物を狩ることが出来ればさらに上乗せでお金が入る。緊急で対象となる魔物は皆凶悪で、生死の危険性が跳ね上がるのだが、お金に困った冒険者達は食いつかない筈が無い。
ランクが高い冒険者程、装備を充実させたいが為に出費がかさむことは暫しある事だ。
「参加可能ランクがCからか。いくしかないっしょ!」
タクシャナ討伐要請の参加可能なギルドランクはC以上。タクシャナは毒の対策さえしていれば大丈夫という認識の彼らは、意気揚々と森へ向かうのだった。
彼ら「赤い月」は、全員ウィークタウンの出身であり、回復魔法を得意とするミリー、攻撃魔法を得意とするエリ、前衛で、ショートソードを扱うベスタ、雑務、サバイバル等博識で何でも屋のレックス。
全員18歳で若く、個人の能力は低いが、気の合う者同士呼吸が合う。
基本はレックスが斥候し魔物を発見し状況確認し作戦を立てる。
大概エリの遠距離攻撃魔法で奇襲を行い、ベスタが切り込むのが必勝パターンだが、敵の数が多い場合は有利な高台や、岩陰に隠れながら、エリの魔法とレックスの弓で距離を取りながら戦う。
誰かが動けない程の怪我を負っても、残り二人が盾になり、ミリーが回復させる。
これまでいくつもの討伐依頼をこなしてきた彼らは自信に満ち溢れていた。
タクシャナは自身のステップアップに繋がるかもしれない大物だっが、回復役であるミリーは不安が残る。
タクシャナの毒の凶悪性は有名で、個体一つ一つ毒の性質が異なり、タクシャナ自体の毒の解毒剤が無い為、タクシャナ攻略にはヒーラーが鍵となる。
(いつも守られてばかりだし……こういう時こそ役に立たないと皆に申し訳ない)
ランクの低いパーティーの多くのヒーラーが抱えるコンプレックスであり、活躍が少ない為、フラストレーションが溜まり易いのであるのだが、今回の件は、流石にミリーは不味いと思っていた。
自分一人のミスが全滅に繋がる。
そんな思考が頭の中をグルグルと走り、不安の重りは軽くはならない。
「ミリーそんな浮かない顔するなって! 今回も上手くいくさ」
「そうよミリー。あなたの回復呪文は自信をもっていいわ」
ベスタの気さくな思いやりと、同じ魔法を使うエリに励まされては前に進むしかなかった。
★ ★ ★
ウィークタウンのギルドの会議室には、100人前後の冒険者が集まり、ガヤガヤと祭当日の熱気である。
一人で活動している者から、10人以上組織して活動している者もいるため、統一感はまったくない。
会議室では、ギルドの館長メルビスがタクシャナの分かっている僅かな生態情報と毒の危険性について、今回の作戦などブリーフィングを行っていた。
「っつ、たくくだらねえ……獲物は先取りが基本だろうがよぉ」
「そうですよね! アニキ」
「裏かいて何ぼだろうが……それがCランカーは後衛なんざ阿呆らしい」
「ですよね! アニキ」
会議室の隅に潜む凸凹コンビは、知る人ぞ知る嫌われ者。
親びんと呼ばれ背が高く細身のギャスター。
背の小さい小柄な方がチロル。
他の冒険者に、「盗人兄弟」との愛称が付けられ陰口を叩かれている。
その由来は、騙まし討ち、横取りは当たり前で、抜け駆け、死体漁り、初心者狩り、etc etc・・・さらに、情報を盗み先回りし、他の冒険者が来た時には根こそぎ狩られ、おまけに証拠も残さないため、被害にあった冒険者は腸が煮え繰り返るが、泣き寝入りするしかなかった。
ここまで人を騙し、陥れるのには、彼らの生い立ちにある。彼らはスラム出身の冒険者であり、生きる為なら何でもやってきた。二人の両親は病気、または精神が崩壊し、蒸発している。
薬を稼ぐお金も仕事も無い絶望を生きてきた彼らにとって、命を取られないだけマシだろ?という身勝手な優しさだったが、なぜここまで実力がありながらランクがCなのかというと、如何せん彼らは評判が悪すぎた為、ギルドもランク上げを渋っている。
「け、まあいつも通りやるぞ」
「はい! アニキ」
二人は会議室をざっと見て、とある4人組みに目を付けるのだった……
★ ★ ★
ギルドの緊急要請にて、集められた冒険者達は森の入口に集合していた。作戦としては、Aランク、Bランクの冒険者が森へ、広い間隔で広がっていき、Cランクが後を追う形となる。Cランクの冒険者は多い為、出来るだけ塊ながら移動ができる。ベスタ率いる「赤い月」は今まで通りレックス先行で森へ進んでいった。
レックスのタクシャナの知識としては、巨体な蛇であり、敵を発見したら毒霧を吐くし、水中でも行動可能であるということ。
レックスは敵が巨体であるので、接近すれば直ぐ見つかる筈だと考えていた。
そんな彼らを後ろから密かに後を追う者が、「盗人兄弟」ギャスターとチロルである。
「あいつら危なっかしくて見てらんねーなー……ケケケ」
「常套手段その1、冒険者を偵察、囮、敵の分析に使う! 流石です!」
「うっるせぇ、いくぜ」
森の中で、気付かれず人を追うのは難しい。
街中で人が居てもおかしくはないが、森で、後ろに人が居れば警戒する。
故に完全に隠れながら追うしかないのだが、草木も多いし、当たれば音もするのだが、彼らは最小限の動き、音も気配も完全に消し去った。
つけられているとも知らず前進する「赤い月」のレックスはある異変に気付いた。
小さくではあるが穴があった。
最初はモグラか兎の巣穴かと思い気にはしなかったが、数が多くなるにつれ、強烈な不安に煽られ始めた。
「みんな、ちょっと待ってくれ」
「なんだレックス、発見したか?」
「この穴なんだが・・・・」
レックスが周りの穴を指摘し始めた瞬間。周りの穴から毒霧が立ち上った。
「しまった! 奴は地中も移動できるのか!!」
「ゲホッゲホッ」
「エリ! 今解毒するわ!」
「くそっ! 完全に囲まれた……敵も見えないし、何処に逃げたら!」
レックスも珍しくパニックに陥り、右往左往する中、ミリーの解毒をしながら、パーティーメンバーの免疫力を上げていくが、ミリーもパニックに陥っていた。
パーティーメンバーの免疫力を上げ過ぎたため、アナフィラキシーショックの発生である。
事前のタクシャナの情報で、固定観念を持ってしまったミリーは、タクシャナの毒=猛毒、即死のイメージが働いてしまった。
実際には身体が痺れる麻痺毒であり、長く吸い続けると危険だが、即効性が無いものだった。
「うがっ! あ……」
「息が……」
ショックの影響でメンバーは呼吸困難になり、だんだん意識が失っていくのだった。
新キャラ出してみました。
屑要員もいなかったのでついでに。
欲をかいてお宝狙おうとして、封印解いちゃうみたいなお間抜けキャラを作りたかったのですが、なぜかインテリヤクザなキャラになってしまった。




