1:魔王降臨
始めまして!
文章不慣れなところ、読み辛いところはあるかもしれませんが、暇つぶしにでもなれば幸いです。
気に入ってくださればブックマーク、高評価よろしくお願いします。
早乙女 陸は生まれつき心臓が悪かった。
中学生になってからは大分体調も良くなったが、不整脈が多いためペースメーカーを体内に埋め込んでいる。たとえ全力で走ったからといって心臓が止まる訳ではないが体育の殆どが見学であった。
高校、大学と身体が大きくなるにつれて不整脈も治まってきたが念の為ということでペースメイカーは身体の中に入ったままだ。
その頃にになると他人と違うといった違和感や嫌悪感はなくなっていた。
陸はいつも道りの帰宅道を淡々と歩みコンビニに吸い込まれ、週刊誌を読み漁り満足したのか一人暮らしのアパートへ帰り着いた。
大学生になってからは一人暮らしを始めた。最初は外食が多かったが一品一品レシピを見ながら創作し、得意メニューを増やしていくのだった。
「レポート提出今週か~・・・」
陸は期日が近くならないとやる気が起きない人の一人であった。
★ ★
「……ァ」
「…ャッ…」
レポートの作成に追われ疲れ果てた陸の脳は限界を感じ深い眠りに落ちていたのだが、陸の脳みそに何語かも分からない言葉で呼びかけられているのが分かった。
「なんだ?」
疑問に思いながらも重い疲労感に襲われていた陸は、何も考えられず夢を見ていると自覚こそ出来たが眠りを妨げられる鬱陶しさを同時に感じていた。
「......ッ」
ジリジリと騒ぎ立てる目覚まし時計を右手に押さえ時間差で鳴り響く携帯のアラーム音を止める体制に入る。
二度寝の誘惑に惑わされながらベッドから起き上がろうとするがなかなか踏ん切りがつかない。
「さっぶ……」
朝食は食べず大学へ行き適当に腹が減ったら間食するのが生活リズムになっている。
大学の友人は共通クラスだった数人とゼミのメンバーくらいで、サークルや部活は億劫がって入らなかったため知り合いは少ない。今更ながら入っておけばと後悔するのだったが後の祭りである。
空き時間には図書館に行きDVDを借りてだらだら時間を過す。ジャンルはアクション物に偏りがちだ。何も考えずスゲェーといいながら見れる物が良いし、幼い頃はあまり身体を動かせなかった為か憧れも強く影響しているのだろう。
陸は学校の帰りに夕飯の食材を買い帰宅した。得意料理はカレーで市販のルーは使わずに複数の香辛料とペイスト状まで炒めた玉葱に複数の調味料だけ入れるというシンプルな物だ。気分で肉類を入れたりするが何度かカレーを作るにつれて玉葱だけでいいという結論に至った。
レポートの提出を終えた陸は緊張とストレスから一気に開放されてごろごろと寛いでいる。
疲れが溜まっていた所為かそのまま転寝をしてしまったのだった。
「……助け……」
「……け……王よ……」
眠りに付いた陸は微かな声に反応し意識を傾けようと試みるが、これは夢なんだなと思い深くは考えはしなかった。陸は眠気を抑えきれず再び眠りに付いた。
次に目に写し出されたのは大勢の鎧や武器を持った人間と、悪魔のような顔や人とは似つかない体付きをした二足歩行の生物や、見たこともない凶暴そうな動物などが対峙している映像だった。
(魔族と人間との戦争かな?)
陸の意識は場を一望出来ていた。幽体離脱の様な体だけが宙に浮き、誰も陸の事を意識できないようだった。戦況は人間が圧倒的に押しており魔族の城をもう少しで包囲できる所まできていた。
(臨場感のある映像だなぁ。このままだと魔族が押し切られそうだなー)
陸はテレビ中継をリビングでのんびり見ている様に第三者視点で傍観していた。だが突然視界がぶれて陸は椅子に座っていた。陸の前には背の低い蛙顔の爺さんと祈りを捧げている黒尽くめの女? 達が陸を中心にある魔方陣を囲っていた。
「なんという魔力! 皆、魔王様が目覚められたぞ!!」
「おおぉ!!」
周りの魔族が騒ぎ立つ中陸は呆然としていた。先ほどまでぼんやりと夢のような感覚だったのだが、リアル感が増し感覚が研ぎ澄まされ、陸の見る景色も次第にはっきりと映し出されていった。
目覚めた魔王がなんの反応も無いため不安に思った蛙顔のフェブルは恐る恐る顔を窺う。
(なんだ……体に滾ってくるこの感じ……)
体に蜷局を巻くように黒い霧のようなものを纏いながら体を起き上がらせ、ぼんやり視界に入ってくる人影を確認しながら状況把握に努める。
(蛙の名前はフェブルというのか。意識するとステータスまで見えるのか……? っていうか夢だよな??)
陸は座っていた椅子の肘掛を思いっきり拳で叩いた。夢か現実か確認の為痛覚を感じるか試したのだったが、叩いた瞬間爆発したかと思わせる破裂音と衝撃波を巻き起こし、肘掛は粉々に粉砕し魔王の周りにいた魔族達は部屋の隅まで吹き飛ばされ顔は蒼ざめてわなわなと震えている。フェブルはというと石のように硬い表情になっていた。
(なんぞ!! ちょっと強く叩いただけなのに……うわ~めっちゃ引かれてるよー……うん? ステータスがあるな。自分のステータス見てみるか。)
魔王:早乙女 陸
性別 男
HP : S
MP : ∞
力 : S
魔力 : SSS
スキル:魔造の心臓 魔力吸収 完全探知 完全耐性
無詠唱 闘気 ダンジョンクリエイト
魔法:闇属性魔法[極級] 火属性魔法[極級] 土属性魔法[極級] 召喚魔法[極級] 飛行魔術 魔力吸収 魔眼[検分]
(うわぁ~レベルたっか! ステータスも軒並み高いな~……スキル多いしMP無限大ってなんだよ! 魔力なんて使い方わからんよ~……てか蛙の顔固まってるしさ!)
状況を確認しながらも、部屋の外からはけたたましい声と金属が擦れる音が聞こえてくる。
(そういや戦争してるんだっけか。)
「うぬが我の宿主か」
(えっ?)
「何を呆けておる。うぬの頭に直接語りかけておる」
(ど、どちら様ですか?)
「余は、デイル・ベリスターという。元々魔王と呼ばれていた者だ。人間に追い詰められ、魂魄転生の儀を行なったのだ。」
(デイルさん? それはどういうものなのですか?)
「デイルさんか、まぁ好きに呼ぶがよい。魂魄転生の儀とは肉体に新たな魂を降臨させ、復活させるものだ。余は生まれつき肉体は丈夫でな! 人間どもめ、集団聖魔法を用いて、余の魂魄を攻撃するしかなかったようだ。」
(はぁ、その割にはお元気そうですが)
「うむ。だが、何十年にも及ぶ戦闘で、徐々に肉体と魂魄が剥がされ、体の反応も鈍くなってきよった。」
(それで、何故私が?)
「たまたまであろう? 通りすがりの強い魂が、余の儀式魔法に引っ掛かったのだ。」
(そんな! 夢じゃないの? レポートは? キャンパスライフは?)
「何を訳のわからん事を言っておる。先の儀式は死にたての魂しか呼び込めぬ。細かい作業は苦手なのでな」
(死にたて? それじゃ僕は死んでしまったのですか?)
「そちらの事情はわからんが、死んだ者しか呼べぬのは確かだ」
(そんなぁ)
「まぁ、余も半分死んだようなものだ。思念だけは残り、もはや身体を動かす事は出来ぬ。うぬの好きな様に使うがよい」
蜷局の魔力は陸の体に自然と馴染み始め、陸自身も魔力の存在を認識し、魔力というものを理解し始めていった。
「まぁ、周りにいる者達は、苦楽を共にした仲間たちだ。私にとって、掛け替えの無い家族のようなものなのだ。どうか救っては貰えぬか?」
(そうは言いましても、どうすれば?)
「魔法とはイメージだ。難しく考えず、体の魔力を感じ、形にしていくのだ。火属性の魔法が想像しやすく、良いのではないか?」
(火属性魔法って火をイメージすればいいのか? 早くしないとだし、やるしかないか……)
陸と魔王との会話の最中にも、人と魔族の戦闘が繰り広げられていた。
陸は火をイメージすると魔力は反応し、陸の手の平から焔が咲いた。飛び散る火花は可憐に宙を舞い、今まで騒々しい音は無音に感じる程であった。魔族達も息を飲み、陸の次の行動をただ待つのみであった。
「全ては把握している。人間の進撃を食い止めるぞ」
「……は!」
今まで恐怖に固まっていた物たちが身体を無理やり動かし始め、陸はというと外のバルコニーへ繋がる扉を開けた。
「一杯いるなぁ……イメージはカメ〇メ波みたいな感じかな?」
手と手を感覚を開けて合わせそこに魔力を集めるように集中させる。直ぐに陸の手は光が集まりこれが魔力かと陸は納得しながらさらに光を集める。今度は光を炎に変えるイメージをする。
(魔力って溜めれば溜めるほど威力が高まるのかな……? もうちょい集めてみるか……)
「なかなか筋が良いではないか。闇の魔力も混ぜてみよ」
(え!? いきなり応用ですか?? そもそも闇ってどんなイメージなんです?)
「ふむ、光と対になるもので、負の要素が多いな。深い漆黒のなかで、ネチネチした歪なものだ」
(う、う〜ん。黒色黒色……)
陸の手の中には直視できない程の照度から、それを包み込むように漆黒が溢れ出でて、バルコニーを始め城全体が音を立てて振るえはじめた。
とても現実的ではない状態で、はたしてこれが正解なのかと考えもあっただろうが、腑に落ちないところもあるが、一先ず助けを求められたのだ。襲われているならば助けなければ男が廃る。
(やべぇ~集め過ぎたかなーこれ押し出せば飛んでってくれるかな? いいや、やけくそだ !飛んでけこのやろー)
陸の放った漆黒と眩い光が混じり合った歪な炎は人間の軍隊の突撃部隊を通り越し丁度軍列の真ん中に着弾するのだった。
★★
両軍最前線では魔族と人間との激しい戦いが繰り広げられていた。魔族率いるは将軍レオルド。身体は大きく2mは超えるあろう巨体から振り回される、レオルドよりさらに大きい巨大な大剣を振り回す。獅子の顔立ちで、燃えているような鬣を靡かせながら振り回す大剣は見る者を圧倒し、動きを止められる者は非力な人間の中にはいる筈もなかった。
だがレオルドの前に立ちはだかる一人の少女であった。身体は細くか弱い印象の彼女だが、剣を構えた立ち姿は隙が無い。
「セルクリッドの勇者め、貴様だけでも道連れにしてやるわ!」
「レオルド! 今回が年貢の納め時ね!!」
勇者エミリーは将軍レオルドに立ちはだかりレオルドの斬劇を何度もいなしている。レオルドは大振りだが、巨大な大剣をナイフのように軽々扱う為手数が多いのだが、エミリーは全てを受け流し僅かな隙を付いて攻撃してくる。傷は小さいが、蓄積されたダメージは確実にレオルドの動きを鈍くする。
「レオルド、残したい言葉はないかしら?」
「うるせぇ! まだ負けてねぇだろうが!!」
何度か問答を繰り返した後、二人と周りの部下たちは余りにも大きな魔力の存在がいきなり現れた事に腹を刺されたかのように驚いた。後の二人の反応は対照的であった。二人は魔力の主が魔王である事は直ぐに分かった。レオルドは心が震えるような喜びを感じ、エミリーは背中に刃を突き立てられたかのうな悪寒を感じた。そして今までに感じたことの無い魔力が魔王城に集まり、エミリーはその場で号令をかけた。
「全魔術隊は攻撃を中止! 全部隊に魔法防御結界は張らせろ!! とんでもないのが来るぞ!」
魔王の溜めが長かった為結界は完璧に張れたが、余りにも大きな魔力を前に死刑執行を待つ受刑者のようである。そして魔王から放たれた歪な炎の塊は、弾丸の如く人間の軍隊に突っ込んだ。
強烈な衝撃と熱風。魔術師全大体は放たれた魔法に全神経を注ぎ防御に当たったが、紙くずを軽く千切るように破られ人間の軍隊は大打撃となった。
エミリー達のいた前線は直撃を受けた大隊よりも離れていたため衝撃波で体が飛ぶ程度で助かっていた。巻き上がる粉塵で方向もわからず敵も見失っていた。
★★★
(あわわわ~……やっべ~なんだあれ!? 魔法ってみんなこんな感じなのか? 初めてだし、手加減なんか分からなかったしな~とりあえず今のうちにだ。)
「フェブル、全軍撤退せよ」
「え!? ははぁ」
フェブルはばたばたと慌てながら軍に伝令を出し速やかに城へ撤退させた。
「籠城するには城にガタがきているな。立て直せそうか?」
(ダンジョンクリエイトってスキル気になるな~土魔法と合わせればダンジョンが作れるのかな? ダンジョンが作れれば人間も簡単には攻めてこないでしょ?)
「左様。にしても変わったスキルを持っているな。転生時に獲得したスキルか?」
(デイルさんに、わからない事はわかりませんよ)
「魔王様、全軍城への撤収が完了いたしました」
「よし、やってみっか」
(さっきの魔法で魔力の扱いには若干コツが掴めてきたかな。土属性の魔法なんだから地面に魔力流せばいいのかな?)
「ふむふむ。やはり筋がよい。さらに闇魔法も混ぜるのだ」
(また!? 好きだな闇魔法!)
陸は自分の魔力を下に向けて流し始めた。陸は、頭に迷路をイメージしながら土魔法で瞬時にフロアを建設していく。そして1階1階と城が隆起し、あっという間に30階60mの巨大な石の塔が完成した。外壁からは眼球が複数現れ、黒色の涙を流しだ。
黒色の涙は暫くして気発し、黒色の霧となって塔を包み込んだ。
塔の側に通り過ぎた渡り鳥が、急に苦しそうにもがきながら頭から落ちていった。
塔の上部の視認性は悪く、状況が掴めない様子である。
「素晴らしいではないか。ここまでの魔力。そして魔力を操る操作能力。関心したぞ。」
(それは何よりです。まだ魔力には余力があるので、色々試したいと思います。)
そして各フロアには陸が召喚した魔物が解き放たれて行くのであった。
(やっぱ階数毎に属性を分けた方が面白いよね……5の倍数にはボスを設置しよう。多めに魔力使って召喚すれば強い魔物が出てきそうだし。向こうが立て直す前にざっくり仕上げちゃおう。)
(これで暫く人間どもは近寄れまい。)
陸が新しいおもちゃをいじる子供のような顔しながら膨大な魔力をドバドバ流す為、下級魔族達は陸の魔力に当てられて気持ちが悪そうにしている。上級魔族は引き気味な顔をしているが体調には影響はないらしい。
(よし、こんなもんだろ。細かいところは随時変更していこう。)
「魔王さま、良く目覚めてくださいました。我等恥ずかしながら人間共に滅ぼされる所でした。」
「そうか、だが君達が知っている魔王様とは人格が違うと思うよ?」
「はい、存じております。私達は魔王様の肉体に合った肉体と魂を探し我々を守ってくださる方を探していたのです。」
「それが俺か……まぁ向こうで生活しててもこんなにハイスペックなステータスは得られなかったしな。特に未練もない……まぁ母ちゃん父ちゃんには親孝行できなかったのが無念だな……」
不意に陸が寂しさを感じる中、将軍レオルドが陸の前に現れたと同時に跪いた。
「魔王様! 我々は魔王様と契約し忠誠を誓った者たちです。我々は魔王様に従い何処までも就いていく覚悟があります!」
「なかなか頼もしい配下であろう?」
(ちょっと荷が重いかな……あはは)
レオルドの立ち振る舞いを見た魔族たちは皆陸に対し跪き、忠誠を誓うのであった。
★★★
セルクリッド軍は壊滅していた。粉塵が辺りに広がり視界が悪い中、勇者エミリーは各部隊へ指揮を飛ばし軍の建て直しを図っていた。
(最悪だ……もう少しで城が落ちる所まで来たというのに魔王は復活するし、一撃で軍は壊滅するし! 早く立て直さないと2発目なんか食らってらんないわ!!)
爆心地には黒色の焔がぬるぬる踊り、兵士の断末魔が周辺に響きわたる。
後方に展開していた回復魔法を扱う衛生部隊が重症者の手当てをし、生き残った魔法部隊は風魔法を使い巻き上がった粉塵を吹き飛ばし、動ける前衛の戦士は負傷者を後方に運び勇者エミリーは殿を勤めながら後方へ後退していった。
(全体の3分の1は失ったか……一撃で我がセリクリッド軍が壊滅させられるとは。魔王とは恐ろしいものだな……追撃が来ない今が退却の好機だ。)
魔王不在と知り仕掛けたこの戦争であったセルクリッド国であったが、寸前の所で魔王復活を遂げられてしまい戦況を一遍させられた。この世界には魔王と呼ばれる魔族が多くいる。力を誇示する魔王が多いには多いが、一人でぶらぶら世界中を彷徨する者や違う種族に混じり暮らしたりするものなど好戦的でない者もいる。陸が入る前の魔王はかなり好戦的だったと言えよう。だが人間達に激しい抵抗に合い、数多くの呪いや封印術を叩き込まれ魂と肉体が引き剥がされ、肉体のみが存在するものとなってしまったのだった。
(やっと粉塵が晴れてきたな……一度国へ帰り今後の対策を練らなければ。)
「エミリー様!! 大変でございます!!」
「どうした!? 魔族の襲撃か?」
「いえ! 魔王城に異変が!」
「なに?……何だあれは……!?」
先ほどまで目指していた魔王城には岩の壁が出来ており、そのまま顔を首が痛くなるまで見上げてようやく魔王城が小さく見えたのであった。一番下には入り口らしき扉がある。しかも扉は開けっぱなしであった。挑発しているが如く舐められているとエミリーは思ったがここは軍を立て直す事が先決だと我に返り編成作業に入るのだった。