第五話
「ロイドのやつ遅いな」
そう言ったお兄様は優雅に紅茶を置きました。
…………様になっていて怖い……。
そんなお兄様の隣に座っているウィルロットさんはと言うと、対して気にしていない様子で一つ頷かれました。
流石です。
これが城ならばお母様の絶叫と周囲の悲鳴で落ち着けませんから……。
「あぁ、でも。呼びに行ったのが父さんだから。なぁ?」
ウェルロットさんはそうしみじみとおっしゃり、レティに同意を求められ。
レティもしみじみと頷き、言いました。
「えぇ、父さんだもの」
……でも、どうしてノエルさんだと……なのかしら?
分からないわ……。
だからレティに聞いてみます。
「ノエルさんだと、いけないの?」
「アンったら忘れたの?」
問うと呆れた顔をされました……。
何故?
……と言うより、私。
なにか忘れています?
「何を?」
「父さんが迎えに行くって事は――」
「遅くなってすみません」
レティの言葉を遮った、やさしい声……。
その声は―――ロイドさん…………。
ついつい嬉しくて笑みが浮かんでしまいます……。
恥ずかしい……。
わ、私、変なところはありませんよね?
…………あ……。
私。
今日。
変な格好(男装)してました…………。
もぅ……。
おにぃさまのばか……。
なんて思いましたが、このまま俯いていては感じが悪いですよね?
私。
嫌われたくありません……。
なので慌てて顔を上げました。
そうしたら、ロイドさんの頭が――髪が。
……女性のように、編み上げられておりました……。
あぁ。
レティの言いたかった意味が分かりました…………。
ロジャードさん。
また、ノエルさんを呆れさせたのですね……。
その頭と引きつった笑みを見れば、忘れかけていた私でも、分かります。
あと。
ロイドさんの後ろ。
満面の笑みのノエル・ルイダスさんを見れば確実ですね……。
こうしてロイドさんがいらっしゃったことで、お茶会が始まりました。
そして直ぐの事です。
お兄様が、にやにやと笑みを浮かべ。
隣に座ったロイドさんに言いました……。
「で、その頭はど~ぅしたよ」
と、酷くふざけた様子で……。
「……ロイドの心情を察しろよ。ルーフ」
お兄様をいさめるよう、そうおっしゃられたのはウィルロットさん。
憐みの表情が浮かんでいるような気もしますが、冷静なご指摘。
流石です。
でも、ロイドさん。
貴方はもっと流石ですわ!
だって、お兄様とウィルロットさんの方を見つめ。
「黙れ。ルーフ、お前は一国の王子のくせになんて恰好をしているんだ!」
と、おっしゃられたのです!
そうです。
そこなのです!
私もそう、思いました……。
でも私の兄はその程度の叱責では気にも留めない様子ですけれど…………。
「えぇ~、そんな頭で凄まれても怖くないし~。それより似合うっしょ? さぁ、俺の美しさにひれ伏すがいい!!」
……………………。
……椅子に座ったまま。
胸を張って、腰に手を当てているのは、この国の次期王。
名を。
ルファネス・グレイオ・エドレイ。
そして……。
私の血のつながった兄です。
…………今この場に居る自分を、嘆いても良いですか……?
「嘆かわしい。男でありながら将来の王がこんなだとは……」
ロイドさんは激しく呆れた様子で、テーブルに手をつき、頭を抱えました。
私もロイドさんに呆れられているようで頭を抱えたいです……。
でも、だけれど私。
負けません!
「はっはっは! お前の今日の髪型超にあっているぞ」
「そうだな。ところでロイド、そんな髪型で凄んでも意味がないぞ。それに、ルーフのことはあきらめろ。もう手遅れだ」
豪快に笑うお兄様。
そしてその言葉を肯定した後すぐにけなすウィルロット。
流石がです。
私もそう言えるのならばそうしたいです。
でも、お兄様に効果はありません。
そうなのです。
効果がないのです……。
無意味なのです…………。
だからロイドさんがため息交じりに『そうだったな』とおっしゃいました。
そして顔を上げ―――――
「ところで……レティ、アン。いつまで笑っているつもりかな?」
ニッコリと、そうおっしゃいました。
……なぜ、わかりましたの…………?
私とレティが笑っていると……。
て、あぁ。
いけません。
言い訳を……。
「だって、似合い過ぎてて……くっ、ぷふ、あはははは!!」
レティが耐え切れず、大きな声で笑い出してしまいました……。
わ、私は頑張ります……!
「ご、ごめんなさ、わ、く……わ、笑うつもりは」
『なかったのです』。
それが言えませんでした…………。
……だって。
とても良く、似合っているのですもの……。
愚者の歩のスピンオフなので、しばらく沿います。
お気に入りありがとうございます。
頑張って恋愛もの、書いてみます。