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8章

お昼どきの学食は学生で溢れていた。彼は迷うことなく窓側のテーブル席に行くと(多分いつも利用している席なのだろう)俺に座るよう促した。彼の美しい横顔はちょっとこわばっているように見えた。

しばらくして、背後から「お待たせ」と声がした。

立ち上がって振り返ると悠君がいた。

背が高い。180センチは有にありそうだ。肩幅は広いのにぱっと見は痩せ型で肌が黒い。

俺の記憶にあるぽっちゃり体型で垢抜けない少年の面影はどこにもなかった。

「晃ちゃん、久しぶり。いきなりだったから驚いたよ」

悠君が俺の目をまっすぐ見て話す。悠君の変貌ぶりに動揺を隠せず、俺はすぐに言葉が出てこなかった。

「……悠君、変わったね。ぽっちゃりしてたのにすっかり痩せちゃって。」

俺の言葉に悠君はちょっと微笑んだ。笑顔は変わらない。俺の知っている悠君をやっと見つけることができた。

「ここ、うるさくて落ち着かないだろ?外で話そう」悠君は外を指差し、言う。そして、俺を学食まで連れてきてくれた彼に向かって「唐沢ごめん、終わったら電話するから先に昼食ってて」と言った。彼は頷くと、テーブルの上にノートを置いて席を離れていった。食券を買いにいったのだろう。

俺と悠君は連れ立って学食を出て、二つの建物に挟まれた中庭めいた場所に移動し、空いている木のベンチに座った。

「悠君、親父に会ったんだろ?親父から聞いたよ」

「うん。コンサートホールで偶然」

「大学、音大に行かなかったんだね。ピアノやめちゃったの?」

「いや、弾いてるよ。趣味程度だけど」

「ふうん」

悠君はちょっと待っててと言うと、どこかへ行き、手に缶コーヒーを持って帰ってきた。

「はい、これ。適当に選んだので悪いけど」

俺はコーヒーを受け取るとプルトップを開けて一口飲んだ。悠君が黙ったままだったので俺はコーヒーをもう一口飲んだ。気まずい沈黙が少し流れた。

「悠君、俺ずっと謝りたかったんだ。7年前の最後の日、酷いこと言っちゃったから」

「酷いこと?」

悠君は缶コーヒーを開けず、手で弄びながら俺の方に顔を向けた。

「よく覚えてないんだけど、酷いこと言ってさっさと家に入っちゃった記憶があるんだよね」

よく覚えていない、というのはもちろん嘘だった。

「酷いこと言われた記憶は無いな。それより、晃ちゃん、もう俺に会いたくないんじゃないかと思ってたよ。最後の日、晃ちゃん、なんか怒ってたろ?」

「え?なんだよ、それ。俺、怒ってた?」

まさか、そんな事を言われるとは、思わなかった。とぼけるしかなかった。悠君に会いたい一心で来てしまったけど、想定外の事を聞かれた時の心の準備まではしてなかった。

俺がハギレの悪い口調で返したせいか悠君はそれ以上突っ込んでこようとはしなかった。

「手紙の事なんだけど…」

「手紙?」

「ほら、親父に渡してくれって預かった手紙があったろ?あれ、実は渡してないんだ。なくしちゃったんだ。ごめん、ほんとに、ごめん」

手紙の事は言うべきか迷ったが、聞かれる前に言ってしまった方が良いと思って、言った。

悠君はぼんやりした表情で俺の謝罪を聞いていた。微動だにせず、無反応だった。

「悠君?」

声を掛けると悠君は我に帰ったように「ああ、そんな事もあったね」とつぶやくように言った。

悠君は明らかに覇気がなかった。考え込んでいるようにも見えた。

7年ぶりに会ったのだから、昔話や近況話で盛り上がれると思ったのに、今ここにいる悠君は俺との再会を喜んでいるようには見えなかった。

「手紙の事は、気にしなくていい。渡さないでいてくれて、むしろ、よかった」

「渡されたらまずい事でも書いてあったのか?」

重苦しい空気を浮上させたくて茶化すように、言う。

「いや、書いてない」

「じゃあ、渡したほうが良かったんじゃねぇの?」

「あの手紙には何も書かれていない」

「えっ?」

「白紙だったんだ、あの手紙」

呆然として俺は悠君を見つめた。悠君の言葉が一瞬理解できなかった。


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