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4章

父の生徒で高校3年の男子校生がいた。名前は確か峯岸なんとかだったと思う。

おじいさんが外人、とかで彫りが深く、端正な顔つきで親父のお気に入りだった。

その日は学校から帰る途中、悠君と河川敷に寄り道したせいで家に帰ってきたのは6時すぎだった。木曜日はピアノのレッスンがある曜日だったので通常ピアノの音が聞こえてくるはずなのだがその日はピアノの音は聞こえてこなかった。

変だな、と思いつつ2階に上がろうと階段を上がりかけた時、ピアノのレッスン室のドアが僅かにあいていて、妙な声がわずかに漏れ聞こえてきた。

泣いているような苦痛でうめいているような聞いたことのない変な声だ。

俺は僅かに開いていたドアをそっと覗いた。グランドピアノが目に飛び込んでくる。二つ並べられた椅子には誰もいない。

俺は四つん這いになってドアをさらにちょっと開き、部屋の中を除きこんだ―――




横浜の自宅を10時半頃出発し、M大に着いたのは12時過ぎだった。お昼どきで天気がいいせいかベンチで食事をしている学生なんかもいた。

勢いできたものの、大学に着いた後、どうやって悠君を探すかまるで考えていなかった事に気がつき、とりあえず近くの空いているベンチに座った。

悠君が通う大学―――そう認識した途端背筋がすうっと寒くなる。

悠君に会うかもしれないんだ。

もし会ったら一番最初に何て言う?

手紙の事は?

手紙の事を聞かれるかもしれない。何て答える?

頭が混乱してきた。カバンからミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、飲み干すと、ちょっと気分が落ち着いてきた。

しばらくベンチの端っこに座っていると、一人の男子学生がやってきて、反対側の端に座り、携帯をしきりにいじりだした。何か調べ物をしている様子だ。

彼の携帯が鳴る。

「ましま?どうした?」

俺は隣で電話する彼の横顔をまじまじと見つめた。

ましま?確か、ましまって聞こえた。

「うん…うん…わかった。…でどうする?その後」

彼は俺の視線に気づきもせず電話に集中している様子。口調からいって電話の相手との関係は友達、といったところ。

ましまという名字は変わった名字ではないがどこにでもいるような名字でもない。

電話が終わったのを確認すると、俺は立ち上がり、彼の前に立った。彼は目の前に見知らぬ男に立たれ、警戒を滲ませた目で見る。

「あの、突然で申し訳ないんですが、お聞きしてよろしいですか?」

俺は愛想笑いをしながら相手に警戒心を抱かせないように優しい口調で話しかけた。

「なんでしょう?」

彼は身構えるような表情をちょっとだけ緩めて答える。

俺は回りくどい言い方は避けてずばっと尋ねた。

「あなたが今話していたのは真島悠一君ですか?」


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