3章
悠君の通ってる大学は学生数が少なく、アットホームな校風と一般市民に開放している小洒落たカフェがあることで有名だ。池袋から私鉄で2駅というアクセスが便利な立地から学園ドラマのロケ地によく使われる。
親父から「情報」を聞き出した俺は何の迷いもなくM大に行くことを決めた。
もちろん悠君に会うためだ。今のところそこに行くことくらいしか悠君に会う方法はなさそうだった。
俺は何年かぶりにクローゼットの高い位置に収納してある箱を取り出し、その中の「手紙」を取り出してみた。
手紙は封を切られてない。長四サイズの白い無地の封筒で、「羽田先生へ」と封筒の真ん中にボールペンで書かれてある。
7年ぶりに見る手紙。7年間箱から取り出した事はなかった。黄ばんだりしているのかと思ったが白い封筒は劣化した様子もなく、白くてツルリとした手触りのままだった。
苦い思いがこみ上げる。
封印していたこの思いを皮肉にも再び味わう事になるとは。
悠君のピアノのレッスンは毎週火曜日の5時からだった。悠君は4時頃に俺の家を訪れ、俺の部屋でレッスンまでの1時間、一緒に遊んだ。
遊ぶというより、だらだらゲームをしている俺の横で悠君はベートーヴェンやショパンの楽譜をめくって過ごしていた。
悠君はクラス連中が好きそうなゲームやテレビの話題には興味がないらしく、俺の部屋でゲームをやったのもせいぜい2回くらいだった。
そんな悠君が一番嬉しそうに顔を輝かせて飛びついてくる話題があった。
それは「俺の親父」の話題だった。
悠君は親父の事を心底尊敬しているらしく、何度も「羽田先生ってすごいよねぇ」というフレーズを聞いた。
悠君は聞き上手だったから俺のどんなつまらない話でもふんふん、と聞いてくれたが、親父の話を聞いた時の悠君は一番テンションが高かった。
まぁ、そんな事を感じ取っていたのは俺くらいだったのかもしれない。
俺は悠君の事に関しては異常に敏感だったから。
「親父の話」を喋る事で悠君の心をつなぎとめておく事ができる気がしていた。
親父の事が嫌いになったのはいつからだったのだろう。
偶然見てしまったあの日から、だと思う。




