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2章

真島悠一 ――悠君は俺の家の近所に住んでいた学年が一つ上の男の子で、音大の教授をしている親父が、自宅でピアノを教えていた生徒たちの一人だった。

悠君は5歳の頃からピアノをやっていて、音大に通う従姉妹にレッスンを受けていた。その従姉妹が海外に留学することになり、変わりの先生を探さなくてはならなくなった。

ある日、親父の事を聞きつけた悠君の母親がピアノ教師を引き受けて欲しいと家にやってきた。

やんわり断ったらしいが悠君の母親の押しが強くて断れなかったらしい。

悠君を初めて見た時俺は「なるほどな」と思った。

親父が渋った理由がすぐにわかった。

気弱そうな雰囲気のぽっちゃり体型の男の子―――それが悠君だった。



当時の俺は超がつくくらい生意気なガキだったと思う。

一人っ子で親が共働きだったせいで小遣いはふんだんに与えられ、着ていた洋服はすべてブランド物。おもちゃは買ってもらいたい放題。

最新のゲーム機が揃っていたせいでゲームやりたさにクラス連中が何度か遊びに来たが俺のわがままっぷりに閉口し、しまいには誰も家に遊びに来なくなった。

当然普段一緒に遊んでくれるような友達もいない。

父親は俺に関心がない。

母さんは優しかったけど仕事が忙しく、朝ちょこっと顔を会わす程度。

当時の俺は孤独だった。



悠君と初めてきちんと顔を合わせた日の事を俺はよく覚えている。

ある日近くの公園に一人で行き、ブランコに乗って遊んでいたらバランスを崩し、ブランコから落ちてしまった。

膝を擦りむいてしばらく動けずにいたら

「大丈夫?」と背後から心配そうな声が聞こえてきた。

振り向くと見覚えのある俺と同じ年くらいの男の子が心配そうに見下ろしていた。

「君、羽田先生の子供でしょ?」

「ああ…、オマエ新しく入ってきた奴か」

あまりの痛さに涙がちょっと出かかっていたが俺は気丈に振る舞った。

「うん、そう。真島悠一っていうんだ。よろしく」

男の子は俺のぶっきらぼうな態度に気を悪くした風もなくカバンからティッシュを取り出し、俺の擦り剥けて血が出た膝をやさしく拭った。

「後でちゃんと薬、塗ったほうがいいよ」

「………うん」

差し出された男の子の手を掴んで立ち上がると、男の子の身長は俺より5センチくらい高く、心配そうに俺のことを見下ろしていた。

身長差や、ブランコから落ちて怪我をした無様な姿を見られた恥ずかしさからその場は逃げるように立ち去ったが、その一件以来、男の子――悠君と俺は一緒に遊ぶようになり、どんどん仲良くなっていった。



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